兎くんにラブ(エロ)を求めるのは間違っているだろうか   作:ZANKI

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注)一部痛々しい表現があります。


16. ダメ神様 と 超越する『魔法』

「べ、ベル………くん………………?」

 

 ベルに向って駆けていた、鎧姿の神様の足は一気に失速し、進む歩も直ぐに止まった。

 そうして崩れる様にガクリと膝を付く。

 共に分かち合う歓喜から、一転する惨劇にヘスティアは絶句する。

 今、目の前で勝利を掴み、彼女へ優しく微笑んでくれていた彼は――その場にもう見えない。

 一瞬、視界の右端を掠めるように消えていた。

 

 前方に見えているのは、狼モンスターの大きな灰白銀で艶のある毛並の背中のみ。

 

 神様は、体を小さくフルフルと震わせつつ、首を45度程右へ少年の飛ばされた方にゆっくりと向ける。

 ベルは、公園北側の石壁をその小柄な体で、盛大にひび割れを伴いつつ穿ってめり込み、その床には血を滴らせていた。

 

 ベルを殴り飛ばした狼モンスターの名は『フロストウルフ』。

 出現階層は――27階層。

 噛付きに氷属性を持つ近接特化型で、『シルバーバック』を遥かに上回る凶悪なモンスターだ。

 円形闘技場の檻に入っていたが、ローブ姿の女に「あら……、貴方もいいわね」と言われここに来ている。

 突然なモンスターの登場に、広場の周辺は一変して大混乱となった。

 ベルへの歓声や祝福を送っていた多くの周辺の人々は、波が引いて行くように再び門戸を閉ざしたり、再度この地を離れようと行動し騒然としている。

 

 下の広場からは、そんな喧騒がここまで届いてきていた。

 上空には遠く広く青空が広がっている。

 広場を一望出来る少し離れた建物の屋根の上から、ローブを纏う『美の女神』はその白髪紅眼の少年に起こった突然の不幸な光景に口許へ笑みを浮かべて語る。

 

「子兎に、狼はやはり相性が悪かったようね。今日はもっと、輝きを見せて欲しかったけど……、少し加減を間違えたかしら……ふふっ。また今度ね」

 

 彼女の今回のイタズラな仕掛けは、もうネタ切れのようである。

 だが、間違えたモノを充てがわれた当の子兎本人は堪ったものではない。

 

 『フロストウルフ』は、一瞬後方にいる神様の方へ振り向くも、自らが殴り飛ばし広場北側の石壁に叩きつけた白髪紅眼な少年ベルの方へ、体をゆっくりと向き直す。

 『美の女神』と共に、建物の上から見ていた少年の強さへの警戒はまだ解かない。

 そして、威嚇の唸り声を上げ始める。

 

『ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーー』

 

 ――少年はまだ生きているのだ。

 

 彼がめり込んだ壁から、砕けた石がいくつも崩れるように落ち始める。

 間もなく叩きつけられていたベルが、体を壁から引き剥がす様に出て来た。

 ヘスティアは、少年が動いている姿に思わず呼びかけるように声を上げる。

 

「べ、ベル君!」

 

 だが、その彼の姿と表情に彼女は固まる。

 ベルは酷くふらついた体に、その表情は激痛へ耐えるように歪んでいた。しかし彼は、神様へ向かって気丈に叫ぶ。

 

「僕は大丈夫です、神様! 危ないですから、こちらには来ないでください!」

 

 少年の姿は、どう見ても大丈夫には見えなかった。

 致命傷な直撃を庇って折れた右手をぶらりと下げ、左足も少し引きずっている。服も鋭く歪に割れていた石の壁面に裂かれズタボロだ。

 おまけに全身打撲で感覚がおかしく、まだ力が思うように入らないのだ。

 ベルは、一瞬目線を床に転がる『神の小刀(ヘスティア・ナイフ)』へと向ける。

 

(くそっ。油断……していた……。ヤツの挙動は見えていたのに―――)

 

 目線を戻した正面にいる狼は、少年の知識にないモンスターのため、一瞬強さが『シルバーバック』に対してどうかと考えてしまったのだ。

 ベルは、初めから持てる全力で行くべきであったと後悔した。

 先程の【ステイタス】更新前なら、何も見えずに死んでいた一撃に思える。

 受けた強力な攻撃力から、『シルバーバック』よりも相当難敵なことが伺えた。

 先程の前足攻撃は右腕で庇わなければ、肋骨ごと右肺を潰され持って行かれていた程の攻撃であった。

 とりあえずベルは、戦闘に邪魔そうな折れてブラついた右腕の手の部分をズボンの背中の内側へと突っ込み固定して少しでも動きやすくする。

 正直、歩くだけでも相当痛いのだ。

 左膝もおかしくなっているようで、現状では走れそうにない。引き摺って歩くのが限界だ。

 それでも――少年の心は折れてはいない。

 

(神様が……見ているんだ。片手、片足でもコイツを倒してやる。『神の小刀』なら多分攻撃は通るはず)

 

 しかし、機会は多くないだろう事は体が訴えていた。

 ――最初の接触に賭ける。

 ベルは落としていた『神の小刀』を慎重にモンスターの様子を窺いつつ左手で拾い上げる。

 漆黒の刀身にあの紫紺の淡い輝きが戻っていく。

 その姿に、ヘスティアは少年に強い闘志が残っていることを知る。

 

(ベル君……もう君は逃げないんだね……。くっ、ボクはどうすれば……)

 

 同じ冒険者として、共にダンジョンに行こうと考えている神様だが、今日は厳しい現実をずっと見せつけられている。

 長い時間を逃げ続ける事も出来ない、スタミナの無い体力。剣どころか包丁もまともに扱えない刀剣オンチ。一転、食事は結構一杯食べるゴクツブシ……。

 ダンジョンではパーティを組む訳だが、このままではベルのお荷物にしかならない気がする。

 

(うわぁ……、ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメ神だぁ………)

 

 彼女はベルの窮地な状況と、自分の役立たずさに頭を抱えてしまう。

 今日は確かに、ベルも経験したことが無い階層のモンスターが相手な様ではある。ヘスティアが足を引っ張っても、今日の所はしょうがない状況だ。

 とは言え今後、6階層まで進んでいるベルに、ヘスティアが加わるとなれば、当分は1、2階層で彼女の【経験値】稼ぎを強いる事になるだろう。

 血の滲む、地道な努力で積み上げていかなければアビリティの熟練度は上昇しないのだ。

 

 ――『楽』をしては『強く』なれない。

 

 当然、Lv.も上がらない。

 それらは冒険者にとっての、厳格とした常識であり決まりである。

 そのことは【ステイタス】更新をする側の、神が一番よく知っていること。当然ヘスティア自身も。

 

(だから――ボクは、『アレ』は使わない)

 

 彼女は、初めからそう決めていた。

 

 

 

 

 ついに『フロストウルフ』が壁際に立っているベルへと飛び掛かっていく。

 

『ガゥッ!』

 

 短く吠える様に彼へ牙を剥いて迫って来た。少年との間は直線で10M程あるが一瞬だ。

 ベルは――避けなかった。

 逆にモンスターへ向かい、カウンターを仕掛ける。

 右足だけで地面を蹴った。上昇した熟練度と、あの加速跳躍力に掛けたのだ。

 常人には目にも止まらぬ速さで、『フロストウルフ』の口許に並ぶ牙を躱しつつ、ヤツの頭の左側に抜けながら空中で体を捻り、仰向けになる形でヤツの太い首元に左手で『神の小刀(ヘスティア・ナイフ)』を突きさす様に叩き込む―――。

 

 ――しかし、残念ながらベルの体は、地面に叩きつけられるように転がっていた。

 

 彼は、一方的に北壁傍から北東の広場の角位置の近くまで飛ばされる。

 『神の小刀』は狼の体に触れることなく、その前に狼の頭が右側に避けつつ溜めを作ると思いっきり反対へ振られ、ベルの側面へ叩きつけてきたのだ。狼の上半身の振りも加わった強烈な一撃になったのである。

 ベルは『神の小刀(ヘスティア・ナイフ)』をまだ握っていたが、吐血していた。内臓のどこかが痛んだらしい。

 それでも、壊れている左膝を立てて、動く右足の力でヨロヨロと立ち上がる。

 右手がズボンから抜けて右腕はぶらんとしており、こちらの出血が結構ひどい。

 そして容赦なく『フロストウルフ』が、ベルの方へ止めを刺そうと一歩一歩近づいて来る。

 ベルが今いる場所は広場の北東の角位置。

 瀕死の子兎は狼によって、完全に追い詰められていた……。

 

 

 

 

「あぁぁ! ベル君っ!!」

 

 ヘスティアは、初めから『アレ』は『使わない』とそう決めていた。

 しかしである。

 

(愛しのベル君が死んじゃうのは……話が違う! もう『使わない』とか、考えてる場合じゃないぃぃぃぃぃ!!)

 

 『フロストウルフ』がベルに止めを刺す為、7M(メルド)程の距離から、角へ追い詰められながらも『神の小刀』を構えるボロボロな少年へと再び飛びかかって行った―――。

 その絶望的な光景に、ヘスティアは呟くように短い言葉を唱える。

 

 

「『ベル君を守れ』、【オーバー・アシスト】―――」

 

 

 《ドール・ヘスティア》の双眼の瞳が輝き出す。

 

 少年は正に追い込まれていた。

 体中が常時強烈に締め付けられるように痛む。右手は感覚がマヒしているのかそれほど痛みは感じないが、腫れて膨れ始めている。意識も痛みの為か霞んでいる感覚で、視界も一回り狭い感じだ。口の中は血の味がする。鉄の苦さだ。

 もはや立っているのがやっとの状態。

 それでも、まだ最後に――食いちぎられる前の刹那に、『神の小刀』で残った全体力を込めて、モンスターの胸部を刺し貫くつもりでいる。

 ベルは、あくまでも勝つつもりでいた。

 

(神様……絶対に一人にはしませんから!)

 

 ベルの、その視野の左側に小さく神様の姿を捉えている紅き瞳に怯えはない。

 彼の凄まじい気迫を感じて、『フロストウルフ』は全力の手加減無しで飛びかかって来た。

 その時、少年の狼を捉えていた視野の端から、ふとヘスティアの立ち姿が消える。

 

(――っ!)

 

 ベルはそれに気付いたが、モンスターが正に迫る今はそれどころではない。

 だが次に一瞬で上から小さな人影が、モンスターとベルとの間の、目の前に着地する。

 そして気が付くと、猛烈に襲い掛かって来た『フロストウルフ』の牙に、二刀の剣をクロスさせて受け止めている神ヘスティアが立っていた。

 

(なっ――!??)

 

 彼女の戦女神な鎧姿なのは変わらないが、背には先程まで見えなかった淡い輝きを放つ白く大きい翼のようなものも薄らと見えている。

 

「ベル君、大丈夫かい?!」

「か、神様!?」

 

 神々しいが――それも込みで色々と何かがオカシイ。

 ベルには状況が良く分からない。

 いきなり、離れた位置に立っていたはずの神様が、目の前で猛獣相手に戦っているのだ。

 加えてヘスティアは、このモンスターの凄い力で襲って来た体当たり的な攻撃を、微動だにせずクロスした二刀の剣で受け切っていた。

 少年の知る一般人並みな神様が、そんなに強いはずがないのだ。

 『フロストウルフ』は弾かれるように、大きく飛んで後退する。

 再度、モンスターはベル達に向かって飛びかかって来るも、ヘスティアの二刀の剣が完全に防ぐ。氷属性の攻撃も金属な剣には通じないようだ。

 数度それを繰り返して、ベルとヘスティア、そして『フロストウルフ』はにらみ合う形で対峙する。

 ベルはここで、ずっと圧倒的な技量で完封劇を見せているヘスティアへ訪ねてみる。

 

「……か、神様」

「何だい、ベル君」

「その……攻撃しないんですか?」

「えっ?」

「いえ、神様が……その、勝てそうな……気がしますけど」

 

 そこで、神様はしばらく沈黙のあと、彼女は剣を両手に持ったまま、頭を抱えた。

 

「しまったぁ! ダメダメじゃないかぁ……今、『守る』ことしか出来ないじゃないか……どうしよう……あと3分ぐらいしかないよ」

「えっ……? 何です、それ」

 

 《魔法》【超越補助(オーバー・アシスト)】は目的指定速効魔法である。

 目的達成にLv.を超えた、動きの底上げがされる。

 だが、有効時間は5分間。そのあとは最低10分間は使用出来ない。

 《ドール・ヘスティア》に発現した魔法らしく、付属の分厚い解説書には記載されていなかった。もしかすると、依代に『超神力な紺のヒモ』を使ったからだろうか。

 

「えっとね……今のボクは《魔法》で『君を守る』ことしかできないんだ……それもあと3分ぐらい」

「えぇぇっ?」

 

 ベルとしては、まだ神様が魔法を使うなど疑問だらけだが、それは後に回す。

 二人は『フロストウルフ』へとそっと顔を向ける。

 

『ヴゥゥゥゥゥゥッーーー!』

 

 すると牙を剥いて威嚇して来る。この狼は、まだまだ元気そうだ。

 残り3分…………どうしよう?

 その時に、口許から僅かに血を流しながらも微笑んでベルは神様へ言ってくれる。

 

「神様はあと3分、防御をお願いします。僕がアイツに突っ込みます。二人で勝ちましょう!」

「べ、ベル君~~♪」

 

 頬を少し染めつつ神様が『初めての共同作業だね♡』と、そう思った時だ。

 

「あと2分も守って頂ければ十分です」

 

 ベル達は、その涼やかな抑揚の少ない落ち着いた声を聴く。

 同時に静かな着地音で、一人の人物がベルらの傍に降り立った。

 それは、槍ほどの長い木の剣を持ちロングブーツを履いて、緑のショートパンツとフード付きのケープを羽織る覆面姿の少女。

 フードの端から一瞬エルフ耳が見えた。

 

「間に合いました。大丈夫ですか、クラネルさん。すみません、探すのに手間取りました。」

 

 聞き覚えのある声と呼び名からベルは気が付く。それが酒場『豊穣の女主人』のウエイトレス従業員のリューだということに。

 その突然な登場に初めは唖然としていた神様だが、『共同作業』を邪魔された事も少し加わり、少年の知り合いがまた美しい姿な事に結構ムッとした表情を作っている。

 その横で傷による苦痛が増してくる中、ベルは問う。

 

「リ、リューさん? ……どうしてこんな危険なところ……に?」

「クラネルさん。貴方は私達が忙しく困っていた朝の時間、代わりにお願いを引き受けてくれました。そして、それをきちんと果たされた。私は、財布を受け取ったシルから、モンスターに追われている貴方を助けて欲しいと頼まれたのです。私達のお願いを引き受けて頂いた中で、災難に巻き込まれたのです。ですから、ここでお助けするのは当然なのです」

「でも、そのモンスター強ぃ――」

「フロストウルフですね。大丈夫です。すぐに倒します」

 

 リューはベル達を置いてその前方へとゆっくり進み出る。

 『フロストウルフ』が、そのリューへ猛然と噛付き攻撃を仕掛けた。

 しかし、彼女はその突進をひらりと右へ躱すと、擦り抜け様に狼の灰白銀の巨体の側面を、右手に持つ木の剣で左斜め下から右斜め上へと切り上げて裂いた。

 

『クゥッン!』

 

 凄まじい衝撃と斬撃に飛ばされ、『フロストウルフ』が悲鳴のような鳴き声を上げつつ、東の石壁に激突する。

 リューは間髪入れず、狼へと木の剣を突き刺した。

 すると、『フロストウルフ』は声を上げる間もなく煙のように消え去り、その紫掛かった色の大きな魔石が鈍い音を石床に響かせ転がった。

 

「……リューさん、冒険者……? つ、強い…………」

 

 この場の神様を襲うモンスターが消えた事と、圧倒的に強いリューの登場に『もう大丈夫だ』と張りつめていた緊張が解けたのか、ベルは唐突にその場へ崩れる様に倒れていく。

 

「べ、ベル君!?」

「クラネルさん?!」

 

 手に握っていた剣を放ってヘスティアが少年を抱き締め、リューが駆け寄るも、ベルがその場で再び目を開けることはなかった。

 その様子を、少し離れた建物の上からフレイヤは静かに見届ける。

 

「ふふっ、絶望的な中でも頑張ったわね。それにやっぱり、この程度で死ぬ子ではなくて安心したわ。また遊びましょう、ベル。まぁ、ヘスティアには少し悪い事をしたわね。……それにしても、ダメなあの子は『アレ』を使って何をする気かしらね」

 

 呟くような言葉を残し、『美の女神』はその場から静かに去って行った。

 

 

 

 

 どれぐらい寝ていたのだろうか。瞼を閉じているベルに意識が戻ってくる。

 周りはとても静かだ。何やら近くに規則的な寝息の音が聞こえて来る。

 ふと頭の中に、モンスターと闘っていたことを思い出した。

 そして倒れる直前までは凄まじい激痛に耐えていたが、今は嘘のように引いていることも。

 少年は反射的に目を一杯に見開く。

 どうやらベッドに寝かされているようだ。

 そして、見慣れた所々隙間の空いた天井に頑丈な石の壁。

 ここは廃墟な教会の地下室。【ヘスティア・ファミリア】のホームであった。

 高い位置へ掛けられている時計を見ると、もう夜の7時を回っていた。

 気が付くと、鎧姿ではないいつもの神様がベルの横へ添い寝するように、同じ掛け毛布の中に可愛い寝顔で眠っていた。

 ベルは少し慌てる。彼女の目を閉じた幼顔が凄く近かったからだ。

 同時に、聞こえていた規則的な寝息の音は、安心しきって休む神様のものだと気付く。

 

「ふふっ……離さないよ……ベル君~、あ~ん……へへっ。……両想い……だぜ……」

 

 彼女の寝顔がデレデレなものに変わっていく。何やら気になる単語もあるが、幸せな夢を見ているのだろう。きっとそうだ。

 少年は、邪魔をしないようにゆっくりと起き上がる。

 すると服が破れていない真面な服に変わっていた。

 

(………………。ありがとうございます、神様)

 

 少年はこれも神様の『純粋な優しさ』だと感謝し、深く考えない事にする。

 ヘスティアの眠る側のベッドの横に、高等回復薬(ハイ・ポーション)の空瓶が転がっていた。神様が以前、【ファミリア】結成のお祝いを貰いにいったおり、ヘファイストスからガメで来て少年には隠していたものだ。

 これのおかげで、右腕の骨折や出血、左足膝の重症部分を含め概ね回復したのだろう。

 ベルは知らないが、あの後すぐ、リューが神様に続いて廃墟な教会の地下室の傍まで少年を運んでくれていた。ヘスティアが、ホームに高等回復薬(ハイ・ポーション)があると告げたからだ。

 最後は【神の恩恵】を受けている《ドール・ヘスティア》がベルを何とか背負って地下室まで帰って来た。あとは『甲斐甲斐しく』神様が頑張って今に至る。

 

(今日を生き延びれて良かった。シルさんとリューさんには凄く助けてもらったけれど。でも、神様を一人にしなくて本当に良かった)

 

 少年は、ヘスティアの寝顔に向かい、静かに笑顔を浮かべる。

 明日にでも『豊穣の女主人』へ行ってお礼を言いにいくつもりだ。

 ベルは静かにベッドから起き出して、夕飯の用意を始めた。

 出来上がった頃に、お腹を空かせた神様が起きて来るだろうと。

 その時に色々な疑問についての答えを、神様から教えてもらおうと少年は思っている。

 

 

 

つづく




2015年07月06日 投稿



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