宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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侵略の靴音

――シリウス星系――

 

大・中・小の戦闘艦を主力とする、数百隻に及ぶ大艦隊が遊弋していた。

 

大型艦は全長300m、中型艦は200m、小型艦も150mを超えており、いずれも地球防衛軍の同級艦よりひと回り大型だが、艦隊のほぼ中央にいる大型艦は、他の艦とは全く異なるフォルムを持っていた。

 

他の大型艦ほど武装は目立たないが、艦首は双胴艦を思わせるように左右に分かれて前方に張り出しており、主艦体前方下部には半格納形らしき大きな筒状の物体が据えられていた。

その艦が僚艦とは異なる戦術思想を持っていることは明らかだ。

その独特な形状の大型艦――重殲滅戦艦『メダルーザ』艦橋に立つ、軍服にマントを羽織った男、第6遊動艦隊を率いるバルゼーが口を開く。

 

「大帝のご命令が下った。我が艦隊はこれよりテロン人どもの恒星系に進攻。テロン軍を殲滅し、一気にテロン本星を陥とす! ゲルンにも伝えよ!」

「はっ!」

 

バルゼー艦隊は周囲を圧する威容を誇示するかのように、悠然と前進を始めた。

程なく、プロキオン星系に待機していたゲルン率いる航空戦力を担う機動部隊も、太陽系目指して進撃を開始した――。

 

一方、地球防衛軍も手を拱いてはおらず、連合艦隊司令の土方が先頭に立って様々な策を打っていた。

 

まず。土星圏以遠の各衛星における資源採掘を一旦中止させ、採掘資源と民間スタッフを地球に送還させた。

この際、船団規模が定期便に倍するため、その護衛には内惑星防衛艦隊や月面艦隊の一部も駆り出された。

 

民間人を避難させたのは、単に人道上の理由だけでなく、資源輸送船団を護衛している護衛艦や一部のパトロール艦をも、間近に迫っているであろう敵軍との決戦に投入する肚積もりがあるからだ。

 

コルベットとは言っても、砲撃能力なら駆逐艦を上回り、小口径とはいえ艦首波動砲や、戦艦を上回る射程のショックカノン砲を持っているし、パトロール艦は、艦前方の武装では巡洋艦と同等だ。

 

使い方次第では敵に深手を負わせることができる。

敵艦隊の戦力規模がはっきりしない以上、戦える艦船は全て投入する。

土方の方針は至極明確だった。

 

── ガトランティス首都星要塞 ──

 

「これは大帝御即位初の不祥事だ!」

 

テレザード(テレザート星)自爆のあおりをまともに受けた首都星要塞は、構築以来最大の被害を受けていた。

白色彗星を形成していたガス帯と超重力帯は約3割にまで吹き飛ばされ、要塞自体にも少なからぬ被害を受けていた。

意外に重かったのが操縦区画の脱落で、当時勤務・待機していた操縦士の大半が操縦区画もろとも行方不明

になっていた。

また、赤道部分に構築されている回転防御帯も、装甲板やミサイルランチャー、ビーム砲が大破したり脱落する被害が発生。やむなく減速を余儀なくされたのだが、大帝以下の帝国首脳陣はこれを屈辱と受け取った。

混乱を最小限に抑えたのは、やはり大帝ズォーダーが自ら率先して命令を下したからで、

 

『此度の事態はテレサの力によるものであるから、汝等が責めを負ってはならぬ。安心して復旧に励むが良い』

 

との声明は兵士達を安心させたが、天の川銀河進出予定の繰り下げはなかったため、復旧工事そのものはぶっ通しの突貫で行わざるを得ず、死亡事故が複数発生したり、目に見えない精度誤差の補整も不十分だったが、この時点では誰もわからなかった。

 


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