宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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会談①

『‥‥私も一瞬息を飲んだよ。まあ、お互い様ということだな』

 

女性士官はここで口調を改める。

 

『さて‥‥お互いに聞きたい事と知りたい事があるから、できる限り率直に話し合いたいんだが、君はどう思う?』

「はい、私も同感です」

 

フェイトの回答に、女性士官は軽く頷く。

 

『君達はゲストという扱いだから、この会合も尋問ではない。組織の事など、言いたくない事については話さなくてもいいからな。‥‥じゃあ、自己紹介します』

 

士官はここで一息つくと、表情を改めて続ける

 

『私は嶋津冴子。所属・階級は地球防衛軍大佐。巡洋艦『テシオ』艦長と独立第13戦隊司令官代行を兼務しています』

 

嶋津に続き、『ヤマト』の2人も名乗る。

 

「古代 進、地球防衛軍少佐。宇宙戦艦『ヤマト』戦術長兼艦長代理です」

(え!?‥‥この人がこの『ヤマト』の指揮官? 私とほとんど同年輩にしか見えないのに??)

「き、桐生美影です。地球防衛軍少尉で、技術部所属です」

 

名乗りながら、旧海上自衛隊式の挙手礼をする3人に対し、フェイトもすぐ立ち上がり、管理局式の挙手礼を返す。

 

「時空管理局本局次元航行本部所属執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 

そこでフェイトは一息つき、

 

「この度は救助していただき、ありがとうございました」

 

と、深々と頭を下げる。

 

「船乗りの務めを果たしたまでです。‥‥さ、座って」

 

応えた古代はフェイトに着席を進めた。

 

相対する形になった嶋津とフェイトを、古代と桐生は興味深げに見遣る。

 

髪と瞳の色、それに嶋津の頬傷を除けば、2人は姉妹か叔母と姪と見紛うばかりによく似ていた。

 

『こういう場を設けたのは、双方の情報交換と今後の方針について話し合いたいからだ。

君達もまた、我々に色々訊きたい事があるだろう?』

「はい」

 

頷くフェイトに、嶋津は告げる。

 

『改めて宣言します。地球防衛宇宙軍・独立第13戦隊は、君達を海難救助者として保護します。

我々の艦内は地球連邦の法律と地球防衛軍の軍規が適用されますが、堅苦しく考えず、普段どおり過ごしてもらえば構いません』

 

そして、さり気無く付け足す。

 

『‥‥ただ、魔法の行使は遠慮してほしい』

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

“‥‥イマ、コノヒトハナニヲイッタノ?”

 

嶋津の言葉に、フェイトは文字どおり固まった。

管理世界の住人ではないはずの彼女から飛び出した『魔法』という単語。

管理外世界の住民に魔法の存在を知られてはならない。管理局員なら誰でも知っている。

もし露見した場合は本人を現地協力者にして監視下におくか、身柄を確保して管理世界に住まわせるかの二者択一しかない。

 

(どうしたらいいんだろう‥‥)

 

しかし、ここにいる管理局員は自分たち4人のみ。

 

(そもそも助けてくれたこの人達に、恩を仇で返す事なんかできない。それに‥‥)

 

地球防衛軍側の4人、一番年少の桐生以外は明らかに歴戦の戦士という面構えであり、皆銃を携行している。

フェイトは執務官としてそれなりの経験を積んできた。

その経験に即した本能が声高に主張する。

彼らを敵に回してはならない、と。

動揺したフェイトを落ち着かせるように古代が言う。

 

「我々は、救助活動と平行して、君たちの艦を捜索して資料等を調べた。特に動力は、我々にとって未知の代物だった」

 

嶋津が引き継ぐ。

 

『そうしたら、時空管理局に関する資料が散乱しているのを発見したんだ。

君の同僚が手術を受けている間に、その資料を解析し、時空管理局の近況をある程度知るに至った。

‥‥無論、資料の収集・解析は私が命じて行われたものだから、情報流出は君たちの過失じゃない』

「‥‥はい」

 

力なくフェイトも頷いた。

未知の組織についての情報収集は管理局とて当然の事。

自分がその立場にあれば同じ事をするに違いなく、目の前の彼らを責めるのは筋違いと言うものだ。

 

しかし、もし本局がこの事を知ったらどんな事になるのだろうか――?

 

『‥‥我々の話は一旦置くとして、君から訊きたい事はあるかな? 軍の機密事項は話せないが、それ以外の事は可能な限り答える』

 

嶋津冴子がフェイトを見据えて言う。

 

「ありがとうございます。では――」

 

彼らもまた、ある程度情報を開示すると言っているのだから、私も、ここに来てから積み重なっていた疑問をぶつけてみよう。

 

彼らがどこまで信じられるのかもわかるだろう――。

 

 

 

 

         ――次元空間――

 

本局を出て17時間。

本来ならばとうに遭難現場に到着しているのだが、時空震の影響で、まだ道半ばといったところだ。

 

出発した時は『クラウディア』1隻だったが、第3海上支部からの4隻が加わった小艦隊は、間もなく乱次元流が残る空間に入ろうとしていた。

 

全体指揮は第3支部から合流したリカルド・セレガ提督(准将)がとり、クロノ・ハラオウンは救助作業指揮にあたる。

 

そのクロノが率いる『クラウディア』の食堂では、臨時編成の救助チームが食事をとっていた。

 

シャマル、ギンガ、スバルら旧機動六課組も一角で食後のお茶を飲んでいたが、笑顔はなかった。

何より、並外れて食べるナカジマ姉妹の食が進んでいない。

‥‥それでも2人で5人前分を平らげたのだが。

 

6年前の空港火災で、スバルは高町なのはに、ギンガはフェイトに命を救われて以来、分野こそ違え、姉妹にとってなのはとフェイトは正に恒星そのもの。若くして失われるなど、到底容認できるものではなかった。

とはいえ、救助隊員としての自覚は忘れていない。

自分の家族や友人は後回しにしなければならないのだから。

 

そこに、ブリッジからシャマルが戻ってきた。

 

「クロノ提督からの伝言。アルフの体調は良好だって」

「本当ですか!?」

 

シャマルがもたらした情報に、一同は顔を上げた。

 

「うん。アルフ本人が、フェイトちゃんとの精神リンクは維持されてるって言ってたって」

 

私的通信は禁止されているが、本来フェイトの使い魔であるアルフの動向はフェイトの安否に繋がるので、例外扱いになっていた。

 

「なら、まだ希望はあるわね」

「はい!」

 

ギンガの言葉にスバルが力強く同意し、他の面々の眼にも力が籠った――。

 

 

 

 

      ――『ヤマト』――

 

「ん‥‥っ」

 

他の面々は一時退出し、士官会議室に1人残ったフェイトは、俯いて身を震わせていた。

 

彼女の正面には、砂の嵐と化したモニターの画面が光るだけ。

 

つい数分前まで彼女が見ていたのは、10年前に始まったという星間戦争、あるいは絶滅戦争の当事者にされた地球と人類が辿った、運命と呼ぶには余りに苛酷で悲しい戦いの記録。

 

映像が創作されたものには見えなかったし、バルディッシュも同様の見解を示した。

そして、ガミラス帝国軍の遊星爆弾が日本に初めて着弾したのが、よりによって“海鳴市”だった事がフェイトを打ちのめしていた。

彼らの地球が、第97管理外世界の後身とは確認できていないが、フェイトがよく知る人達の子孫が犠牲になっていたとするなら――。

 

 

あの一発で海鳴市全域と隣接市の一部ないし大半が一瞬で消滅し、嶋津と古代は両親と地元の知人・友人の大半を失ったという。

こんな映像、はやてとなのはにはとても見せられない。

そして、奮闘空しく壊滅していく、地球防衛軍の前身・国連宇宙軍。

空しく散っていった同胞達にどんな思いを抱いていたのか、共に映像を見ていた4人の表情からは窺えなかった。

 

事態を急転させたのは、絶望の縁に立たされた地球にもたらされた、波動機関ことタキオン粒子を応用した超高エネルギー機関を始めとする数々のオーバーテクノロジー。

何の見返りも求めず、命懸けでそのデータを地球にもたらしたイスカンダルの王女サーシャと、妹を送り出し、待ち続けた姉の女王スターシャには驚愕したが、1年も経たずにそれを実体化し、地球脱出艦に搭載した地球人達と、ぶっつけ本番で出発し、少なくない犠牲を出しながらも成功させた、目の前の人達には言葉もない。

しかも、タキオンテクノロジーを応用した超高エネルギー砲こと“波動砲”を地球独自に開発した事と、波動砲が一撃でオーストラリア大陸大の目標を破壊したのには怖れを抱かずにはいられなかった。

テレザートで見たあの光は、正しくこの波動砲なのではないか?

 

アルカンシェルすら霞んでしまう破壊力を質量兵器(?)に持たせる等、管理局側にすれば到底容認できないだろう。

しかし、驚いたのは、古代達は、後顧の憂いを断つためとはいえ、ガミラス首都を壊滅させたのは誤りだと認めた事。

 

「我々の星がああいう目に遭わされたとはいえ、ガミラス星も同じ目に遭えばいいというのは、単なる復讐であり、憎しみの再生産でしかなかった。そんな簡単な事に気づくのが遅過ぎたんだ‥‥」

 

ガミラス本星での戦闘を実質的に指揮したという古代が、苦渋と悔恨に満ちた表情で述べた事に、フェイトは衝撃を受けた。

地球に留まって残存ガミラス軍と戦っていたという嶋津も苦い表情だった。

とはいえ、全体的には理解の範疇を越えていた。

こんなのあり得ないと言下に否定するのは簡単だが、否定できるだけのものをフェイトは持っていなかった――。

 

まだ茫然としているフェイトだが、そこに森 雪が入室して、煎茶を入れた湯呑みを置いた。

 

「‥‥驚いた?」

「すみません。適当な言葉が見つからなくて‥‥」

 

フェイトは蒼白になったまま頷く。

 

しかし、地球防衛軍側からの説明はまだ続く。

つい最近あった、白色彗星ことガトランティス帝国との戦争だ――。


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