――『ドメル』――
「‥‥!」
「――!?」
最悪の事態に、ガミラス総旗艦の艦橋も騒然となった。
そんな中――。
「うろたえるな!総統の御前で醜態を晒すでない!!」
「――申し訳ありません、閣下」
タランの怒号に、浮き足立っていたブリッジクルーが静まり返り、艦長は平身低頭した。
時と場合によってはその場で更迭、或いは粛清されてもおかしくなかったのだが、それができる絶対唯一の人物は黙したままだった。
その人物――デスラー――が静かに号令する。
「‥‥戦闘態勢を維持しつつ、全軍後退せよ」
「は‥‥はっ!」
総統の声色に、兵士、特に士官は背筋が凍りつく。
デスラーの声には明らかに憤怒が込められていたからだ。
当のデスラーは血が滲むまでに唇を噛み締め、握った拳を震わせている。
自分は大ガミラスの総統。帝国再興という大義の前には個人的な感情は捨てなければならない。
しかし――。
(――国土を守れず、母なる星を守れなかったばかりか、愛しい者1人すら守れぬのか?私は‥‥!)
人間として、男として、危機に瀕している愛する女を救えない事実と屈辱に、デスラーは内心で無念の叫びを上げた。
(総統‥‥)
微かだが項垂れ、肩を落とした主君の背に、一歩下がった位置に立つタランは一瞬痛ましげな視線を向けるが、幕僚や兵士からの報告に、頭脳はすぐ実務に切り替わる。
物心ついた時から見上げてきた、蒼き星イスカンダルの崩壊には、タラン自身も大きな衝撃を受けているが、我々の大義は帝国再興だ。
生き延びなければ悲しむ事はできないし、このような惨事を引き起こした暗黒星団帝国とやらへの復讐も叶わない。
ゆえに彼は己を叱咤する意味も込めて檄を飛ばす。
「ゴルバから目を離してはならんぞ。ヤマトと僚艦からもな!」
――『ゴルバ』――
「‥‥‥‥」
イスカンダル崩壊の報に、メルダースは課された任務が完全に失敗した事を悟った。
ゆえに、彼は司令官として最後の命令を下す。
「総員、ゴルバより退去せよ」
「司令官!?」
元々血色薄い顔を文字通り漂白させた幕僚に、メルダースは静かに告げる。
「ガミラシウム・イスカンダリウム獲得の勅命を全く果たせなかったのだ。全ての責めは司令官たる私が負う。諸君らは直ちに退去するのだ。これは命令である!」
「‥‥はっ!」
幕僚達は無念の表情で司令官に敬礼し、指揮所から退出していった。
「‥‥さて」
このゴルバが消滅するまでにはまだ時間がある。
司令官として、『聖総統』への最後の報告と謝罪。
無論、邪魔した者の素性もな――。
――『テシオ』――
「暗黒星団帝国の残存艦が後退し始めました。ゴルバは停止したまま動きません!」
「コスモタイガーは帰還したな!?」
「先程全機ヤマトに着艦しました!」
「イスカンダルは?」
スクリーンの中のイスカンダルは、地殻の崩壊によるマントルやマグマ露出が急激に増えつつあり、禍々しい末期の姿になっている。
「真田技師長の見立てでは、あと5分前後で完全崩壊、消滅との事です」
「‥‥わかった。全艦面舵170。爆発影響圏外まで後退し、古代達の脱出を待つ。戦闘態勢そのまま!」
(何してやがる、さっさと脱出しろってんだ!!)
古代(守)に毒づきつつ、嶋津は唇を噛み締めながら後退指示を出す。
(生き延びて、子を成した以上、お前には何を置いても果たすべき使命があるんだ。
“死”なんかに逃げるんじゃないぞ、古代!)