――『ヤマト』ゲストルーム――
先ほどまで断続的に伝わってきた衝撃が止み、サイドスラスターを噴かす音がする。
「砲声が止んだ‥‥」
「終わったんでしょうか‥‥?」
フェイト・シャリオ・ティアナが顔を見合わせたその時、ドアが開く。
「皆サン、大丈夫デスカ?」
入ってきたのはアナライザーだ。手に持ったトレイにはボックスランチと飲み物のボトルが載っている。
「少シ早イデスガ、ランチデス」
「あ、ありがとうございます‥‥」
ティアナがトレイを受け取った。
「コノ先モ何ガ有ルカワカリマセン。食ベラレル時二食べテオイテ下サイ」
「‥‥アナライザー、戦闘はどうなったの?」
フェイトが訊ねる。
まあ、自分たちがこうしているのだから、最悪の事態ではないのだろうが。
「戦闘ハヒトマズ終ワリデス。攻撃ヲ仕掛ケテキタ艦隊ノ半分ヲ沈メマシタ。
‥‥戦闘ハ避ケタカッタノデスガ、残念デス」
「そうですか‥‥」
アナライザーの“戦況報告”に一同が視線を落とした。
「‥‥そうなんだ。この後はイスカンダルを追うの?」
「ソノ予定デスガ、敵勢力モイスカンダル二向カッテイルカモ知レマセン。
コノ先モ何ガ起キルカワカリマセン。皆サン、食ベラレル時二食べテオイテ下サイ」
「うん、わかった」
「「わかりました」」
アナライザーが言わんとした事は、彼女たちも身をもって知っていた。
ゆえにすぐ食べ始める。
「いただきます(×3)」
――『テシオ』――
嶋津の元に先程の戦闘の結果が入りつつあった。
敵艦隊は旗艦らしき大型艦を含む21隻を撃沈判定、26隻を撃破判定。
コルサック艦隊の被害はわからないが、通信を傍受した限りでは僅かなようだ。
一方、TF13の損害は『ヤマト』『テシオ』『チョウカイ』『アシタカ』が損傷軽微、『クズリュウ』『オシマ』は損傷ゼロ判定。
戦死者はなく、軽傷者が数名出た程度だ。
取り敢えず、戦死者なしでの戦果としては上々と判断していいが、敵艦隊の“身元”は判明しないままだ。
但し、彼らがガミラス星のマグマ(?)を盗掘していた勢力である可能性は高く、イスカンダル星のマグマも盗掘しようとした疑いも濃い。
「イスカンダルやガミラス本隊との通信は取れそうか?」
「ジャミングがかかっています。‥‥『ヤマト』『クズリュウ』及びシュルツ艦隊からも同様の報告が入っています」
(向こう(アンノウン)が一歩早かったかな‥‥?)
イスカンダルやデスラー艦隊からの通信が受信できないばかりか、明らかなジャミングがある。
ガミラスやイスカンダルの通信技術は地球より進んでいる。
コルサック艦隊もデスラーとの通信が回復していないままというのはただならぬ事だ。
(敵が何者か知らんが、かなり高い通信技術を持っているようだ。こちらの位置も知られていると見るべきだろうな‥‥)
嶋津の懸念は『テシオ』のみならず、各艦のブリッジクルー共通の認識となっていた。
――『プレアデス』艦橋――
「デーダー司令、ガロウズ提督が戦死されました」
「!‥‥それは確かか!?」
「間違いありません。旗艦は地球艦との砲撃戦で撃破された由!
他の艦も、地球とガミラス艦隊によって半数が撃破され、残る半数は採掘船団とともに戦闘宙域を離脱しました」
「‥‥そうか」
ガロウズを含めて被害は少なくなかったが、イスカンダリウム採掘船団に被害がなかったのは何よりだ。
ガロウズは斃れたものの、任務は果たしたのだ。
「採掘船団は別命あるまで待機させよ。我が艦隊はデスラーの本隊を叩く!全艦戦闘配備、攻撃機隊発進せよ!!」
我々の任務はイスカンダリウムの採掘だ。
それを妨げる者は何者であれ排除するのみ――。
――イスカンダル星・低軌道――
「敵艦隊接近!」
「艦載機の発進を確認しました!」
旗艦たる大型戦闘空母『ドメル』の艦橋中央に立つデスラーは、幕僚の報告にすぐ反応した。
亡き名将の名を冠した戦闘空母は、既に配属されている戦闘空母より二回り大型で、攻防力も大幅に引き上げられたため、単艦で『ヤマト』と真っ向から渡り合えると開発チームは断言した。
復仇に燃えていたデスラーの命により工廠艦で建造されたのだが、皮肉な事に、就役した時にはデスラーの復仇心は昇華されており、彼の新たなる座乗艦=大ガミラス帝国総旗艦が最初の任務だった。
そして主たるデスラーは矢継ぎ早に命令を下す。
「こちらも艦載機を出すのだ。護衛の中・小型艦を叩け!」
敵の針路上にはデスラー機雷を敷設してある。
中小型艦にはかなりの脅威になるはずだ。
「『ヤマト』に通信は繋がらないか?」
「応答はありません。敵が広範囲に強力なジャミングを仕掛けてきています」
「‥‥私の通信はテロンに届いたはずだ。『ヤマト』は必ず来る」
デスラーは、好敵手が地球を発っている事を何ら疑ってはいなかった。
あとは時期の問題だ。
――まさか、予想外の事態で足止めされていた事までは想像してはいなかったが。
もう一つは敵艦隊――盗掘者の片割れども――だ。
数ではこちらがやや上回るが、戦力水準はまだわからない。
ガミラス星の戦闘では、護衛艦の戦闘力は大した事はなかったが、それは完全な奇襲になったからと見るべきだ。
今こちらに向かっている艦隊には大型艦も相当数含まれている。
万全の態勢で来れば、こちらも無傷とはいかないし、ガミラス星から脱出した国民達を乗せている移住船団を丸裸にするわけにもいかない。
しかし――
デスラーは顔を上げて、スクリーンに映る敵艦隊を睨み据えた。
ガミラス星を消滅させ、イスカンダル星を漂流させた元凶をそのままにしておく事などできない。
あの艦隊を叩くのは当然だが、奴らの後ろ楯になっている国家/勢力には血の代償を支払わせる。
無論、奴らに拒否権など存在しない――。