── 『テシオ』 ──
狭い艦橋に三沢の緊迫した声が響く。
「敵巡洋艦2と駆逐艦2接近、相対速力57ckt! 50秒後に有効射程に入ります!」
捨て身で空母を守ろうとしているのだろう。護衛の艦が次々とこちらに突撃してくるのだが、司令官が斃れているのか統制を欠いており、単艦ないし少数で突撃してくるため、TF21の集中砲火であえなく潰えていた。
それでも、10隻あまりの敵戦艦・巡洋艦・駆逐艦がこちらと空母に向けて突撃を図っているのを『テシオ』の全天球レーダー室がキャッチし、各艦に伝わった。
「駆逐艦は本艦が引き受ける。『ヒルガオ』『ナデシコ』は『ヤマト』と共に巡洋艦を潰せ。‥‥戦術長、主砲1番2番は右側の駆逐艦、第3主砲塔と磁力砲と発射管で正面の駆逐艦を殺るぞ!」
「了解しました。‥‥各砲手・雷手、一撃で仕留めるぞ、いいな!?」
『わかりました!!』
『了解!』
嶋津は各砲門と発射管を敵艦2隻に振り分けて同時攻撃する個別管制戦を下令。戦術長の篠田は即座に艦長命令を各砲・発射管の戦術科員に伝えた。
──慢性人材難に苦しめられているのは地球艦隊も同様で、現有の艦艇は旗艦からの指令に基づいて火器管制を行う事を前提に設計されており、クルーの養成もその基本方針で実施されている。
これは養成期間の短縮に貢献する反面、戦闘で旗艦が戦闘指揮不能になった場合の個艦戦闘力を大きく減殺してしまう危険があった。
故に、ガミラス戦を生き延びた宇宙戦士達は危機感を募らせ、艦規模での個別管制能力を維持向上させるべく、訓練を行う艦も少なからず存在し、GF666の3艦もその例に漏れなかった──。
ガトランティス艦は射程ギリギリから盛んに撃ちかけてきており、彼我の距離が縮まるにつれて誤差が小さくなってきていた。
『ヤマト』はかすり傷程度だろうが、GF666の場合は致命傷になりかねない。
─その時、『テシオ』の艦首発射管から大型空間魚雷が放たれ、次いで艦舷側の磁力砲から劣化ウラン弾が放たれた。
更に3基6門の8インチショックカノンから放たれた陽電子ビームが間を置かずにガトランティス駆逐艦に到達。装甲を喰い破られた敵艦は爆炎に包まれ、相次いで超新星と化した。
その後はTF21による文字通りの“屠殺”だった。
『ヤマト』と戦闘空母群は射程内に入った敵空母を情け容赦なく仕留めていく。
巡洋艦部隊とGF666は絶望的な突撃を敢行する敵護衛艦や補助艦艇を片端から撃破していったが、完璧なワンサイドではなく、地球側でも無傷な艦は『ヒルガオ』『ナデシコ』のみになっていた。
特に巡洋艦『トロンプは、空母『クレマンソー』に衝角戦を挑んできた敵巡洋艦と刺し違える形で沈没していた。
それでも敵空母への駆逐戦は最終段階に入り、敵中型空母の中には火煙に包まれながら突撃してくるものもいたが、TF21から放たれる陽電子の槍は装甲を易々と貫徹し、短時間で息の根を止められてしまった。
――機動部隊旗艦――
「提督、消火薬剤を使い果たしました。鎮火の見込みはありません‥‥」
「‥‥そうか」
無念の表情で、幕僚が消火作業ができなくなった事を報告する。
もう1隻の大型空母は航行不能に陥り、先ほど総員退去命令が出た。
ゲルンは一瞬瞑目し、再び瞼を開く。
「ご苦労だった。総員退艦せよ」
ゲルンの表情からは、先程までの焦りと苦渋はすっかり消えていた。
「都督、我々も残ります!」
「ならん! これは命令である!!」
司令官の尋常ではない様子に、幕僚たちは退艦を拒むが、ゲルンはそれを厳しく却下した。
これだけの失態を冒したのだ。本国に戻ったところで、あの冷血丞相(サーベラー)によって形ばかりの軍法会議の後、処刑場送りになるのは目に見えている。
大帝から直々に死を賜るならまだしも、あの女に裁かれる事自体が屈辱以外の何物でもない。
今の自分にできることは、これまで自分に仕えてくれた彼らの責任を、出来るだけ軽くしてやることだけだ。
「我が艦隊の戦闘は終わりだ。敗戦の全責任は都督たるこの私にある。残存艦をまとめて本隊に合流せよ。抗弁は認めん!」
司令官の気魄に、幕僚はこれ以上抗弁できないと悟り、最敬礼して退出していった。
「‥‥‥‥」
連絡艇が旗艦を離れるのを見届けたゲルンは、操舵士席に座る。
『バルゼー大都督、私は負けた‥‥。かくなる上は我が帝国に仇なす『ヤマッテ』を道連れにすることで、敗戦の罪を償おう──』
ゲルンはコントロールスティックを握ると高らかに宣言する。
「最大戦速!目標『ヤマッテ』!」
――旗艦らしい敵の大型空母が、炎上しながらこちらに艦首を向けて前進して来ることは、TF21もすぐにキャッチした。
直ちに『ヤマト』をはじめとする各艦から無数の砲雷撃が放たれた。
大型空母は、その巨体でしばらく持ち堪えたが、火薬庫に誘爆したか、大火球と化して消滅していった──。
――バルゼー艦隊旗艦『メダルーザ』艦橋――
「うろたえるな!」
ゲルン機動部隊潰滅の凶報に驚きの声を上げる幕僚を、バルゼーは叱咤する。
「多少予定が狂ったが、数では今なお我が艦隊が有利だ。‥‥こちらには『火焔直撃砲』がある。テロン艦隊など恐れることはない!」
その顔には自信が漲っていた。
――『アンドロメダ』艦橋――
「『レキシントン』から入電です」
「読め」
「『TF21は敵空母の撃滅に成功。これより急ぎ戦闘宙域を離れ、本隊に合流の予定』以上です!」
「‥‥そうか。やってくれたか!」
土方の表情が綻んだ。
まずはこちらが先手をとった。次は我々の番だ。
「司令、敵本隊までの距離、140万㌔です!」
「全艦、戦闘用意!」
――土星圈決戦の第2幕にして本番の幕が上がる――。