――『ヤマト』――
『我が隊はこれより正体不明の艦隊を追い抜く。総員戦闘配置につけ!繰り返す‥‥!』
総員配備を下令する古代の声とともにアラームが鳴り響き渡る。
「‥‥‥‥」
フェイト・T・ハラオウンは2人の補佐官や入院中のスターレット・タランティノと共に医務室で緊急一斉放送を聞いた。
戦闘配備になったら、自室か医務室にいるよう彼女達は指示されていた。
「嬢ちゃん達、本当に大丈夫なんじゃな?」
「「はい!」」
「‥‥はい」
佐渡はフェイト達に念押しした。
フェイト達を保護した時、嶋津冴子や古代 進らは、彼女達、特に年少のスターレットにこれ以上精神的外傷を負わせるのを懸念して、戦闘時は低温睡眠カプセルに収容することを検討していたのだが、当のスターレットが大丈夫だと言って固辞した。
「ホントに大丈夫?スターレット」
フェイトはスターレット・タランティノに声をかける。
彼はつい1週間前に九死に一生を得たばかりで、精神的外傷が心配されていた。
だが、
「‥‥僕は大丈夫です」
スターレットはフェイトの目を見て言い切り、様子を見ていた佐渡もそれ以上は言わなかった。
「‥‥わかった。じゃが無理はするでないぞ。いいな?」
「「はい!」」
佐渡はフェイトにある物を握らせた。
「‥‥先生、これは?」
「人数分の即効性安定剤入り無針注射器じゃ。感情が不安定になったら腕でも首筋でもいいから密着させてボタンを押すんじゃ」
(え‥‥?)
“無針注射器”の一言にフェイトは内心で驚嘆した。
(‥‥無針注射器なんて、管理世界の医療メーカーでも、やっと動物での試験が始まったばかりなのに‥‥)
そこでフェイトはハッとした。
ということは、今スターレットに使われている点滴装置も無針化されているか、極めて細く痛みがない針を使っているということだ。
思わずフェイトは件の注射器を見る。
(TSUKIMURA‥‥月村!?)
フェイトの脳裏に、もう一つの故郷とも言うべき地にいる親友の顔がよぎった。
――『テシオ』艦橋――
「例の船団が、こちらの所属を問い質してきています」
通信長のパクが所属不明船団からの入電を告げる。
「あちらさんは自分達の身元を明かしているか?」
「いえ。こちらの所属と目的を一方的に尋ね、回答なくば攻撃する、と言ってきています」
あくまで自分達の事は名乗らぬつもりか。
こっちの事を知っているのか?
――いや、それはどうでも良い。
「本艦の艦名だけ名乗り、『知りたくば、まず貴隊から所属と目的を告げろ』と回答してやれ」
「了解、返電します!」
相手のペースに乗せられてはならない。最初が肝心だ。
果たせるかな。
「例の船団より再度返電!『貴艦らは我が隊の任務を妨げてはならない。速やかに立ち去れ』です!」
「‥‥ほう?」
嶋津の呟きに不穏な響きが混じる。
何とまあ、高飛車な連中だ。
「あちらさんの動きはどうだ?」
「護衛艦の半数が分離してこちらに向かって来ます。巡洋艦クラス2、駆逐艦クラス6!速力25宇宙ノット、距離150宇宙㌔!」
「穏便に済ませる気はないのか‥‥」
護衛艦の動きを報告する三沢の言葉を受け、砲雷長の松島がぼやいた。
「全艦針路そのまま、右舷砲戦スタンバイ。『オシマ』は『ヤマト』の後方へ。
それと通信長、あちらさんに回答だ。
『我々は任務により目の前の星に向かう。戦闘の意思はないが、攻撃されれば応戦する』
とな」
「はっ!」
ま、十中八九、素直に答えてはくれないだろう。
艦橋に漂う空気は一段と張り詰めていった――。