兎くんにラブ(エロ)を求めるのは間違っているだろうか   作:ZANKI

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05. 高鳴る! 女神の心のカンパネラ(その1)

 ヘスティアは思う。ベルは少し不思議な子だと。

 夢に夢見る儚い白兎的少年……というところか。

 まともな寝床で睡眠を取れるようになってから、すでに丸一日が過ぎてその次の朝を迎えている。

 その間に白髪な紅い瞳の少年から、彼自身の話をいくつか聞いた。

 その中で英雄に関する数多くの物語を知っていることに驚かされたが、どうも彼はダンジョンに『出会い』を求めているらしい。

 彼曰く、それは『英雄譚』的な何かと言うものの、早い話、女の子に遭いたいということが垣間見える。

 その根幹になっているのが彼を育てた祖父にあるようだ。

 何といっても『ハーレムは男の浪漫として目指さなければいけない』という彼の祖父の考えには女神として同意しかねているが、少年に恥ずかしそうな真っ赤な顔で昨日の夕食時に熱弁されてしまっていた。

 

(ムムムっ、少し心配だよ。今日にでもダンジョンで女の子のお尻を追っかけて行って、後ろからモンスターにバッサリとやられるなんてことはないだろうね……)

 

 そんなことを考えながら眷族として心配に思いつつ、横目で並んでニコニコと歯を磨いている彼へと目線を向ける。

 

「何ですか、神様?」

 

 彼は【ヘスティア・ファミリア】が結成されて三日目の昨日、二回目のダンジョン入りで【ファミリア】へ初めて構成員としての稼ぎをもたらした。報酬は300ヴァリス。

 そして【ステイタス】が上昇していた事で、相手のモンスターの動きが少しゆっくりに見えて、幼少から最もトラウマだったゴブリンを倒して落ち着き、初回に怯えたコボルトも討ち取った。その後は相手のモンスターの様子を良く見えるようになったという。

 報酬を稼げ、それで奮発した夕餉を用意出来たことと、トラウマを克服出来た事で少年のニコニコが昨日の帰宅時から止まらない。

 【ステイタス】も昨晩の更新時にも上昇しており、順風満帆といった感じである。

 

「ううん、何でもないよ」

 

 少年の明るい表情を見ているうちに、ヘスティア自身も自然とニコニコ顔で歯を磨いていた。

 いつしかニコニコな二人の歯磨き動作がシンクロしていく―――。(そして胸がバインバイン♪)

 

 ベルは朝からダンジョンへ、ヘスティアは中四日のバイト先へ向う。

 彼女は朝から夕方前まで働いた。

 そうして、店長のおばちゃんから今日のバイトの給金を受け取る。

 締めて480ヴァリス。

 バイトを始めた慣れない当初は、事故を起こしそうになったが最近の仕事作業は順調だ。

 「ありがとう、おばちゃん」とお礼を言って店舗を後にする。

 ちっこくて胸が大きくツインテールで可愛い幼顔のヘスティアが売り子に立つようになって、露店は繁盛ということでバイト料も少し上がっている。おまけに中四日と今後バイト回数も月に一、二回は増えるのだ。

 

(フフフっ、圧倒的な未来じゃないか、我が【ファミリア】は!)

 

 一人の時と比べ、共働きと言えなくもないこの状況。

 給料袋をチャリチャリ言わせながら、ヘスティアは意気揚々と賑やかな商店が続く繁華街を歩いていった。

 この日、ベルの稼ぎも400ヴァリスと昨日を上回って帰って来た。

 夕食前に更新した彼の【ステイタス】も順調に上昇。

 寝る前にも楽しさでニコニコな二人の歯磨き動作は、早くも完全シンクロし始めていた。(胸も多めにバインバイン♪)

 

 

 

 さらに数日が経過した。

 【ファミリア】として日々の生活資金に余力が少し出来、気持ち小金がザクザクである。

 朝にベッドの中からベルを見送り、昼まで寝ていたヘスティアはゆるりと起き出す。

 のんびりと朝食なんだが……それを昼食にして、午後のティータイムで本を読みつつ寛ぎ楽しむ。

 日が傾き夕暮れが近付き始めた頃、夕餉の買い出しに出かける。ベルには、今日も休みな彼女が準備をすると昨晩すでに伝えていた。

 

(さで、今晩は何がいいかな。……まあ、ベル君も好きなジャガ丸くんは外せないぜ)

 

 そんなことを妙にウキウキと考えつつ、楽しい気分から偶にはと街中をいつもと少し違う経路で進む。

 すると……人通りの中に、若い女の子と歩きながら笑顔で話をしているベルを見つけてしまった。

 女の方は制服姿でエルフ耳……おそらくギルド職員だろうか?

 慌てて脇道に隠れ、二人の様子を窺う。

 

(ムムムっ。ベルく~ん、君は私の知らない所で何をしているんだ~い?)

 

 これが英雄譚的な出会いだと言うのか。イヤ断じて違うと思う。

 だが間もなく、女神のそんなモヤモヤな気分をよそに、ベルはエルフ耳な彼女へぺこぺこすると手を振って別れて行った。その時一瞬垣間見えた女の横顔は、眼鏡付きながら綺麗なエルフ顔の美人だったことを女神さまは見逃さない。

 

(……ベル君……)

 

 なぜか、ホームからここまで軽やかであった足取りが、何かの錘が付いたが如く急に重くなって感じられた。

 ふと、日影になっている商店の陳列窓に小柄な彼女自身の映る姿に目が行った。

 純白ないつものワンピース。これは神衣なのでそう簡単に汚れたり劣化はしない。そして(超神力な)紺のヒモも健在。

 

(……スラリと背の高いエルフの女の子がお好みなのかい……?)

 

 そして、映る姿を見ていて彼女は気が付いた。それは腰に届く漆黒の長い髪を束ねている部分。

 

(おや? 髪留めの紐がくたびれてきてる……かな)

 

 それは少し年期が入りかけている黒い紐。でも、まだ使えるかと考え直す。

 ヘスティアは少し気分転換に、各店の陳列窓内の商品を眺めながら歩く。

 少しすると、歩く速度で流れていく多くの商品の中の一品に目が留まる。

 その店の陳列窓内には何体かの着飾った鑑賞人形(ビスク・ドール)が置かれていた。それらには首飾り等の冒険者用装身具(アクセサリー)も付けられている。

 そのうち一体の鑑賞人形の髪に付けられていた蒼い色の髪留めが気になった。

 だが、それを数秒眺めた後、ヘスティアは夕飯の用もあり立ち去っていく。

 

 

 

 ヘスティアは、買い物を終えてホームの地下室に帰って来た。

 しかし、何故かベルがまだ帰ってきていない。

 

(さっき帰ったんじゃ……あの子は何処へ行ったんだ?)

 

 ベルが【ファミリア】ホームの地下室の扉を開いたのは、昨日より二時間も遅い時間であった。

 

「ベルくーん、何かあったのかい?(正直ニ言イタマエ)」

 

 ヘスティアは、長椅子に座り両肘を木机に付いて組んだ手の甲に顎を乗せ、ジト目でいつもよりずっと元気のない少し低い声で尋ねた。

 加えて、どういう訳か部屋の明かりが、最初に使っていた小さい魔石灯の弱い明かりしか灯いていない……。正直怖い。

 ベルは、夕方に自身の姿を見られたことに気が付いていない。あの後すぐに再びダンジョンに潜っていたのだ。神様が不機嫌なのは、ただ単純に遅くなった事が起因していると勘違いしている。

 

「えっ、す、すみません。いえ、稼ぎが悪かったので時間が掛かっただけです、神様」

「……本当かーい?」

「は、はいぃ。こ、これが今日の稼ぎです」

 

 そう言いつつ、ベルはヘスティアと余り目を合わさない。

 出された金額は550ヴァリス。昨日の650ヴァリスよりも確かに稼ぎが悪い。

 だが、明らかにベルの挙動は不審極まりないものに見える。

 そう彼には、ヘスティアへまだ言えない理由があったのだ。稼ぐことが出来るようになったら世話になった身内に何か返したい……そういう思いである。

 その後の二人は、ぎこちない【ステイタス】の更新に、ぎこちない夕食。

 そして―――

 

 今朝までニコニコだった笑顔も消え、二人のあの完全に揃っていた歯磨き動作が、見る影も無くバラバラになっていた事は言うまでもない……。

 (但し胸はいつもより少し大人しいがバインバインで♪)

 

 

 

つづく

 




2015年06月16日 投稿


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