東方生還録   作:エゾ末

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③話 変態よ、また性懲りもなく……

 

『今回は見逃すけど、今度あったら覚悟しなさい!』

 

 

2ヶ月程前、紫がそんなことを言って、スキマの中に入って姿を消した。

まるで嵐のように去っていった紫だったが、嫌な嵐ではなかったとおれは思う。

何故なら、いずれ大妖怪になるであろうあいつに、借りを作れたからだ。

あいつはあんなことを言ったがおれに恩を感じているはずだ。だって飢えているところを助けたんだからな。おれの備蓄していた食糧の大半を、平らげたんだ。干し肉だけのつもりがね……もしあんなに食べたのに恩を感じないなんてないはず。

もし恩を感じていないのならあいつは人間じゃない。……いや、あいつ妖怪か……

ん、なに?恩着せがましいだって?……なに言ってるんだ。少しでもおれの生存率を下げる危険因子を減らすためならなんでもするぞ。

 

 

 

「熊口さん、それじゃあ今日もよろしくね。はいこれ、道具はここに置いとくから」

 

「はい、わかりました。今日はこの辺りの雑草の処理を済ませればいいんですね?」

 

 

そして現在、おれはある村で暮らしている。

紫のお陰で食糧難になったおれを養ってくれた良い村だ。

村長が村に貢献することを条件にと2年程の滞在を許してくれたので、おれはその条件を飲むことに。今では空き家を貸してもらい、村長の使いから頼まれる依頼をこなしていく毎日だ。

本当は家でずっとごろごろしたいのだが、流石にそれだと村から追い出されそうなので、態度には出さないが、渋々と依頼をこなす。

 

それで今日は畑にする平地の草刈り。今日はいつもより面倒らしいが、普通の人と違って霊力を操作できるおれにとっては、()()()()面倒な作業ではない。

……まあ、だからといって面倒な事には限りないだけどな。

 

「はあ……」

 

家から出ていく村長の使いを見送った後、おれはため息をする。

神子達の屋敷から出て、なんだかおれ、だらける事が出来る機会が少なくなってる。

まあ、代わりに健康的な生活を送れて、戦うときに必要な体力もつけることが出来るから良いんだけど……それでもおれはだらける時間が欲しい。一日中布団の上で過ごす生活がしたい。

現に翠は今、おれの中でのうのうと寝ている。たまにはおれの代わりに働けっての……

 

 

「でも、やるしかないよなぁ」

 

 

翠に文句を言っても、あいつは昼間外に出ることが出来ない。夕飯を作ってくれるだけましか。翠の飯、何気に美味いし。

それならば、さっさと済ませた方が良いだろう。この村に住まわせてもらってる分、働かなきゃいけないし、面倒事は先に済ませたいしな。

そう思いおれは玄関にある靴を履き、外に出ることにする。

 

確か、村外れにある竹林の右辺りって言ってたよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ここか。」

 

 

確かに雑草が凄いな。確かに近くに川が流れてるし、土地も申し分ないぐらいの広さはある。

 

 

「いや、これ。全部おれにやらせる気なのか……」

 

 

広さは申し分ない。と言うことは、その申し分ない広さのある土地の整地をおれ一人でしなければならないということだ。

爆散霊弾で辺りを爆破してもいいんだけど、それだと爆破音とかで村の人達が騒ぎになるかもしれないし……

 

いっそのこと焼き払うか?……いやいや、それは流石に駄目か。そんなことしたら隣の竹林に燃え移るかもしれないし。

 

 

「きゃあぁぁ!!」

 

 

と、草刈りをどういう風にすればいいか考えていると、悲鳴が聞こえてきた。

なんだ?割りと近く……というより竹林の方から女の子の悲鳴が聞こえたんだけど……

 

ん~、なんだか面倒な事が起こる予感。でも聞いてしまったからには、助けないと駄目か。

そう思っていると、悲鳴がどんどん近づいてきて、ついに、その発声源である女の子の姿が見てとれた。

 

 

「なんで追いかけてくるのよ!?あっちにいって!」

 

「何を言ってるんだい!君のような大和撫子を、この僕が逃がすと思うかい?君はこれから僕の嫁として毎日良い思いをするんだ!」

 

「…………」

 

 

竹林から出てきたのは、必死で逃げる少女と、前に1度、会ったことのある変態だった。

 

 

「おっほ~い!捕まえたぞ!ほーれ、大人しくするんだ!」

 

「うぅ……どうしてこんな目に……誰か……あぐっ!?」

 

 

彼方はおれに気づいていないようで、変態が少女を捕まえ、少女が抵抗しようとしたがそれを変態が押さえ、手刀で気絶させた。

 

 

…………うん、爆散霊弾を使う機会がでてきたようだ。

 

 

「……」トントン

 

「ん?なんだい?今僕は忙しいんだ…………あ」

 

 

変態が少女を連れ去ろうとしているので、無言で肩を叩いてみる。

すると漸く気づいた変態はおれを見るなり顔を青くさせた。

まあ、おれというよりおれの後ろに配置している爆散霊弾に青くさせているんだろうが。

 

 

「な、なんで君がここに……?」

 

「さあな。それよりもお前、今何担いでんの?」

 

「ははは……迷子になった少女を保護しようとしただけさ」

 

「……はは、おれ、さっきの一部始終見てたぞ。嫁にするんだってな」

 

「うん……は!?」

 

「……」

 

「……」ダラダラ

 

 

暫しの沈黙が続く。そして5秒ほど過ぎた瞬間____

 

 

「……!!」ブウゥゥゥン!!

 

「……!!」バアァァァン!!

 

 

変態が少女を置いて音になって逃げるのと、おれが爆散霊弾を地面に着弾させたのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ちっ、逃げられたか」

 

 

結局あと少しの所で変態を逃がしてしまった。

ほんと、逃げ足の速い奴め……

まあ、お陰でこの辺りはクレーターだらけになり、草1つとして残さない地帯になったからよしとしよう。後は平地にするようにすれば今日の仕事は終わりだ。

 

取り敢えず襲われていた少女の所へ行こう。もう起きているだろうか?

 

 

「……」スゥ…スゥ…

 

「まだ寝てんのか……」

 

 

倒れている少女の所へと戻ると、寝息をたて、寝ていた。

はあ……起こすか。ここに寝られたら困るし、風邪引くだろう。

と、少女の顔を改めてみる。

 

うおい、かなりの美少女じゃないか。

この前会った紫もかなりの美少女だったが、この少女はまた別な、純粋な美を求めた極地的な容姿をしている。例えるなら大和撫子の更に上をいった存在。

人形のように整った顔、土で汚れていても尚、その美しさは顕在で、逆にその汚れが美しさを際立たせている。

 

……確かに幼女好きなあの変態が成人とはまだ言えないが、中学生位の年頃のこの少女を嫁にするっていうのも頷けるな。

 

ま、それはおれには関係ないけど。

 

そしておれは寝ている少女の目の前まで行き、容赦なく頬をぺしぺしと叩いた。

 

 

「おーい、起きろー」ペシペシ

 

「……う……む……」

 

 

中々起きないな。……少し力を込めるか。

 

 

「風邪引くぞ」ベシベシ

 

「…………痛い!?」バッ!

 

 

お、漸く起きたか。

 

 

「何すんのよ、あんた!」

 

 

と、怒り心頭な少女。透き通るような白い頬は、おれに往復ビンタを受け、少し赤くなっている。

 

 

「いやそりゃお前、ここで寝ていたからだろ」

 

「は?寝てたって……あ!」

 

 

そして少女は何かを思い出したようで、途端に震えだした。

 

 

「たしか私は……あのとき、変態に襲われて……」

 

 

そう呟きながら少女は辺りを見回す。おそらく、あの変態が近くにいないか探してるんだろう。 

 

 

「安心しろ、あの変態は追っ払ったから」

 

 

しかし、少女は安心する様子もなく、呆然と立ち尽くしていた。

ん?なんだ?

疑問に思い、おれも辺りを見回して見ると……

 

 

「あー……」

 

 

辺りがおれの放った爆散霊弾でクレーターだらけになっていたことを忘れてたな……

 

 

「と、取り敢えずこの事は気にしないでくれ」

 

「寝ている間にこんなになってるのに、気にしないなんて出来るはずがないじゃない……」

 

 

それもそうだ。おれも起きたら辺りがこんなになってたら同じ反応をするだろうな。

 

 

「ま、まあさっきもいったがあの変態は追っ払ったから」

 

「そうなの?」

 

 

と、此方に顔を向ける少女。

 

 

「ああ、その時にちょっとここらいったいをこんなにしてしまったけどな」

 

「これ、貴方がやったのね……」

 

「まあな。んで、なんでお前……」

 

「お前ではないわ。輝夜っていうちゃんとした名前があるわ」

 

 

輝夜?輝夜って名前、前に何回か聞いたことがあるような……まあいいや。

 

 

「んで、なんで輝夜は追いかけられてたんだ?まあ大体はわかるけど」

 

「……!!そういえば!?」

 

 

と、急に慌て出す輝夜。なんだ?

 

 

「お爺様が大変なの!一緒に来て!」

 

 

そう言うと輝夜はおれの腕を掴んで竹林の方へ走り出す。

お爺様?誰だろうか……いや、それより……

 

 

「あ、ちょっ、なんでおれを引っ張るんだよ!」

 

「ちょっと!抵抗しないでよ!黙ってついてきて!」

 

 

 

いやいや、なんか余計な仕事が起きそうなことをなんで態々おれがしなければならないんだよ……

 

 

 

 

 

 




何気に輝夜さん登場です。

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