宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

109 / 166
ようやく一区切り。


会談⑤

 

次々と掘り出されてくる驚愕の事実に、フェイトの頭脳は処理能力の限界に達していた。

新たな(?)地球とその軍隊、余りに凄惨で悲しい戦いの数々だけでも十分だったのに、最後に知らされた、義父に当たる人物の生存。

 

(――いけない。私が我を忘れてどうするのか?)

 

何とか気を取り直して嶋津達に向き直った。

 

「クライド・ハラオウンは、私の義父に当たる人物です」

『‥‥もう少し詳しく話してもらってもいいかな?』

 

嶋津の要請にフェイトも応じて続ける。

 

「クライド・ハラオウンと私は面識はありません。私がハラオウン家の養女に迎えられた時には、彼は既に行方不明になっていましたので‥‥。私の養母にあたる人物の夫で、2人の間に一人息子‥‥私の義兄にあたる人物がいます」

『‥‥そうか』

 

嶋津と真田は頷いた。

フェイトが話した内容は、クライドが話した内容と一致するが、クライドの話では、一人息子はまだ子供だという。

しかし、フェイトは息子の事を義兄と言う。

フェイトは20歳だという。一人息子はフェイトより歳上なのだから、クライドは40歳台のはずだ。

しかし、地球にいるクライドは自らの年齢を25歳だと言い、地球側の検査もそれを裏付けた。

何しろ、ゲノムは地球人と同一なのだから。

 

――という事は‥‥。

 

(『エスティア』と『タイタンⅣ』。いずれかがタイムワープしたという事か?)

 

フェイトの回答に対し、今度は真田が話し始める。

 

「君達が乗っていた『タイタンⅣ』が緊急にこの空間に転移してからガトランティスに攻撃されるまでの間、管理局と通信は可能だったかな?」

「はい。問題なく通信できていました」

 

フェイトの答に、真田と古代は顔を見合わせた。

 

「‥‥という事は『エスティア』はタイムスリップした可能性が高いな。2点確認したい」

「····は、はい、私に答えられる事であれば」

 

タイムスリップという単語に、一同は驚きの表情になった。

地球防衛軍はもちろん、管理局でも公式には確認されていない。

 

「1点目は君達の現在の標準時間。2点目は『エスティア』遭難の経緯だ。支障がなければ教えてほしい」

「わかりました」

 

真田の求めにフェイトは素直に応じ、自分たちの標準時間が『新暦76年』である事と、『エスティア』遭難の経緯を語った。闇の書事件の一端も。

 

『闇の書事件』を聞いた嶋津達は唸った。

フェイトが嘘を言っているようには思えなかったし、それ自体が次元跳躍機能を持つという事は、いずれ地球に姿を現し、害を及ぼしかねない。

ゆえに聞かずにはいられなかった。

 

『····その“闇の書”は、今も行方不明なのかな?』

「その11年後に再び出現しましたが、その時に完全封印され、再暴走の恐れはなくなりました。私もそのミッションに参加しました」

『そうか‥‥』

 

ひと通り話を聞いた真田が結論を出す。

 

「という事は、『エスティア』は未来にタイムスリップしたと考えるのが現実的だな。後は、こちらで保護しているクライド氏が、ハラオウン執務官の義理の父親と同一人物か否かだが‥‥」

『写真を見てもらうのが手っ取り早いだろうな、真田』

「私も同感です。もし写真が今存在するなら、見せていただけるでしょうか」

『いいよ、よく確認してくれ』

 

フェイトの求めに応じ、嶋津がタブレットを操作すると、ほどなくしてからフェイトの前に画像が映し出される。

 

(―――――!)

 

それを目にしたフェイトは、思わず息を飲んだ。

ベッドで上半身を起こしている人物は、実家(ハラオウン家)に飾られている写真の中のクライドと瓜二つだった。

 

(――間違いない。この人はクライド‥‥お義父さんだ)

 

クロノとほぼ同年輩(遭難時25歳)のその顔立ちは、まさに二卵性双生児のようだ。

 

『この人物が、君が言っているクライド・ハラオウンで間違いはないかな?』

「はい。私見ですが、私の義父だと思います。後は直接話す事ができれば‥‥」

 

嶋津の問いに、フェイトは画像の人物がクライド・ハラオウンであると明言した。

フェイトはクライドが死亡判定された11年後、彼の妻だったリンディの養女に迎えられたという。

直接の面識はないにせよ、妻と一人息子の事を忘れているはずはないだろうから、フェイトと直接話せばすぐわかるだろう。

 

「彼は、戻れるのならば家族の元に戻りたいと言っている。軍としてもそうしたいのだが、ガトランティスとの戦いが始まっていたので、全く身動きできなくなっているんだ。『エスティア』の調査も端緒についたばかりなのでね」

「そうでしたか‥‥」

『しかし、偶然が重なったとはいえ、再び時空管理局と接触したんだ。彼の帰還の可能性が倍増したのには違いない‥‥ハラオウン執務官?』

「はい」

 

嶋津はフェイトにボールを投げる。

 

『ハラオウン家は、今も彼の帰還を待ち望んでいるかい?』

「はい」

 

22年前の闇の書の暴走では、リンディとクロノを始め、多くの人が悲しみ傷ついた。

さらに、フェイトにとっての4人目の親友と守護騎士達もまた、今なお十字架を背負っている。

もしもクライドが生きて帰還すれば、それらの人が救われるのだ。

フェイトの返事は1つしかなかった。

 

「私の養母は、今も独り身を通しています。‥‥義兄は、義父が遭難した歳と同い年になりますが、志を継ぎ、双子の父親でもあります」

 

フェイトはそこで言葉を切ると立ち上がり、

 

「お世話になりっぱなしの身で、甚だ勝手なのは重々承知しておりますが、敢えて申し上げます。

‥‥義父が母や兄達の元に帰れるよう、どうかお力添えをお願いします!どうか‥‥」

 

瞳を潤ませ、声を震わせながら、フェイトはる頭を下げた。

 

嶋津達は暫く無言でいたが、

 

『‥‥互いの意思が一致しているのなら、時間との勝負にはなるが、我々も出来る限り手伝おう』

 

一同を代表する形で嶋津が答える。

 

――直後、医務室の佐渡から、スターレット・タランティノが目を覚ましたとの報せが入った。




近日中(31日頃?)にヤマト2199の新シリーズが発表されるという事ですが、はてさて?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。