「あーんと、じゃあ剣術について教えようとおもいまーす」
まったくやる気のないおれの声とともに剣術指導の時間が始まった。
くそ、おれの異常な回復力と翠と布都を恨んでやる!
と、そんな過去の事を思い出すのは一端やめにして……
現在、おれは布都と屠自古に剣術を教えるべく、屋敷の庭にでている。勿論布都と屠自古も一緒だ。そして初めての授業ということもあって神子が縁側から見学している。因みに翠は神子の後ろの方で太陽の光に怯えながら一緒に見学中。
「はあ、ついにこの日が来てしまった……まだ怪我をしていれば良いものを」
布都め、あからさまに嫌な顔をしてくるな……おれだって嫌だよ!
「布都、お前がなにもしなければおれはまだ布団の上の生活を楽しめていたんだぞ……」
「ふん!我は事実を証明しただけじゃ!」
「そんなどうでもいい話は後にしてくれない?時間が惜しい」
うむ、確かに屠自古のいうとおりだ。こんな馬鹿と話したって口喧嘩になるだけだ。
んじゃ、パッと教えて後は自習って形にして終わらせるか……
~~5分後~~
「こうやって……こう!」ブゥン!
取り敢えず士官学校時代にしていたようにやる。
「ほら、おれが今やったように真似してみろ」
「……」
「……」
あら?二人とも動かないぞ。もう反抗期か?まさか布都なら兎も角屠自古までしてくるとは……
「なんだ、もうやる気がなくなったのか?」
「……いや、今のをやれと言われても……型というよりは舞いじゃの」
「まったく、出鱈目な動きだ。やってられん」
と、屠自古が踵を返して屋敷の方へ帰っていく。おいおい、まじですか……
「待ちなさい、屠自古。勝手に抜け出すことは私が許しません」
その歩を神子が制止させる。
「お退きください太子様!私は幼少の頃、護身術の1つとして剣術をたしなんでいた時期がありました。なので多少なりも剣術には心得があります!なのにあの者のしていることは全くの出鱈目、規則性など皆無、教える気などさらさら無いように感じます。そのような者に教えてもらうなど時間の無駄の何物でもありません!」
お、おう……凄い言われようだ。なんか心外だな……面倒だったが一応真面目に教えてたつもりなんだけど……
「私も今の生斗の動きをみて一瞬そう思いました。構えは普通、五行の構えが基本であるのに生斗の場合、手ぶらから一瞬の間に光る刃を出現させ唐竹を決めています。
しかしこのやり方が生斗なのです。戦った私だからわかるのです。規則性など無く、それでいて奇想天外な動きをして相手を翻弄する。これが彼のやり方です」
まあ、神子が言っていることは殆ど合ってる。おれは昔、鬼に敗けて以来正規通りの動きをしても本気の殺し合いでは役に立たないと実感し、完全な我流に変えた。
「そ、それでは……あの癖の多すぎる動きをどう習得すれば……」
「まあ、確かにあれは癖の塊のようなものです。しかし、『美しい』動きをしているでしょう?」
お、美しい?神子ちゃん嬉しいこといってくれるじゃあないか。まあ?おれの剣技は美しい舞いだろうな!
と、こんな布都すら黙りこむほど真面目な空気の中ふざけたことを考えているおれ。
「…………」
「……はぁ、それほどまでに彼の剣術に不満を持っているのですね」
「…………はい」
「仕方ありませんね…………生斗、此方に来てください」
うわ、神子が此方に来いと促してきた。ええ、嫌だなぁ……
そう思いつつ渋々神子のところに行く。
「それでは屠自古、これから生斗と模擬戦をしなさい。それで貴女が勝てば私からいうことは何もありません。しかし、生斗が勝ったら黙って生斗の教授を受けること。わかりましたか?」
「え、えぇ!?ちょ、神子勝手に決めるなよ!そんな面倒なことしたくねーよ!」
「おい!太子様に馴れ馴れしくするな!」
いや、でも戦うなんて面倒なことほんとに御免なんだけど……
「ふん、話は早いな。ようは屠自古と熊口が潰しあって疲弊している間に我が二人に止めをさせばいいのであろう?」
「布都ちゃん、今の話聞いてました?」
いつの間には神子の後ろでいつの間にか移動していた布都と翠がなにやら雑談している。
くそ、こいつら他人事だからって呑気にしてる……元はと言えばおまえらのせいなんだからな!
「はあ……仕方ない。太子様のご命令とあればやるしかあるまい。
_____熊口生斗。貴様を負かし、私の剣術の仕方が正しいということを証明してやる!」
「……あ、はい……そうですか」
これは……断れないやつだな、うん。
______________________________
「それでは模擬戦を始めます。どちらかが一太刀浴びせた方時点で終了とします。」
中々広い庭のど真ん中で神子が坦々と模擬戦についての説明をしている。
おれと屠自古はお互いに向き合った状態で制止、その真ん中に神子がいる状態だ。
使うのはこの木刀のみ。おれの得意な数で押しきる戦法は使えないわけだ。
純粋な剣術の勝負。長年今の剣術で生き延びて来た。こういう模擬戦で負けたことなんて依姫以外にはいない。まあ、今回も大丈夫だろう。
「それでは_____始め!」
そしてついに神子の掛け声とともに火蓋が切って落とされた。
「……」
「……」
あれ?動かないぞ?
「来ないのか?」
「相手の出方を伺うつもりだったのだけど……なるほど、お前も私と同じ考えだったか」
お、そうだったのね。別におれ伺うつもりではなかったんだけど……いつもの癖で先手を相手にあげちゃうんだよなぁ、おれ。
「そうか……」
「……」
少しの沈黙が続く。
「……」
「……」サッ
おれが棒立ちで突っ立っていると、ついに痺れを切らしたのか屠自古は中段の構えをとる。
「……」ジリジリ
「ん、そんなちょびちょび動いてないでさっさと斬りにかかってこい」
「煩い、黙れ」ジリジリ
中段の構えを崩さず少しずつ前進してくる屠自古。
……はぁ、しゃあないか。
「……」ズサッ
「……!」
相手が来ないのなら此方から。相手の出方なんて待ってられるか。
「(こいつ馬鹿か?なぜ構えもせず私の方へ前進してくるんだ……布都以上の阿呆としか言い様がない。……そのままかたをつける!)」
「……」ズサッズサッ
ついにおれは屠自古の間合いに入った。その瞬間_____
「!!」シュン!
屠自古は突きをかましてきた。……はあ、こいつ。なんて愚作を……突きは捨て身の技だぞ。ここで使うような技じゃない。
「ふん!」スッバシッ!
「!?……くっ」
予め突きか袈裟斬りを予想していたのでおれはそれをなんなく避ける。
そしておれは突きをしたことにより隙を作った屠自古の手を蹴りあげ、木刀を離させる。
「……決まりですね。」
神子がその光景をみてそう言う。……いやいや、待てよ。
「神子、まだ終わりじゃないだろ?まだおれは屠自古に一太刀浴びせてないぞ?」
「……!!」
「それはそうですけど……これはもう……」
「情けをかけるつもりか愚か者!そんなものいらん!さっさと斬れ!」
屠自古が今のおれの言ったことに猛抗議してくる。
「おいおい、まさか今ので終わったつもりか?おれはまだ木刀を振ってすらいないぞ。
それにな、屠自古。おれはお前に情けをかけたつもりで模擬戦の続行を志願した訳じゃない。」
「なんだと?」
そんなもん決まってる。
「おれがお前の言う剣術をおれの我流で捩じ伏せ、初めて勝ちと言えるからだよ」
おれにだって剣術には誰にも負けない自信があるし誇りだってある。それが例え邪道であったとしてもだ。だから貶されて黙っておくわけにはいかない。おれは屠自古をこの木刀のみで倒す、そしてそれがこれまで培ってきたおれの剣の道を証明することになるんだ。
「くっ……確かにお前の言ってることは正しい。しかし、お前は後に後悔することになる。模擬戦を続行したことに……」
「ってことはまだ続けるってことか?」
「やる他ないだろう!」
「わかりました。それでは取り直しましょう。」
よし、次からが本番だ!
「いくぞ屠自古!」
「こい!」
「……」
「……」
「……来いよ」
「そっちこそ来たらどうだ?」
「ほら、先手を譲ってやるから」
「お返しする。そちらに譲ろう」
最初と殆ど同じじゃねーか!!
「さっさと動け屠自古よ!そして疲弊するのじゃ!我が楽にしてやる!」
「熊口さんも早く動いてください!そして無様に負けてください!」
おい、外野ども煩い。