東方生還録   作:エゾ末

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第五話 お化けってこんなだっけ?

 

 

 洩矢の国に来て1週間が経ち、漸く畑仕事にも慣れてきたおれは、最近あることに頭を抱えていた。

 

 

  ガタッガタッ スゥー スッス

 

 

「(……またか)」

 

 

 草木も眠る丑三つ時。いつもこの時間帯になると今のような奇怪な音がおれの寝室の隣の庭に響いてくる。

 

 

「(はあ……おれお化けなんて信じてなかったんだよなぁ。でもこう毎日聞こえてくるってもう偶然とは言い切れないし……)」

 

 

 ほんと、ミシャグジと同じぐらい迷惑だ。折角の睡眠という至福のひとときを過ごしていたというのにいつもこの音のせいで起こされる。

 もうそろそろキレてもいいですかね? おれ、平等主義者だからどんな奴に対しても怒っちゃうよ?

 

 

   ガタガタガタガタガタガタガタガタ

 

 

 …………。

 

 

 ……やるしかないな。

 

 そう決意したおれは静かに布団から出た。そして____

 

 

「いっつもうるせぇんだよ!!!!」

 

「きゃあ?!」

 

 

 堪忍袋の尾が切れたおれは音がなっている方、つまり縁側の方角に霊弾を10発放った。

 お陰で障子が駄目になってしまったが今はそんなの関係ない。なんか悲鳴が女っぽかったけどそれも関係ない。睡眠妨害はおれがされるとむかつくランキング第二位に入るんだ。……て前にも同じこといってたような気がするが気にしない。

 

 

「さて、殺されるよりもされると嫌な睡眠妨害をやらかした罪深き重罪人にどんなお仕置きをしようか」

 

「殺されるよりも嫌なことはないと思いますよ……」

 

 

 使い物にならなくなった障子を跨いでいると、音を出していた張本人が庭の壁によたれかかった状態で反論してきた。

 ……やっぱり女だったか。髪は黒のロングで白装束を着ている。こちらも早恵ちゃんに劣らずの美少女だ。そして頭に三角頭巾をつけてて脚の先の方がぼやけて見えない。

 なんかいかにも幽霊ですよって主張しているような感じだな。

 

 

「さて、お仕置きの前に尋問だ。なんであんな迷惑な音をだしていた?」

 

 

 しかも明日はお隣さん(300メートル先)から頼まれた妖怪退治に行かなきゃいけないから早起きしなきゃいけないんだ。だからなんとしても今日中にこの騒音という眠りの外敵を駆除しなければならない。

 

 

「か、構ってもらいたかったんです……」

 

「はあ? そんなことでかよ。普通に話しかければいいじゃないか」

 

 

 構ってもらいたいって……幽霊にしては可愛らしい理由だな。てっきりただ困らせたいからではないのか。

 

 

「だって怖がられるかもしれないし……」

 

「今のお前の姿を見て怖がるやつなんていないと思うけど」

 

 

「それって幽霊として駄目じゃありません?」

 

 おれのいた世界じゃ真っ黒な瞳から血を流しながら「助け、てぇえ!」みたいな命乞いを言って地を這いずって追いかけてくるのに、今めり込んでいる幽霊は姿は同じだが、全然違う。目はちゃんと白黒はっきり(黒色ではなく緑色だけど)してるし血もついていない。ていうか生きている人となんら変わらないんだが。

 

 

 

 まあ、そのあと幽霊と色々話した。

 

 まず名前は『翠』。なんでも生前は村長だったとか。……てことはここで妖怪に殺されたのって翠のことだったのか。

 そして翠は浮遊霊らしい。あれ?と思った人も少なくないだろう。実際浮遊霊とは自分が死んだことを受け入れられないで現世にさまよっている霊のことを言うが翠は自分が幽霊と自覚している。その疑問について聞いてみると

 

「妖怪に殺されたのはわかっているんですけど自分が死んだなんて信じられるわけありません!!」

 

 と、矛盾な解答が返ってきた。

 まあ、自分でもよくわからないらしいがそんなことはおれにとってはどうでもいい。

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあお仕置きをして寝るか」

 

「え、やっぱするんですか?」

 

「当たり前だ。ここに来てからずっとお前の音に悩まされ続けたんだからな」

 

「だって、私が浮遊霊になってからというもの、何度か来た人達全員私のこと恐がって近寄ってこなかったんですよ!そんな寂しい日々の中、ここに住むと貴方が来たときはもうメチャクチャ嬉しかったんですから!」

 

「なのに全然自分の存在に気づいてもらえなかったから気づいてもらおうとあんな音鳴らしてたのか?」

 

「そうです」

 

「おれが起きてる時にしろ!!」

 

「だってだってぇ!丑三つ時が一番気分が上がるんですよ。だからなんから石とかで遊んだり走り回ったりしたくなってついつい大きい音をだしてしまうんです。」

 

「おれの気分は最悪だ!つーかおれに気づいてもらうためじゃなかったのか?!」

 

「ああ、それもあります。」

 

 騒いで気づいてもらえたらラッキーってか!一石二鳥ってか!!

 つーかこいつ浮遊霊じゃなく騒霊なんじゃねーのか?!

 

 

「……もういい、寝る。色々と疲れた。お仕置きは明日だ。」

 

 そういい、おれは自分の布団のなかに入った。

 

「ちょっとー、遊びましょうよ」

 

「煩い寝させろ」

 

「むぅ……」

 

 

 ああ、静かになった。やっと眠れる……

 

 

 

 

 

 ~ちょっとして~

 

 

 チュン チュン

 

 

「(え?あれ?)」

 

 なんか小鳥の声が聞こえる。ま、まさか!?

 

 そう思いつつおれは布団から飛び起きた。うわっくそ寒い。

 

 今着ている寝間着の上にいつもおれが着ているドテラを身にまといつつ破れた障子を越えて庭に出てみると。

 

「……日が出始めてやがる」

 

 くそおおぉぉぉ!結局あれから30分程度しか寝れてねぇ!?

 

「あ、起きたんですね、熊口さん。でももう私眠いんで遊べませんよ」

 

「寝せるわけねーだろ」

 

「え、まさかあの今夜は寝かさないぞ☆的なあれですか?!熊口さんがそんなことを言うなんて……正直引きます。近づかないでください」

 

「よぉーし、これからお仕置きといきますかぁ」

 

 寝られなかった分のストレスをこいつに当ててやる

 

「え、まさか性的なお仕置きですか?!」

 

 と、翠が少し後ずさった

 

「なあ、翠」

 

「……な、なんですか?」

 

「こ・ろ・す★」

 

「ヒィィ!誰か助けてぇー!?」

 

 

 その日早朝、幽霊の悲鳴が村中に響き渡った。

 これは後に洩矢の国の七不思議に載ることとなったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、傷物にされた……」

 

「おい!誤解を生むような言い方をするんじゃない!ただのお尻ペンペンだろうが」

 

「美少女のお尻を触るなんてとんだ変態ですね!」

 

「まだ叩き足りなかったか?」

 

「ひぃ!ごめんなさい!!」

 

 

 はあ、結局今日全然眠れなかったよ……これから妖怪退治に行かなきゃならないというのに、これじゃあ出没地点に行く前に倒れそうだな……

 




今回の最後に出てきたお尻ペンペンの方法ですが、実際は生斗君は手でたたいていません。
木の棒で叩いていました。ペンペンというよりペシペシですね。

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