TF21は、一路フェーベ宙域に近づいていた。
既に第2次攻撃隊は全機発進し、第1次攻撃隊の出撃機が続々と戻って来ている。
「奇襲成功とはいえ、それなりに被害は出ているか‥‥」
『テシオ』艦長席で、嶋津は一人ごちる。
『ヤマト』艦載機は全機健在だった。篠原機はヒヨッコが多い攻撃隊の帰還支援にあたり、加藤・山本両隊は戦闘空域で攻撃隊直援当たっていたが、ルーキーが多い攻撃隊はそうはいかなかったようだ。
母艦が被弾する前に発艦した敵機は、果敢にも我が攻撃隊に立ち向かい、撃墜されるまでの短時間に数機を墜としていた。
それでも味方機の多くは帰還を果たしたのだが、何機かは煙を引いたり、傍目からもわかるほどヨタヨタしながら飛んでいる機もいる。
この分では、あと1回が限度だろう。
――フェーベ宙域、ゲルン機動部隊――
時間を追うごとに、機動部隊は無残な状況になっていった。
最初の奇襲攻撃で旗艦と先頭集団が被弾したため隊列が乱れ、指揮系統も一時停止してしまったのも加えて、対応指示が遅れたのだ。
続いてやってきた敵の攻撃機は対空砲火をかい潜り、空母にだけ襲い掛かかってきた。
本隊らしき敵攻撃機は大型対艦ミサイルを発射したため破壊力も大きく、直撃を受けた中型空母は次々と針路を外れたり、速度を落として落伍する。
そして、大爆発を起こして四散するものも出ている。
そして編隊指揮官からの命令が徹底されていたのだろう。敵は護衛の艦には一切関心を示さず、空母だけを襲っている。
旗艦を含む大型空母は未だ全て残っているが、無傷の艦はなく、肝心の艦載機を出せる状態ではない。
艦内では誘爆や火災が発生し、隔壁の閉鎖や区画放棄で持ち堪えているが、果たしていつまでもつのか‥‥?
――『ヤマト』艦載機は、第1次攻撃隊の攻撃が始まってからもしばらくその場に留まり、空母の艦橋や発進を図る敵艦載機にパルスレーザー掃射を加え続けた。
「加藤隊、山本隊は帰還せよ!」
第1次攻撃隊の指揮官を兼ねていた古代進は、空域に留まって支援を続けていた加藤達に帰還命令を出し、代わって第2次攻撃隊の前路啓開にあたる。
そして、入れ替わりに第2次攻撃隊が戦闘宙域に到着した――。
――『アンドロメダ』――
「『レキシントン』から入電!第3次攻撃隊が敵残存空母への攻撃を開始しました!」
「ん」
通信士の報告に、土方は頷く。
第2次攻撃隊の攻撃をかい潜ったらしい敵空母が、反撃の攻撃隊を向けてきたというから、これは勇敢なる敵空母への引導になるだろう。
「TF21各艦も砲雷撃戦準備が完了した模様です。
あと60分で敵艦隊と接触します」
「‥‥敵本隊に動きは?」
「針路・速度とも変わりません。真っ直ぐこちらに向かってきます!」
――機動部隊を切り捨てたか‥‥。
敵も浮き足立ってはいないようだ。艦隊戦で勝てると踏んでいるというわけか。
こちらに波動砲があることはとうに知っているだろう。
という事は、何らかの切り札を持っている可能性が高いな――。
――『テシオ』艦橋――
第1次攻撃隊のうち、再出撃可能なパイロットと機体で編成した第3次攻撃隊を発進させ、第2次攻撃隊を収容した21TFは、敵機動部隊との距離を詰めていた。
第3次攻撃隊の攻撃が終わると同時に砲雷撃戦に入り、空母を全て片付ける手筈だ。
「敵艦隊まで、あと20分です!」
「よし、全火器自由!全艦合戦準備!!」
「はっ!!」
すかさず嶋津は戦闘態勢入りを命じる。
艦隊は対空警戒フォーメーションの輪形陣から、突撃隊形の縦陣形に変わっている。
『エムデン』率いる宙雷戦隊を先頭に、『ヤマト』と巡洋艦が次鋒。『レキシントン』ら戦闘空母5隻と続き、後詰めをGF666が固めていた。
『テシオ』のブリッジでは、先程突撃してきた10機余りの敵艦載機の話題で持ち切りだった。
彼らは巧みに第2次攻撃隊を追尾し、こちらの艦載機収容作業中に果敢にも攻撃をしかけてきたのだ。
彼らの闘志は敬意を表すに相応しいのだが、如何せん攻撃対象を誤っていた。
敵攻撃隊はこちらの艦隊で最も目立つ『ヤマト』を狙ってきたのだが、それは完全にこちらの思う壷。
上空直衛に戻っていた加藤・山本隊と対空砲火に阻まれ、戦闘機1機が『ヤマト』の右舷側に衝突しただけに終わったのだ。
「結果はともかく、向こうにも諦めが悪い者はいたんですね」
「ああ、惜しむらくは『ヤマト』に気を取られたことだ‥‥」
まさか、敵にもかの山口(多聞)提督みたいな奴がいたとは驚きだ。
多数の優位を失ったら意気消沈するのかと思ったが、やはり例外はいるものだな。
「敵艦隊まで25宇宙㌔!映像、出します!」
次の瞬間、ブリッジクルーから歓声が上がった。
映像で見る限り、無傷の空母はいないようで、艦の各所から火炎や煙を噴き出している。
時折、閃光と共に大火球と化して沈んでいくものもある。
――それは一昨年までの自分たちの僚艦と同じ光景。
敵とはいえ、真っ先に死んでいくのは最前線の下っ端からなのは同じようだ。
手離しで喜べるものではないが、こんなことを考える私は甘いかな…?
そんな嶋津を現実に戻そうかとばかりに、パク通信長が艦隊通信を見て声を上げる。
「宙雷戦隊突撃します!!」
『エムデン』から撃ち上げられた発光信号が煌めいたと同時に、9隻の葉巻型戦闘艦は鷹匠から放たれた隼の如く、敵艦隊前衛に向けて突進した。
敵機動部隊は恐慌状態にあったが、護衛の巡洋艦・駆逐艦群は艦列を立て直し始めていた。
その機先を制するように、地球宙雷戦隊が突撃してきた。
地球側を警戒するべく突出していた敵駆逐艦に向けて『エムデン』の8インチショックカノン6門が放たれる。
ガミラス軍重巡洋艦をアウトレンジで叩ける陽電子ビームは、『エムデン』とほぼ同大のガトランティス駆逐艦を易々と貫徹。1斉射目で船脚を止められた敵駆逐艦は3斉射目で爆散した。
しかし、曲がりなりにも隊列を整えたガトランティス巡洋艦が『エムデン』に応戦を始めた。
ガトランティス艦はパンチ力で劣る一方、艦の上下に装備した回転砲塔に象徴されるとおり手数で勝り、4隻の巡洋艦から無数の光の矢を撃ちかけられた『エムデン』はたちまち火煙に包まれた。
が、『エムデン』は自ら解析したデータを味方に送り続け、指揮下の駆逐艦に
『誰も振り返ってはならぬ!!』
と打電する一方、艦首下部の第3主砲塔と磁力砲で尚も応戦して敵巡洋艦1隻を炎上させたが、そこで力尽き、超新星と化した。
『エムデン』の犠牲は無駄ではなかった。
『Z27』以下のドイツ・オーストリア籍駆逐艦群の乗組員は、雷撃に関してはUボート以来の伝統と技術と矜恃があった。
『ヴァルハラで『エムデン』の連中にかしづくがいい!!』
──『Z41』の砲雷長がトリガーを引く直前に毒づいたという──。
潜水艦から突撃宇宙駆逐艦に代わっても、ドイツ艦乗り達の雷撃は見事だった。
10隻超の敵巡洋艦・駆逐艦が轟沈し、6隻が脱落したが、沈没艦に護衛艦隊旗艦と次席艦も含まれていた事が、戦闘の帰趨を決定付けたと言える。
しかし、着弾するまでに敵艦から浴びせられた砲撃で、離脱機動中の8隻中3隻が爆散。2隻が大破して戦線離脱を余儀なくされた。
1度の突撃でTF21のドイツ・オーストリア宙雷戦隊は壊滅したが、敵護衛艦隊の旗艦と次席艦を特定し、2隻とも討ち取った事は地球側に大吉と出た。
統制を回復しようとしていた敵護衛艦群は再び混乱に落ち、艦列を乱している間に、第2の屠殺者たちが大きな得物を携えて現れた──。