――『チョウカイ』――
「アンノウン、二手に分かれて向かってきます。こちらへは巡洋艦クラス2、駆逐艦クラス10!」
観測士の声に、副長兼航海長の綾歌麗奈が口を開く。
「‥‥こちらを足止めして、背後の船団を退避させる腹積もりのようですね」
「だろうな。しかし我々の最優先はイスカンダル救援であって、彼らと戦う事じゃない」
TF13の次席指揮官を兼ねる、艦長の塩江龍一は静かに返す。
――塩江はガトランティス戦役当時副長兼砲雷長だったが、『チョウカイ』が在籍していたヒペリオン艦隊が土星圏決戦の中盤で潰滅。『チョウカイ』も艦橋付近の被弾で艦長が戦死したため、塩江が代わって指揮をとり、応急修理を受けて無理矢理都市要塞攻防戦に参加。
その間の冷静沈着な指揮が評価され、戦後の人事異動でそのまま艦長に昇格し、同時にTF13の次席艦長になった。
『チョウカイ』の乗組員の過半はガトランティス戦を生き延びた者なので、塩江は部下の技量に不安は持っていなかった。
敢えて問題を挙げれば――。
(――古代弟とフランベルク姉が変にのらなきゃいいが‥‥)
彼の懸念事はまさにそれだった。
――『クズリュウ』――
「伊歩、進路そのまま。戦術長、砲雷撃戦の準備できてるわね?」
「はい、艦長!」
「いつでも撃てますよ」
艦長のナーシャ・カルチェンコの指示と確認に、航海士の月読 伊歩(つきよみ いぶ)と戦術長の篠田 巌が応えた。
頷いたナーシャは立ち上がり、艦内一斉放送で訓示する。
「艦長より総員に。所属不明の船団はガミラス星崩壊の当事者の可能性大で、かつこのまま戦闘になる可能性大です。
先日のガトランティス残党とは違う相手ですが、決して恐れる必要はありません。
本艦は『ヤマト』に比べれば軽装甲でパンチ力も小さいですが、それを十分補えるスピードと手数があります。
新人の皆、訓練で教えられた事を忘れず事にあたりなさい。大丈夫、本艦は必ず生き残ります!」
艦のあちこちで、おう!という喚声が響く。
席につき直したナーシャは不敵な表情を崩さずにいたが、内心は些か異なっていた。
(イスカンダルに追い付くまでは戦闘はしたくなかったんだけど‥‥)
ガトランティス軍については否応なしにデータを得られたが、今回の相手がどのくらいの戦闘力を持っているかは全く予想がつかない。
明らかにわかるのは艦形の違いだ。
採掘船らしき艦船はともかく、戦闘艦は円盤形の主艦体と塔状の艦橋構造物。そして砲身付きの砲塔(バレル)を持っている。
(どのくらいの砲戦能力があるのかしらね)
ガミラス帝国軍や白色彗星帝国軍艦艇の主兵装だったフェザー砲に対し、地球防衛軍のショックカノン(陽電子衝撃砲)は射程と破壊力でかなり優位に立っていたが、あの円盤形艦艇に対してはどうだろうか?
回答は間もなく出る。
――『アシタカ』――
「アンノウン、引き続きこちらとガミラス艦隊に向かって来ます」
「了解。先頭艦への照準、はずさないでね」
観測士からの報告に、艦長席のフランベルク・シルヴィア夏美は口元を上向き三日月形に歪めた。
「‥‥艦長、あくまで念のためですからね」
どこか嬉しそうな様子の艦長を、操舵席の女性士官が冷静な口調で窘める。
その士官は、肌と瞳の色が少し異なる以外は艦長と瓜二つの顔立ちをしていた。
「もちろんわかってるよ、小百合♪」
「‥‥‥‥(疑)」
「あー、信用してないーっ!」
「因果応報です」
2人の緊張感のないやり取りに、ブリッジクルーは顔を見合わせて苦笑する。
艦長に小百合と呼ばれた士官はフランベルク・アリア小百合。
シルヴィア夏美の双子の妹で、副長兼任の航海長だ。
2人は帰化したドイツ人の父と日本人の母の間に生まれたが、夏美は先天性アルビノで、肌は白く、瞳も赤い。
砲術に長け、2199年の第3次メ号作戦では旗艦『キリシマ』の第1砲塔長を務めたが、戦闘中に左腕に重傷(帰還後切断し義手に交換)を負わなければ『ヤマト』砲雷長に任じられていたと噂されたほどだが、トリガーハッピーと言われるほどの砲撃魔なのが玉に傷だ。
一方のアリア小百合はアクロバティックな操舵で知られ、沖田十三に
『戦艦なんて鈍重な船は嫌です』
と言って苦笑された逸話の持ち主だが、天才的だがとかく不安視される砲撃魔の姉に対するストッパー役を期待され、夏美が護衛艦『ナデシコ』艦長を拝命した時からお目付け役となっている。
今では、実質的な艦務はほとんど小百合が仕切っている状態だ。
――輸送艦『オシマ』――
「アンノウンとの接触まで、あと4分」
「主砲と波動防壁展開用意、できてるかしら?」
「できています」
「よろしい」
艦長の真山信吾はクルーの報告を受け、満足げに頷く。
高速輸送艦ラファイエット級は、自衛のため、巡洋艦と同じ8インチショックカノンを連装2基4門等の武装を施し、波動防壁出力は戦艦に匹敵する。
乗組員も大半は予備軍人――商船からの転身組や商船学校・大学卒業者――で、正規の軍人の中には商船出身者に対する歪な優越意識を持つ者もいたが、彼らは実績によって陰口をねじ伏せてきた。
ガトランティス戦役終盤、残存した地球艦艇への修理部資材、弾薬、医薬品等の補給に、就役間もない『オシマ』『ラファイエット』をはじめとする輸送艦や軍徴用商船は少なからぬ犠牲を出しながらも活躍。
戦後、連邦大統領も彼ら商船乗りに賛辞を惜しまなかった。
「ガミラス艦隊とTF13、あと2分でアンノウンと接触します!」
(はてさて。鬼が出るか蛇が出るか‥‥)
間もなく答は出る。
①熊本地震にマスコミの目が向いたのを幸いに、悪だくみする輩もいるでしょうね。
②♂プレイ、垂直発着モードでどれだけ積めるのだろうか?