―― 地球防衛軍士官官舎 ――
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
フェイト・T・ハラオウンの振る舞いに、その場にいた一同は、程度の差こそあれ驚きの表情になっていた。
――年内の軍務を終えた嶋津冴子は、軍務局第3課長である中島龍平に夕食 ――年越しパーティー―― に招かれたが、地球到着以来、半ば軟禁下にあったフェイトとティアナも、身元引受人たる土方の計らいで監視が緩められたフェイトとティアナも中島が招待したため、2人を連れて同じ官舎にある自らの部屋に戻った。
そして、迎えに出てきた被保護者の高町雪菜に、留学生として2人を紹介したのだが、雪菜を見たフェイトとティアナは一瞬驚いた表情になった。
その様は嶋津も見たが、2人の知人の誰かと雪菜の容貌が似ているのだろうと考えた。
しかし、雪菜に次いで部屋に入ってきたリニスという子猫を見た時、フェイトは誰が見ても驚愕とわかる表情になった。
フェイトはしばらく呆然としていたが、突然、澄んだ紅い瞳を潤ませたかと思うと、大粒の涙を床に落としたのだ。
「フェイトさん‥‥」
ティアナに声をかけられたフェイトは、そこで我に返った。
「すみません、取り乱してしまいまして」
涙を拭い、簡単に事情を説明する。
「‥‥幼い頃飼ってて、突然いなくなった猫によく似ていたもので、つい思い出してしまいました」
「‥‥そうかい」
事情を知るティアナはもとより、嶋津と雪菜も納得の表情になったのだが――。
フェイトは決して嘘はついていない。
ただ、目の前のリニスが、突然自分の前から去っていった自らの師であり母親の使い魔だったとは、ティアナはともかく、地球人の2人に言うわけにはいかなかったのだ。
ゆえに2人が納得してくれた事に、フェイトとティアナは少し良心が痛んだが安心した。
そして、フェイトとリニスは、先程から久方ぶりに涙声の念話で旧交を温め合っていたが、フェイトは重大な事に気がついた。
『リニス‥‥あのね?』
『何でしょう、フェイト』
『リニスは、今、この星の人と契約してるの?』
『‥‥はい』
リニスの返事は、フェイトを三たび驚かせるのに十分だった。
リニスや、フェイトの使い魔であるアルフは、魔力保持者から継続的な魔力供給がないと、文字どおり消滅してしまうのだ。
つまり、リニスが今も存在しているのは、この世界にも自分達のような魔力保持者が存在しているという動かぬ証拠なのだ。
『それって‥‥』
『‥‥‥‥』
リニスは沈黙をもって答えた。
(やはり、この子か)
今この場にいる4人のうち、魔力を感じられないのは嶋津冴子のみ。
自分の使い魔はアルフ。ティアナに使い魔はいない。
――と、
「――お茶を淹れてきますので、この子をお願いできますか?」
事情を察したのか、高町雪菜がフェイトの胸元にリニスを差し出してきた。
「ありがとう‥‥」
「お願いします」
息をのみながら、フェイトは雪菜の後ろ姿を見やる。
『知り合いに、雪菜と似た人がいるのですか?』
『うん。2人。1人は本当に瓜2つ。
‥‥もう1人は親友で、顔立ちも似てるけど、同じく地球人で、姓が全く同じなんだ』
『!――』
これにはリニスが息を呑む。
更に念話を続けようとした時、
『――話はそこまでだ。リニスと時空管理局とやらの魔導師よ』
壮年の男の声が割り込んだ。
最後の「壮年男性の声」は旧ヤマト2/さらば~のズォーダー大帝をイメージして下さい。