――地球防衛軍・連合艦隊旗艦『アンドロメダ』――
「土方司令、TF21『レキシントン』から入電しました!」
「読め」
「はいっ‥‥『1225時、威力偵察隊が敵機動部隊を奇襲。先頭の中型空母と旗艦らしき大型空母各2隻に命中弾を与え、4隻とも炎上中。
‥‥続いて第1次攻撃隊も敵空母を攻撃中。敵戦闘機の妨害は僅か』‥‥以上です!」
「そうか‥‥」
土方の厳しい表情が僅かに綻び、艦橋スタッフからも喜びの声が上がった。
序盤は上出来だ。敵が浮き足立っている間に、どれだけ戦果を拡大できるか、だな。
頼んだぞ、TF21、『ヤマト』よ‥‥。
──国連軍から地球防衛軍に移行した22世紀末から23世紀前半期、宇宙戦力の主力は宇宙戦艦や巡洋艦などの戦闘艦艇で、純然たる空母は2202年以降に少数が就役した旧ガトランティス艦『ホワイト・スカウト』級しか存在しなかった。
そのため、『コスモファルコン』『コスモタイガーⅡ』は、かの『ヤマト』搭載機を除けば邀撃が主たる任務で、打撃戦力としては期待されていなかった。
ゆえに、軍部の航空関係者は、何としても航空部隊による対艦船攻撃の有効性を証明する機会を狙っていた。
戦闘攻撃機としては、内惑星系戦争からガミラス戦役中期までを支えた名機、ボーイング・グラマンF/A-70『コスモタイガー』、ガミラス戦中期に日本の三菱/南部重工が開発したF-97J『コスモファルコン/隼Ⅴ』とXF-00『コスモゼロ』が存在したが、2199年末にボーイング/グラマンが発表したF/A-72『コスモタイガーⅡ』が、新生地球防衛軍の主力戦闘攻撃機に選ばれた。
『コスモタイガーⅡ』は日本の『コスモゼロ』に性能面で僅かに及ばなかったが、生産性と操縦性に優れた事が高く評価され、地球連邦各州で大量生産・配備された。
また、ガミラス戦後期に登場し、ガミラス艦に通用した空間魚雷・TP197を航空機用に改設計したATP200も用意され、コスモタイガーⅡ各部隊は対艦攻撃訓練も実施していたため、今回の作戦にかける思いは並々ならぬものがあった。
出撃に際し、
『最優先攻撃目標は空母!第2目標は空母!第3目標は空母!! 他の艦は無視しろ!』
『ヒヨッコは魚雷を放ったら一目散に戻ってこい。攻撃は1度じゃ終わらないんだからな、!』
と部下に訓示する士官パイロットもいたという。
練度の差こそあれ、彼らは紛れもなく、地球が放った矢だった。
――ガトランティス帝国軍機動部隊――
ゲルンの元には、各空母からの準備状況が報告されている。
攻撃準備は今のところ予定どおりに進んでいる。
彼は幕僚を鼓舞するように言う。
「先制攻撃を担うは武人の名誉。本隊を失業させてやろうではないか!」
「はっ!」
幕僚が敬礼して応じた。
その時、情報幕僚がゲルンの元に歩み寄る。
「都督、敵軍司令部に差し向けた偵察機からの報告では、出撃したテロン艦隊の中に『ヤマッテ』の姿がないとの事です」
「何?テタンにもいないのか?」
「おっしゃるとおりです。
更に、これまで数隻の存在が確認されていた戦闘母艦(戦闘空母)の姿も見えないとの報告もありました」
「ふむ‥‥」
戦闘母艦――地球側の標準型戦艦の後部を設計変更して、空母の機能を持たせたらしい中途半端な艦――。
そいつらも『ヤマッテ』と前後して姿を消したというのか?
「提督、『ヤマッテ』にはゴーランド艦隊を一掃した『ハドーホウ』があります。‥‥敵は本隊を囮にして『ヤマッテ』を切り札に使うつもりではないでしょうか?」
「むぅ‥‥」
ゲルンは考え込む。デスラーの情報では、かの『ヤマッテ』は単独での長期間行動が得意な上、クルーの技量も高く、打たれ強さでは地球の最新鋭戦艦『アンドーメダ』をも凌ぐであろうという。
ナスカ、ゴーランド、ザバイバルが続け様に斃された事で、否応なく無視できぬ存在になった『ヤマッテ』だが、テロンは敢えて『ヤマッテ』にこちらの感心を向け、戦闘母艦と艦載機で何か仕掛けてくるかも知れない。
そして、その場合の目標は、何も本隊である必要はない――。
更に、各衛星の敵情把握に差し向けた偵察機からは何の知らせもない。
「偵察機を増派しろ。念のため、艦隊周辺宙域も探索するのだ!」
しかし、その命令は遅きに失した。
「艦隊右舷から接近してくる小編隊あり!味方識別信号を出していません!!」
「敵として対処しろ。対空戦闘用意、攻撃隊発進はまだか!?」
「本艦直上に編隊!!急降下してきますっ!」
「!!?」
数瞬の後、旗艦艦橋は轟音と震動に見舞われた。
――ゲルンの旗艦たる大型空母を襲ったのは加藤隊だ。
加藤は空母群集団の中に、一際突起物が多い大型空母を旗艦と看破した。
「奴が旗艦だ。潰すぞ!」
『了解っ!!』
虚を衝かれたのか、散発的な対空砲火を難なくかわした加藤隊は、対艦ミサイルを放つや、そのまま空母の舷側すれすれを駆け抜けていく。
「こいつら、ダブルパンケーキ(上下対照飛行甲板)か!」
大型空母は、2面の滑走路を並べた飛行甲板を上下に配置していた。
加藤が毒づいた直後、大型空母の上部側飛行甲板と艦橋構造物に閃光と火柱が上がった。
旗艦らしき空母と、隣の同型艦に直撃弾を浴びせた加藤隊は無傷の中型空母に向かっていく。
大型空母を叩きのめすのはこの後の本職に任せ、ファイターパイロットとしての仕事が待っている。
機銃掃射で発進してくる敵機を叩き、第1次攻撃隊到着までの時間を稼ぐのだ。
一方、山本隊は先頭グループの中型空母2隻を痛打した。
先頭の空母は格納庫内で誘爆を起こしたか、上部のあちこちから火炎を噴き出す。
また、続行する空母に放たれた1発は、飛行甲板左舷にあるアイランド(艦橋)を直撃。これで首脳陣が壊滅したか、2隻目の空母は艦列から離れ始めた。
「テロンめ‥‥」
炎を噴き上げる旗艦の艦橋で、ゲルンは我が物顔で飛び回るテロン軍戦闘機を睨みつけた。
奴らはこの旗艦と先頭グループを同時攻撃してきた。
この旗艦も、既に格納庫内で誘爆が始まっており、空母としての機能は半減してしまったが、それ以上に、通信系統への被弾で艦隊への指示が思うに任せなくないのが痛い。
(デスラーから提供されたテロンのデータを軽視した報いか‥‥)
これまで戦った敵には目立った航空攻撃戦力はなかったし、ナスカからの報告を真に受けたのか、地球軍の錬度も大した事はないと楽観視していた。
だが、目の前の状況は何なのだ。少数ながらも敵機の技量は高く、対空砲火を易々とかい潜っては機銃掃射で滑走路に出たこちらの攻撃機や戦闘機を次々と屠っている。
――考えれば、ガミロン相手に耐え抜き、遂には逆撃を喰らわせた連中だ。
対して、我々はここまで手強い航空部隊を相手にした事はない。
敵を侮っていた事を後悔したが、まだ負けたわけではない。
戦力ロスはまだ大した事はない。
通信系統もどうにか回復した。
「攻撃機を出せる艦はすぐに出せ! 発進後すぐに爆弾を捨てて敵機の妨害にあてさせろ! すぐにテロンの攻撃隊が来るぞ!」
今の連中は強行偵察隊に過ぎまい。すぐに本当の攻撃隊がやってくる。
そして、こちらはこんな目に遭っているというのに、敵の機動部隊はどこにいるのか――?
偵察機は何をやっている!?
「都督、偵察隊が敵の母艦群を発見しました。‥‥戦闘母艦5、『ヤマト』級戦艦1、巡洋艦4、駆逐艦20‥‥ ここで途絶えました」
「よし、攻撃目標を敵本隊からそいつらに変更する!
まだ健在な空母から攻撃機を出せ!返り討ちにし――」
「敵編隊接近!約100!!」
「!!?」
ゲルンが全てを言い終わる前に、ブリッジクルーが敵攻撃隊接近を告げた――。