――『アンドロメダ』――
騒然としていたブリッジだが、土方が戻った事で雰囲気は一気に引き締まる。
騒然とはしていても、総旗艦のクルーは優秀である。土方が着席するや、副官以下の幕僚が次々と現状を報告し、土方は頷きながら聞き入る一方、指示を下していく。
確定情報は以下のとおり
①エッジワース・カイパーベルトのイスカンダル回廊(ヤマトの第1次出撃航海ルート)付近で、所属不明の艦船2隻を哨戒中の巡洋艦『アヤセ』が発見。
②件の艦船=アンノウン1・2は同型艦で、ガミラス・ガトランティス・イスカンダル・時空管理局いずれの艦船とも異なる形状で、円盤型の艦体に艦橋らしき塔状構造物を持っている。
③アンノウンは『アヤセ』の誰何に応えず、回廊沿いに銀河外縁方面に遠ざかっているが、彼我の間隔は変わらず、再度の接近又は侵入を企図しているものと推定。
④海王星軌道付近で訓練中の巡洋艦『マンチェスター』と『ダブリン』が支援のため急行中。合流まで300秒。
戦闘は起きていないようだが、友好使節ではなさそうだ。
土方は即座に指示を下す。
「木星圏より外側の各基地所属の艦は全て出撃待機。
第6艦隊は4時間以内にイオ基地に進出。
‥‥ガトランティス残党であれば投降勧告。応じなければ攻撃・殲滅」
木星圏より外側の各惑星圏基地に駐留している艦――巡洋艦と駆逐艦――は出撃待機。
第6艦隊――白色彗星帝国来襲時は錬成初期のため、艦隊単位では参戦しておらず、現時点では唯一の艦隊規模戦力――は、ガトランティス帝国軍残党の捜索・掃討が主任務のため、火星第1基地から木星圏イオ基地への進出に留める。
そして、この機に乗ずる可能性があるガトランティス残党と遭遇した場合は、先に投降してこない限りは制圧・殲滅する。
(場合によっては干殺しもありだ)
指示し終えた土方は秘かに溜め息をついた。
大帝ズォーダーら指導部を突然失い、指揮系統が混乱したガトランティス帝国軍は、大半はラーゼラーという生存した首脳とともに太陽系から退去したが、それを潔しとしない一部は、恐らくは大帝の復仇のために太陽系天王星軌道以遠に潜伏しては単艦~少数艦で衛星基地を襲撃している。
最初の予定では『ヤマト』ら13TFも加えて一気に殲滅する『雷王作戦』を実施するつもりだったが、イスカンダル危機勃発のため『ヤマト』ら13TF抜きでの実施に変更した。
しかし、ここに来てのアンノウン出現で、またまた再考せざるを得ない。
そこで新たに考えたのは、かつて豊臣秀吉が織田信長に仕えていた頃しばしば実行した攻略法――干殺し(兵糧攻め)――だ。
補給拠点がない敵残党は、いずれこちらの基地や貨物船を襲って食糧や水を調達しなければならない。
それを見越し、敵残党の集結宙域を監視下に置いて兵糧攻めにし、激発したところを一網打尽にする。
だが、またまた路線変更を迫られるかも知れない。
「大マゼラン銀河‥‥ガミラス、イスカンダルの異変と関係があるのでしょうか‥‥?」
「‥‥今はアンノウンのデータ収集に徹しろ。
但し、奴がカイパーベルトの内側に入ってきたら問答無用で拿捕しろ」
「わかりました!」
副官の懸念も尤もだ。アンノウンの出現した場所がイスカンダル回廊というのは何とも嫌な感じだ。
ガミラス星消滅とイスカンダル星暴走に関わっている勢力の可能性も否定しきれないが、何とも言えないのが現実だ。
(嶋津たちの報告待ちなのが焦れったいところだが、致し方ない、か‥‥)
――数多の教え子の中でも“転んでもただでは起きない連中”達が、予想を上回る事態に巻き込まれた挙げ句、厄介事を持ち帰ろうとは、さすがの“鬼竜”も思ってもみなかった。
――エッジワース・カイパーベルト・イスカンダル回廊付近――
「アンノウン1・2との距離、40宇宙キロ!速力30宇宙ノット!!」
「誰何を続行、進路・速力そのままで追跡を続ける」
「『マンチェスター』『ダブリン』合流まであと3分です!」
『アヤセ』はエッジワース・カイパーベルトに接近してきた所属不明・未確認の艦船を発見し、停船指示と所属・目的を質したが、件の艦船は一切答えず、逃走を始めた。
ただ、その進路はカイパーベルト沿いで、侵入の意思を持っていると判断した『アヤセ』艦長、若命未散は追跡を即断。
緊急電を傍受したカイパーベルトの内側で訓練中の巡洋艦『マンチェスター』『ダブリン』は直ちに支援に向かった。
また、連合艦隊司令部と軍中央も反応し、太陽系内の戦力を移動し始めた。
「お客さんのデータは送ったか?」
「2分前更新のデータまで送信してあります」
副長の幸浦俊也が観測士に質す。
「また地球に目をつけてきた勢力なんでしょうか?」
「友好を求めて‥‥とは考えにくいな。
もっとも、コミュニケーション手段がこれまで接触した異星人と根本から違っている可能性もあるが‥‥」
舵を握る内浦利奈の問いに、幸浦はよく通るバリトンで応えた。
「‥‥我々の即応能力を調べに来たかも知れないわね」
「ふむ。宇宙にもミシュ〇ンガイドがあるわけですか」
若命艦長が口を挟み、幸浦はいつもの煙に巻く口調で応じた。
‥‥だとしたらなかなか厄介だ。
侮られてはいけないが、さりとてこちらの手の内を完全に晒すわけにもいかないのだ。
敵艦はバレル式の砲塔を持つ、駆逐艦級の艦艇のようだ。
艦体規模は地球防衛軍の巡洋艦と駆逐艦の中間だが、武装の規模は駆逐艦級。
やはり長距離航海向きの艦か。
等と思っていると、通信士が『マンチェスター』『ダブリン』の接近を告げる。どうやらアンノウンの前に出るようだ。
「艦長、『マンチェスター』のマルセフ艦長から通信が入っています!」
「繋いで」
回線が繋がり、スクリーンに『マンチェスター』艦長のロバート・マルセフと『ダブリン』艦長、ハロルド・ドーソンが映る。
「若命です。支援、感謝致します」
『問題ない。早速だが、ホストは引き受けた。貴艦はゲストと談笑していてくれるか』
「わかりました。おもてなしはお任せします」
『心得た』
マルセフは停船させる肚積もりのようだ。
戦うつもりはないが、アンノウンの意図はなんとしても知りたい。
――無論、侵略の尖兵ならば拿捕・抑留だ。