宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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その頃の太陽系とミッドチルダ。

黄金連休中の更新はこれが最後です。


待つ人々

      ――地球防衛軍・新横須賀基地――

 

地下港第1バース。そこは地球防衛艦隊総旗艦のみが使用を許されるが、久しぶりに本来の主を迎え、活気が戻っている。

 

本来の主――連合艦隊旗艦アンドロメダ――は、ガトランティス帝国軍との戦闘で受けた損傷に対する修復工事をひとまず終え、昨日、この第1バースに着岸した。

 

理想を言えば、戦訓を取り入れた改装工事を施工したいところだが、戦力の過半を失った艦隊の再建が優先されたため、再設計や新たな資材・工程を要する改装は必要最低限にされ、基本的には復旧を主とされた。

 

尤も『アンドロメダ』は、各部の制御を自動から手動に容易に転換できるようにする付加工事が施工されている。

 

『アンドロメダ』は運用成績・現場からの評価は共に良好だったが、ダメージリカバリー能力の低さが指摘された。

 

これは『ヤマト』以外の地球艦艇に共通したことで、人材の枯渇による大幅な自動化はやむを得ないにしても、ダメージコントロールがほぼ機能しなかったのに加え、新型艦で前線の要員がまだ習熟しておらず、『ドレッドノート』級戦艦等のマスプロ艦群の一部は戦線に復帰して敵首都星要塞攻防戦に参加したのに対し、『アンドロメダ』の修復は後回しにされ、敵首都要塞攻防戦に参加できなかった教訓によるものだ。

 

無論、ハードだけ改めたところで何の意味もない。

ソフトパワー――ハードを扱う人間のスキル――の向上が不可欠だ。

 

今後建造される艦船は一層の自動化がなされるし、無人化した自動戦艦・駆逐艦も次々と竣工している。

 

無人艦はいざ知らず、有人艦の乗組員には、今一度ダメージコントロールの何たるかを叩き込まねばならない。

 

『アンドロメダ』の司令官執務室で、部屋の主である土方 竜は再建策素案を練っていたが、そこに室外からの通信が入る。

 

「総司令、山南閣下をお連れしました」

「ん、通せ」

 

思案を中断した土方は、来客を迎えるべく立ち上がった。

 

「――(第7艦隊司令官の)内示は聞いたな?」

「ええ。しかし、寄せ集めもここに極まれりですね」

 

先輩――土方――の問いに、後輩――山南――は肩を竦めて苦笑する。

 

「無人艦を含む新造艦に敵からの鹵獲艦、乗組員はヒヨコが主体。こいつらを早期にいっちょ前にしなければならん‥‥こんな時に新艦隊とはな」

「‥‥ご愁傷様です」

「ふん」

 

憮然とした表情のまま、土方は山南にファイルを手渡した。

 

「――これは?」

「お前んとこの旗艦だ。来年8月に竣工する」

 

ファイルを開いた山南は、驚愕と呆れが入り混じっになった。

 

「『超アンドロメダ級試験戦艦・マルス(仮)』‥‥何です?この胡散臭い艦は」

「アンドロメダ級の建造は『ネメシス』(3番艦)で一旦凍結されるが、仕込み済みの資材が多いのでな。廃棄もできないし、いつまでも倉庫に置いてもおけん。‥‥有効活用を兼ねて1隻に仕立て直すというわけさ」

「‥‥しかし、いつ基本設計が?イレギュラーにしてはあまりに手際が良過ぎます」

 

カタログデータを見る限り、この『マルス』は人類史上最大最強の戦闘艦だ。設計には相応の時間を要するはず。

かなり以前からまとまっていたとしか考えられない。

 

「素案は大山だが、真田も2・3枚噛んでいたらしい‥‥あのメカヲタ共め」

 

ぼやく先輩に山南は苦笑した。

 

「真田に大山、古代守に嶋津‥‥悪たれ揃いでしたが、生き延びた連中はよくやっているじゃないですか」

「人の気も知らんで‥‥素っ頓狂な事ばかりやらかすあいつらにさんざ手を焼かされたのは俺だぞ、山南」

「くくっ‥‥そうでしたね(よく言うよ、土方さんは)」

 

若い時分から土方と沖田を見てきた山南にとってはツッコミどころ満載なのだが、それは口に出さなかった。

 

(ま、あの悪たれどもも元気良すぎる部下や教え子に手を焼くんだろうがな‥‥)

 

 

山南も教育畑の経験があり、つい先日まで日本地区の宇宙戦士訓練学校校長職にあったが、それより約10年前は教官として勤務し、古代 守らの1期下の訓練生を受け持っていた関係で、古代・真田・嶋津・大山らと、彼らを厳しく鍛えていた土方を間近で見ていた。

無論、彼らが引き起こした数多の騒動やすったもんだも。

 

そんな悪たれどもも、生き残りは今や第一線の要所につき、中堅どころかベテラン扱いだ。

 

そして、その中の幾人かが、崩壊の危機に瀕したイスカンダルの古代守とスターシャを助けに赴いている。

 

「そういえば、嶋津達はもうイスカンダルに追いつきましたかね‥‥?」

「さあ、な――」

 

天井を見た土方は確信していた。

 

『あの面子が揃って、面倒事が起きない事などあり得ない』

 

と。

 

――冥王星軌道外側で哨戒にあたっていた哨戒巡洋艦『アヤセ(綾瀬)』から緊急電が入ったのは、それから30分後のことだ――。

 

 

 

 

 ――ミッドチルダ北部・ベルカ自治領――

 

古城の趣を持つ次元世界有数の宗教・聖王教の総本山である聖王教会総本部の一室で、カリム・グラシアは時空管理局の記者発表を注視していた。

 

カリムの傍らには先任秘書兼護衛のシャッハ・ヌエラがおり、彼女の執務席前にある応接スペースには時空管理局査察官・ヴェロッサ・アコースと、時空管理局特別捜査官を務める八神はやてが座り、同様に記者発表を見ていた。

 

――次元航行艦『タイタンⅣ』襲撃遭難事件がもたらしたインパクトはは、前年のJS事件の比ではなかった。

 

ガトランティス帝国という未知の軍事国家の軍艦にタイタンⅣが襲われ、多数の犠牲者が出たこと、乗組員の中に管理局の若きエース、フェイト・T・ハラオウンの名があったこと、そのフェイトと2人の補佐官が、ガトランティスとは異なる未知の国家の軍艦に救助されたらしい事はミッドチルダの住民にも衝撃的だった。

 

そして、以前の『ワクラ』崩壊や次元航行艦遭難事件もガトランティスの犯行と断定した管理局は、ガトランティス帝国を特1種犯罪勢力に認定し、首謀者の逮捕に乗り出すと発表したのだが――。

 

「――地球防衛軍の主張どおりなら、ガトランティスの首都は崩壊し、元首も死んでしまったんだよね?」

「ええ。その事も含めて、地球防衛軍サイドと直接お話できればいいんだけど」

 

救助した艦の内部で撮影された映像も回収されたため、ひとまずは胸を撫で下ろしたものの、救助したのは地球防衛軍の『ヤマト』という宇宙戦艦で、しかも任務中ということで、まだ直接連絡はとれていない。

 

「‥‥っちゅうか、相手はテロ組織やなくて国家かも知らん。戦争になりかねんで」

 

はやても懸念を口にした。

 

装備の差もあろうが、ガトランティスという軍事帝国相手に、今の管理局が真っ向から立ち向かえるのか?‥‥悲観的にならざるを得ない。

 

躊躇なく立ち向かえるのは、別棟で定期健康診断を受けている守護騎士ら、数えるくらいの者だろう。

 

かと言って、このまま手をこまねいていては管理局への不信は一層強くなる。

 

「しかし、助けてくれたのが、私らの故郷とは違う、恐らくはかなり未来の時代の地球だとはなぁ‥‥」

 

『宇宙戦艦』という代物は、はやてにとってはアニメでの話だ。

 

「それに、部隊長さんの名前は日本人女性や。どんな人なんやろ‥‥」

 

クロノから持ち帰った資料の中に、『第13戦隊司令官代行・巡洋艦テシオ艦長 嶋津冴子』という、地球防衛軍側の指揮官らしき人名もあり、女性が最前線の戦闘指揮をとっているという事実にもはやては驚かされた。

 

リンディ・ハラオウンや自分のように、管理局にはは女性の部隊長や艦長も少なからずいるが、自分の故郷の地球では、ようやく自衛隊の護衛艦に初の女性艦長が就任したくらいだ。

 

(一体、どんな経緯を辿って、地球連邦という統一政府やあんな艦を持つに至ったのか‥‥。いずれにせよ、向こうの人達と直に話さん事には道は開かんか)

 

地球防衛軍の艦はガトランティス艦を撃破あるいは撃退するだけの力がある。

さらに、彼らの世界では、地球連邦という惑星統合政府が樹立されている。

どのような歴史を辿ってきたのかを知らねばなるまい。

世界は違えど、同じ地球人として――。

 

 

「はやて、終わったよ」

 

ヴィータの声が聞こえるとともに、はやての守護騎士4人と融合騎2人が入って来る。

 

融合騎の1人は、はやてにとって思い出深い名前を継いだ2代目だが、もう1人はJS事件の当事者だったアギトで、犯行には消極的だったのと、1人も殺害しなかった事に加え、事件の終盤には機動六課に協力してガジェットを破壊し、市街地への攻撃を食い止めた事等が評価されて、はやての保護の元で管理局入りし、相性の関係でシグナムとペアで行動している。

 

「どうやった?」

「全員問題なし。オールグリーンよ」

 

笑顔でシャマルが答えた。

 

正確には、シャマル達は、騎士としての能力は維持しているが、転生機能を失ったことで、身体の代謝機能は年を追うごとに僅かずつだが落ちている。

 

尤も、当人達はそれを本望と受け止めこそすれ、苦にはしていないのだが――。

 

「んじゃ、書類の山との闘いに戻ろか♪」

 

――八神はやてには『本局海上警備部』への異動内示が出ており、警備司令への就任と、小型ながら新造の次元航行艦『ヴォルフラム』を任されることになっている。

そのための引き継ぎ作業が待っているのだった――。

 

 

 

 

   ――太陽系外縁――

 

冥王星軌道のさらに外側、地球防衛軍が『リベンジポイント』と呼称する宙域がある。

 

ここは2年前、イスカンダルに向かう『ヤマト』とガミラス軍冥王星駐留艦隊が短くも激しい戦闘を繰り広げ、ガミラス艦隊が全滅した宙域だ。

地球防衛軍が戦術・戦略両面でガミラスに完全勝利した最初の戦闘だったことを記念して名付けられたのだが、地球防衛艦隊の再建に伴い、艦艇や自動惑星(人工衛星)による哨戒活動が行われていた。

 

そして、現在この宙域哨戒を担当しているのが哨戒巡洋艦『アヤセ』で、今は小惑星の一つに係留しながら監視にあたっていた。

 

「定時連絡終わりました」

「了解♪」

「ありがとう、通信長」

 

それぞれ、通信長・副長・艦長の声だが、男性の声は副長だけだ。

 

「TF13が出発してはや4週間ですか‥‥」

「イスカンダルが元の位置にあるのなら、もう到着しているんでしょうけど、何分暴走しちゃってるからね。大マゼラン銀河ならガミラスのお膝元なんだろうけど‥‥」

 

ブリッジクルーの中でもずば抜けた長身の副長・幸浦 俊哉少佐と、対照的に最も小柄な艦長・若命 未散(わかめ みちる)中佐が言葉を交わす。

 

「今さらながら、お偉いさんはよくイスカンダル再遠征を認めましたね」

「イスカンダル救援はまだしも、ガミラスとの共闘には反対意見が強かったけど、藤堂長官と土方司令が抑え込んだみたいね。

‥‥まあ、イスカンダルを心配している点ではガミラス側も同じだし、政治レベルでも計算があるんじゃないかしら?」

「と仰ると?」

「軌道を外れた以上、イスカンダルはいずれ住めなくなってしまう。スターシャ陛下を地球に迎えれば、少なくともデスラー治世下のガミラスは地球に再び戦争を挑んでくることはないし、軍は古代 守さんという得難い人材を取り戻せる。‥‥それに、お2人の間にお子さんが生まれていれば、その子はイスカンダル王家の継承者になるでしょう?」

「‥‥ガミラスはイスカンダルを占領しようと思えばいつでもできたでしょうに、最後まで手を出さなかったわけですからね」

 

連邦大統領はスターシャを亡命者ではなく、終身国賓として歓迎すると表明しており、市民の反応も良い。

イスカンダルへの遠征部隊の中に『ヤマト』が含まれていることにも反対意見は少なかったが、ガミラスと共闘する事には反対意見が強かった。

 

とはいえ、大マゼラン雲内の詳細な情報を持っているのはガミラスであり、イスカンダル星自体がいつ崩壊するかわからない以上、ガミラスとの協力は欠かせない。

また、デスラーからの緊急電は地球防衛軍司令長官と『ヤマト』乗組員宛になっており、『ヤマト』の派遣は欠かせないものだった。

 

「ガミラスとの共闘は必要不可欠とわかってはいても、つい最近まで全面戦争していたし、全市民があの戦争で大切なものを何がしか奪われたからね。感情面で納得しない人は大勢いるでしょうからね‥‥」

「とはいえ、ガミラスも本星をダメにされたからね。願わくば、今回の一件で地球とガミラスが歩み寄り合う第1歩になればいいんだけど」

 

そう言いつつ、若命は左手を見る。

 

彼女は2年前、天王星軌道での艦隊戦で肘から下の左腕を失い、両親と兄妹もガミラス戦役で失ったが、悲劇の中でもかけがえのない者を得た。

あの戦争中に今の夫と知り合って結ばれ、昨年男児を授かった。

白色彗星帝国軍相手に苦闘しながらも乗組員共々生還したのは、皆で家族の元に帰るという一念だった。

 

そして、多忙だが実りある日々が戻ってきたと思った矢先のイスカンダル危機。

 

(また戦争に巻き込まれてしまうのかしら‥‥)

 

思わず溜め息をついた時、観測士が緊迫した声を上げる。

 

「ソナーブイ13号が艦船らしきエネルギー反応を感知!ガミラスでもガトランティスでもありません!」

「!?」

 

若命、幸浦はもとより、ブリッジクルー全員の顔に緊張が走る。

 

「係留解除!総員警戒配置について!!」

「司令部に打電!この近くに友軍艦はいるか!?」

「訓練中の巡洋艦『ザラ』『ボルツァーノ』がいます!」

「よし、そちらにも伝えるんだ!」

 

『アヤセ』は係留を解き、エッジワース・カイパーベルトに舳先を向けた――。




オリジナルキャラ並びに原作キャラ独自設定3

今回は哨戒巡洋艦『クズリュウ』の2人です。


ナーシャ・イリーナスカヤ・カルチェンコ

役職
哨戒巡洋艦『テシオ』副長 兼 航海長→同『クズリュウ(九頭竜)』艦長

階級
地球防衛宇宙軍少佐→中佐

年齢
28歳

概要
父親が駐日ロシア大使館付陸軍武官、母親も日本に留学した経験があり、幼少~少女期を日本で過ごしたため、日本の事情にもかなり通じている。
元の所属はロシア極東軍管区だったが、遊星爆弾で壊滅したため、日本管区に横滑りした。

父親譲りのサンボ、システマの使い手であり、かつ飲んべ。
ウォツカより日本の酒、特に泡盛と濁り酒が好物。
嶋津冴子とは呑み友達でもあるが、何軒かの店からは出禁。
ミドルネームはポーランド出身の祖母の名。

イメージCV:雪乃五月(志村 妙〈銀魂〉、千鳥かなめ〈フルメタル・パニック!〉)


篠田 巌(しのだ いわお)

役職
哨戒巡洋艦『テシオ』砲雷長→同『クズリュウ』副長 兼 砲雷長

階級
地球防衛宇宙軍大尉→少佐

年齢
39歳

概要
実家は20世紀から続く、所謂任侠団体。
陸上自衛隊戦車の砲手だったが、ガミラス戦時に国連宇宙軍に転じ、砲術で頭角を表した。

20世紀後半に任侠映画で名を馳せた俳優Tを彷彿とさせる厳つい風貌だが、元々は子供向け童話作家志望で、軍務の合間に原稿を書き貯めている。

イメージCV:大塚 明夫 (スティーブン・セガール等)

次回は『アシタカ』の双子と鬼竜こと土方司令です。

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