……というのは冗談で、そういえば翠の過去や実力についてあんまりかいてかったなぁっと思い、今回だしました。
「熊口さん、お休みなさい」
「ああ、お前も早く寝ろよ」
満月の夜、いつも通りの会話を終え、熊口さんは眠った。
私の名前は東風谷翠、熊口さんの守護霊をやってます。
まずは私のことをよくしってもらうために昔の事を話したいと思います。
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私は生前、とても気持ち悪い妖怪に四肢をもがれ、絶命しました。その時の痛みは今でも忘れません。まあ、今ではそんな悲惨な記憶も過去のものと捉えて、克服したのでどうってことはありませんけど……
そして天に召されるはずだった私はなぜか生前暮らしていた家にいました。
勿論もがれた四肢はくっついています。
もがれたときに出た血は綺麗になくなっていました。
もしかしてあのとき殺されたのは夢?……だとその時には思いましたが、それは私の姿を見る限り現実だということがわかりました。
生前の肌は小麦色だったというのに今では白く透き通っており、着たこともないような白装束を着ていて、足の先の方が薄く消えかかっていたのです。
このとき、初めて私は本当に死んだのだと理解しました。
……しかし、なぜか悲しみはあまりありません。
生前、無理に顔を作り、相手の機嫌をうかがいながら生活をして、村長に勝手に抜擢され、したくもない仕事をさせられる。
同じ年頃の子ならもう結婚しているというのに私は孤立無縁、楽しいことなんてあまりなかったのです。楽しかったといえば義姉の早恵ちゃんと一緒にいたときぐらいでした。
だから死んだと実感したとき、悲しみよりも解放感が上まってましたね。
でもそんなのも束の間、私は孤独になりました。
困ったことに直射日光に当たると胸が鷲掴みされたかのように苦しくなり、過呼吸に陥ってしまい、まともに動ける状態ではなくなってしまったのです。
そして一番の問題は家から出られなくなったことです。庭なら辛うじて出ることは出来たんですがそれ以上出ようとしても体が拒否反応を起こし、結果、でられないということになったのです。
その理由から私は家から出ることを諦めました。
そして少し経ち、ここに一人の女性が住居を構えにきました。
私は久しぶりに人を見て、歓喜しました。
心が踊るのを押さえられなかった私は早速、夜中にその女性に声を掛けました。
____自分が幽霊だったことを忘れて。
勿論その女性は悲鳴をあげ、その家から慌てて逃げていきました。
失敗した……もうちょっと慎重にいけば……
後悔をしても既に遅く、その日を境に私のいた家は幽霊屋敷として、敬遠されるようになりました。
それから2年の月日がたった頃、熊口さんがきました。
私は次は慎重にと、その時起きていた時間(夜中)にこっそり気づいてもらえるように熊口さんの部屋の前で騒音を鳴らしました。
結果、キレられて吹き飛ばされましたけど……
これだけでもわかるとおり、熊口さんはほかとは明らかに違いました。実はあの女性が逃げたあとも何人かはこの家に住みに来ました。勿論皆私を見るや否や、一目散に逃げていきましたけど……
それだというのに熊口さんは私を吹き飛ばすだけでなく、姿を見ても全然怖がらなかったのです。
それどころか「お前の姿を見て怖がるやつなんていねーよ」なんていってきたりもしました。……いや、結構いましたよ……
しかし、その熊口さんが来たことによって、私の死後の人生に灰色以外の色がつき足され始めました。
孤独からの解放、ちょっと大きくなった早恵ちゃんとの再会、皆でお泊まり会、熊口さんの守護霊になる、鬼との遭遇、妖怪らのいる山に行く、文さんや天魔さんたちとの交流、そして別れ、仙人の青娥さんと会い、一緒にお色気作戦をしかける。
今、パッと思い出しただけでもこんなに思い出がありました。
それもすべて、あのとき熊口さんと会えたからです。
あれが所謂『転機』というものなんでしょうか?
そして急になんで私の過去を話したのかというと、それは私が熊口さんに対して多大な恩があるということです。
それなのにいまだに返せている気がしません。
勿論こんな美少女が旅のお供をしてあげてるんだから多少の恩は返せているとは思うんですけど……
やはり、『今回』の『妖怪退治』をすれば返せるのでしょうか……
「さて、いきますか」
熊口さんと会う前は夜中に活動をして朝に寝ていたんですが、今では熊口さんにあわせるように夜に寝ているからこういう寝る前の運動は眠気がついてくるからあまりしたくないんですけどね。
そんなことを思いつつ熊口さんの部屋を後にし、家の外に出た。
「やっぱり、私の勘は当たってましたか」
「誰だお前は?」
そこにはあきらかに人間とは異なる、異形な形をした妖怪がいた。
過去を振り返った途端にこれがでるなんて運が悪い。
異形な形の妖怪は今でも苦手なんですけどね……
「けけけ、どうやら只者ではなさそうだな」
「ええ、幽霊です」
「ほう、幽霊というのは食べられるものか?」
「たぶん、食べられないと思いますよ」
「そんなのはお前を食ってから決めてやるわ!」
そういいながら変な形をした妖怪は私に肉薄し、体の一部から鋭利な物体を飛び出させてきた
「……!」スッ
「いまのを避けるか」
急に来たので驚いてしまい、頬に少掠らせた。
掠った頬に一粒の血が流れる。
「あーあ、女の子の顔に傷をつけましたね、貴方。熊口さん並みに最低です」
「ああ、いまから身体中傷だらけにしてやるよ!」ズサアァ!
ほんと、気持ち悪いですね。
お次は身体中から一寸ほどの針を大量に飛ばしてくるとは……
「ま、こんなのは効きませんけどね」
そういって私は右手をあげ、障壁を作る。これは熊口さんのやってた霊力障壁を真似たものです。
カカカカカカカカカカカカカカカカカカ
「なに!?」
カカカカカカカカカカカカッッッ
「……っ」スッ
中々多いですね。しかし止めきれない量じゃない。
カカカカカカツ……カツ…カツン…………
そして針の弾幕が5秒ほど続いた後、漸く攻撃が止んだ。
「この程度ですか?貴方の実力は」
一寸ほどの針の幕はあえなく障壁の前にひれ伏した
「ちっ、嘗めるな!小娘!」
「こう見えても何百年と死んでいるんですけどね、ヘドロ針ネズミ」
さて、次は接近してきますか。身体中に針を出したままの突進。
あまりにも単純、そして愚直な選択ですね。遠距離が効かないからと相手の能力もわからず無闇に突っ込むなんて
「熊口さんならとっくに死んでますよ、貴方」
「うるせ…………ぇげはぁ!?」
私と妖怪の距離が間近に迫ったところで土の中に仕込んでおいた霊弾が発動、妖怪の顎みたいなところに命中した。
「な、なぜだ。こんなの仕込んでおく暇など……」
「いいえ、ありましたよ。貴方が無駄に多くばらまいた針を防御しているときにね」
「そ、そうか……!?」
「そして、もうひとつの霊弾が……」
「な!……!」
私の声を聞いて妖怪が慌てて下を向き、防御の構えに移る。
はあ、これだから底脳は……
ガツン!
「んぎゃ!?!」ボガン
妖怪に呆れつつ後頭部に全力で殴った。
どんなに非力な人でも、霊力を纏えば常人以上の力を発揮できる。それを後頭部に思いっきり殴り付けたのだ。無事なはずがない。事実顔が地面にめり込んだ。
「……敵前に余所見をするなんて……もうひとつの霊弾を仕込んでるなんて嘘を真に受けるからいけないんですよ」
「あ…がっ……」
「あ、まだ意識があるんですね」
「こ、小娘ぇ……こ、ころ、殺してやる……」
顔が地面にめり込んだまま、しかも満身創痍の状態でそんなことを言われても全然恐くないです。
それに____
「私、死んでますよ?」
そういって私は妖怪の顔面に霊弾を放った。
「……よし、死んでいますね」
妖怪の体が変な形をしているため、死んでいるかどうか確かめづらかったですね。
まあ、それについてはどうでもいいでしょう。
はあ、それじゃあ、この妖怪をそこら辺の森に捨てにいきますか
「あ、今日このヘドロを見つけた場所に捨てましょうか!」
今日、この妖怪が熊口さんのいる家を襲おうとしたのがわかったのも昼に私がこの妖怪を森の中で狩人のような目をしてこちらを見ていたのでわかったのです。
あ、この気色悪い妖怪、今日来るな、と。
「ふあぁ、眠たいですね……」
さっさと布団の中にくるまって寝たいです。
~朝~
「なあ、翠。昨日なんか騒がしくなかったか?なんだか眠れなかったんだけど……」モグモグ
「気のせいですよ。それにほら、ご飯を口に入れながら喋っちゃいけませんよ。この前青娥さんにいわれたばっかりじゃないですか」
「おお、そうだったな。あ、そういえばお前の顔に傷なんかあったか?」モグモグ
「ほら、また食べながら喋る!熊口さん、まるで昨日の底脳妖怪みたいですね!」
「妖怪?」
「あ!……いや、なんでもありませんよ。ただ熊口さんの事を生まれたての幼児と同じくらいの知能しかないと言いたいだけです」
「おまっ、バカ野郎!流石に幼児以上の知能はあるわ!」
「……つっこむ所そこですか?」
ふう、危うくバレる所でした。
昨日のしたことしかり、これは私の密かな恩返しなんですから。まあ、ただの自己満足ですけどね
あれ?翠の設定が生斗くんよりもしっかりとしてる……
なんだよ主人公、設定とかただの運がいい高校生じゃん……