宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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2199の設定混じりです。


回顧

「‥‥ザルツの内乱に、何故ガミラスが介入を?」

 

コルサックの独白に嶋津は一瞬絶句したものの、気を取り直して訊き返した。

それに対しコルサックは

 

『ガミラス人とザルツ人は元々祖先が同じだという。肌の色が違うのは各々の星の環境ゆえだ。

‥‥ガミラスは早くから軍事強国だった。一方ザルツはそこまでの軍事力はなく、何度か外宇宙からの侵略を受けており、ガミラスの援軍なしでは立ち行かなかったのだ』

 

コルサックは傍らにあったボトルの飲料を一息で飲み干すと話を続けた。

 

『ザルツの内戦と同じ頃、ガミラスにも内紛があった。

老いて病に倒れたアネルト・デスラー大公が摂政に指名した甥のアベルト公と大半の貴族との間でな。

‥‥そちらの詳しい経過は知らぬが、結果だけ言えば、軍部を掌握していたアベルト公が勝利し、反対派貴族を悉く粛清。

国名をガミラス大公国から大ガミラス帝国に変えて、初代総統になった。

そのデスラー総統が最初に行った外征がザルツの保護領化、即ちザルツの王族や貴族等の排除だった』

「ザルツはガミラスに抵抗しなかったのか?」

『ザルツ国民の大半はガミラスを歓迎した。腐れ切った現体制よりデスラー総統の方がだいぶましだと判断したのだろう』

「‥‥‥‥」

『実際、ガミラスの統治は、一般国民に対してはかなり寛大だ。少なくともかつての王政よりはな。

それに旧王政下での汚職や癒着については時効を廃止して徹底的に摘発したからな。子供達の中では、デスラー総統は祖国の救世主さ』

『「‥‥‥‥」』

 

自国人の悪政より、相対的にはましだという征服者の統治を選択したというわけか。

 

地球側の面々は元より、フェイトも複雑な思いにかられた。

 

『‥‥だからこそ、我々は徹底抗戦を選んだテロンの選択を理解できず、愚かな事だと断じたのだが、結果としては正しかったのだな。

‥‥私の知る限り、ガミラスの意図を完全に挫いてみせたのはテロンが初めてだ。

更にあの飛蝗どもの頭を潰すとはな』

 

苦笑まじりに言うコルサックの一言を嶋津は聞き咎めた。

 

「飛蝗‥‥ガトランティス帝国の事か?」

『左様。奴等は食い荒らすだけ食い荒らし、使用価値がなくなったら兵器テストと称して星もろとも破壊するからな。

あのまま降伏していたら、テロンも間違いなく同じ末路を辿っていただろう』

「提督はガトランティス帝国の事もご存じなのか?」

『‥‥儂も詳しい事は知らぬが、アデルベドロ‥‥貴官らがアンドロメダと呼んでいる銀河系は、ガトランティスによってほぼ征服されたと聞いている』

『「!!??」』

 

地球人にとっても古くから馴染み深いアンドロメダ座銀河が、よりによってガトランティスによって征服されていたというのは、地球側とフェイトに大きな衝撃を与えた。

 

コルサックの言う通りならば、ガトランティスの戦力はあまりに膨大で、ズォーダーと共に太陽系に攻め込んできたのは極一部の戦力に過ぎず、大半の戦力はなおも健在という事だ。

 

「そんな‥‥」

 

フェイトも言葉を失っていた。

アンドロメダ座銀河と天の川銀河は直線距離でも200万光年ある。

 

ガトランティス帝国は、その距離を物ともせず天の川銀河に押し掛けてくるだけの底力があるわけだ。

どこかの管理世界に攻め込んでこられたら、到底抗し切れない。

 

『‥‥ただ、かの国はズォーダー5世大帝の存在が余りに巨大だった。それほどの君主が突然倒れた以上、混乱は免れまいよ』

「‥‥なるほど‥‥」

 

とはいえ、ガトランティスの脅威が無くなるわけではない。

ズォーダーの後釜争いが泥沼化したり、アンドロメダ座銀河内での混乱で弱体化してくれれば地球としては願ったり叶ったりだが、ズォーダーの後継者がすぐ決まり、かつ新たな君主の元でまとまれば、先帝を斃した地球に復讐戦を挑んでくるかも知れない――。

 

(‥‥厄介な連中に目を付けられたな、地球は)

 

嶋津は心中で吐き捨てたが、それはTF13各艦のブリッジクルーに共通する思いだった。

 

 

話題はガミラスがザルツを傘下に収めた経緯に戻った。

 

『‥‥よく統制がとれていたガミラス軍に対し、ザルツ軍は統制が乱れていたからな。大半の部隊はあっという間に撃破されてしまった。中には貴族の将校が平民の兵士に殺されたりして内部崩壊した隊もあった。

私や弟がいた部隊は最後まで統制がとれ、ガミラス軍相手に悪あがきできたがね。首都が陥とされてはどうにもならなんだ」

 

コルサックの口調には微かな自嘲が混じっていた。

 

『‥‥私が言うのも変だが、ガミラスの統治は旧王政より公正だった。それだけ旧体制が悪かったという事なのだがな。今の若い世代は、ガミラス統治に対する抵抗感は弱い』

「ガミラス人からの差別はなかったのか?」

『もちろんあるが、思ったほどではなかった。貴公らも知っているドメル将軍は、出身地や肌の色では決して差を付けなかったからな。我々から見ても尊敬に足る軍人も少なくはなかった‥‥。

だからこそ、我々は徹底抗戦を続けるテロンをなかなか理解できなかった』

「‥‥いきなり攻撃された挙げ句、無条件降伏しろと言われてもな。

とはいえ、この件はお互い様という結果になってしまったけどね」

『‥‥確かにな。自分達の被害だけを言い募っても、問題は何一つ解決しない』

 

TF13・コルサック艦隊双方の首脳陣は、一様に苦い微笑を浮かべた。

 

『‥‥ところで、ザルツは今どうなっているのか?』

『‥‥基本的には変わらん。ガミラス本星が壊滅した事で、潜伏していた旧王党派が活動しかけたが、ザルツの民からも見限られた連中だ。あっという間に摘発されたさ。中には市民に惨殺され、頭部を串刺しにしてさらされた元秘密警察幹部もいたな』

(うわ~‥‥)

(よほど憎まれてたんだな‥‥)

 

秘密警察は市民からは嫌われ憎まれる立場だ。体制が覆れば、たちまち報復の血祭りに挙げられる。

 

「リンチの挙げ句、打ち首獄門か。‥‥星は違えど、秘密警察の末路は血生臭いの」

(‥‥‥‥)

 

佐渡の独白に、フェイトは複雑な表情になる。

管理局とて、情勢が変わればどうなるかわからない。

過去の経緯から、住民が管理局に非協力的な世界も1つや2つではないのだ。

 

(決して他人事じゃない)

 

管理局の内情と前途に懸念を隠せないフェイトだった。


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