――『ヤマト』病室――
「――落ち着いた?タランティノ准尉」
「‥‥ごめんなさい。もう大丈夫です」
「謝る事はないわ。動揺してるのは私達も同じだから」
時空管理局の空戦魔導師、スターレット・タランティノ准空尉は、執務官補のシャリオ・フィニーノ、ティアナ・ランスター両名と話を続けていた。
階級では、下士官である執務官補の2人よりスターレットが上位なのだが、『タイタンⅣ』では最年少ゆえ、任務外では士官扱いされておらず、本人もそれが当然と理解していたため、2人から子供扱いされても不満に思う事はなかった。
目が覚めてから、自分達の身に何が起きたのかを2人から聞かされたスターレットは、『タイタンⅣ』のクルーの殆どが犠牲になったと聞かされ、動揺と悲しみで泣きじゃくり、ようやく落ち着いた。
そして、
「‥‥それで、僕たちは今どうなっているんでしょうか?」
2人の様子からして、自分達が拘束された様子はない。
しかし、部屋の調度等が管理局のものではなく、見たことがない機器もある。
一体、ここはどこなんだろう?
「私達がいるのは、地球防衛軍という軍隊所属の宇宙戦艦『ヤマト』。『タイタンⅣ』を攻撃してきた“エネミーA”を撃退して、私達を救出してくれたの」
「ハラオウン執務官がこの艦の責任者と交渉してくれて、制限付だけど、艦内での行動も許されているわ。治療もしてもらえるから、まずは怪我を治そうね」
「‥‥わかりました」
シャリオに説明され、ティアナに諭され、取りあえず命の危機が遠ざかった事はわかったが、緊張がゆるんだスターレットは再び眠気に襲われ、抗いきれず寝息を立て始めた。
その様を見ながら、2人の表情は曇った。
「私達、帰れるんでしょうか‥‥」
助けてもらった事はありがたいが、地球防衛軍は管理局が存在を把握していなかった軍隊らしい組織で、どうやら高町なのはの出身世界とは別次元の世界らしい。
「フェイトさんが戻ってくるのを待つしかないわね。拘束や監禁されだわけでもないから、話は聞いてもらえそうだけど‥‥」
こちらの“地球”も敵対的な世界ではなさそうだが、地球防衛軍というか、この『ヤマト』は管理局とのコンタクトをどう取るのか?
いや、そもそも取れるのだろうか?
取ってくれるのだろうか――?
2人がフェイトからの説明で愁眉を開いたのは、約1時間の後だった。
――『クラウディア』――
乱次元流に飛び込んだ次元航行艦は、まるで時化にあった船のごとく揉まれていた。
(時化とは、なのは達の世界は上手い表現をするものだな)
『タイタンⅣ』が向かったガダル方面の次元回廊は、未だ次元乱流が止まず、まさに大時化だった。
商船は運航できず、次元航行艦もL級以下では艦酔い続出で話にならない。
XV級ですら、ぼつぼつ艦酔い者が出始めているのだ。
このような状況であるため、救助隊員は半ば強制的に休憩を取らされている。
現場に着いたはいいが、艦酔いと疲れで使い物にならないでは話にならないし、二次遭難にもなりかねないので、やむに止まれずこんな措置をとった。
そして、遭難現場到着も予定より大分遅れてしまいそうだ。
現場到着が一時間遅れれば、それだけ生存者がいる確率は低くなる。
ましてや、その中には自分の義妹と友人が含まれる。
(皆、生きててくれ‥‥)
クロノは、祈るしかできない自分の無力さを呪いたい思いになった。