――あの暴れん坊どもは、飛び出していった時と同様の派手な帰還ぶりだった。
タイタン近くでワープアウトした『ヤマト』は、潜入を図っていたらしい敵の長距離偵察機を、文字通り踏み潰してしまったのだ。
「‥‥相変わらず、荒っぽい連中だ」
その様を見た土方は苦笑したが、各艦隊の司令官や幕僚は、呆れ返る者、苦笑する者、眉を潜める者と反応も様々だったとか。
── GF666『テシオ』 ──
土方からの命令── 警備任務を中断シ、明日0430マデニ土星圏衛星えんけらどす南極宙域ニ到着セヨ──を受けた第666警備隊は、直ちに移動準備を整えた。
『‥‥どのような任務を与えられるかはまだわからないが、我々はいかなる任務にも対応できる水準にあると確信している。ここにいる全員で、勝利の喜びを分かち合おう!』
嶋津の短い訓示の後、『テシオ』『ヒルガオ』『ナデシコ』は艦首を転じて土星圏へ向かった。
――タイタン基地内・大会議室――
連合艦隊司令長官の土方を議長に、各艦隊の司令官や一部の戦隊司令官が召集され、敵艦隊を迎撃の最終作戦会議が行われていた。
議場の一角には、土方から出席を命じられた『ヤマト』艦長代行の真田志郎と、副長代理兼戦術長の古代 進も顔を見せている。
会議の席上、敵艦隊は前衛の戦艦・巡洋艦・駆逐艦等からなる打撃艦隊と、後方の機動部隊からなること、本隊は間もなく冥王星軌道に到達し、地球標準時間の明日正午に土星圏に接近することが告げられ、土星と土星軌道を最終防衛ラインにして敵艦隊を迎撃することが告げられた。
途中、既に敵艦隊や地上部隊との戦闘経験を持つ『ヤマト』の古代が指名され、報告を求められた。
「――敵艦の無砲身回転砲は、射程は比較的短いものの、速射性能はかなり高いようです。
また、戦艦の艦橋部にある固定砲は大口径で、正面きっての戦闘は避けるべきです」
「先日回収した敵戦艦の残骸を解析した結果でも、あの艦橋砲は確かに大口径で、我々のショック・カノンとは構造が異なっていた。
波動砲のような決戦兵器こそないようだが、敵戦艦と真正面で撃ち合うのは避けるべきだろう」
古代の意見を土方が補足した。
――散会後、土方から指名された数名が残り、長官室への出頭が命じられたが、真田と古代もその中に含まれていた。
――司令長官執務室――
出頭を命じられたのは真田、古代の他、戦闘空母部隊である第1航空戦隊司令官のヨナミネ、第2航空戦隊司令官のフィリップス両少将と、火星空域での錬成を終えたばかりである第34戦隊司令官のドールマン准将らだ。
「君達には、敵機動部隊への索敵奇襲攻撃を行ってもらいたい」
冒頭、土方はそう告げた。
「『オマハ』が掴んだ敵機動部隊は、確認できた限りでは大型空母2隻、マケマケで討ち取ったものと同型の中型空母が30隻と、我が方とは到底比較にならないほどの航空戦力を擁している。
それらが大挙して押し寄せれば、我が艦隊は致命傷を被り、壊滅は避けられない。
だからこそ、敵の空母を潰しておき、地の利を活かした砲雷撃戦に持ち込みたいのだ」
土方の言葉に全員が頷く。
「――つまり、ミッドウェー海戦の再現、ということですか?」
ヨナミネが返した言葉に土方が我が意を得たりと頷いた。
「そうだ。敵の攻撃隊が発進する前に空母を叩く。これがこの作戦の鍵だ」
「‥‥正に綱渡りですな」
フィリップスが唸る。
困難ではあるが、小勢で多勢を制するには、それしか方法がないのも確か。
皆の回答は一つしかなかった。
――その頃のガトランティス機動部隊――
「提督、気になる情報を傍受しました」
「なんだ、首席参謀」
機動部隊を預かるゲルンは、緊張した面持ちの首席参謀を尋ね返す。
「本隊から発進した強行偵察機が、バルゼー総司令との直接通信を終えてから、全く連絡がとれないとの事です」
「‥‥そうか」
敵の警戒網に捉えられたのか?
数ではこちらが優勢とはいえ、最新の敵情を掴めないままでは、敵の手の内を読めないままぶつかる事になる。
そうなっては、地の利を有する地球艦隊に苦戦を強いられてしまいかねん‥‥。
自軍の勝利は疑いないとはいえ、地の利を持つ地球艦隊相手に大損害を被ることになる。
「長距離偵察機を4機‥‥いや、6機出せ。全ての衛星を調べろ」
「はっ!」
数刻後、漆黒づくめのカブトガニ型偵察機は次々と大型空母から飛び立って行った。
――後年、この時代の『ヤマト』や地球防衛艦隊の戦いぶりを描いた様々な媒体で、白色彗星帝国軍のゲルン提督は、初めのうちは油断・慢心の愚将という描かれ方をされたが、真っ当な戦術眼を持っていたらしい事が、地球防衛軍が公開した資料から明らかになっている――。
一方、地球側の航空急襲部隊。
出撃まであまり時間がないため、詳細は決められなかったが、一応の作戦内容は、
①偵察機は『ヤマト』戦闘機隊から数機が爆装して出撃。敵艦隊を発見し次第、『ヤマト』隊は空母を攻撃して艦載機発進を阻止。その後は空域に留まり、制空戦闘を行う。
②敵艦隊発見の連絡があり次第、各空母から攻撃隊と第2次制空戦闘機隊が出撃、敵空母を攻撃・無力化する。
③航空攻撃が成功した場合、『ヤマト』が前進して敵空母を攻撃する。
④戦況により、第34戦隊も攻撃に参加する。
⑤万一、作戦が失敗した場合は『ヤマト』が殿軍になって敵の攻撃を引き受け、味方の退却を支援する。
護衛の敵艦艇は原則として無視するが、戦艦の正面には出ないこと。
等々――。
この急造機動部隊は、『第21任務部隊(TF21)』と命名された。
TF21の編成は次のとおり
総指揮官、:ヨナミネ第1航空戦隊司令官兼任。
次席指揮官:フィリップス第2航空戦隊司令官
打撃部隊指揮官:ザントップ第18戦隊司令官
護衛部隊指揮官:ドールマン第34戦隊司令
艦船編成
戦闘空母『サラトガ』(旗艦)
『レキシントン』
『レンジャー』
『フューリアス』
『クレマンソー』
以上5隻
戦艦
『ヤマト』
巡洋艦
『バイロイト』
『トロンプ』
『コーンウォール』
『テシオ』
『スハルト』
『エムデン』
以上6隻
駆逐艦
『Z41』他10隻
護衛艦
『ヒルガオ』
『ナデシコ』
※『テシオ』『ナデシコ』『ヒルガオ』は索敵支援。
警備宙域から直接合流。
――ともあれ、急造ながらも部隊編成は完了し、数時間後、TF21各艦は、主力部隊に先駆けてタイタン基地をひっそりと離れていった。