東方生還録   作:エゾ末

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17話 締まらない終わり方だったな

「で、天狗達からの追跡を断つために私ん家に逃げ込んできたっこと?」

 

「そ、翠を連れてくるのに結構手間取ってしまってさ。さっさと山を出ようにもでられなかったんだ」

 

「な!?何人を荷物呼ばわりしてんですか!」

 

「実際荷物みたいなものだろ」

 

「失礼な!あなたの守護霊ですよ!しゅ・ご・れ・い!」

 

「守護霊なのに守ってもらったことないんだけど……」

 

「はいはい。うちで喧嘩するんじゃない、生斗」

 

「すまん、萃香」

 

 

今の会話からわかる通り(わかるよな?)おれは萃香ん家にいる。

勿論天狗達からの追跡を断つためだ。

 

たぶん天魔の指示で哨戒天狗達がおれを探しに来るはずだ。

しかもその中に千里眼っていう遠くのところまでバッチリと見える奴もいるからすぐに見つかる。

 

が、ここは鬼達の住宅地が並ぶ場所。千里眼をもつ天狗も鬼の許可が無ければ見ることは許されないのだ!

 

 

つまりここは隠れ蓑としては絶好な場所だ。

因みに最初は勇儀ん家にいったんだけど生憎留守だったんで萃香のうちに行った。どうせ勇儀のことだからそこらへんの癒着屋台でつぶれてんだろ。

 

 

「はぁ。でも旅ねぇ……実際私も反対なんだよねー」

 

「え、なんでだよ」

 

「生斗が最初に鬼の里に留まった理由はなんだったかい?」

 

「えーと、確か……『こんなイケメンで心優しい才色兼備な人間を私達が放っておくわけがないだろ』だったっけ?」

 

「全然違う」

 

「あまりにも盛りすぎです。特に性格なんて中年のオッサンと同じじゃないですか」

 

「だ、だれが中年のオッサンだ!そんなに歳はとってないぞ、おれ!」

 

「いや、充分にとってるでしょ。少なくても中年のオッサンの何倍かは生きてる」

 

「クソジジィですね!」

 

「おいこら、翠。おれがもしそうならお前はクソババァだからな」

 

「はん、誰がオバサンですか!こんな美少女のどこがオバサンですって?」

 

「あーうるせーうるせー。幽霊の声なんて雑音にしか聞こえませーん」

 

「私も頭に黒眼鏡がこびりついてる奴の声なんて蝉の声よりもうざったい雑音にしか聞こえませーん」

 

「……あんたらどっちもうるさいよ。

隠れる気あんのかい?」

 

「あぁ、そうだった。完全に忘れてた」

 

「だろうね」

 

「話が脱線してましたね」

 

「お前が脱線させたんだろうが」

 

「熊口さんですよ」

 

「いいや、翠がおれの事をオ「いったん黙れ」……はい」 

 

「で、どこまで話したっけ?」

 

「んーと、萃香さんが熊口さんの旅を反対していることからですね」

 

「ああ、そうだった。私達が昔あんたを引き留めた理由についてはおいといてさ。

なんで旅なんて出ようとするのさ。今の生活になにか不満でもあるの?」

 

「…………いや、全く不満なんて無いんだけどさ。

でもやらなくちゃいけないんだ。『この世界』で生きるためにもな。

1種の呪いなのかもしれない。でも決して解かれられない呪縛、そういうものが」

 

「な、なに急に意味深なこといってんですか。どこか頭でもうったんですか?」

 

「な訳ないだろ」

 

「ふぅーん。もうかなりの年月共にしている中でお互い理解してると思ってたけど……まだなにか隠し事があったんだね」

 

「まあな。でも別に隠してたわけじゃないぞ。お前らにとって関係のないことだから喋ってなかっただけだ」

 

「現にこうやって関係があることに発展したじゃないか。

熊口の言う『解けない呪縛』とやらが」

 

「いやー、まあ、確かに関わったな……」

 

 

うむ、ちょっとミスったかな。ここは適当に嘘をいってればよかったな。

少々面倒なことになってしまった……

 

 

「はぁ……まあいいよ。私に、というより私達に隠し事があるといっても誰でも1つや2つ言いたくない事はあるしね。私もない訳じゃないし……深くは詮索しないことにするよ」

 

「そうか。そうしてくれると助かる」

 

「(私も初耳だったんですが?!熊口さんに秘密があるなんて……後で問いただしてみよう)」

 

 

う、なんか翠から良からぬ気配が!?

 

 

 

 

「それでどうするの?私の分身から見てみたけど妖怪の山を抜けるのは生斗じゃ難しいよ。結構厳重にそこらじゅう見張られてる。

それにみんなになにも言わずに出ていくのは無粋なんじゃない?」

 

「山を抜けるのはなんとかなる。それに一言についてはちゃんと用意してる。ほら」

 

 

と、おれは着ているドテラの内側にある収納袋(所謂ポケット)から一通の手紙を取り出した

 

「手紙?……それも1つだけって……てきとうすぎやしないかい?」

 

「何をいってる。おれがかしこまって長文を一人一人に書くなんて面倒なことするわけないだろ」

 

「……そりゃそうか、生斗だもんね」

 

 

え?納得されちゃったよ。本当は皆の分を書く時間がなかったからなのに……

 

「まあ、生斗が旅にでたら皆を集めてから見てみるよ」 

 

「え、なにそれ超恥ずかしい。そんな大層な事は書いてねーよ」

 

「だろうね。どうせ即興で書いたんでしょ」

 

バレた!?

 

「まあ、でもないよりはましか……本当は生斗がここを出ることを天狗と一緒に止めたいけど……生斗もなにやら事情があるみたいだからね、邪魔はしないでおくよ。

あ、でも手伝いはしないよ。やるなら自分で何とかしな」

 

「はいはい。わかってるよ、そんなこと。

勇儀によろしく伝えておいてくれ」

 

「勇儀もこんな日に馬鹿だねぇ。昨日屋台で朝までのんで今も自分家でグースカ寝てるからね」

 

「やっぱか……んじゃ、翠。おれの中に入ってくれ」

 

「わかりました。

……それじゃあ萃香さん、またいつか会いましょう!」 

「じゃあね、翠。あんたは私にとって大事な友人だよ」

 

 

萃香の言葉を確認すると共に翠はおれの中へと入っていった。

 

「んじゃ、俺もいくわ。ここからは正面突破で突き抜けるからな」

 

「そうこなくっちゃね」

 

「なんだよ、なんか元気ないなぁ」

 

「そりゃそうでしょ。100年もの付き合いだった友人と別れるんだよ。いつもどおりでいられる方が異常だよ」

 

「なぁに、どっちもそう簡単には死なない体をしてるんだ。

生きていればいつかは会えるだろうさ」

 

「″月にいる人達″にもかい?」

 

「……どうだろうな。まあ、会えるといいな。」

 

 

一応萃香たちにはおれがこの世界にきてからの話をおおまかにだけど話している。

月にいる皆のことや洩矢の神のこととか。

 

洩矢の国は兎も角月の皆の事は誰も信じてくれていないので今萃香が言ったのも冗談でのことだろう。

 

 

 

「またな」

 

「うん、たまには顔見せなよ。」

 

 

そう言葉を交わし、おれは部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふへぇ、こんな道があったんですね…………って正面突破するんじゃなかったんですか!?』

 

「はぁ、この道を正面突破してるじゃないか」

 

 

現在おれは誰も通らないような隠しルートを低空飛行している最中だ。

 

この道はかなり木の密集がすごすぎて殆ど通り道がなかったんだけどつい最近唯一通れる場所を見つけた。

このルートはまだ誰にも教えていないのでたぶんばれないだろう。

 

 

でも1つだけ欠点があるんだよなぁ……

それは今いるところを抜けた先にある。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?生斗。こんなところに来てどうしたの?……て、そういえば文達があんたのこと探してたよ」

 

「あ、ああ。にとり」

 

 

くそ、いたか。しかもにとりがいるというね……

 

そう、隠しルートを抜けた先にあるのは河童達が住む玄武の沢があるんだ。

 

もう妖怪の山は殆ど抜けたも同然なんだけどまだ天狗の目が届かない場所ではないので早く行かなければならない。

いつもなら世間話でもするんどけど今はそんな悠長なことしてる暇はない。

 

 

「それで?盟友である生斗、妖怪の山から出ていくって本当?

天狗の長である天魔様も直々にここへ来たんだけど」

 

 

げ、天魔も動いてんのかよ。……これはさっさと出た方がいいな

 

 

「ああ、そうだよ」

 

「へぇ……そうなんだ。私としてはまだいてほしかったんだけどなぁ。河童の技術革新ができたのも生斗のお陰だったし」

 

「まあな」

 

技術革新に貢献したっていっても前世の記憶を引っ張り出してそのまま伝えただけなんだよな

 

「でも盟友の決めたことだし、とめないよ。

それに生斗、そんな簡単に死なないでしょ?ゴキブリみたいな生命力持ってるし」

 

『もはやゴキブリ以上のしぶとさですね』

 

「まあ、おれより生命力を持った人間はこれまでみたこと無いけどな」

 

 

「それじゃあ、これ」

 

「ん、なんだこれ」

 

 

にとりがポケットから取り出したなにかおれに渡してきた。

 

これは……ゴム手袋?一見してみるとどうみてもゴム手袋にしかみえない。

 

 

「ほら、前に生斗『剣をずっと握ってると手が痛むんだよなぁ。特に冬とか』っていってたじゃん。

だから作ったんだ!

ほんとは今度渡そうと思ってたんだけど」

 

「お、そうか。ありがとな」

 

「見た目とちがってかなり頑丈で衝撃を吸収するようし柔軟性もある。あと耐水性だよ!」

 

「うお、まじか」

 

こんなゴム手袋にそんな効果が!

 

「ありがたくもらっとくよ。お礼は……」

 

「いいよ、今度会ったときに胡瓜の1本でもくれれば」

 

「そうか。それじゃあ帰ってこなくちゃな」

 

「うん、それじゃあまたね、生斗。胡瓜のことわすれないでよ」

 

「にとりちゃん!またね!」

 

「うわ、翠もいたの!?……うん、翠もまたね。

良い旅を」

 

「んじゃな」

 

 

よし、それじゃあ行くとするか。神にいわれてた期限より少し早いけどまあいいだろう。

ウダウダ期限ギリギリまで居座ったって二日後にはでなくちゃいけないんだ。

早くするに越したことはない。

 

そんなことを思いつつおれは妖怪の山を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 次の日 妖怪の山 元生斗の家

 

「あー!なんで私が寝ている間に行くんだ!」

 

「はぁ、行っちゃったかぁ」

 

「くそ、私がもう少し遅く玄武の沢にいっていれば……」

 

「生斗さんがいないとなんだか寂しいですね」

 

「熊口様との稽古、たのしかったなぁ」 

 

 

現在、元生斗の家にはこれまで関わった妖怪達が集まっていた。

 

メンバーでいうと、勇儀、萃香、天魔、射命丸、4馬鹿、にとりである。

 

 

「はぁ、でも生斗。手紙のひとつも残していってなかったね。まあ、私は生斗が行く前に話したからいいんだけどさ」

 

「それですよ!なんで友人である私に『じゃあな』だけだったんですか!」

 

「天魔様、縁があればまた会おう、とも言ってましたよ」

 

「お前らは良いじゃないか。私に至っては顔すら会わせられてなかったんだよ」

 

「それは勇儀が寝落ちするまで呑んだのが悪い。

 

…………それよりも河童がいってのに反論していいかい?

ちゃんと生斗、手紙残してるよ、ほら。一通だけだけどね」 

 

と、萃香は服の中から1枚の手紙を取り出した。丁寧に折られた紙には『みんなへ』と書いてある。

 

「あ、あったんですか……」

 

「でも一通だけ?」

 

「まあ、あの面倒くさがりな熊口様ならやりそうっすね」

 

「まあ、読んでみなよ、萃香」

 

「ああ、分かったよ。んーと」

 

 

と、折られていた紙を開いていき、萃香はそこに書かれている文章を読み始めた。

 

 

『あー、うーんと。妖怪の皆さん。こんにちは、生斗です。

 

 

「なんでいきなり自己紹介?」

 

「シッ!黙って聞きなさい!」

 

 

それじゃあ取り敢えず言い訳をさせてくれ。無論手紙のことでな。

本当は皆の分を書こうとしたんだけどどっかのエロ天狗がおれを捕まえるために指名手配してきたので書く時間がなかったんだ。

文句があるんならその天狗にしてくれ。

 

 

「誰がエロ天狗だ!」

 

「あ、やっぱり天魔様なんだ……」

 

 

それじゃあ取り敢えず皆に一言ずつ言ってこの文章を終わりとする。

 

 

萃香、勇儀。ほんとお前らは戦闘が好きだよな。正直いってかなり迷惑だった。

……まあ、でも陽気で裏表のないお前らはとても付き合いやすかったよ。

これまで友人でいてくれてありがとう。

 

 

「生斗……」

 

「……こっちこそありがとう」

 

 

 

秋天、お前には謝りたいことがある。

結婚式の時だ。余りに調子にのってしまって爆散霊弾をそこらじゅうにばらまいたのは本当にごめん。

 

 

「……大丈夫ですよ。萃香様達の方が被害がでかかったですから」

 

 

 

あと、秋天の大事にしていた盆栽、障子破って逃げるときに壊しちゃった、ごめん。

 

 

「あの野郎!」

 

 

(陽、昼、夕、晩)天、お前らも強くなって嬉しいよ。別に暇潰しに稽古を付き合ってただけだったのにな。

 

あ、ちゃんとお前ら稽古のあとは風呂はいれよ。いつも稽古終わったあと寝落ちしてるからな

 

 

「「「「入ってますよ(っすよ)!」」」」

 

 

射命丸、お前との出会いは最悪だったな。

ほんと、部下にしたときはちょっかい出させないようにするためだけだったんだけどな。

まあ、それが今でもちょっかいは出されてるけど前ほど悪質じゃないから許してやろう。おれがしてもいいって言ったしな。

まあ、取り敢えず新しい上司がきてもちゃんとしとけよ。

悪戯をしていい上司はおれぐらいだからな

 

 

「ちゃんと人を選んで出してますよ……」

 

 

にとり、まあ、お前の開発には驚かされるものばかりだったな。

これからも凄いのを開発してくれ。

 

あ、でも流石におれを実験台にするのはやめてくれよ?

前に実験台にされたときは大爆発が起きたからな。あのときは死ぬかと思った

 

 

「ああ、あのときのね……生斗なら死なないと思って無茶な構造で全自動人型人形を作ったのがいけなかったね」

 

 

 

と、まあ、真面目に書くと恥ずかしさで死んでしまいそうだったのでボケをはさんだ手紙になったけど皆満足してくれたか?

 

 

ま、取り敢えず家を出るっていっても

ここを一生出ていくって訳じゃないからおれん家を 残しておいてほしい。

勝手なお願いだけどな。

 

 

それじゃあ、いつか土産話をもって帰ってくる!

 

 

 

「ほんと、ふざけてかいてんのか真面目にかいてんのかよくわからない文だったね」

 

「読んでるこっちが笑ってしまうよ」

 

「まあ、それも生斗らしいからいいんじゃないですか?」

 

「よぉし!俺らももっと強くなって熊口様に負けないような剣豪になろうぜ!」

 

「そうですね!いまでも熊口様には手しか出せない状態ですし」

 

「勝てる気しかしない」

 

「うえー、勝つぞー」

 

「まあ、生斗に言われたからには世紀の大発明をしなくちゃね!」

 

「熊口め、今度あったら盆栽を弁償させてやる……て、いつになるかわかりませんけどね」

 

 

 

 

 

「それじゃあ私達も解散しようかね」

 

「あ、ちょっとまって。まだ文章が続いてた!」

 

「「「え!?」」」

 

「んーと……」

 

 

 

あ、最後に言い忘れてたけどおれん家の釜戸の中にある飯、食べておいてくれないか?勿体ないしな

 

 

「「「「「……それ。手紙で言うことじゃないだろ……」」」」」




はい、書きながらどうしようか迷った挙げ句、
変な感じな終わり方となりました。

手紙の所なんて本当は書くつもりじゃなかったんですけどね……

取り敢えず次回からは新章です!

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