――『ヤマト』第1艦橋――
スクリーンの左半分には『テシオ』の嶋津、『チョウカイ』の塩江、『クズリュウ』のカルチェンコ、『アシタカ』のフランベルク姉、『オシマ』の真山、そしてデスラーとタランが映り、右半分にはスターシャと古代 守が映っていた。
「兄さん、スターシャさん。こっちは受け入れ準備ができている。早く脱出を!」
「イスカンダル星の地殻が脆くなっているのはわかってるだろう?古代!」
再会を喜び会う間もなく、古代(進)と真田は2人に対する説得を開始。
『私も同感だ。生きてさえいれば、新たな道が見つかる事もある。早く脱出したまえ』
デスラーも加勢し、改めて説得を図った。
『‥‥‥‥』
『‥‥‥‥』
一方、嶋津らTF13組は画面を注視しつつ、無言でやりとりを聞いている。
まずはスターシャと面識がある者に任せようというわけだ。
そんな中、森 雪も説得に加わる。
「スターシャさん、私達は、貴女方から受けたご恩を片時も忘れたことはありません。一刻も早くヤマトにおいで下さい」
雪が『貴女方』と複数形で言ったのは、火星で命を落としたスターシャの妹、サーシャを含めているからだ。
――火星で事故死した王妹サーシャ・イスカンダル(過去にも同名の女王がいたため、正確にはサーシャⅡ世)の遺体は古代と島の手で埋葬されていたが、ガミラス戦役後、地球連邦議会は全会一致で彼女を『永世名誉市民』第1号に指名し、墓所も整備されていた――。
『ありがとう、地球とガミラスの皆さん‥‥ですが、私はイスカンダルを預かる者。たとえ崩壊することがわかっていても‥‥だからこそ、この星を離れることはできません』
「スターシャさん‥‥」
『‥‥‥‥?』
スターシャは穏やか、かつはっきりと言い切ったが、僅かだが表情を曇っていることに嶋津は気づく。
完全に覚悟が定まっていないのだろうか?
(何かがスターシャをためらわせている。ひょっとしたら‥‥?)
古代守と愛し合えるのだから、スターシャの感性もまた地球人に極めて近いはず。
だとすれば、星と運命を共にするという彼女の覚悟を鈍らせている最大の要因は“あれ”ではないのか?
「‥‥古代、1ついいか?」
『‥‥何だ?』
「‥‥生まれたのは太郎?花子?」
「‥‥(;゚Д゚)」
『‥‥(;゚Д゚)』
『‥‥(--;)』
『‥‥?』
『????』
あまりと言えばあまりに空気を読まない発言に、地球側各艦のブリッジクルーは一様に脱力し、真田と守は本当に目眩がした。
一方、スターシャやデスラー達は意味がわからず、きょとんとしている。まあ当然だが。
守は一瞬のフリーズから再起動し、相変わらずな僚友の残念ぶりに辟易しながらも一言で答えた。
『‥‥サーシャだ』
『!!??』
その名の由来を瞬時に理解できない者は、地球防衛軍に入る資格はないと言っても過言ではなかった。
ともあれ、サーシャという一人娘の存在が、冴子ら説得する側にこの上ないアドバンテージを与えたのは事実である。
(‥‥さすがは艦長、サイテーでサイコーだ)
とは、『テシオ』砲雷長・松島淳一の弁だ。
「ならばなおの事、生きて娘の成長を見届ける責任があるんじゃないのか!?」
守の答を聞くや否や、嶋津は2人に迫る。
古代(進)や真田に雪、更にはデスラーまでもが頷いて再び説得を始めた。
『スターシャ、生きてさえいれば、道は必ず拓ける。私はそう思う!!』
‥‥イスカンダル王族にどのような宿命があるのかはわからないが、サーシャには地球人の血も流れている。イスカンダルの宿命に囚われることはないはずだし、母たるスターシャも、王として背負ってきた荷を下ろしても、誰も責めはしない。
『‥‥‥‥』
スターシャの表情に苦悩が現れる。
(彼女の弱味につけ込むようで心苦しいが、今はそんな道徳論を述べている状態じゃない)
友好国人としての倫理や道徳もさりながら、盗掘者が諦めたとも思えない以上、守とスターシャ、それにサーシャの名を継いだ赤児を何としても助けなければいけないのだ。
――『ヤマト』医務室――
第1艦橋の様子は医務室でもモニターされていた。
(これって‥‥)
フェイト達は、これ以上見るのはまずいと思い、席を外そうとした。
しかし、
『君にもこの世界の事を知っておいてほしい』
と真田に諭されたため、引き続きモニターを見ていたが、総統デスラー以下のガミラス人やスターシャと古代 守、さらには2人の間にサーシャという娘まで生まれたらしい事実を目の当たりにし、言葉が出ない。
(どう整理したらいいんだろう‥‥)
管理世界の住民は、人種的には地球人と殆ど変わらないが、ガミラス人のような青い肌を持つ人間は初めて見た。
しかも、ガミラスとこの世界の地球はつい先日まで9年以上戦争していた間柄で、画面に映るデスラーが最高指導者だ。
年齢は30歳台くらいだが、背後に居並ぶ高級軍人が一糸たりとも乱れず直立不動でいるあたり、かなりのカリスマ性を持ち合わせているのだろう。
しかし、つい先日まで彼らガミラスは地球と敵対し、今も正式に和解したわけではないというが、一方のリーダーたるデスラーが地球防衛軍の一士官と対等に話し、ここにいる誰もがそれを当たり前のように受け止めていることは、フェイトにとって衝撃的だった。
(互いに同胞の命運を賭けて戦った間柄だというけど‥‥)
自分も高町なのはやヴォルケンリッター達と何度もぶつかり合った末にようやく理解し合えるようになったが、目の前にいる彼らが抱える事情は遥かに壮絶で凄惨なものだ。
しかし‥‥。
(お互いに言いたい事は無数にあるはずなのに、それをひとまずうっちゃっても、この人を助けたいのか‥‥)
フェイトはモニターに映る金髪の美しい女性――スターシャ・イスカンダル――を見た。
(確かに、この人は紛れもなく国を、そして星を統べる王なんだ)
画面越しでもわかる。デスラーともまた違う意味で存在感がある人物だ。
ただ、わからない事もある。
スターシャは地球連邦にとっては大恩人であり、ガトランティスとの戦争後に残った貴重な戦力をさいてでも救援に差し向けるのは理解できる。
しかし、何故ガミラスが、新国家建設という大事業を中断し、犠牲を払ってまでイスカンダルを、スターシャを救おうとするのか?
ガミラスとイスカンダルが大昔から隣国同士だったという事情はあるにしても、今のガミラスでは、新たな母星を見つける事が何にも増して優先されているはずだ。
それなのに――。
(ガミラス人のメンタリティ、あるいはイスカンダルへのノスタルジーなんだろうか?)
考え込むフェイトの傍らで、シャリオとティアナ、まだ臥せっているスターレットも、真剣な顔つきで画面とフェイトの表情を見比べていたが、唐突に画面が乱れ、皆の姿が消えた――。
『パナマ文書』に名前が乗った“避税者(?)”の皆様方の弁解と舛○知事の弁解が同じように響くこの頃。