――地球・新横須賀基地――
仮設の執務室に野太いくしゃみが2度響いた。
「――どうされました?司令」
強面な上官の珍しい姿に、副官が尋ねる。
「何、誰かが私の悪口を言っているだけだろうさ」
「はあ‥‥」
上官――地球防衛軍連合艦隊司令長官・土方 竜――は冗談めかして応じる。
(あまりいい予感がせんな。――あいつら、厄介事に関わっていなければいいが‥‥)
――厄介事に巻き込まれやすいというか、ともすれば首を突っ込んで騒動を拡大させがちなTF13幹部の面々が脳裏に浮かんでいた。
数時間後、土方は己の予感が悪い意味で的中していた事を知る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――『クラウディア』ブリッジ――
「あ、ああ‥‥」
「そんな‥‥」
「ひどい‥‥!」
ブリッジクルーからは悲痛な声が漏れ聞こえ、早くも泣き出す者すらいる。
「‥‥‥!」
クロノ・ハラオウンも艦長席の肘掛けをギュッと握り締め、自我を保っていた。
スクリーンに映し出された光景は、皆を悲しませ憤らせるのに十分過ぎるものだった。
『タイタンⅣ』は原型を留めておらず、船体のあちこちに穿たれた破口から煙を噴き出しながら漂っている。
これほど破壊された船を目にするのはクロノも初めてだ。
あれでは、乗っている者は到底助かるまい。
あの中にフェイト達がいるのかと想像すると、叫び出したい衝動にかられるが、自分は指揮官だ。任務に私情を挟む事は許されない。
「何をやっている!? 嘆く暇があるならやるべき事をやらないか!周辺監視と脱出ポッドの捜索を急げ!」
自らへの鼓舞も含めて、クロノはクルーを一喝する。
我に返ったブリッジクルーは、周辺探索と脱出ポッド捜索にかかった。
脱出ポッドからの自動通信はキャッチできなかったが、周辺探索では思わぬ物が見つかった。
『タイタンⅣ』の向こう側に、別の艦船の残骸が発見されたのだ。
注意深く『クラウディア』を接近させていくにつれ、残骸の詳細が明らかになる。
「エネミーAの大型艦じゃないか!」
『アースラ』以来の付き合いであるランディが驚きの声を上げる。
――管理局員達は知るよしもなかったが、それは『ヤマト』の砲撃で艦体をへし折られたムターヂの中型戦艦だった――。
クロノもまた、驚愕を隠せなかった。
「エネミーAだけじゃない。奴らと敵対する勢力もこの場に来ていたというのか?」
だとすれば、事態はますます複雑化する。
『タイタンⅣ』はエネミーAの艦に襲われたと報告してきたが、その直後にエネミーAと敵対する勢力――アンノウンB・C、或いは第4勢力――の艦船、あるいは艦隊が現れてエネミーAを撃破したと考えるのが普通だろう。
「提督!」
そこまで考えた時、新たな報告が入った。
何かと訊き返すと、
「『タイタンⅣ』の船体に、何物かが固定されています!」
報告したクルーがキーパネルを操作し、『タイタンⅣ』の船体の一部を拡大して見せた。
「花束!?‥‥それに、メッセージボード?」
変わり果てた『タイタンⅣ』の乗降口付近に、金属板らしいものが固定され、文字らしいものが書き込まれているのだが、さらに、白い花束らしい物が添えられている。
(白い花束‥‥弔意!?)
クロノの脳裏に閃きが走った。
誰がこんな事をしたかわからないが、これを取り付けた者のメンタリティは我々と非常に近い。つまり、話が通じる相手かも知れない。
だとすれば、やるべき事は一つ。
「急ぎ作業隊を編成しろ。あれを回収するんだ!」
――『クラウディア』ブリッジ――
「これって‥‥!?」
「‥‥まさか‥‥」
作業艇から送られてきた画像を目にしたクロノとランディ、ブリッジクルー達は皆言葉を失った。
「これは、なのはちゃん達の世界の言語‥‥」
「“地球防衛軍”‥‥?」
ランディとクロノが信じられない面持ちで呟いた。
そこには、英語と日本語の文章が書き込まれていただけでなく、文章の頭近くに
『Earth Federation Diffence Force』(地球防衛軍)
と書き込まれていたからだ。
当然、クロノやランディら、第97管理外世界を直接知っている者ほど当惑した。
が、画面がメッセージボードの下端に行った時、クロノ達はさらなる驚きに見舞われる。
「‥‥間違いない。このサインはフェイトの筆跡だ。しかし‥‥」
「新暦76年というのはまだしも、A.D.2201って‥‥」
「地球の暦だ。しかし西暦2201年とは、どういう事なんだ?」
第97管理外世界の標準時間は西暦2010年代だ。これは一体?
「とにかく、今は船内の要救助者の捜索だ‥‥メッセージボードははずせるか?」
『‥‥強く固定されてはいないようです。恐らくは我々に回収させるつもりでしょう』
「わかった。そのまま回収してくれ‥‥捜索隊からの報告はないか?」
メッセージボードの回収を指示したクロノは『タイタンⅣ』船内に入った捜索隊に注意を向けた。
「‥‥船内は大半が焼けただれており、複数の遺体が発見されているのみです」
暗い表情を隠さず、通信担当の女性オペレーターが応えた。
「‥‥そうか‥‥」
クロノは声を落とし、ランディは唇を噛み締めた。
その時、通信オペレーターが緊張した声を上げる。
「提督!2号艇から再度通信が入っています。緊急の報告があると!」
「わかった、繋いでくれ」
何事かと思い、通信を繋ぐ。
『こちら2号艇。‥‥回収したメッセージボードの中に、ハラオウン執務官以外に3人の氏名があります』
「!!?」
「氏名は解るか!?」
ややあって、艇長からの報告が届く。
『シャリオ・フィニーノ執務官補とティアナ・ランスター執務官補に、スターレット・タランティノ准尉です!』
艇長の報告にブリッジがどよめいた。
絶望と思われていたところに、フェイトら4名が“地球防衛軍”に救出されたらしいという情報がもたらされたのだ。
「‥‥地球防衛軍側の艦船、あるいは関係者らしき事項は書かれているか?」
『‥‥“スペース・バトルシップ・ヤマト”という名称が記入されています!』
‥‥‥‥ヤマト?
『だるまさんがころんだ』が生臭く聞こえてしまう今日この頃。
春のゲス祭りはいつ終わるのやら。