輝夜という、どこかで聞いたことのあるような名前の美少女に(無理矢理)連れられ、竹林の中へと足を踏み入れていた。
「はぁ、はぁ、はぁ」
少女とは思えないぐらいの強い力で、おれの腕を掴みながら走る輝夜。
お爺様が!?……とか言ってたし何かあったのだろうか。もし悪いことがあったとしたら十中八九あの変態の仕業だろう。
う~む……それだとなんだか、あのとき仕留め損なった事に、申し訳なくなってきたぞ……
仕方無い、整地の事もあるが、お爺様とやらの捜索を手伝うことにしよう。さっきから輝夜、竹林の中でウロウロして、全然見つかる気配がないしな。
そう考えたおれは目に霊力を集中する。これで少しは視力が上がって、捜索しやすく…………あれ、彼処の方に、お爺様らしき人が倒れてるんだけど……今のおれの決心を返せ。あっさり見つかりすぎだろ……
「おい、もしかして彼処に倒れてるのが、お前が探しているやつか?」
「え?何処にいるの!?」
そう言って輝夜は辺りをキョロキョロと見回す。
あれ、こいつ見えないのか?
まあいいや、今は視力について考えている場合じゃない。
そう判断したおれは、先程まで走っていた方向の少し斜めに走り出す。
「あ……ちょっと待ってよ!」
おれが走り出すとともに輝夜もつられて走る。
今回は緊急を要する事態では無さそうだ。外傷は見る限りでは見当たらないし、呼吸も安定している。
遠くからじゃそれぐらいしかわからないが、たぶん無事だ。
そう思いながら走っていると、ある疑問が浮かび上がってくる。
……あれ、おじさんとの距離、中々遠くない?
走って漸く気付いた。霊力で強化した足で走っているのに、まだおじさんとの距離は縮まらない。
なんか距離感が掴めないぞ……
おかしいと思ったおれは目に集中していた霊力を解いてみる。
すると______
「うわ、全然見えねぇ……」
おじさんが倒れている方角は奥の方が竹の影で薄暗く、霊力なしの視力じゃ全然見えなかった。
……すげぇな、霊力。どんだけ水増ししてくれてんだよ。
思えばおれって、結構霊力に依存しているな。霊力剣やら霊弾やら身体強化やら照明やら……もし、霊力が扱えなかったらおれ、ここまで生きてこられなかったかもしれない。
そういえば霊力が使えるようになったのって……ツクヨミ様がなんか概念やらを無くしてくれた時からか。
なんだ、ツクヨミ様のお陰か。何気に重要な事してくれてたんだなぁ……あ、これはもう敬うしかないな。ツクヨミ様ありがとう!
「おっと、やっとか」
霊力の便利さと、ツクヨミ様への感謝を改めて感じていると、おじさんを目視できるくらいの距離まで近づいていた。
その姿を見るやいなや、後ろで走っていた輝夜は走る速度を上げ、おれを越し、おじさんの元へとたどり着く。
……あれ?今おれの足、霊力で強化されてんのになんで越されたんだ?
いや、今はそんなことを考えてる場合じゃないな。
「お爺様!私です!」
うつ伏せに倒れているおじさんを、仰向けにして顔を近づけながら応答を求める輝夜。
「大丈夫だ。たぶん寝ているだけだろ」
輝夜よりちょっと遅れて到着したおれはおじさんの腕をとり、脈を確認しながら安心させるように言う。
よし、脈も安定してる。おそらく驚いて気絶したんだろう。
「ほんと!ほんとなの!?」
さっきから煩いな……まあ、知り合いの安否がわからなかったから、慌てるのも無理もないけど。
「よかったぁ~」ヘタッ
肩の荷が降りたかのように、尻餅をつく輝夜。どうやら、本当にこのおじさんの事を心配していたらしい。
「取り敢えず、このおじさんを運ぼう。地べたで寝させるよりかはましだろうからな」
「あ、うん、わかったわ」
やっと落ち着きを取り戻した輝夜は、1度深呼吸をし、呼吸を整え、その場に立ち上がる。
それに続きおれはおじさんをおぶりながら立つ。
見かけによらず重いな、このおじさん。
「私が持とうか……?」
「いや、いい。こういうのは男の仕事だ」
これでこいつに持たせたら、こいつはなにやってんだ、女の子に持たせて、と近所の人に言われるかもしれない。近所の人が見ていなくても、おれが同じことを自分で言う。
「ありがとう……見ず知らずなのに、こんなことまでさせてしまって……」
「なに、人が倒れているのを助けるのは当然の事だろ。お前が気にすることじゃない」
あ、いまおれ、かっこいいこと言った。
『ありきたり、20点』
げっ、起きてきやがったか。
『ふあぁ、起きた直後に臭い台詞聞かされたので、また眠たくなりました。お休みなさい』
翠、お前それ、ただ二度寝したいだけなんじゃないのか?
「それじゃあ、うちまで案内するわ」
「あ、うん、わかった」
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~道中《竹林》~
「ねぇ、そういえば貴方の名前を聞いてなかったんだけど……」
竹林を二人で歩いていると輝夜がそんなことを聞いてきた。
「あ?いってなかったっけ?」
「うん」
そうか、言ってなかったか。
なんか慌ただしかったから言うのを忘れていたな。
「ん~とだな、おれは熊口生斗だ。頭にかけてるのはグラサンと言って、目を保護するのに役立つ道具だ」
「熊口、生斗……?」
おれが名乗ると、輝夜は怪訝な顔つきとなり、急に手で顎を撫でながら考え始めた。
……ん?確かに熊口生斗ってここじゃ少し珍しい名かもしれないが、そんなに考え込むほどか?
「どうした?」
「え?あ、いや、どこかで聞いたことのあるような名前だなぁっておもって」
「そうか?おれが言うのもなんだけど、熊口生斗って名前、そんなにいないと思うぞ」
「いや、そういうのじゃなくて……」
う~む、なんだろうかなぁ。もしかして妖怪の山での噂がここまで広がってたりしてな。
『目撃!人間が妖怪と共同生活!?』的な。……ないな。まず、妖怪の山に普通の人間が入って無事で済むとは思えない。鬼に見つかれば玩具として遊ばれ、天狗に見つかれば問答無用で殺されるだろう。河童は……なんとか生きられそうだな。尻子玉をとられなければの話だけどな。
「まあ、いいわ。そんなことを今考えても仕方のないことだわ。それよりも今は生斗に礼を言わないと」
「……さっきも言ったが、おれは当たり前の事をしているだけだぞ」
いや、実は違うんだけどな。礼を言われたらつい調子に乗ってしまって、失言してしまうのが怖いからだ。特にこんな美少女に礼なんか言われたら、十中八九だらしない顔になるだろう。
今はこの美少女には、『優しくて強いお兄さん』という印象を持ってもらうことが大事だ。
ん?そんな印象を持たせてなんになるのかだって?
あるさ、きっとなにかある、はず。
逆に人に良い印象を持ってもらいたい事の何が悪いんだ。確かに、周りの顔ばかりを伺って自分を見失う奴もいるだろう。だからどうした、それも人付き合いを上手く渡るために必要なスキルだろ。見失ってしまうと言うなら、人付き合い以外の所で頑張れば良い。まず、自分を見失わないようにするには、これなら他の奴に負けない、っていった特技を見つけることが大事なんだ。絵を描いたり、勉強したり、運動したりして身につけ、自分にとって誇りと言えるものとしていく。そうすれば自ずと________
あれ、おれはさっきから何を考えてんだ?
いかんいかん、完全に脱線していた。なにが、自分を見失うだ、今そんなこと全然関係ないじゃん。
こんな講釈垂れたが、結局はただ、美少女に良いかっこを見せたいだけだし。
仕方無いだろ、思春期なんだから。
……ん、思春期なんてとっくに過ぎてるだろ、だって?
ばーか、おれは永遠の17歳なんだよ。
本当は、これまで会った美少女達にも同じように、カッコつけたかったが、出会いが出会いなだけに、本性をすぐにバレるし……弓突きつけられたり、土から出てきたところをみられたりとか。
「いい人なのね」
はいきたー、いい人なのね発言きましたー。これまで、散々駄目人間とか阿呆とか変態とか言われ続けて、悪口耐性のついてしまったおれに、ついに良い人イメージを付着させることが出来たぞ!
「そ、そうかぁ?」ピクッ
あ、駄目だ、顔が腑抜けていく感覚がする。
それに気付いたおれは、咄嗟に左手で顔を覆う。
……ふぅ、悪い癖だ。ここであんな顔を見せたら、これまでの苦労が水の泡だ。これまで、あの顔で褒められたことなんて1度としてないからな。皆引くんだよ、何故か。
……おっと、左手を離したせいで、おじさんの体勢がずれてしまったな。戻さないと……
「それで、なんでおじさんが倒れていたのか、聞かせてくれないか?」
大体の予想はつくが、輝夜の家に着くまでの時間稼ぎにはなるだろう。
「うん……私とお爺様で竹を取っていた時にね______」
それから輝夜に聞かされたのは、ほんと、想像通りの展開だった。
おじさんと輝夜が竹取りに出掛けていた最中に、あの変態と遭遇。
輝夜の容姿に惚れたあいつは求婚を要求。それを断ったら、おじさんを気絶させたあと、輝夜を連れ去ろうと追いかけて、おれのところまで来たそうな。
てか、あいつロリショタ選だったじゃねーか。なんで輝夜を狙ったんだよ。もしかして100年の間に趣味でも変わったのか?それか、輝夜があまりにも凄い容姿だったから、変わったのか。
まあ、あいつの趣味なんてどうでも良いか。グラマーな女性が好きなおれとは、一生分かり合えないだろうし。
……はあ、久しぶりに永琳さんの胸にダイブしたい……着地まで成功したことはないんだけど。いつも直前で後頭部に肘打ちを食らわされる。
「うっ、なんか悪寒がしたんだけど……」
「気のせいだろ」
女って凄い。久しぶりに邪な事考えたら、すぐに察知されたよ。
なんかセンサーでも持ってるんじゃないか?
「ん?あれか?輝夜の家って」
「あ、そうよ。ちょっとお婆様を呼んでくるわ」
女の恐ろしさに若干ビビっていると、おれが今住んでいる家と、同じぐらいの大きさの家が見えてきた。
その家を見ると輝夜は、お婆様とやらを呼びに走り出して行った。
無事におじさんを届けたあと、おれはおばさんにお礼を言われながら、山を下りた。輝夜の住んでいる家が山にあったからな。
そして家に着くと、家の前に顔を真っ赤にした村長の使いからこっぴどく怒られた。
……あの平地、クレーターだらけにしたままだったな。
明日までに直さないと。