――時空管理局本局――
『タイタンⅣ』捜索救助隊から逐一入る報告に、次元航行本部は騒然となっていた。
船骸と化した『タイタンⅣ』の画像を見た時は皆打ちのめされたが、フェイトら4人が“地球防衛軍”という軍組織によって救出されたらしいという知らせと証拠の画像が送られてきた時、局員達は愕然とした表情になった。
「“地球防衛軍”の“宇宙戦艦ヤマト”だと?何なんだ!一体」
「第97管理外世界じゃないというのか!?」
「地球防衛軍よりも、問題はガトランティスというエネミーAだろう!奴らは明確に敵対してきたんだぞ!」
“海”の高官達が騒然とするなか、リンディ・ハラオウンとレティ・ロウランは、リンディの執務室で相対していたが、リンディの表情は厳しいものだった。
フェイトら4人が『ヤマト』という艦で保護されているらしい画像を見た時は少なからずホッとしたが、クロノからの続報では、『タイタンⅣ』はスクラップ状態にまで破壊された上に船内の空気もほとんど失われ、生存者どころか、焼け焦げて性別すら判別できない亡骸が累々と転がっていたという。
「フェイト達が生きててくれた事は嬉しいわ。
でも、他の乗組員が皆亡くなってしまったのは‥‥」
フェイトは管理局の士官だ。
100人以上の人が殉職した中で生還すれば、犠牲者の遺族からの恨みを買わないとも限らない。
フェイト達が乗組員達を見捨てて逃げたとは微塵も思わない。
そもそも大気圏内ならいざ知らず、宇宙空間ではいかな魔導師でも戦えない。
管理局でも、宇宙空間での戦闘手段は艦船にしかないのだから。
「エネミーA‥‥ガトランティスにアンノウンB‥‥地球防衛軍と地球連邦。これまで管理局と相対してきた組織や世界とは全く異質だわ」
「これまで遭遇しなかったのが不思議な位よね」
リンディの呟きにレティが応じる。
「ガトランティスの艦はXV級を短時間で機能喪失にできるだけの攻撃力を持っている。そして地球防衛軍の艦はガトランティス艦を撃破できる能力がある。彼らの艦が軍艦なら、今の管理局の艦船は巡視船といったところね」
「これから管理局は、彼らのような組織や世界とも相対しなければならないのね。どう対応すべきなのかしら‥‥」
一部の魔導師士官には、魔法文化がない世界を見下す風潮があるが、そんな認識では、彼らと相対する事はできまい――。
―― ヤマト ――
フェイトの正面にはモニター越しに嶋津、左側には古代がおり、古代が口火を切った。
「次の地球との通信の時、君にも立ち会ってもらいたいんだが、いいかな?」
「はい。大丈夫ですが、どのような案件なのでしょうか」
『クライド氏の件も含めて、私らの親分が直接話をしたいと言ってるんだ』
「本当ですか!?」
フェイトは思わず身を乗り出す。
『ぶっちゃけた話、彼が22年前の世界から飛んできたか否か、地球では喧々囂々なんだ。それに、彼を本来いるべき場所に帰したいのも事実だしね』
「ありがとうございます」
(‥‥‥‥)
頭を下げるフェイトを、嶋津と古代は複雑な思いで見る。
帰る場所が明らかになったのなら、そこに帰してやりたい。
善意的に解釈すればそうなのだが、厄介事の芽は早めに摘み取っておきたいという一面もある。
フェイトとクライドには悪いが、地球連邦の本音は紛れもなく後者だった。
――ヤマトにおけるフェイト達4人の身分は要救助者だ。
時空管理局とは敵対関係になったわけではなく、彼女達はゲスト扱いなので、入院中のスターレットを除き、生活エリアに限って行動の自由が与えられていた。
具体的には、食堂や両舷展望室、浴室やジム、図書室等で、出掛けていけばシフト外のヤマト乗組員と顔を合わせる事になったが、見た目は地球人と見分けがつかない彼女たちはすぐヤマトクルーとも普通に話すようになった。
一方、ヤマトクルーの方も、異星人ならぬ異世界からの来客に大いに興味を示し、男性クルーの一部は
フェイト=パツキンさん
シャリオ=眼鏡たん
ティアナ=ツンデレちゃん
というあだ名を奉り、女性クルーから白い目を向けられていたが、一方で彼女達の間では、入院中のスターレット・タランティノが可愛い顔立ちである事を医務員から聞き出して、一部には妙な趣味に目覚めた者も出る始末。
「彼女たちがヤマト乗組員に持った印象が地球防衛軍、ひいては地球連邦に対する印象になるんだ。そこを忘れない範囲でならいいだろう」
嶋津は苦笑しつつ、そう口にした。