が、これはこれでアリだと僕は勝手に考えています。それでは、どうぞ宜しくお願いします。
日常
序章
女は停滞していく思考回路を必死に動かして、状況の確認と、脱出口の捜索をしていた。隣には愛する恋人がいる。周りはすすり泣く声であふれかえっている。
数時間前に私は、恋人と遊園地で幸せなひと時をすごしていた。しかし突然なった「シュー」という音と、それと一緒にどこからか吹き出した、薄く麻色がついた煙が全てをぶち壊した。
私は睡魔に襲われ、記憶が途絶えた。
気がつくと私はわずかに窓から漏れる光しかない、薄暗い部屋にいた。そこでは年齢も、性別もよくわからない、謎の人物が、グツグツと煮えている薬液を火にかけていた。
やがて周りで人が起き出す。彼らも私と同じような状況のようで、驚いたり、泣き出したり、それぞれ一様に反応を示している。まるで起きてからずっと状況の整理を冷静にしていた私が異常であるかの様。
その格好を見て私は、私を含めた全員が、猿轡をされており、ロープのようなもので手足を縛られていることに、気づいた。ということはこの部屋は防音がなされていないということがわかった。
逆に私にはそれしか分からない。
(せめてアイツの目的さえわかれば…)と思っていると、彼(彼女)が口を開く。
その内容は、驚くべきものだった。
壱章・平穏
吾輩はロキである。名前はまだない。
じゃねーや。俺の名前はロキ。MSF(魔術特殊部隊)総隊長の推薦を受けて、このMSF隊員養成学校に来た。なぜ隊長と知り合いかという話は長くなっちまうから気になんなら後で個人的に聞いてくれ。
オズリーの1件が起きた次の日、俺はわざわざ休暇を取ってくれたサラと、制服や教科書などの学業品を一揃え買って、MSF隊員養成学校の寮に入寮した。更にその次の日には、博士の手によって俺の聖剣が詳しく調べられた。その結果、予想通りというべきか、俺の太刀は、ヤマタノオロチから出てきた魔力を帯びた鉄を、鍛えて作ったとされる、炎を操り、
因みに最初の使い手はかの有名な
あまりにも有名すぎる剣であるために、文献に記述が残っており、半人半竜の種族としての優秀さに驕り、剣の後継者には自らと同じ半人半竜の強き戦士こそがふさわしいと、所有権の移動条件を定めたらしい。
因みに
とはいえ、
何にせよ、俺は目覚めてから一ヶ月して、MSF隊員養成学校に編入することとなったのである。
チャイムというらしい、授業の開始や終了などを知らせる、鐘が鳴った。
我に帰った俺は、内容はこんなもんでいいか。あとはサラが言ってた敬語ってやつをちゃんと使えば…などと考えながら教室へと向かう。
階段を上って、一年生の階(とさっき職員室で教師って名乗ってたヤツが言ってた。)である4階へ行き、「1―3」と書かれた札が掛かっている部屋の前に行くと「爽やかさ」と「筋骨隆々」の二つの要素を奇跡的に両立させた美形の男が、
「あ、転校生の人ですね。話は聞いています。今日からここが君の教室です。僕は、先程も会いましたね。あなたの担任です。」
声もイケボかよこの野郎。
かくいうロキもイケメン(主人公補正)ではあるのだが、内心舌打ちをする。
その間ぼーっとしていたロキを見て、担任が
「そろそろ入ってクラスのみんなに挨拶してください。」
「わかりました。」
担任と教室に入ると、担任は俺の名前(カタカナ二文字だけだけど)を黒板に書いて、
「今日から新しくクラスメイトになるロキ君です。ロキ君、自己紹介よろしく。」と、前半はみんなに、後半は俺に言う。
「はい。」と返事してから、クラスメイトの方を向いて、
「俺の名前はロキです。MSF総隊長の推薦を受けてこのMSF隊員養成学校に編入してきました。なぜ隊長と知り合いかという話は長いので、興味がある人は、後で個人的に聞きに来てください。以上です。」
「ありがとう。ロキ君に質問がある人は?」と担任が促すと、
「は〜〜〜〜い。せんせー。」という声がする。その横柄な口調に担任教師は、顔をしかめることもせずに、
「どうぞ、ライアー君。」と言う。
「はい。」ライアーと呼ばれた生徒が口を開く。
「君はどんな能力を持ってるから総隊長の推薦を得ることができたのですかぁ?」
下品な口調の質問に俺は丁寧に答えてやる。
「ええっと…まあこの際だから隠さない事にしましょう。俺はどうやら聖剣士というものらしいのです。」
するとライアーは両脇の生徒と顔を見合わせてから、その両隣の生徒と共に大爆笑を始めた。
それがひとしきりして落ち着いてから、ライアーは、「とんだほら吹きもいたもんだな。さぁ、あの「聖剣士」様は何日でこの学校を去る事になるのかね?俺は長めに見積もって十日で退学するのに100ルッコ」
「それではわたくしは…」と、賭けを始めた。
すかさず担任教師が「こら、お前たち何をやって…」と言って諭そうとしたものの、ライアーは、「先生、いいんですか⁇明日から無職になっても?」と脅すと、何もなかったかのように俺の席を案内した。
案内された席に座ると右隣の、メガネをかけて本を読んでいた黒髪黒眼の生徒が、「僕はラオ。よろしくね。」と、少し引っ込み思案な感じで自己紹介をしてきた。
「ああよろしくな。ところであいつらはなんなんだ?」と訊くと、
「貴族出身の生徒達だよ。」と返答が返ってきた。
サラにも、貴族の子供には気をつけるように言われていた。
「君は?違うのか⁇」と問うと、
「ああ、僕はいたって普通の平民さ。」という答え。なんだかこの人とは仲良くなれそうな気がした。
その時授業の予鈴のチャイムが鳴った。
ラオが「次の授業は…剣技か。ロキ君、剣技場へ行こう。」と、時間割を確認して俺に言う。
「ロキって呼び捨てでいいぜ、そんなにかしこまらなくても。」というと、「なら僕のこともラオって呼び捨てにしてね。」という返答。
そして俺たちは剣技場へと駆け出した。
剣技場に着くと、そこにいた担任(剣技の授業担当らしい)に促されて、準備体操をする。
それが終わると、担任が、「ロキ君は剣の心得があるそうだ。そこでどのようなものかテストするためにここにいる生徒の中の数人と模擬戦をしてもらいたいのだが、ロキ君、いいかね?」と言うので、俺も自身の力を試してみたいということもあって、「いいですよ。」と即答した。
「では、誰か手合わせしてみたい者は、いるかね?」と言うと、ライアーの腰巾着の一人が手を挙げる。
「カロン君、やるのかい?」と担任教師が確認すると、カロンというらしい腰巾着1号は、俺に、聖剣を使って戦ってほしいということを言ってきた。もちろん、聖剣士であることを確かめているのだろう。
俺はそれに応えて、右手に魔力と集中力を込めると、綺麗な銀色に煌めく、一振りの太刀が顕れた。
カロンは若干怯んだようだったが、すぐに立ち直り、剣闘をするためのリング(相撲の土俵をもっと広くして、床を木材で葺いたもの。)に入って、自分の、金色に輝く装飾品が柄についているが、素体となっている金属は鈍く闇色に光っている、俺の太刀とは対照的な両刃の両手剣を抜く。
俺も太刀を構える。
担任教師が掛ける「始め」の合図と同時に、俺とカロンの時は、ゆっくりになる。
先手必勝とばかりに踏み込んで勢いと共に右上から左下に斬り下ろす。それをカロンは剣をぶつけて防ぐと同時に若干間合いを開けて反時計回りに剣を回して俺の太刀を絡め、右下に下ろす。そこから尖った剣尖で俺に突きかかってくる。
俺が横に転がってかわすと、瞬時に逆手に持ち替えて剣を振り下ろしてくる。
それを見た俺は一瞬早く、右手だけで太刀を強引に振りはらい、空いているカロンの足元を払う。カロンは真上に飛んで、縄跳びの様に回避。そして剣を構えたかと思うと、その刃に、闇色の光が宿る。本能的にそこから飛び退くと、明らかに物理法則を無視した加速で、剣を先端に急落下し、一瞬前まで俺がいたところの地面を貫く。だがその技は相手を確実に仕留められる時のみにしか使えない。大剣とカロン自身の体重、謎の加速による運動エネルギーこれらが組み合わさった技は、大剣の、切っ先から四分の一ほどを木で葺かれた床に、埋めてしまった。
好機と思って俺は斬りかかる。しかしこの行動を取らせることこそがカロンの狙いだった。剣の刃に再び光が宿る。俺はマズイと悟るがもう止まれない。相手に太刀の剣尖が刺さるその数瞬前に、これもまた物理法則的にありえない加速を成し、剣を持つカロンの両手を軸にして、円を描く様に剣先が上がる。だが俺も負けるわけにはいかない。上がった刃に十字方向に刀を振り下ろす。太刀は軋み、相手の大剣の速度も2割ほどは減衰するものの完全に止まりはしない。だが俺の狙いは剣を止めることではなくむしろ逆。
アイススケートでは、薄い刃の上にバランスをとって人が立つ。それと同じ様に俺は、刃の上に刃をおき、その上にバランスを取って乗ったのだ。そして刃ごしに伝わった運動エネルギーはおのずと俺を空中へと押し上げる。俺は空中で回転して軌道を制御してカロンの後ろに降り立つ。振り返ってカロンの背中に、上段から太刀を振り下ろす。
そしてカロンの背中に太刀が触れる寸前のことだった。カロンの背中から、赤黒い、闇で出来た暗黒色の翼が吹き出した。
それは俺の紅い翼の色違いに見えた。
「⁉︎」俺は咄嗟にカロンの背後から飛び退く。
驚いている俺の顔を見て、カロンが薄く笑う。その顔は「貴族」のカロンではなく、人間離れした「ナニ」かという表情であった。
「驚いているのだろう?『悪神』にして、『断罪神』ロキよ。無理もない。私はそなたと対となる存在、オリンポス12神に味方する、『善神』にして、『赦免神』なのだから。そなたを下すため、そなたに似て非なる力を得た。私にはそなたを倒す力がある。かかってこい。さもなくばこの邪剣の餌食となるぞ?」
そう言って剣をチラチラと動かして俺を煽る。
ギャラリーである、ラオや、担任教師達の方を見ると、動きが止まっている。
カロンが、「仲間に助けを求めても同じだぞ?この空間は、『時空神』クロノスの力で、時空が切り離されている。気づかなかったか?」と、幼子に教えるように言う。
ならばもはや斬るのみ。と俺は刀身に焔を宿らせ、再度斬りかかる。
カロンは翼を使って空中に逃れる。
それを追って俺は紅い炎の翼を顕して翔ぶ。そこからの剣戟はますます加速していく。もはや一々考えずに、流れで相手の刃を防ぎ、その合間に自らの剣を打ち込む。
本来ならばありえない速度。しかし俺は竜の血が流れているために追いつける。カロンは…むしろ薄笑いを浮かべる余裕すら見せている。
そして、俺が剣尖で相手の心臓を突こうと太刀を右手だけで持って、引き絞ったその時だった。
俺の太刀の刀身に鮮やかな紅い光が宿り、俺の意思とは関係なく、高速で突きを繰り出す。
左から右へ5回、上から下へ5回。それぞれ命中したところには、鮮紅色の光点が残る。それぞれ3つ目は同じところを突き、交わる。こうして9つの点が、カロンの腹部に刻まれる。そしてその十字の上をなぞるように、十字に斬る。
その交点を、まずは斜め上に突き上げる。カロンの身体が、翼の推力とは無関係に浮かび上がる。その交点を今度は斜め下に打ち落とす。その際に俺は、「
カロンはもはや制動などできず、吹き飛び、わりと離れた地面に墜落する、その寸前、十字の傷跡から、炎が噴き出した。カロンの腹部は当然焼けただれている。
が、「ハハハハッハハハハハハハハハハハッ!」と、唐突に笑い始めた。
「未覚醒でこの実力か。面白い。待っておいてやろう。天界で待つぞ『悪神』ロキよ。」
そう言ってカロンは、黒い灰となってどこかへと消えた。それと同時に時空がつながった。
そして…
この世界から、カロンという人間がいたという証が消えた。
To be continued…
どうでしたか?
感想を教えてください。なにぶん書いたのが昨年度なので、みなさまの感想(主に批判)を取り入れてもっともっといい作品にしていきたいと、小人は考えておりまする。それではまた会う日まで、さようなら〜