宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

33 / 166
好事魔ばっかり②

『全艦拡散波動砲発射!!』

 

 

大破落伍した『アンドロメダ』に代わった臨時旗艦『デューク・オブ・ヨーク』以下の152隻から放たれた波動エネルギーは、白色彗星の直前で拡散しながら彗星を押し包み、凄まじい閃光とプラズマ光を発した。

その閃光は、真昼の地球上や冥王星基地からもはっきり視認できただけでなく、太陽系全域で通信障害を引き起こした。

 

1発で大陸を崩壊させるエネルギーが152隻分炸裂したわけであるから、その余波も凄まじく、土星の自転軸と公転軌道に僅かながらずれが生じた他、タイタン等の各衛星も地震や火山噴火等の発生が確認され、やはり自・公転に少なからぬ影響があった。

 

――それほどのエネルギーが叩き付けられたにも関わらず、白色彗星に大したダメージを与える事は叶わなかった――。

 

 

  ――『デューク・オブ・ヨーク(DOY)』――

 

目の前の現実に愕然としたスコット中将は、直ちに緊急回避命令を発した。

 

「全艦反転180度!緊急離脱!!」

 

この命令を受け、直ちに各艦は艦首を転じて退避行動に移ったのだが――。

 

 

  ――『テシオ』――

 

「副長、艦首下げ65! 機関長、下げ角50になったら主機オーバーブーストだ!」

「了解!」

「了解しました。機関室、焼き付いてもいいから全力で回せ!!」

 

スコット司令の反転回避命令にかぶせるように、嶋津冴子は独自の回避命令を出した。

理由は至極簡単。

白色彗星が突進してきているのに180度回頭する時間はないと判断し、彗星の重力帯を壁代わりにして脱出しようと考えたのだ。

 

「下げ角50! 機関長、思いきり回して!!」

「了解!」

 

超重力と推力で激しく揺さぶられる艦橋で、副長兼任の航海長、ナーシャ・カルチェンコは懸命に舵を握り、スロットルレバーには戦術長・篠田 巌が取りついて過負荷まで回転を上げていた。

機関長の渡部孝三は生命維持以外の電力を切って推力に振り向けた。

 

「艦底レーダーアンテナ脱落!!」

 

艦底部にある巨大なタキオンレーダーアンテナが、白色彗星の超重力に耐えられず、もぎ取られた。

その直後、『テシオ』は白色彗星の重力場に弾かれ、文字通りくるくる回りながら飛ばされていった。

 

──『テシオ』以外にも独自の回避行動で虎口を脱した艦が少数見受けられたが、大半の艦は命令どおり、白色彗星の真ん前で大きく回頭しようとしたため、突進してくる白色彗星の超重力につかまって操舵困難に陥り、接触・衝突する艦が続出し、破片を撒き散らしながら次々と白色彗星に吸い込まれていった。

 

『DOY』も白色彗星の超重力に抗う事は叶わず、あっけなく飲み込まれていったが、『テシオ』他、辛うじて虎口を脱した艦は、白色彗星に飲み込まれていく艦を振り返る余裕すらなく落ちのびていった。

 

 

   ――『テシオ』――

 

「後進全速!艦首上げ10!!」

「後進全速!!艦首上げ10!!」

 

嶋津の指示をカルチェンコが復唱し、艦を安定させていく。

 

『テシオ』は白色彗星の重力帯に弾き飛ばされたために最悪の事態を免れたものの、今度は土星本星に飛び込んでしまう事が明らかになったため、再び艦の姿勢を変えて土星重力帯に弾かれ、木星圏最外縁近くまで飛ばされた。

 

木星圏最辺境の小衛星“S/2003J2”に、『テシオ』はロケットアンカーを撃ち込み、被害把握と応急措置を講じるため一時錨泊することにした。

 

「機関には異常なし。機関科員の損害は重傷者1名で命に別状はなく、後遺障害の危険もありません。軽傷者は6名です‥‥」

 

嶋津の元には各部門長から被害状況の報告が集まっていた。

艦体や武装の損傷は軽微だったが、艦底部のタキオンレーダーアンテナが白色彗星の重力帯で破損していた。

 

人的被害では、骨折等の重傷者が3名だが、幸い命に別状はなく、後遺症の懸念もないという。

また、軽傷者は10名だ。

しかし、ブリッジの雰囲気を重苦しいものにしていたのは、僚艦の辿った運命だ。

 

白色彗星に拡散波動砲を放った巡洋艦以上の152隻のうち、現在所在がわかる艦はわずか17隻。

 

内訳は、戦艦4・攻撃巡洋艦9・哨戒巡洋艦4

駆逐艦や護衛艦も少なからず白色彗星に吸い込まれており、所在が明らかなのは駆逐艦70、護衛艦42。

さらに、敵艦隊との戦闘で損傷落伍し、各衛星基地に辿り着いた艦が若干数。

 

そして肝心なのが『アンドロメダ』『ヤマト』の2隻――。

 

『アンドロメダ』は駆逐艦と衝突・爆発した右舷後部が大きく抉られたという。

その状態でも木星圏イオ基地に辿り着いたあたりは、さすがアンドロメダ級というべき堅牢さだったが、同程度の被害を被った『ヤマト』は甲板科・技術科・機関科員が応急措置を講じてガニメデ基地に到着したのに対し、『アンドロメダ』は艦の規模に対する乗組員の少なさが完全に裏目に出てしまい、人手によるダメージコントロールは消火活動のみだった。

不幸中の幸いなのは、土方司令が、左腕を骨折したものの、戦闘指揮には支障がないことだろう。

 

一方『ヤマト』はガニメデ基地に入るや突貫工事で修復作業を受けていたが、艦長代理の古代 進が重傷を負って、まだベッドから出られないため、指揮は技師長の真田がとっていた。

 

因みに古代は、目を離すとまた無茶しかねないため、佐渡艦医と森 雪の監視下に置かれていた――。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。