東方生還録   作:エゾ末

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すいません。サブタイトル書き忘れていました。


拾漆話 蹴るのはやめて

 

 

昨日、屠自古との剣術勝負をした後、おれはあの空間を歪ませた『唐竹』を何回か試してみた。

まずわかったのは彼処の空間の歪みは1分程たつと元に戻る。そしてその空間に入れたということ。これが一番の発見だった。物(翠が密かに集めていた綺麗な石)を一度歪みの中へ入れてみると物は空間がはいっていくとともに見えなくなった。そのあと、空間が元に戻ってからちょっと場所を変えてもう一度『唐竹』をし、その歪みの中に手を突っ込んでみると、中には先ほど入れた物(翠の石コレクションの中で一番綺麗な石)があった。

つまりこの歪んだ空間の中は共通していることになる。もし、その空間にもう1つの別空間がそれぞれあったのなら、場所を変えたらその空間には物(翠が寝ているときに枕元に置いていた石)はないはずだからだ。

今回、それがわかったが、本当にその空間が共通しているのかは完全にははっきりしていない。本当はちゃんとその空間ごとに別空間があるのかもしれない。

もしかしたら、いつもおれが旅するとき準備不足が原因で痛い目にあってるから、あの見た目は子供、その化けの皮を剥いだら老いぼれのおじいちゃんの神が気を利かせてくれたのかも知れない。それだったら感謝しなければならない。だってこの前なんて準備不足で餓死しかけたからな。

 

 

でもなぁ……

その空間歪み、かなり便利だけど物凄く霊力使うんだよなぁ……

 

まあ、上限としては5回。それ以上やったら腕が上がらなくなる&霊力が空になるという最悪な状態になるのでこの技はあまり戦闘に使うことはないだろう。

そしてなんで限界のことを知ったのかというと……

 

 

「やっべぇ……腕がくそ痛い。てか体が怠い……」

 

 

その限界まで試したからです、はい。

もう昨日のことなのに未だに疲れが残っている。

なんでだろうな、傷とかはすぐに治りやがるくせに……

 

 

 

「おーい、青娥ー。いないか~?」

 

 

いい加減、空間歪み斬りの説明なんて止めよう。考えるだけで疲れてくる。あ、でも名前とか考えとかないとな。なにがいいかなぁ……そうだ!マスターグレイトスラッシュだ!よし、我ながら良いセンスしてるな!これまで小野塚とトオルやら早恵ちゃんやらが爆散霊弾とか玲瓏・七霊剣なんて名前つけてきたけど今度はおれが決めたぞ!(※後に翠によって改名されます)

 

 

まあ、それは置いといて……

今、おれは重い足を鞭打って青娥を探している。勿論、霊力操作の授業を代わりにしてもらうためだ。

 

だけどさっきから無駄に長い廊下を歩き回ってるってのに青娥の姿は一向に見つからない。

 

 

「もしや町の方へ行ったのか?」

 

 

そうなったら困る。あまりこの屋敷から町までそう遠くないはないけど、そこから青娥を捜すとなると屠自古達の授業に間に合わない可能性がある。

 

 

『熊口さん、さっきから何を探しているのかと思ったら青娥さんですか?』

 

「そうだけど……てか部屋出るとき青娥を探すって言ったよな?」

 

『寝ぼけてました』

 

 

いっそ一か八か町に行ってみようかと迷っていたら、翠が話しかけてきた。

 

 

『青娥さんなら昨日、熊口さんが寝ている間に来ましたよ?』

 

「え、まじ?」

 

『まじです。その時少し話したんですが、今日青娥さんも布都ちゃん達に道教についての講義をするって言ってましたよ?』

 

 

ちょっとまて……ってことはつまり今いないのってまさかこの屋敷の何処かでもう講義してるからなのか?

 

 

「くそぉ!もっと早く起きればよかったぁ!」

 

 

ガクッとおれは足から崩れ落ち、尻餅をつく。

 

 

「翠……なんで早く教えてくれなかったんだよ!」

 

 

『だから何を探してたのかわからなかったからですってば……何度同じこと言わせてんですかこのポンコツ!』

 

 

いやポンコツて……あと何度もっていうけど今ので2回目だからな……

 

 

はあ……まあ、翠の悪口なんて聞き飽きたし、無視するか。

……んじゃ、青娥達のいる部屋を探すか。今やってるのかどうかは分からないけど町中を探すよりかはましだろ。

そもそも町までいくのが怠いし……いや、ほんと。ただ単に外に出るのが面倒とか言うニート的な発想ではないから。霊力尽きてて霊力剣すら生成が儘ならないくらい重症だから外に出ないだけだ。

 

 

『ん?今なにか言い訳をしましたか?』

 

「してない。断じてしてないぞ、決して、いや、ほんとだから。信じて」

 

『…………』

 

 

こいつ……疑ってるな。つーか翠、お前勘が良すぎるだろ。なんでおれが心の中で言い訳してるってわかったんだ…………あ、言い訳じゃないです。

 

 

「なんか座ったら立ちたくなくなったな……」

 

 

ごて~とその場に寝っ転がる。

ふぅ……やっぱ聖徳太子の屋敷ということあってか床がピッカピカだ。これなら寝っ転がっても汚れたりはしないな。廊下の床がひんやりしてて気持ちが良い……あ、眠たくなってきた。

 

『行儀が悪いですよ……ていうかここで寝る気ですか!?ただでさえ眠たそうな目なのにさらに眠たそうな目になってますよ!熊口さん、青娥さん捜すっていってたじゃないですか!』

 

「んあ、そうだった。忘れるところだった」

 

『ったく……』

 

「グラサンかけないと光が眩しくて寝れないな」

 

『そこじゃない!!』

 

 

なんだよ翠……さっきからおれの中からぎゃあぎゃあと……おれは寝たいんだよ、寝させろよ。睡眠欲は沢山ある欲求のなかでも頂点にあたる三大欲求の1つなんだぞ。それを阻むということは食欲、性欲に関することを邪魔するのと同じことでもあるんだぞ。

それに今翠がしているのは睡眠妨害だ。それはおれの『されて嫌なランキング第2位』だから。

本当ならば翠をおれから叩き出して外へ放り出したいことだが今回は翠も正論を言ってるから放り出すのはやめといてやろう。だからもう黙ってくれ。寝れないから

 

 

 

「あら、こんなところで眠るのは行儀が悪いんじゃなくて?」

 

 

ん、この声は……

 

 

「青娥か……眠いから喋りかけないでくれ」

 

『なんで捜してた青娥さんがいるのに睡眠を優先してるんですか!?なにか用事があったんじゃなかったんですか!?』

 

 

煩いなぁ……翠の声、おれの中から直に聞こえるから無駄に大きく聞こえるからあんまり叫ばないでくれよ。

 

 

「ほら、起きなさい。ここで寝てたら神子に怒られるわよ」

 

「うぅ……中からも外からも喋りかけてきやがる二人とも黙っててくれ……」

 

「中?……ああ、翠のことね」

 

 

ああ、もう喋るのもめんどくさくなってきた。霊力空にしたことなんてここ最近無かったからきついんだな、きっと。捜してた青娥を見つけても頼む気力すら湧かない。まあ、湧かないのは青娥と喋ると決まって長引くからだけどな……

 

 

『……』ノソッ

 

 

のそ?今脳内にそんな音が聞こえたんだが……

 

 

 

「あら、翠。出てきたのね」

 

「はい、ちょっとこの駄目人間に渇をいれようと思いまして」

 

 

ん?今翠からとんでもないことが聞こえたんだが……

 

 

 

「さっきから注意してやってんのに……」

 

 

あれれ、おれの瞼の先で何が起こってんだ?

 

 

「散々無視を決めこむなんて……」

 

 

あ、このパターン経験があるぞ!早恵ちゃんに思いっきり蹴飛ばされた時もこんな感じだった!(2章第4話参照)

そんな悪い予感がしたので重い瞼を開けてみた光景は……

 

 

「良い度胸してるじゃないですかぁ!!」ドゴォッ!

 

「ぐふはぁ!?」

 

 

翠の足がおれの腹にめり込む瞬間だった。あれ、翠の足って薄くて見えなかった筈なのに……

まあ、そんなとよりもこの蹴りは……うん、姉妹揃って全国にいけるストライカー目指せるぞ、これ。……おえ、吐きそう……

 

 

「ごほっ……ごほっ……ぐっ……痛っでぇ!」

 

 

蹴られたおれはそのまま横にあった襖を突き破り、着地したもそのまま転がって先にあった障子を壊し、漸く止まることができた。

まさか蹴られて2部屋先まで飛ばされるとは……翠、お前恐ろしい。そこらの妖怪よりもお前が恐ろしくてたまんないよ、おれ。

 

そう思いつつ腹を抑え、悶絶する。端から見ればただ痛みをまぎらわすように転げ回っているが脳内では中々おれ、冷静なんです。

 

 

「せ、生斗!?」

 

「なんだお前、入るのならちゃんと開けて入れ」

 

「なんじゃ!曲者か!?……って阿呆だったか。何故転げ回ってるのかはしらんが滑稽じゃの!」

 

 

そして突き抜けた先の部屋には神子さん、屠自古ちゃん、阿呆の3人がいました。……おい。

 

 

「あらあら、生斗。張りきりすぎて障子を突き破るなんてせっかちなんだから」

 

「青娥……お前、おれが蹴飛ばされたのみてただろ……」

 

 

おれによって破壊された障子から青娥とまだ足りないと指を鳴らしている翠が来た。

 

 

「……どうやら、今回は生斗か悪いようですね」

 

 

と、漸く痛みが引いてきたところで神子がそう言い出した。

 

 

「お、よく分かりましたね」

 

「私には貴方達の欲が見えますから。この状況から誰が悪いのかなんてすぐにわかります」

 

「ふふ、そうね。それじゃあ皆も集まってることだし……するのよね?授業」

 

「え、なんで青娥が知ってるんだ?」

 

「神子から聞いたわ。それについでだし私も受けようかしら?興味あるし」

 

 

 

おい、ちょっとまて。おれ、青娥に代わってもらうおうとしてたんどけど

 

 

「ちょ「熊口さん!」え、はい?!」

 

「授業、しますよね?」

 

と、目の光が暗くなった翠が問いかけてくる。いかん、完全にキレてる……ここ最近面倒だからと無視気味になってたからかな……

 

 

「いや、おれは……」

 

「しますよね!」

 

「や、やります!」

 

「それで良いんです」

 

あ、やべ。翠の大声にびびって思わず肯定の返事をしてしまった……

 

 

「ふふ、尻に敷かれてるわね……」 

 

「そうですね……私も授業とやらを受けてみましょうか。時間もまだ余裕がありますし」

 

「まじか……」

 

 

くっ……なにか手は?ここからおれが今すぐに睡眠がとれる状況は!…………ないですね。はい、諦めます。

 

 

「えっと、それでは……熊口さんの霊力操作教室を始めます……」

 

 

はあ、くそ。あのとき寝らずに青娥に頼んどけば良かった……そしたら少なくてもこんな痛い目にあわずに済んだのにな……

 

 




はい、もうすぐ4章も終盤にはいる……んですが実はそれに関して重大な報告があります。
読んでくださった皆様にはご足労お掛けしますが、私のユーザーページの活動報告欄の『生還録4章について』の方を見てくださると光栄です。そこに4章の終盤について書いてあります。どうかご協力お願いします!


あ、あと生斗くんが主人公のオリジナル作品
『兄とおれと従姉と従妹』を投稿しました。興味がある方は是非どうぞ!



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