テスト前に全力疾走したおかげで、緊張がいい具合に取れた。まあ、その代わりに、服が汗で濡れて気持ち悪くなったが。ドテラもこういうときに保温機能を発揮するなよな……
まあ、受付終了1分前だったが、無事間に合ったことにはかわりない。本当にギリギリだったけど…
「よく間に合いましたね。てっきりもう諦めたかと思いましたよ。」
「ぜぇ、はぁはぁ、こ、こんくらい……朝飯、前だ!」
朝ごはん食べてないから本当に朝飯前だ!
「とりあえず席に着きましょう。もうすぐ筆記が始まりますよ」
「あ、あぁ」
筆記については少し自信がある。なんてったって、永琳さんからテストの出題傾向の高い問題を選出してもらって、そこを中心に勉強したからな!
~3時間後~
うん、やばい。テスト直前に全力疾走したせいか、勉強した半分は吹っ飛んでた。幸いにも語群問題だけだったから、勘で解いても当っている可能性があることだ。おれの勘に頼るしかないな。
これはもう、実技で何とかするしかないじゃないか……
ーーー
実技は午後からなので昼飯とる時間があるらしい。
…………そんなの聞いてない!見事に昼飯忘れたよ!!朝飯どころか昼飯すらありつけないなんてもう完全に詰んだよ。永琳さんの家に戻ろうにも試験が終わるまで会場から出られないらしいし……
もう最悪だ。腹減りすぎて力がでない。
「あれ?熊口さん、弁当を持ってきていないんですか?」
「あ、依姫さん。そうだよ、見事に忘れたよ。力がでないことこの上ないよ」
「そうなんですか……」
と、依姫が考えるように、持っていたバッグから弁当箱を取り出した。
「私ので良かったらあげましょうか?」
そう言いながら弁当を差し出してくる依姫。
うおい、まじか依姫さん!!なんて良い子なんだ!!
良い意味で親の顔が見てみたい!……見たことあるが。
そう思いながらおれは差し出された弁当を受け取ろうとしたが、寸での所で、受け取ろうとした手を止めた。
……ちょっと待てよ。もしここで依姫の弁当を貰ったら、依姫の昼飯はどうなるんだ?おそらく、依姫の食べる分の昼飯が無くなる。
あの依姫のバッグのへこみ具合を見て、もう1つ弁当があるということはなさそうだし……
……本当は喉から手が出るほど欲しいが、これは受け取るべきではないな。
「……いや、それは依姫さんが食べた方がいい。おれのせいで依姫さんが試験に支障がでたら、悪いし」
「そうですか……確かにそうかもしれませんね」
うん、これでいいんだ。飯は食べられなかったが、これが正しい選択のはず。おれは間違ってない……
はあ、腹減ったな……
「うーん…………あ!これはどうですか?」
少し考えていた依姫がなにかを思い出したようにバッグの中をあさり、その中からカ〇リーメイトみたいな固形物の入ってそうな袋を取り出した。
「これはいつも私が非常時になったときに予備として常備している非常食です。それでも食べる機会が全然なかったんで、よかったら食べてください!」
なっ…………!!!
「依姫さん……あんたって人は……!」
「え?!な、なんで泣いてるんですか?!」
あれ?何でだろう、目から涙がでてくる。
……そうか、わかったぞ。初めて女の子に優しくしてもらったことに感動しているんだ!
永琳さんのは大人の人からの優しさだから種類が違う。
……とりあえずこれ以上見苦しい所を見せるわけにはいかないし、グラサン掛けるか。
「すまん、ちょっと感動してただけだ」
「そ、そうなんですか」
このあと、美味しく頂きました。依姫様、ありがとうございます。
~1時間後~
ついに本命の実技試験が始まった。実技には能力やら霊力の使用を許可されているらしい。
んーと。おれはB運動場だから依姫と別れるな。
あ、ついでに依姫にさん付けはやめてほしいとの事なので呼び捨てになった。心の中ではずっと呼び捨てだったけどな。
……とりあえず霊力について復習をしておこう。
永琳さんが言うには、霊力を体に纏ったりすると身体能力が著しく上がるらしい。それも局所的に集中した箇所は霊力の量によっては大岩すら砕く程の力を発揮するとも言っていた。
本当かどうかは試したことないから知らないけど、それが本当なら人の域を越えてるな。
まあ、霊力操作は9日間してきたから大体はできる。試すにはちょうどいいかもしれない。
ーーー
~50メートル走~
さっそく足に霊力を集中させてみる。
うお、なんか足がとてつもなく軽くなった!
凄いな……これならいつも以上にタイムが縮むかもしれないぞ。
他のやつらの平均を見てみると大体6秒後半くらい。やはり、兵士希望なだけあって皆速い。
おれの前世での最高でも7秒前半だったから、もし霊力あっても速さが変わらなかったら、下位は免れないな……
「位置について、よーい」
「えーい!やるしかない!!」
足がこれまでの中で最高潮に軽いんだ。たぶん速くなってるだろう。たぶん、うん、たぶんな!
「!!」パアァン!
「……!!」
ドドドドドドッ!!!
「え、あれ?速!え?なんだこれ!?」
予想を遥かに越える速さで、おれの足は回転しているぞ!?
あ、やべっ、転ける!……いや、後5メートルほどだ。そのまま突っ込めばなんとかつけるぞ!
「ごはぁ!?」
おれは足の回転についていけず、そのままゴール地点まで盛大に転けた。
いってぇ……なんだあのスピード……まるでおれの足じゃ無いようだったな。
「…………3秒05?!」
と、自分の足の速さに驚いていると、ストップウォッチを持っていた人が、これでもかというぐらい、目を見開かせて、そう呟いた。
……はい?3秒?そのストップウォッチ壊れてるんじゃないのか?
「すっ、すげー」ガヤガヤ
「3秒代なんてここ5年はでてないらしいぞ」ガヤガヤ
「ああいうやつが隊長とかになるんだな……」ガヤガヤ
「つーかなんでこけてんだよ。ダセぇー」ガヤガヤ
なんか奥の方から色々言われてるが気にしないでおこう。気にしたらあの癖が出てきてしまう。
「予想以上だな……霊力ってすごい」
それからは凄かった。握力検査では腕に霊力を集中させてやると握力計が測定不能になり、ボール投げではボールが運動場を飛び抜けてツクヨミ様の家まで飛んでいったり、反復横跳びでは100回を越えた。
霊力の恩恵があまりなかったのは体力で、霊力を使いすぎたせいもあってか、自己ベストタイムを出すことは出来たが、他と比べるとあんまりという結果だった。
あと柔軟系も駄目だったな。
だとしても他の奴と比べればかなりの差があった。何でだろうか……他も霊力を使えないわけではないのに。
……霊力操作が関係しているのだろうか?永琳さんも上手いと言っていたし。
そのことについて後日、永琳さんに聞いてみると__
「その通りよ。同じ霊力量であってもその扱いが出来るのと出来ないのとでは雲泥の差があるもの。
分かりやすい例で言うのなら、同じ怪力をもつ者同士が戦うとしましょう。ただの殴り合いでは完全な互角、それでは決着がつかない。そうなった場合、どれで勝敗を決すると思う?武術?戦闘経験の差?……そう、どっちも正解よ。力が互角な場合、勝敗を決するのは、戦闘による技術、つまり知識が多い者が勝つの。
だから今回、霊力操作を覚えた貴方は、何も教えられていない他の受験生より優位だったのよ。
まあ、霊力操作以外にも、他のより霊力が少々多いのもあるでしょうけど」
と、分かりやすい例まで出して教えてくれた。
ほんと、教えてと1言ったら2~4は教えてくれるよな、永琳さん。勉強になります。
ま、でもこれならまず落とされることはないだろう。試験結果が出るのが楽しみだ。
~次の日~
「結果が届いたわよ」
「え?早くないですか?昨日テストしたばかりですよ」
「編入試験受ける人は60人くらいだったから早く済んだんじゃない?」
まあ、いいか。とりあえず封筒をもらって開けてみる。
お、なぜか2枚あるな。
取り敢えず1枚目を見てみるか。
『結果
熊口生斗 様 は合格判定基準に達している
ため 合格 とさせていただきます。
クラスは A クラス です。
ツクヨミ 様 からのコメント
合格おめでとうございます。あと君が投げたボールが僕の盆栽を直撃したんですよね。いつか覚えてろよ』
あ、合格か。やった………………ツクヨミ様、誠に申し訳ありませんでした!!!
「よかったじゃない。Aクラスって士官学校の中でもトップクラスの所よ。あと貴方、なにやってるのよ……」
「え、そんなところいやですよ。普通のクラスがいいです。あとあれは不慮の事故です」
「上の決定だから無理ね、諦めなさい。もう1つの意味で」
「はあ、調子に乗らず霊力だしまくらなければよかった……」
あのツクヨミ様を怒らせてしまうなんて……次あったら殺されるかもしれない。
…………取り敢えず、もう1枚の方をみてみるか。
『
今編入試験 総合順位
『筆記100』
『実技200』
1位 綿月 依姫 299
2位 熊口 生斗 235
3位 ∥ 214
4位 ∥ 195
』
やはり、親も親なら子も子だな、うん。
あ、でもおれも2位か。すげーな。
…………全然喜ぶ気になれないけどな!
無事、生斗君も合格できましたね。