宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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あの艦を追うのは私たち

――時空管理局、第4海上支部次元港、次元航行艦『クラウディア』ブリッジ――

 

「出港60分前です」

「各部最終チェックにかかれ」

「了解しました」

 

艦長兼提督のクロノがブリッジクルーに指示を出していく。

 

――私、フェイト・T・ハラオウンは、先日の管理外世界『ワクラ』崩壊事件、それに続く管理外世界『テレザート』付近空域で、『ワクラ』を崩壊させたと思われる所属不明のミサイル艦隊と、この艦隊を一瞬の間に全滅させた、こちらも所属不明の宇宙戦闘艦について再調査すべく、我が補佐官であるシャーリー、ティアナとともに再びあの世界に赴こうとしていた。

 

「各システム、異常ありません」

「管制に連絡。貴支部の迅速な支援に感謝する、と」

「はいっ!」

 

第4支部の司令官が私達の報告を重視してくれたせいか、『クラウディア』の修理は突貫工事で行われ、補給も含めて僅か2日足らずで終わった。

 

「あの艦がまだ『テレザート』に滞在してくれればいいんだが」

「‥‥うん」

 

ミサイル艦隊が、消滅させられる前の艦隊内通信でしきりに出していた『ヤマト』という名。

 

地球、それも日本で6年余り生活した私には、とても偶然で片付けることはできなかった。

それは、今も海鳴に自宅があるクロノも同様なのだろう。

 

私は、『ヤマト』というらしいあの艦の乗組員と話をしてみたかった。所属する世界のこと、あのミサイル艦隊と戦った理由。

 

あれだけの強力な艦船を運用できる国家なり組織なのだから、時空管理局や管理世界と同等以上の文明や科学力を持っているのは間違いない。

 

迂闊に刺激して敵対するのは避けたいが、私は何故か、あの艦とは話ができるという確信めいた予感を抱いていた。

 

 

――『ワクラ』空域 ──

 

そこにはあの日と同じ無残な光景が広がっていた。

かつて星だったものの骸。

この中には駐在していた局員の亡骸もあるだろう。

できることならば、せめて家族の元に連れ帰ってあげたい。

 

「こんな‥‥」

「ひどい‥‥」

 

私達は改めて『ワクラ』をこんな姿にした者達に激しい憤りを持ったが、今できることは粛然と頭を垂れ、彼らに安らかな眠りあれと祈る事だけだった――。

 

「提督、執務官、『テレザート』に向けて超大型の天体が亜光速で接近しています!!」

 

観測担当クルーが緊迫した声を上げた。

 

「‥‥どういう事?一昨日はそんな天体確認できなかったじゃない」

「間違いありません。直径約1万㌔超の天体で、強力な電波と重力場を確認できます!」

 

オペレーターがその天体の映像データをメインモニターに映し出した――。

 

「あ、ああ‥‥!」

「これは‥‥」

 

映し出された映像に、誰もが声と顔色を失った。

余りに巨大な白色彗星の姿がモニターいっぱいに広がる。

 

「‥‥‥‥」

「‥‥‥‥」

「怖い‥‥」

 

初乗り組みの女子オペレーターが心底恐怖しているような声を漏らしたが、私は彼女を弱虫とは思わない。

私もまた、あの白色彗星から漂ってくる、形容しがたい禍々しさに冷汗を流していたからだ。

 

それにしても、僅か2日の間にこんな彗星が接近するなんて…。

私たちが地球の学校や局で学んだ天文学ではあり得ない速度だ。

絶句していた私たちに、さらなる重要情報がもたらされた。

 

「本艦より1時の方向、先日の戦闘艦‥‥『ヤマト』を確認!遠ざかっています!」

「間違いないか?」

「先日と同じ熱反応です。間違いありません!!」

 

私たち関係者の中では、あの艦を暫定的に『ヤマト』と呼んでいるのだ。

 

「クロノ!」

「ああ、追いつけるか?」

「やってみます」

 

魔導炉が過負荷モードに切り替わり、『クラウディア』は猛然と加速する。

 

「あの艦‥‥『ヤマト』に呼びかけて!敵対の意思はないことと、こちらの所属・艦名を。‥‥地球の英語と日本語文は私が作るから、貴女は大至急ミッド語とベルカ語文をお願い!」

「わかりました!」

 

通信主任のマーヤ・シュタインに依頼した私は、キーボードを叩いて『ヤマト』に呼びかける英文と日本語文のメッセージを作り、彼女に渡した。

その時、観測員が一段と緊迫した声を上げる。

 

「『テレザート』からエネルギー反応!急激に増大しています!!」

「強力な磁場発生!通信できません!」

「諦めるな!何度でも呼びかけ続けろ!」

 

『テレザート』の異常の影響だろう。なかなか『ヤマト』に繋がらない。

 

「『テレザート』に異常なエネルギー反応…。爆発・崩壊の可能性、極めて大!」

「攻撃か!?」

「その反応はありません。重力による地殻崩壊でもありません!」

「『テレザート』の光学映像、出します!」

 

――目に飛び込んできた光景に、私たちは文字どおり言葉を失った。

 

『テレザート』が黄色い光に包まれていたのもさる事ながら、光の中に青いドレスらしい服をまとたった若い女性が、祈るような姿勢で浮かび上がったのだ。

 

「‥‥‥‥」

 

私達はまた絶句する。

しばらくその光景が続いたが、やがてその姿がかき消え、遂に終局がやって来た。

 

「強い時空震が起きるぞ、皆何かに掴まれっ!」

 

 

――5時間後、『クラウディア』執務官室――

 

――色々なことがあり過ぎた1日だった。

 

『テレザート』の崩壊から逃れるため『クラウディア』を緊急転移させたため、『ヤマト』にコンタクトをとることはできなかった。

それ以前に、『ヤマト』の船脚は『クラウディア』を遥かに上回っており、到底追いつけるものではなかったのだが。

 

管理局は艦船の性能に絶対的な自信を抱いているようだが、通常空間に関する限り、管理局の艦船はそれほどの性能ではないのかも知れない。

 

結局、確認できたのは『テレザート』の自爆に近い崩壊、謎の巨大白色彗星、『ヤマト』の不鮮明な光学データだった。

『テレザート』爆発の衝撃波を回避するため『クラウディア』は緊急次元転移したため、『ヤマト』へのコンタクトはとれなかった。

 

残念なのには変わりないが、『ヤマト』とは、またいつか逢える気がしてならない。

 

それにしても、JS事件を何とか解決して平穏になったと思われた次元世界だが、これは新たな波乱の始まりなのだろうか。

否、動乱になってしまうのだろうか――?


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