東方生還録   作:エゾ末

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5章 【スキマ・輝夜姫との交流】
①話 なんだこの頭のおかしい金髪ロリは!


 

 

 ~浜辺~

 

 

  ザザアアーー……

 

 

 

「海、綺麗だな」

 

『……そうですね』

 

 

 神子らの屋敷から出てからもう100年以上経つ。

 旅に支度した分の食糧はとうに尽き、今では村を転々として回り、労働力と引き換えに食糧を分けてもらい、飢えをしのいできた。

 

 そして今、翠の当初の目的である海に来ている。

 

 が、ハイテンションになることは決してなかった。

 なんでだと思う?神子達と別れたから?いや、それはもう百何十年という気の遠くなるような年月の中で緩和されてきている。

 

 ならなぜか。その答えは後ろにいるやつが知っている。

 

 

「さあ!私と正々堂々戦って食われるか、それとも戦わずして怯えて逃げた挙げ句食われるか、どちらか好きな方を選びなさい!」

 

「……」

 

 

 この辺りに海があるという情報を入手したおれは翠に行ってくれとせがまれたので仕方なく行くことになったのだが……その道中、おれの後ろでなにかいっちゃってる紫色のゴスロリ衣装を着た金髪ロリがおれの前に現れ、食わせろと言ってきたので、それを無視したらここまでついてきた。

 お陰でテンション駄々下がりだ。

 

 

「なんだよ、食わせろって。なにか?物乞いかなにかか?生憎あまり手持ちは多くないんだが」

 

「違うわよ!貴方を食わせろっていってんのよ!」

 

 

 なんと物騒な。こいつ、やっぱり妖怪か?……まあ、見る限りでは姿が完全に村の人達と比べて浮いてるし、妖怪っぽいけど……

 つーかそのゴスロリ衣装、どこで手に入れたんだよ。なんかお姫様が寝るときにつけてそうな帽子(ナイトキャップだっけ)もお洒落っぽく被ってるし。

 

 

「あのなぁ、食べるのなら別に人間じゃなくても良いだろ。ほら、彼処の茂みに兎がいたぞ。取って食えば良いじゃん」

 

「え!ほんと!……いや、人間の言葉なんて信じられない!これまでだって散々騙されたんだから!」

 

 

 ほうほう、つまりこれまで人の言葉を信じてたってことか。なんと、間が悪い。

 

 

「それにほら、海の中には沢山の生物がいるんだぞ?それを塩焼きにして食べてみろ。旨いぞ~」

 

「!!……」ジュルッ

 

 

 お、このロリ、涎を垂らした。さては相当腹が減ってるな。

 仕方ない、戦うのも面倒だし干し肉でもやって追っ払うか。なんかちっちゃいくせに中々の妖力を感じるし。

 それにおれは今、海の景色に集中したい。

 翠はもうおれと金髪ロリを無視して海の景色を楽しんでるだろうし。

 

 空間を斬るのは少々疲れるが一回ぐらいならそうは負担にならない。やるか……

 

 結論に至ったおれは手のひらに霊力剣を生成した。

 

 

「なに!?急にやる気になったの?」

 

「違う」

 

 

 そして、おれは少しロリから離れた後、おれは持ってる技術を注ぎ込んだ渾身の一振りをなにもない空間に向かって斬りつけた。

 

 すると、その部分には切れ目ができ、少しすると、紙が剥がれたかのような別空間ができる。

 

 

「なっ……!!」

 

「驚いたか?これがおれの実力だ」

 

 

 普通の人が見たら大体の人は度肝を抜かす。この少女も例外ではなかったようだ。

 

 と、少し自分の技に自惚れていながら干し肉を探していると、呆気にとられていた少女が聞き捨てならないことを言い放った。

 

 

 

「私と同じ能力!!」

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「ほら、凄いでしょ!」

 

 

 少女の横に現れたのは異次元といっても過言ではないほどの異質な空間がぱっくりと割れていた。割れ目の端にはリボン見たいのがついており、そこだけ見たらおれの裂け目よりお洒落に見えるのだが、空間がおかしい。

 おれの空間は裂け目から見る限り真っ暗だ。奥の方がなんか火が灯っているかのような明かりが見えるが、全部入る気にはなれないので正体はわからないままだが……

 それと比べて少女の裂け目から見える光景は、真っ黒な空間に大量の目玉がこちらを見てくる、居るだけで精神的に病みそうな空間だった。

 

 

『うわあ、すごいですね。中身はあれですけどすんなりと空間を割りましたよこの子。

 ぷふ、熊口さんの渾身の技がこういともたやすく繰り出されるなんて……熊口さんざまぁ!としか言いようがありませんね』

 

 おい翠、お前の喉元潰して2度と正常に話せないようにしてやろうか?

 おれだってショックだってのに……

 

 

「まさか同じスキマ妖怪だったなんてね。私一人だけだと思ってた……全然妖力が感じられなかったから分からなかったわ。

 私の名前は八雲紫って言うの。以後、よろしく」 

 

「スキマ妖怪?なんだそりゃ。箪笥の隙間とかに潜むあの黒光りしたやつの仲間か?」

 

「なわけないでしょ!!……あれ、貴方妖怪じゃないの?」

 

「なわけないだろ。人間だろどうみても。」

 

『あ、でも熊口さんみたいな妖怪、いそうですよね』

 

 

 翠、それはどんな妖怪を思い浮かべて言ったのかな?怒らないから言ってごらん?

 

 

「くっ!また騙された!だから人間は信用できない!」

 

 

 ……はい?

 

「まてまて、今のは完全にお前の勝手に勘違いしただけだろ。おれは別に嘘はついてないぞ。ここ大丈夫?おちびちゃん」

 

「しらばっくれても無駄よ!私だって学習するんだから!それに私はおちびちゃんじゃない!こう見えても50年は生きてるのよ!貴方より年上よ!」

 

「たった50年?何百年と生きるおれにしては欠伸をしている間に過ぎないな!」

 

「あ!また嘘をついた!人間が何百年も生きられるわけがないじゃない!」

 

「ちょっと特別なんだよ、おれは。」

 

 

『特別というより……おかしい?』

 

 

 ちょっと少しの間黙ってて翠、気が散る。今はこの頭のおかしいおてんば娘を論破してやらないといけないんだ。

 

「あーもう!こうなったら貴方を食べて憂さ晴らしよ!そうよ、最初からこうしていればよかったんだわ。人間なんかの言葉に耳を傾ける必要なんてないじゃない」

 

「……え」

 

 

 あ、やべ、なんか少女が急に戦闘体勢に入ったんだけど……

 

 くそ、当初の目的を忘れてた。おれは戦うのが面倒だからとこの少女に干し肉を恵んでさっさと追っ払おうとしてたんだった。

 

 

「ま、まて。少し話し合おう。ほら、干し肉上げるから裂け目をいっぱい出すのはやめてくれ」

 

「なに?今更怖じ気づいたの?でももう遅いわ。貴方は私を怒らせた。それだけで貴方は万死に値するのよ」

 

『そうだぞー!やれー!そしてぼこぼこに負けるんだー、生斗ー』

 

 …………。

 

 

 あー駄目だ。少女は聞く耳を持ってくれないな。

 

 ……幼女相手だからって舐めてかかったのが悪かったのかな……

 

 仕方ない、少しビビらせてやるか。

 

 

「なあ、少女よ」

 

「紫よ」

 

「……紫よ、お前、これまでにどれぐらい戦ってきた?」

 

「?……ここの辺りの妖怪となら大体は……後はたまに来る陰陽師を襲ったぐらいね。……ねえ、この質問にはどんな意図があるの?」

 

「なーに、紫がただのお山の大将かどうか確かめただけだ。」

 

 

 今のを聞く限りではこの辺りで一番を張ってる妖怪だろう。幼女のくせに。

 

 

「つまり、なにがいいたいの?」

 

「お前が本当にやる気なら。おれがお前がこれまでに築き上げた自信を打ち砕こうと思ってな!」

 

 

 そう言っておれは威嚇するかのように今持ってる霊力を全解放した。

 辺りはおれの霊力の風圧により、浜辺の砂が舞い上がり、演出としてはバッチリだ。

 ……これでビビってもらえれば完璧なんだけど……

 

 

「……!!!……へぇ、人間にしては中々じゃない。でも、どうやらお山の大将なのは貴方の方かもしれないわよ?」

 

 

 ……おれの作戦は見事に失敗したようだ。

 紫がそう言うと、紫からこれまでに戦ってきた幽香や、萃香などの大妖怪と大差ないほどの妖力が滲み出てきた。

 

 

 

「…………」

 

「あらあら、あまりの恐怖心に言葉もでないかしら?」

 

 

 クスクスと強者の余裕とも見れる笑いがあちらから聞こえてくる。

 

 ……んー、どうしよ。完全にやっちゃった。

 海に行こうだなんて考えなきゃ良かった……

 

 

『熊口さん、終わったと思ってるようですけど、たぶん行けますよ』

 

「は?」

 

 翠が急にいけるとか言い出した。

 え、なんでだ?

 

『ほら、よく見てください。確かに妖力は大妖怪並みですが……あれ、どう見ても隙だらけですよ』

 

「……あ、確かに」

 

 

 よく見ると、紫は単純なミスがいくつもあった。

 まず足元が砂浜だというのに足をつけている。

 砂浜は足が埋もれたりと、中々動きが面倒になる。こういった場合は軽めに浮いた方が戦うときは楽だ。

 これから見ると紫はおそらく、遠距離で攻めるタイプで、だから浮く必要もないからこれまでの癖で砂浜に足をつけているんだろう。

 まあ、見るからに接近戦が得意そうに見えないけど……

 

 取り敢えず、紫は戦闘経験は浅いとおもう。だって戦闘経験が豊富な奴は普通、遠距離が得意だろうとか相手に分析されないように務めるからな。

 おれの場合は霊力剣を生成した時点で接近戦が得意だとバレてしまうが……

 

 ま、兎に角、戦闘経験が浅い奴は総じて奇襲に弱い。これはこれまでのおれの経験から言えることだ。

 いっちょ、奇襲が得意な生斗さんが本物の戦い方とやらを教えてやるか。

 

 

「ほら、かかってきなさいよ」

 

「ならお構い無く」

 

 

 まず、おれは奇襲に使うにはもってこいの技として爆散霊弾を3つ放った。よし、このあと妖弾で相殺されたらその時の砂埃に紛れて……

 

 

「なに?牽制のつもり?たった3つじゃ牽制にすらならないわよ。こんなもの避けるまでもないわ」

 

 

 

 え、おま、馬鹿……

 

 

 

       ボガアアアアアンンン!!!

 

 

 

 そして紫の身体に着弾すると共に、3つの爆散霊弾は派手に辺りを吹き飛ばした_____

 

 

 

 

 いや、ほんとこの幼女馬鹿じゃないの?普通わざと受けるなんて事しないだろ……

 

 




はい、紫さん登場です。
しかも幼女として。お転婆な感じにしてみました。

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