宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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追いかけて赤色巨星

   ――『テシオ』――

 

(まずいな‥‥)

 

艦長・嶋津冴子は懸念を隠しきれずにいた。

 

TF13とガミラス艦隊はイスカンダルを追尾し続けているのだが、その速度は亜光速に達し、なおかつ予想進路沿いには直径が太陽の700倍になる赤色巨星が存在し、もうかなり接近している。

 

(イスカンダルが重力に捕まったら最悪だ)

 

艦船はともかく、イスカンダル星はそのまま引きずり込まれてしまうし、その前に地表が焦土になってしまう。

通信を繋ごうにも、赤色巨星からのフレアノイズが酷く、まだ繋がらない。

 

「10時50分の方角、上下角11から小惑星1、イスカンダルに接近!2分後に最接近しますが、衝突の可能性も30~40%あります」

「破砕する。全艦主砲発射用意!」

 

嶋津は直ちに破砕を決断する。

 

‥‥程なく『オシマ』を除く各艦の主砲が火を噴き、小惑星は破砕された。

 

 

 

 

  ――『ヤマト』医務室――

 

“コーン”という音が響く。

 

はっとして辺りを見回すフェイトに佐渡が話す

 

「極小惑星が艦腹に当たったんじゃよ。寿命が尽きかかけた恒星系じゃよくあることさ」

 

先ほどからモニターに映っているのは赤色巨星の表面。

 

赤色巨星自体は、次元航行艦に乗っている時に何度か見たが、これほどの近くで見たことはない。

 

次元航行艦で恒星に接近するような任務はないし、艦体が保たない。

 

しかし、こちらの世界の艦船は何の影響もなく、小惑星の砲撃破砕までやってのけた。

 

さっきの戦闘にしても、ビームの応酬や、ガミラスにも波動砲と同じ原理の超高エネルギー兵器が存在したりと、フェイトは血の気が引く思いだった。

 

まさに質量兵器の見本市みたいな状況で、魔法至上主義の管理局員が見たら腰を抜かすか怒り出すだろう。

かといっても、この世界で今の管理局が介入したところで、無視されるか皆殺しに遭うだけだ。

 

(それにしても、ついこの間まで敵対していた国の元首とも普通に会話してしまうとは‥‥)

 

佐渡の話では、地球はガミラスとの戦争で人口と生物の大半を失い、ガミラスも本星に大打撃を蒙ったという。

休戦したとはいえ、互いの怨み辛みは薄れていないはずで、刺々しいやりとりがあってもおかしくはなかった。

 

(先の事を考えれば、過ぎた事で相手の非を鳴らす暇はないということかな‥‥?)

 

今はイスカンダル救援という共通の目的があり、その先も国土・国家の再建が最優先だからと割りきったのだろうか。

 

(もっとも、私達の世界もあまり変わりない、か‥‥)

 

地球とガミラスの関係を管理局と反管理局勢力や魔導師と非魔導師、あるいは高ランク魔導師と一般ランク魔導師に置き換えれば、内情はさして変わらない。

 

JS事件で構造的な問題が明らかになり、改革の動きが出ているものの、管理局に身を置く立場からみるとまだまだ小手先の改革でしかない。

 

管理局が発足して約80年経つが、根源的な問題は手付かずに等しい。

 

 

 

 

   ――『ヤマト』――

 

「『テシオ』から緊急連絡!10時50分の方角、200宇宙キロに直径約300キロの準惑星1!イスカンダルへの衝突コースです!!」

 

『水無瀬』のタキオン探索データを受けた相原からの報告を受け、ブリッジに緊張が走る。

 

この大きさだと主砲では破砕できない。

古代は即断した。

 

「波動砲で粉砕しよう。相原、嶋津さんに波動砲の許可を申請してくれ」

 

許可はすぐ返ってきた。

 

「よし、波動砲発射用意!」

「波動砲戦モードに移行だ、急げ!」

 

すぐさま古代と真田が波動砲戦指示を出し、艦内の照明が落ちる。

 

「エネルギー充填開始!」

山崎機関長の指示の直後、主機関の回転が上がり始めた。

 

 

    ――同・医務室――

 

波動砲にエネルギーを優先充当するため、艦内電力は減らされ、照明は大幅減光又は保安灯のみとなる。

無論、医務室も医療関係機器以外はカットの対象だ。

ワープの時と同じく波動エンジンが全開で回転する音が医務室にも伝わってきていた。

艦内に古代の声が響く。

 

『これよりイスカンダルへの衝突コースにある準惑星を破砕する。波動砲発射30秒前、各員対ショック対閃光防御用意!』

(波動砲で惑星を砕く‥‥?)

 

そんなことができるのかと一瞬疑問が湧いたが、『ヤマト』の波動砲は、ガミラスの基地ごとオーストラリア大陸大の目標を破壊したと聞いたことを思い出した。

 

(そうまでしても、助けたい人がいるのか)

 

フェイトの思いをよそに、波動砲のファイナルカウントダウンが始まった。

 

 

 

 

 

     ――ガミラス艦隊旗艦『ドメル』――

 

「『ヤマト』波動砲、目標に命中、完全破壊を確認しました!」

「引き続き周辺監視を怠るな」

 

指示を出すタランに背を向けるように、デスラーは腕を組んで艦橋中央に立ち続けていたが、やにわに口を開いた。

 

「次に大きな障害物が来た時は私が撃つ。テロン艦隊に伝えろ」

「はっ!」

 

先刻から、小さな障害物は砲撃で破砕しているが、準惑星クラスの障害物は『ヤマト』の波動砲やデスラー砲でなければ破砕できない。

さっきは『ヤマト』が波動砲でイスカンダルに衝突しそうな準惑星を破砕した。

 

当然、今度は自分の番だ。

デスラーにすれば、スターシャを守るためにはあらゆる手段を惜しまないし、自ら手を下すことも辞さなかった。

 

「イスカンダルへの通信はまだ繋がらないか?」

「申し訳ありません。地球側も含めて未だ繋がりません‥‥」

 

幕僚が通信担当の士官に質すが、返答は変わらない。赤色巨星からのフレアが強く、なかなか繋がらないようだ。

 

「スターシャ‥‥」

 

デスラーの表情にも焦りが見え隠れする。

 

これだけ赤色巨星に近づいたのでは、マザータウンの外気温はかなり上がっているだろう。

 

正規の軍人だった古代 守は過酷な環境でも耐えられるだろうが、イスカンダルを出た事がないスターシャがどこまで耐えられるのだろうか?

イスカンダル人はガミラス人や地球人ほど頑健ではないのだ――。

 

そこに、看過できない情報がもたらされた。

 

「タラン将軍、後方に大きな何物かが追尾しています。我々の移民船団ではありません」

「何物なのか確定しろ!」

 

やりとりを耳にしたデスラーの眉がつり上がった。

 

(恐らくは盗掘者の総指揮官だろう)

 

どのみち、生かして帰すつもりはない。我が母なる星を荒らし、イスカンダルをこのような状態に追い込んだ代償は、奴らの命で支払わせる。

 

そして奴らの後ろにいる親玉も、必ず断罪する――。

 

「まもなく重力影響圏を抜けます!」

「イスカンダル、減速します!」

「フレアも弱まりつつあります!!」

 

どうやら危機を脱せそうだ。

デスラーの表情が微かに綻び、幕僚達にもほっとした空気が漂った。

 

そして――。

 

「イスカンダルとテロン隊の通信回線が繋がりました!こちらにも接続要請です」

「よし、繋げろ!」

 

タランが待ちきれないとばかりに命じた――。




オリジナルキャラ設定④

フランベルク・シルヴィア夏美

役職
護衛艦『ナデシコ』艦長→巡洋艦『アシタカ』艦長

階級
少佐→中佐

年齢
27歳

概要
ドイツ系2世で、女性ながら20年に1人と言われたほどの砲術の天才。
『ヤマト』砲雷長に内定していたが、直前の冥王星会戦で負傷したため辞退。

一卵性双生児で先天性の色素欠乏症ゆえ、病的なまでに白い肌だが、至って健康。
戦闘指揮、特に砲撃では異常なまでの冴えを見せるが、それ以外、特に私生活ではダメ人間で、双子の妹がいないと餓死しかねないと言われる。



フランベルク・アリア小百合

役職
護衛艦『ナデシコ』副長兼航海長→巡洋艦『アシタカ』副長兼航海長

階級
大尉→少佐

年齢
27歳

シルヴィア夏美とは双子(妹)
姉とは異なり、色素欠乏症ではない。
パイロット志望だったが、訓練中の事故で重傷を負ったため、航海科に転科した。

ガミラス戦末期は『ユキカゼ』の航海長だったが、地上での暴動に巻き込まれて負傷したため、最後の冥王星会戦に際しては乗艦できず、艦も未帰還になった事に負い目を抱いている。
姉がダメ人間ゆえかオカン気質。

共同イメージCV:桑島法子(森 雪〈ヤマト2199シリーズ〉、ミスマル・ユリカ〈機動戦艦ナデシコシリーズ〉等)

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