『艦○○』のかの字もなかった15年前に買ったものですが、どうしてくれよう。
――『テシオ』艦橋――
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
先程までとは打って変わり、重苦しい空気が立ち込めていた。
――本隊や参謀本部との通信では、地球・ガトランティス両艦隊の殴り合いは、こちらが一方的に殴られているらしい。
敵艦隊の中に1隻存在する変わった型の大型艦が旗艦らしいのだが、そいつが、プラズマらしきエネルギー弾そのものをワープさせるという予想外の戦術で、地球艦隊を一方的に屠っているのだ。
「‥‥あれは、ガミラスの技術供与なんでしょうか?」
「否定はできないな。瞬間物質移送技術を供与しているだろうとは思ったが、エネルギー弾そのものを転移させるとはな‥‥」
三沢の疑問に嶋津は可能性を示唆した。
あのトンデモ兵器が、こちらの拡散波動砲の射程をも上回るとは始末が悪い。
数少ない救いは、一発の被害範囲がさほどではないこと。
一撃で沈められるのは戦艦1~2隻程度だろう。
それでも、手をこまねいて一方的に撃たれ続けては潰滅必至だ。
TF21も最大戦速で急行しているが、敵本隊の進撃速度が速く、なかなか距離が詰まらない。
そしてもう一つ気になるのは、白色彗星本体が行方不明になっていること。
敵機動部隊攻撃の前に『ヤマト』からもたらされた情報だ。
こちらも注意が必要だが、差し当たりの問題は敵本隊だ。
何とかあの反則兵器を封じないと。
――考えるんだ、嶋津冴子。
同期の連中の大半が斃れていった中、今日までおめおめと生き永らえたのは、この時のためだろう。
ガトランティスの連中も地球人と大して変わらない人間だ。
ならばどこかにつけ込む盲点があるはず。
遠距離砲撃の必須条件は――。
と、その時だ。
「『レキシントン』から艦載機発進準備命令が出ました!」
土方司令から航空支援要請が出たのだろう。
程なく、『ヤマト』と戦闘空母から爆装した67機は一路敵艦隊に向かった。
半日前まではムリヤリとはいえ250機を擁したTF21だが、3次に亘る出撃と敵の迎撃で出撃可能機は100機を割り込み、対艦ミサイルは底を尽きかけていた。
何より、生還したパイロットは皆疲れていた。
期待どおりの戦果を挙げたとはいえ、戦力としては潰滅したも同然だったが、それでも出撃を厭うパイロットは1人もおらず、
『ミサイルがないなら敵艦のブリッジに機銃掃射を加えるから俺も入れろ!』
と息巻く者さえいた。
一方──。
「我が艦隊、土星の環に向けて後退していきます!」
地球艦隊は敵艦隊を引き連れる形で土星の環に向けて後退していくが、敵旗艦からのワープ砲撃でまた犠牲が出た。
ブリッジクルーから不安げな声が上がるが、嶋津は腕組みしたままモニターを見詰める。
鬼龍はあの兵器のウィークポイントに気づいたようだ。
あの撤退を、敵の大将はどう解釈しているか。
潰走と受け取ってくれればこちらの思う壺だが――。
――『アンドロメダ』――
「TF21の艦載機はまだか!?」
「あと3分で敵艦隊最後尾に到達します!」
待ち兼ねた航空支援が来た。土方は口角を僅かに吊り上げる。
「ん。このまま敵艦隊を環の内側に誘い込め」
どんどんついて来い。そして環の中であれを撃つんだ――。
地球艦隊を追うバルゼー艦隊の最後尾に、TF21の艦載機が食いつき始めた。
大型対艦ミサイルが戦艦の横腹を食い破って炸裂する。戦艦が艦橋砲を放ち、衝撃波に変化したエネルギー弾がコスモタイガーを粉砕する。
別のコスモタイガーが駆逐艦に対艦ミサイルを放ち、命中した駆逐艦は機関をやられたのか、炎上しながら落伍していった。
その間にも、敵艦隊は次々と土星の環の中に進入していく。
“敗走”する地球艦隊はカッシーニの隙間に到達するや、火炎直撃砲の影響を抑えるため散開し始めた。
TF21の艦載機隊が反転し、敵艦隊がほとんど土星環の中に進入した頃、敵旗艦が遂にあのワープ砲を発射した。