宇宙警備隊長・冴子   作:EF12 1

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星の海に触れた魔法少女たち(“元”を含む)

       ――『ヤマト』艦長室――

 

(これは――‥‥)

 

フェイト・T・ハラオウンは、窓越しに広がる無数の星々や銀河に圧倒され、息を飲んだ。

 

――漆黒の空間にちりばめられた無数の星と銀河。

目を凝らして見れば、『ヤマト』の右には、やや小型ながら芋虫形船体の宇宙船、更には葉巻形の主船体を持つ戦闘艦も併航しているのもわかった。

 

時空管理局の次元航行艦が通常空間に出るのは、各世界――基本的には有人惑星――の周辺のみで、そうでない宇宙空間に出る事は、緊急時を除いてない。

第一、次元航行艦についている肉視窓は非常に小さく、目の前に星の海が広がる様を直に見ることはない。

 

「こういう風に宇宙を見たのは初めてですか?」

 

フェイトをここまで案内してきた岬という女性クルーが尋ねてきた。

年の頃は自分より1~2歳下か。

 

「はい。私達の艦にはこれだけ大きな窓はついていませんので‥‥」

「そうでしたか。責任者が来るまで少し時間がありますから、外をご覧になっても結構ですよ♪」

「ありがとうございます」

 

紅茶を置いた岬が退出していくと、フェイトは前面窓に歩み寄り、外を見下ろした。

 

「やっぱり、正真正銘の戦艦なんだ‥‥」

 

見下ろした先には大小3つの拳骨みたいな三連装砲塔。両サイドにはレーダーらしきアンテナが張り出しており、写真や映画で見た戦艦大和のイメージに重なった。

――やはり、この艦は地球の艦なのだ。

そこまで思いを馳せたところで岬が戻って来て告げる。

 

「お待たせしました。艦長代理と技術長が参りました」

「はい」

 

さあ、いよいよだ。

 

 

‥‥およそ数分後。

 

「――申し訳ないが、我々はずっとここにいるわけにはいかないんだ」

「はい。それは理解しています」

「だからこそ、お互いに実のある会談にしたいと思う」

「同感です」

 

艦長代理兼戦術長の古代と名乗る男性士官から聞かされたその話は、ここに収容されてから予想されていたこと。

 

朝食を終えたフェイトにもたらされたのは、『ヤマト』=地球防衛軍側からの会談申し入れだった。

 

自分達に対する『ヤマト』の待遇に不満はない。

部屋の前に監視役がいるわけでもなく、顔合わせが『尋問』『聴取』ではなくて会談というから、自分達の立場が決して悪いものではないらしい事は理解できた。

ましてや『ヤマト』はれっきとした軍艦。本来の任務が優先なのは当然だ。

ゆえにフェイトの返事は決まっていた。

 

フェイトは地球防衛軍側がこの場に来た理由を知らないし、地球防衛軍側は時空管理局とコンタクトを取らなければならないから、互いに話し合うことは欠かせないのだ。

目下の課題は次のとおり。

 

1.自分達3人の安全の保証と帰還の可能性

 

2.地球防衛軍と、地球という統一国家の事

 

3.エネミーA(ガトランティス)と地球防衛軍が戦闘状態にある理由

 

4.エネミーAの正体

 

――これらの事がはっきりすれば、管理局と地球防衛軍やこの世界の“地球”との共存や交流も可能になるかも知れない。

何より、我々はエネミーAに対抗する術を持ち合わせていないのだ。

 

「部隊指揮官は左隣にいる艦の艦長でね。間もなく回線を繋げる予定だ」

「‥‥はい」

 

――いよいよ部隊長のお出ましか。

どんな人なんだろう?

あのレジアス中将みたいないかつい人なんだろうか?

 

「緊張しなくてもいいよ、ハラオウン執務官。指揮官は女性だから」

「!‥‥そうなんですか」

 

女性の身で艦長と部隊長とは、地球防衛軍にも、義母や親友のような人がいるのか――?

もっとも、フェイトの知る日本でも女性士官が護衛艦の艦長になっているのだから、それほど驚くには当たらないのだが。

その時、ノックとほぼ同時にドアが開かれ、

 

「す、すみませんっ!遅くなりましたっ」

 

若い女性の慌てた声が響き、青い艦内服の女性が入ってきた。

 

「‥‥まだ間に合うから、落ち着いて準備しろ。桐生」

「はっはい!」

(‥‥あ~~‥‥)

 

溜め息混じりな古代の様子から察するに、桐生がドジっ子だという事をフェイトは瞬時に理解したが、桐生はすぐさま端末を立ち上げ、それこそあっという間に環境を整備してみせた。

その手際に、フェイトは内心で舌を巻いた。

 

「『テシオ』との有線回線、接続します」

「ん。‥‥ハラオウン執務官、敬礼はなしで構わないよ」

 

――直後、フェイトの正面に画面が立ち上がり、黒いジャケット姿の女性が映し出されたが、画面の向こうにいるその女性の顔を見た時、フェイトはしばらく呼吸を忘れた。

 

(‥‥‥‥え?)

 

 

 

    ―― 『ヤマト』左舷展望室 ――

 

「――凄いわ‥‥」

「ええ、ホントに凄いです‥‥」

 

執務官補の2人、シャリオ・フィニーノとティアナ・ランスターも、大型の窓一面に広がる無数の星々に圧倒されていた。

 

自分達への“監視”は驚くほど緩かった。

部屋に缶詰めかと思いきや、森船務長から名入りのIDカードを渡され、食堂や展望室、医務室等の生活エリアについては、自由に出入りしてよろしいとさえ言い渡された。

 

ついでに言えば、フェイトのバルディッシュとティアナのクロスミラージュも、最初にチェックされただけで何も聞かれずにすぐ返された。

 

ひと眠りし、意外に口に合った朝食の後、上官のフェイトは地球防衛軍側との会談のため別室に行ったので、手持ち無沙汰になった2人は、行動の自由を保証されている生活エリアの『探検』に出たのだが、行き交う乗組員は、異邦人のはずの自分達を変な目で見るわけでもなく、まるで前からいる乗組員であるかのように会釈してきた。

 

予想外の緩さというか寛大さに拍子抜けしたまま、2人は展望室という場所に来たのだが、超強化ガラスの向こうに広がる光景に驚いた。

 

シャリオもティアナも、フェイトと共に次元航行艦で遠方世界に何度も赴いているが、近くに惑星がない宇宙空間を目にした事はない。

次元航行艦は目的地の惑星までは次元空間を航行し、通常空間に出るのは惑星近くだ。

 

また、船体構造強度の関係で、肉視窓を大きくできないという根本的な事情もあったが、言い変えれば、地球防衛軍の艦船の構造が相当強固なのだろうと、メカ好きのシャリオは解釈した。

 

それを差し置いても『ヤマト』の展望室の窓は大きく、窓際に立てば頭上から足元まで星の海だ。

 

「まさに星の海ですね‥‥」

「うん。本当に海だわ‥‥」

 

2人は、しばらく無言で無限の空間を見つめていた。

 

 

       ――再び艦長室――

 

フェイト・T・ハラオウンは、文字通り固まった。

目の前の画面に映っている女性士官はあまりによく似ていたのだ。母と自分に。

 

右頬に走る傷痕を除けば、彼女の顔立ちは母プレシアの若かりし日を彷彿とさせるものだったし、髪と瞳の色を除けば、10年後の自分と言ってもいいほどよく似ていたのだ。

 

――と、画面の女が口を開いた。

 

『‥‥あー、絶句する気持ちはわかるよ。うん』

 

部隊長らしき女性の第一声がそれだった。


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