「私になんか恨みでもあるの?」
急に背後から現れた妙な帽子を被った金髪美幼女が恨み云々とか言ってきた。恨みがあるのかって……おれが恨んでるのはあの神であって幼女にではない。勘違いにもほどがある。
「ないけど?」
「惚けても無駄だよ。この耳ではっきりと聞いたから。ここらにいる神なんて私の他にミシャグジ位だしね」
何を急に言い出すのやら。ミシャグジ? なにそれナメクジかなんかの仲間? おれ、あんまりナメクジ好きじゃないんだよなぁ。ほら、ぬめっとした感じがなんかな。
「いや、お前が何言ってるのかちっとも理解できない」
「だーかーらー! あんたが土から土竜みたいに出てきて急に『あの神ぃ!絶対に許さん!』って言ってたじゃん!」
「ああ、あれ? 違う違う。神といっても他の神だから___ていうかお前自分のこと神様なんて言っちゃう残念系の子だったんだな」
「あんたこの国に不法侵入した割に私の事を知らないの?」
「知らないもなにも今目覚めたんだけど」
「そんなわけないでしょ!ここは洩矢の国、んで私はこの国の神だ。だからこの国全体に警戒網を張ってたんだけどそれを掻い潜って侵入してくるなんて間者としか思えないんだよ。しかもここの湖は私の神域、気付かないはずない」
そう言って腕を組む自称神様。んー、この子が神か……まあ、それっぽい雰囲気はでてるけど。
と、幼女神に対して考察していると、その幼女の背後の茂みから草を退ける音が聞こえてきた。それに疑問を抱いたおれはそこへ目を向けると____
「うわっ、気色悪!!」
「え!? 何?!」
「気色悪いとは失礼な」
「あ、ミシャグジ」
こいつがミシャグジかい! 何だよその頭まるで男の象徴の先っぽの部分みたいじゃねーか。しかも全体的に真っ白で血管みたいのが浮き出てきてて気持ち悪い。ナメクジの仲間と思ったら全然違ったよ! 存在モザイクだ!
「まあそれは兎も角、洩矢様。こやつは恐らく昔から此処にいたと思われますぞ」
「え___ミシャグジ、なんでそんなことあんたがわかるの?」
「それは私が昔、排便を埋める場所を探していたときのこと。丁度こやつがいる場所付近に埋めようとしたところ、なにか人並みほどの黒い塊があったのです。どうやら既に先客がいたようだと思い埋め直したのですが……」
「おいこらミシャグジ。何私の神域に汚物埋めようとしてんだ」
「す、すいません! …………と、取り敢えず私が言いたいのはこれまであった黒い塊がこやつに変わったということは……」
「……!!!それってまさか!?」
「そうです。こやつは____
_____排便が突然変異した化物なのです!!」
「んなわけねえぇぇだろぉぉぉ!!」
取り敢えず存在規制の鳩尾をぶん殴った。
ーーー
「ま、まさかミシャグジが一撃でやられるなんて!さ、流石は排便の怪物!」
「次それいったら幼女とはいえ許さないからな」
「ごめんごめん。ていうか幼女っていうな! 私はこれでもあんたよりは歳上だよ!!」
「……もしかして合法ロリ?」
「ん、今なんか言った?」
「い、いやなんでも」
こんなこと言ってもわかるわけないか。
「んま、お前が神って事を信じといてやるよ」
「む、絶対信じてないでしょ!!」
「うんや、実際は本当に分かるよ。よく見ればお前から神力が出てるのわかったし。神様なら長生きしていたって不思議じゃないしな」
「へぇ、私の神力がわかるんだね。ミシャグジを一撃で気絶させるといい、普通の人間じゃ無いことは確かだね。まず問題視してなかったけど私を目視できるだけでも凄いことだし」
「なに、ちょっと特殊な普通の人間だ」
目視できない? なに、この幼女、そういう感じの神なのか? まあいいや、おれ見えるし。
「土からでてきた時点で普通ではないよ。あと特殊なのに普通って矛盾してるじゃん」
「ちょっと人の枠から外れただけって言いたかったんだけどな」
「取り敢えず聞かせてもらいたいことが沢山あるからうちの神社まで来てよ。茶ぐらいは出すからさ」
「おお、ありがたい。ちょうど喉が乾いてきた所だったんだ」
「それじゃあ其処で気絶してるミシャグジ持ってね」
「え」
それは罰ゲームかなにかですか?
その後、おれは幼女に連れられて神社に来た。
その途中でみたこの国の住民らしき民家を幾つか見られたが……なんというかTHE ド田舎だった。屋根が藁で作られた家に稲を保管する高床式倉庫、竪穴式住居なんかもあった。後は田んぼが見渡す限り続いている。田舎というより昔の世界にタイムスリップしたような気分だ。
そしてそんな住居より一際大きい神社の客間みたいなところで連れられ、これまでの経緯について話した。
「ってことはつまりこの時代より遥か前に世界を征服していた邪神を駆逐すべく立ち上がった者達の一人としてあんたがいて結局その戦いには敗れ戒めに頭に黒い眼鏡を永遠に掛けさせられて土の中に封印されたってこと?」
「そのとおり!」
「…………嘘だよね」
「はい、すいません……」
物凄い睨まれた。全然怖くないけど。
だって未来都市とか言っても絶対信じてもらえないでしょ。こんな弥生時代みたいなところでさ。
「うーんと……実は昔、妖怪と戦っている途中で爆発に巻き込まれてから記憶がないんだよ。目覚めたらいつの間にか土の中にいたし」
嘘はいってない、はず。これが相手に理解できる範囲。
妖怪がここにもいるのかは分からないが、世界が変わっていないのならばいる筈だ。
「ふーん、記憶がない、か。じゃあなんで土から出てきたとき私以外の神に怒ってたの?」
なんか幼女に尋問されるのってなんか変な気分だな。
「それはおれの知り合いに神がいてな。そいつに理不尽なことをされたのを思い出して怒りがこみあげてきたんだよ」
「へえ、だから私の神力とかもわかったんだね」
「そうゆうこと」
「まあ、嘘はいってないみたいだね。まだ言ってないこともあるだろうけど」
流石は神、わかっていらっしゃる。
「そういえばこっちにも質問があった」
「ん、なに?」
「なんでおれが起きたときあの湖にいたんだ?」
「それは簡単、ちょうど彼処で昼寝しててね、そしたら急に土の中から霊力が膨れ上がったのを見て急いで其処に向かったのさ」
「そうか、神も案外気楽でいいな」
「うん、結構楽しいよー……んーと」
「あ、まだ名乗ってなかったな。おれの名前は熊口生斗、チャームポイントはこのグラサンだ。よろしく」
「ぐらさん? まあいいや、私も名を教えてこうかね___
____私は洩矢諏訪子。土着神だよ」
これがおれと諏訪子との最初の出会いだった。