宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

106 / 166
知りたかった事にたどり着く。


会談②

  ―― 『ヤマト』艦長室 ――

 

「‥‥‥‥」

 

フェイトはまたもや頭の中がいっぱいになった。

いかな優秀な執務官とはいえ、いきなり想像を遥かに超える映像を見せられれば、容易に整理はつかないものだ。

 

外宇宙からもたらされた謎のメッセージと、直後に受けたアンノウンからの攻撃。

 

目の前の古代はこれに強い危惧を抱き、防衛会議に提議して対応を促したが、地球の著しい復興と、飛躍的に強力になった宇宙艦隊の力を過信した軍上層部や政治家からはすげなく無視され、納得いかない古代ら旧『ヤマト』乗組員は、自動化改装途中の『ヤマト』を奪取し、戦闘衛星や無人艦を破壊して太陽系から離脱を図ったため、竣工間もない宇宙艦隊総旗艦『アンドロメダ』が追跡し、双方の追跡合戦やチキンレースまがいのニアミスまでした後、防衛艦隊総司令の独断で見逃されたという。

 

(反乱もいいところだ。撃破されてもおかしくないのに。古代さん達以外にも、事態を深刻に捉えていた人が結構多かったということか‥‥)

 

嶋津曰く、

 

『総司令は古代や私達の鬼教官でもあった人だから、古代達が生半可な気持ちなら、ためらわず攻撃するつもりだったんだ』

「そうだったんですか‥‥」

 

彼らの行動は重大な規則違反だ。組織としてはあってはならない。

 

(でも、事態はそこまで切羽詰まっていたのか)

 

実際、その後の事態は予想以上に悪化し、謎の敵は太陽系辺境部に前線基地を構築しようとしていたのだ。

 

(現場と中央の認識のずれは、どこの組織も変わらないのか‥‥)

 

時空管理局でも、同様の事はしばしば物議を醸している。

 

しかし、自分を含めた管理局員に、属する組織相手に、己の信念を通そうとする者がいるだろうか?

11年前、母プレシアのためにジュエルシードを集め、なのはや『アースラ』の面々と対峙していた時とは違うのだ。

 

記録映像は進み、『ヤマト』が第11番惑星の駐屯部隊からの交戦支援要請電を受け取り、現地に急行した場面に移った。

 

初めて謎の敵艦が映像に出た時、フェイトは思わず立ち上がった。

 

「エネミーA‥‥!」

「?‥‥ああ、ガトランティス帝国軍の事か」

「ガトランティス帝国、ですか‥‥?」

 

フェイトがエネミーAと言った艦船を、古代は『ガトランティス帝国軍』と明言した。

 

『そうだ。こいつらが君達の船を襲ったんだが、君達も前から奴らと戦っているのか?』

「はい、数ヶ月前から、しばしば管理局の艦船が襲われたり、駐在していた局員もろとも世界‥‥惑星を壊滅されたりしています」

 

冴子の問いに、フェイトもまた、敵だと言い切った。

(‥‥やっと結びついた。エネミーA=ガトランティス帝国は、地球と管理局共通の敵だったんだ)

 

画面は『ヤマト』とコスモタイガーが、複数のガトランティス帝国艦と降下戦車隊を一方的に叩きのめした場面が終わったところだ。

 

(たった1隻と艦載機で、小規模とはいえ艦隊と戦車部隊を叩きのめすなんて‥‥)

 

その次は、『ヤマト』を含む地球艦隊が、突撃を図る空母らしいガトランティス艦を袋叩きにしたシーンだ。

これには『テシオ』や同形艦・準同形艦や、明らかに戦艦と思しき大型艦も複数映っており、フェイトも“地球防衛軍”が相応の規模を持つ軍隊であることを認識した。

 

 

場面が移り、テレザート星付近でガトランティス軍のミサイル艦が映った時、フェイトは思わず身を乗り出した。

 

そして、『ヤマト』の波動砲でその艦隊が掃滅された時、やはり‥‥と呟いた。

 

(あの時、エネミーA‥‥ガトランティス艦隊の通信にあった『ヤマト』は、この艦だったんだ‥‥)

 

――パズルは全て埋まった。アンノウンBは『ヤマト』と地球防衛軍だ――。

 

フェイトは、第144・145管理外世界で起きた事、そして第145管理外世界こと『テレザート』付近で見た事を話すと、桐生は目を丸くし、嶋津と古代はなるほどという顔になった。

 

「そうか、あの時レーダーの隅に映ったのは君達の艦だったのか‥‥」

 

古代によれば、テレザート星が自爆する直前、レーダーの隅に艦影が映った記録があるという。

 

テレザートの爆発から退避したこともあり、すぐ反応は途絶えてしまったが、あの艦影が管理局の艦ならば納得もいくというものだ。

フェイトも得心した表情になる。

 

(ガトランティス帝国はいきなり襲ってきたけど、この人達を見る限り、地球防衛軍や地球連邦政府は、高圧的に接しない限り話し合えると思う。共存の道はあるはずだ)

 

現実問題、ガトランティスのような獰猛極まる連中と戦う力は今の管理局にはないし、彼らの地球を管理世界に組み込んで技術を接収しようとすれば、時空管理局は侵略者とみなされる。

 

(イスカンダルからのテクノロジーは、数十億もの同胞の命を失った末に得たに等しい技術。管理局が接収しようとしたら、局員の死体の山が幾つできることになるんだろう‥‥)

 

目の前の彼らとこれまで触れてきた限り、協議や交渉は十分できるだろうが、高圧的な要求や武力行使には相応の態度で応じるだろう。

そして、彼らの軍隊の戦闘に非殺傷という概念はない。

非殺傷制圧は警察機関のやる事で、軍隊は敵の安全より自らの任務完遂が優先されるからだ。

 

(彼らと殺し合う覚悟をすぐ固められるのは、シグナム達やナンバーズくらいだな)

 

管理局は、階級こそ軍隊並みだが、内情は肥大した警察組織だ。

ガトランティスやガミラスみたいな侵略者は元より、地球防衛軍のような国防軍相手に戦うのは無理ではないか。ソフト・ハード両面で――。

 

『――で、この彗星が、ガトランティス帝国の、いわば大本営で、我々が連中の国を白色彗星帝国と呼びならわした由縁だ』

「え‥‥?」

 

サラリと爆弾を投下した嶋津は、理由はすぐにわかると言いながら映像の再生を続けた。

 

『ヤマト』はテレザート星を占領していたガトランティス帝国軍の地上部隊を殲滅し、地下に幽閉されていたこの星唯一の生存者、テレサを解放した。

 

「‥‥この星は、私達の世界をも上回るレベルの文明を持っていて、管理局も接触するタイミングを測っていたのですが、数年前に大規模な内戦が起き、星全体が壊滅してしまいました」

 

フェイトが、管理局で掴んでいた情報を披露する。

 

「俺達が接触したテレサも認めていたが、あの星を全滅させたのは自分だと、彼女は言った」

「テレサ自身が、ですか?」

「そうだ。これを見れば、君なら納得がいくんじゃないか?」

 

映像は、テレザート星が自爆し、白色彗星がスピードダウンを余儀なくされたところだ。

 

「この爆発は、テレサの莫大な思念エネルギーによってもたらされたものだ」

(!‥‥そうなんだ)

 

そう言われれば、あの力は魔法と定義してもおかしくはないが、稀代の大魔導師と言われた母プレシアはおろか、歴史上の大・名魔導師や、覇王イングヴァルトら古代~近世の諸王ですら、これほどの力はないだろう。

 

(!‥‥そうか、少し前、臨検しようとした艦が、テレサという人物によって無力化されたと聞いたけど、彼女なら、その位はお手の物だろう。

でも、この人達にこの事をどう言ったらいいんだろう‥‥)

 

知らなかったふりをすればいいのだろうが、良くも悪くも実直なフェイトはジレンマに陥った。

 

そんなフェイトの思いをよそに、古代の説明が続く。

 

「ガトランティスの危険を訴える超空間あるいは次元跳躍通信も、彼女自身が先天的に持ち合わせた思念エネルギーを用いたんだろう。

内戦の時も、平和の祈りをしていたようだが、精神の制御ができずに暴走してしまい、地表の全てを灰塵にしてしまったことを心底悔いていたんだが、ある一件が彼女を変えたようだ」

 

古代の声のトーンが落ちた。苦渋と悔恨が入り混じっている。

 

「ある一件、ですか?」

「そうだ。ただ、この一件の詳細はまだ話せない」

 

呻くように古代が答える。嶋津は表情を曇らせ、桐生は辛そうな表情になった。

 

「‥‥わかりました」

 

テレサという女性に関わる事で何かあったのは確かだが、とても辛い事らしいとは想像ついた。これ以上は訊かぬが花だろう。

 

 

映像は『ヤマト』がテレザート星から太陽系に戻り、土星の衛星タイタンで地球防衛艦隊本隊に合流するところに変わっていた。

 

フェイトの目を引いたのは、土星本星の詳細な画像と、艦隊の中でも他艦と異なるシルエットを持った旗艦『アンドロメダ』だった。

 

(『ヤマト』も十分強力なのに、この艦はさらに大きい。XX級に相当するんだろうけど、戦闘力は桁違いなんだろうな‥‥)

 

フェイトの頭に浮かんだのは、間もなく1番艦が竣工するXX級次元航行艦。

 

カタログデータでは単艦でXV級2隻分の戦闘力を有する、時空管理局最強の艦だが――。

 

(今となっては、地球で戦艦『ドレッドノート』が登場して間もない頃の、列国海軍の戦艦にすら及ばない)

 

地球の西暦1906年に突如登場したイギリス海軍の戦艦『ドレッドノート』は、前年に行われた日本海海戦で大勝利の立役者となった『三笠』を含む既存の戦艦を一夜にして時代遅れにした革命的な艦だった。

 

主砲は『三笠』の4門に対し10門。最大速力も18ノットに対し21ノットと、当時では常識外の砲撃力と高速を兼ね備えた戦艦だった。

 

端的に言えば、『ドレッドノート』1隻に対し、『三笠』クラスの戦艦2隻では一方的な返り討ち。3~4隻でも船脚の差で共倒れか逃走されかねず、確実に仕留めるなら5~6隻は必要になるという位で、艦はもちろん、人員や費用、資材量を考えれば、戦闘になった時点で負け戦に等しい。

 

しかも、当時同盟関係にあった日本にも知らされず、日本海海戦の直後に起工してから僅か1年余りという異例の短期間かつ極秘裏に建造したため、既存の戦艦はおろか、発注済みで起工待ちという艦も二流戦艦の烙印を押されてしまった。

 

前年の大勝利で意気揚々な日本海軍はもちろん、米独仏伊等の列国海軍は文字通りパニックに陥り、『ドレッドノート』と同等、さらには上回る戦艦を争うようにして建造したため、ワシントン軍縮条約で建造競争を制限しないと各国の財政が破綻しかねないところまでいったほどだ。

 

【もう1つの大国、帝政ロシア海軍は、1904-05年の対日戦争で太平洋・バルチック両艦隊が壊滅した痛手に加え、共産主義革命の混乱から立ち直れず、他国が超弩級戦艦を保有し始めた頃になって、一世代前の弩級戦艦を数隻建造したのが精一杯で、ほどなく帝政ロシアは崩壊。

旧ソ連時代もスターリンによる凄惨な粛清による人材払底や対独戦で海軍の補強は進まず、第2次大戦中に唯一保有した超弩級戦艦も、チャーチルがスターリンを言いくるめて厄介払いした遊休旧式戦艦で、ドイツへの威嚇にすらならなかった】

 

地球でいう『超弩級』の『弩』は、紛れもなく『ドレッドノート』の事なのだ。

 

(ガトランティスや地球防衛軍の軍艦と管理局の艦船の差は、あの頃の『三笠』と『ドレッドノート』どころじゃない。

でも、波動エンジン並の性能を持つ魔力炉なんて、いつになったら実現するんだろうか?)

 

――いずれ、管理局は否応なしに変革を迫られる。

それができなければ、ガトランティスみたいな連中に食い荒らされて滅びの道を辿る事になるのでは?

 

フェイトは、胸中に冷え冷えとした予感めいたものがわき上がってくるのを抑えられなかった。




バスの次はトラック運送業界かな?
リストラ喰らってから一時運送屋でバイトしてましたが、なるべく配達日時指定はするまいと決めました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。