神々の狂乱   作:初代小人

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今日の投稿です。遅くなってしまってすみません。
ではどうぞ


藤色

第5分隊に勝利したサラ達を次に襲ったのは、「一匹狼(ローン・ウルフ)」や「孤高の狙撃手」などの異名を持つ藤色の雷撃使い、ライグだった。

ライグの戦闘の特徴は、多彩な雷撃によって相手を振り回す事と、度を過ぎたほど精密な狙撃、そして速すぎる弾速であるが、これらは全て些事でしかない。

そのような魔術師は過去にも存在し、また、努力すればなることが出来るからである。

それならば何が彼の強みなのかというと、独自魔術による一斉掃射であった。

彼は標的を見つけてすぐには攻撃をしない。

彼の一撃目は必ず上空に放物線を描かせて、その術式を設置するものだからである。

その術式はライグの任意の位置に正確に設置される。

そしてライグの指示を受け、敵を殲滅すべく雷撃を連続で打ち出す。

 

 

 

サラがライグの存在に気づいた時、彼は既に独自術式を射出し、第1分隊を包囲していた。

そして次の瞬間、第1分隊を圧倒的射撃数の雷撃の嵐が襲う。

それらの一撃一撃はそれぞれ一撃で相手を死亡、あるいは最低でも失神させる威力をもっている。

包囲、殲滅。この戦法に第1分隊は大いに苦しめられてきた。「これまでは」

この時のためのカロンである。

サラは即座に彼に指示を出す。

カロンはかねてから用意してあった、「呑闇(アベイラー・シャドウ)」を発動させる。

この魔術は効果範囲内の魔力と術式、及び魔術によって作られたものを呑み込み、そしてカロン自身の魔力に変換する。

当然全て範囲内にあったライグの術式は飲み込まれ、破壊される。

あっという間にライグはいわば丸腰の状態になってしまったのだ。

そしてその後、サラはライグに凍結魔術を絶え間なく打ち込み続けた。

ライグはその対処に追われて撤退することが出来ない。

数回自らを電子の粒に変換して逃走しようとしたものの、その度にサラが的確に電子同士を分けるように氷弾を打ち込み、それを阻止する。

そして第1分隊は二つに分かれ、クィンド率いる別働隊はライグを挟み撃ちにするようにライグの背後に回る。

そして二つの部隊はそれぞれライグから見て横に広がり、その両端はお互いに近づいてやがて合流し、第1分隊はライグを包囲する。

そこからライグは数十人もの隊員達の攻撃を一斉に受け、MSF分隊対抗戦の舞台から下りることとなった。

 

 

 

第1分隊は元来最強と呼ばれている隊である。

そのため脅威となる敵はとても少なく、攻撃してくる敵は一方的に殲滅することが出来る。

楽に生き残っていたが、その眼前にいよいよ永遠のライバルであるグラウンとグロウドが率いる第2分隊が現れる。

彼らとは分隊同士の集団戦を行わなければならない。

サラは通信術式ではなく、拡声魔術を用いて声を張り、気合を入れて指示を出す。

「第二分隊を確認!射撃部隊!用意!」

幾多もの術式が準備される。

「撃て!」

朱、群青、鶯、闇、暗紫etc、etc…

カラフルな弾幕が空を覆い、第二分隊へと殺到する。

しかしそれらは全て不可視の純粋な魔力の塊で出来た障壁にすべて防がれる。

今度はこちらの番とばかりに今度は第二分隊から第1分隊へと様々な術が殺到する。

無論どれも人ひとりが簡単に殺されてしまうようなものである。

サラは大空に向かって、レイピアを時計回りに回す。

あたかも上空の大気を掻き回すかのごとく、最初はゆっくりと、そしてだんだんと早くなり、それに伴って太陽が輝いていて蜃気楼すら発生している空は鈍い灰色の雲に覆われていく。

そしてやがて雪が降り始めて風が強くなり、激しい吹雪となった。

その吹雪は雪の混じった竜巻のようになり、飛来した術式すべてを飲み込んで互いに衝突させ、無効化する。

これらの一連の流れは毎度行っている、こちらの実力を誇示するためのものである。

これが終わると同時に戦闘は開始する。

その証拠に「突撃!」という声とともに隊列を組んだ第二分隊がこちらに向かってくる。

いよいよ白兵戦が始まる。

お互いの隊長は最初、隊員達に指示を出し、陣形や戦略を考える。

しかしある程度戦闘が佳境に入ると、各々出陣し、戦場の真ん中で切り結ぶ。

戦場を突っ切るわけだから当然大将の首を取ろうとする不届きものもいるが、大抵そういう者は隊長直々に手を下されて早めに脱落する。

そしてグラウン・グロウド兄弟とサラは出会い、苛烈な戦闘は始まる。

 

グロウドが飛ばした大岩をサラが砕き、そのままレイピアで貫こうとするエネルギーをグラウンが泥で完全に殺す。しかし突風を伴った刺突は泥を弾きグラウンの視界を奪う。それを利用してサラは頭上から大きな氷をグラウンに落として圧殺しようとするもそれは地面から生えた鋭い岩で防がれてしまう。

他者が割り込むことが出来ないMSF最高クラスの戦闘にサラは知らず知らずのうちに薄く笑みを浮かべている。

海底のような冷たく、静かな超然的集中の境地で、サラの心は徐々に熱く煮えたぎっていく。

そしてその熱気は、凍てついた鎧すらも一時的に融かしてしまうのだった。

それによる変化は唐突に訪れる。

 

 

グロウドが小さな弾丸のような石礫を飛ばしてきたので、レイピアで突いて砕こうとしたその時、氷で出来たレイピアが高圧で噴射された水の刃となっていた。

鎧はというと流れる水をたたえた、やはり元々のものになっていた。

石礫は破壊できたものの、やはりレイピアとは扱いに違いがあり、そして本来の武器であった水刃を使うのにもブランクがあったこと、何よりも動揺した事によって、本来の実力が出せず、グロウドのハンマーで剣を弾かれ、同時に粗く削られた岩のナイフが数え切れないほどに飛んでくる。

(ああ、これは負けたわね…)

そう思った時だった。目が回るような感覚とともに視界が暗転する。

一瞬の後、視界が戻った時、そこは蒼い海底のような場所だった。

周りは氷に覆われているが、前方には体は虎、四肢は馬の化物がいた。

そしてその化け物は名乗った。

「我が名は虎馬。そなたの心に棲みついた怪異だ」と…

 

To be continued…




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