東方生還録   作:エゾ末

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23話 妖怪に挑発は効果覿面

 

 

 国の方へ戻る途中、依姫からこんなことを聞かれた。

 

 

「熊口君……その、何故そこまで強くなったのですか?」

 

「ん?」

 

 

 そういえば依姫に聞かれてなかった。

 そうだよな……急に知り合いが意味わかんなくほど強くなったら疑問に思わないわけないよな。

 

 

「依姫は、知らない方がいい」

 

 

 が、教えない方がいいだろう。

 ていうか、依姫は知らない方がいい。

 だってこの力は、命を代償にして手にいれた力なんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 ~依姫視点~

 

 

 私の親友、熊口生斗が大妖怪を一瞬のうちに2体も屠るほどの力を手に入れていた。

 意味がわからない。どうしてそこまでの力を手にいれたのか。

 そしてその力を使いこなしているのか……

 

 私も、神の力を借りなくても大妖怪一匹なら互角に戦えるぐらいに強いと自負している。

 しかし、彼は一瞬のうちに二匹だ。

 言わずもなが、私より強くなっている。

 そんな中、私は少しの嫉妬と、不安を抱えていた。

 

 もしかしたら、熊口君は禁忌の手段を使っているのかもしれない、と。

 

 彼はいつの間にか前線におり、血を何度も吐くほど重傷であった。

 それが、私が永琳様に頂いた薬を飲むと、何事も無かったかのように治っていた。

 この症状は私のときもよくあったことだ。

 神降ろしが上手くいかず、神の力が私という依代の中で暴走したとき、よくあの永琳様特製の薬を飲んでいた。その薬を飲むと神の暴走した力を抑え込むことが出来るからだ。

 

 

 熊口君は神降ろしは出来ない筈。なのに私と同じ症状があらわれている。

 急に絶大な力を手に入れたということは確かだ。……まあ、見れば一目瞭然なのだけれど。

 しかし、その手段はどんなものなのだろうか……

 

 本人に聞いても笑ってはぐらかされるだけで教えてもらえない。

 

 

 今も私に父上を持たせたまま一人で弾幕を張り、妖怪らを蹴散らしている。

 

 

 何故か胸騒ぎがする。私でない、親友になにかが起こるような、そんな気が。

 

 

「なあ依姫、こんな時で悪い……」

 

「え、なんですか?」

 

「おれ、今すごくトイレ行きたいんだけど」

 

「……我慢してください」

 

 

 よくこんな状況で気の抜けたことを言うのですね……

 

 

「いや、ほんと、考えてみたら今日1度もトイレ行ってないんだよ」

 

「それがどうしたって言うんですか!」

 

「だからさ、少しあっち向いててくれないか?」

 

「ま、まさか空中でするつもりですか!?」

 

 

 こんなふざけたことを言いながらも着実に妖怪を屠っていく熊口君。

 ……そんなことりも、なんでここでしようとしているのか不思議でならない。

 

 

「いや、だって地上は妖怪が多くて出来そうにないんだよ」

 

「だからって女である私の目の前でするなんて……」

 

 

 端からみたらただの変態だ。露出狂ともとれる。

 ま、まさか……!

 

 

「さ、流石に怒りますよ!いくら私を女として認識していないからって!」

 

「そ、そんなわけないだろ?!」

 

 

 いや、だってそういうことでしょう?女性の前で用をたそうなんて、いくら無神経な熊口君でも考えるわけないじゃないですか!

 

 

「……はあ、もういいや。まどろっこしい事は止めよう」

 

 

 そう、諦めたかのように私の近くまで寄ってくる。なにがまどろっこしい事なのだろうか……

 

 

「なんですか?」

 

 

 すると、熊口君は自分の手を私の首元に持ってきた。え、ちょっ、本当になんですか!?

 

 

「いや、ちょっとな」

 

「え_____」

 

 

 その瞬間、私の首に衝撃が走った。

 

 

「あ……くま、ぐち……君?」

 

「すまん、後はおれに任せてくれ」

 

 

 どんどん視界が薄れていき、意識が遠ざかっていくのが分かる。

 その最中、熊口君が『~~で会おう』と何か言っていたようだが、そんなことを考えている間もなく、私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 ~壁の上~

 

 

「ふぅ」

 

 

 なんとか依姫を気絶させることが出来た。

 やっぱり小便するからあっち向いて作戦は失敗したなぁ。

 あ、因みに今日トイレにいってないのは本当です。 

 

 

「な、熊口部隊長!担いでいるのはまさか……」

 

「ああ、綿月隊長と依姫だ。今すぐ二人を安全な所にやってくれ」

 

「あ、ああ、わかった!」

 

 

 今指揮を取っている◎○部隊長に綿月隊長と依姫を渡す。

 

 

「あ、後綿月隊長がおれに指揮を任せると言っていた。後はおれに任せてくれ」

 

「はあ!?な、何を言っている!そんな事綿月総隊長から一言も連絡が来てないぞ!」

 

 

 来るもなにもそんなこと一言も言ってないけどな。

 これはおれの嘘だ。

 

 

「ああ、綿月隊長が倒れる前に言ったからな。そんな余裕無かったんだろう。

 それともなにか?おれが嘘を言っているというのか?」

 

 

 嘘を言っているんですけどね。

 んー、でもこれで口論になったら面倒だな。今はただでさえ妖怪が入ってくる瀬戸際まで来ていて、時間が無いのに……よし、もし口論になったら依姫と同じ手刀をお見舞いしてやろう。

 

 

「くっ……わかった、信じよう。だが、判断を見誤るなよ。1つの指令が部下の命を左右するのだからな!」

 

 

 お、あっさりと信じてくれたか。

 まあ、こんな緊急時、考えに耽っている場合ではないからな。賢明な判断だ。

 ……なんか偉そうだな、おれ。立場的にはこいつと同じぐらいなのに。

 

 

「分かってるって。部下達を無駄死にさせるようなことはしない」

 

「……ふん。この通信機を使え。この戦場にいる兵士全員の耳に装着されている小型イヤホンに繋がっている。指示をするときに使ってくれ。あと、この通信機がバイブし始めたら本部からの連絡だから見逃さないように」

 

「わかった」

 

「それじゃあ私はこの二人を安全なところへと運ぶ。後は頼んだぞ、熊口部隊長」

 

「ああ、任せとけ」

 

 

 なんとか指揮権を取ることが出来たな。

 もしごねられたら気絶させるつもりだったが、それをする必要は無かったようだな。

 

 

「さて」

 

 

 部隊長からもらったこの無駄にコンパクトな円盤の通信機。

 前に同じようなのを扱った覚えがある。

 確か横にあるボタンを押しながら喋るんだよな。

 

 

『あ~、あ~、聞こえますかぁ。

 今から◎○部隊長に代わって、おれこと、熊さんが指揮をとることになった。好きな食べ物はうどん。好きなものはグラサンだ。よろしくな』

 

 

 一応念のためにとマイクテストをしてみる。

 するとおれの近くで戦っていた兵士に___

 

 

「何をふざけているのですか!?遊んでいる場合ではありませんよ!!」

 

 

 と、怒られた。

 あ、すいません。

 だが、どうやらちゃんと聞こえているようだな。

 

 

『それではこれからの指示を行う』

 

 

 もうこの兵の数だと、ほぼ全ての陣営はでている。

 増援は見込めない。

 そんな状況のなか、おれがとる指揮はどれが最善か。

 

 

 ・現状のまま戦わせる。違う。

 このままでは一時間と経たずに全滅する。

 

 ・部隊を再編成して立て直す。違う。

 再編成するのに時間がかかる。

 

 ・特攻させ、自爆覚悟で立ち向かわせる。

 これが一番駄目だ。

 昔の日本じゃないんだから。

 

 

 おれがとる指揮はその一番駄目な指揮の真反対の事。

 つまり______

 

 

『総員、直ちに壁内へ撤退せよ。』

 

 

「「「「えぇぇぇ!?」」」」

 

 

 おれが撤退を告げると、壁の上だけでなく地上からも同じような声が聞こえた。

 

 

「なんでですか!こんなところで撤退すれば妖怪達が押し寄せてくるじゃないで……」

 

「おっと危ない」

 

「うわっ!?」

 

 

 文句を言おうとしてきた兵士の後ろに蜘蛛型の妖怪が襲ってきていたので、霊弾をお見舞いする。

 

 

「あ、あぁ、ありがとう、ございます……」

 

「戦場で余所見はあんまりするもんじゃないぞ。

 んまあ、いきなりおかしな事をほざかれたら文句言いたくなるのはわかるけどな」

 

「……自覚はあるのですね」

 

 

 おれだって素っ頓狂なことを言っているのは分かっている。

 だが、今はこの指示が最善だとおれは思っている。

 

 

「あ、ああ!?」

 

「くそおぉぉ!」

 

 

 おれの指示を聞いてからの兵士らの反応は様々だ。

 ちゃんと指示に従って撤退する者。指示を無視して妖怪と戦う者。どうすれば良いかわからず辺りの様子を見て行動する者。

 殆どがおれの指示を無視して戦っている。ちゃんと従っている奴らは殆どいない。

 まあ、全員がちゃんとおれの指示に従ってくれないと言うことは分かっている。

 ここにいる兵士は、皆この国で生まれ育った奴らだ。今のおれの指示だとこの国の人達が大勢死ぬと判断し、皆を守るために指示を無視して戦っているのだろう。

 おれは、無視して戦っている兵士を誇りに思う。自分の命を犠牲にしようともこの国の人間を守ろうとしているのだから。

 

 今、壁の上から地上で見える範囲でもこの戦場は、地獄そのものと錯覚してしまうような修羅の場だとわかる。

 地上にいる蟲型の妖怪との戦闘に敗れ、食われている者。

 これまでの戦闘により、腕を欠損してなお、支給されたレーザー銃や、剣で妖怪と戦う者。仲間の亡骸を食われないように守りながら戦うもの者。

 

 皆、倒れていく同志を悲しむ暇もなく戦っている。

 

 

 ……誰だよ、皆がこうして必死に頑張っているなか、マイクテストと表して好きな食べ物とか紹介した奴。

 ぶん殴ってやりたい。

 

 ということで取り敢えず自分の顔面を思いっきり殴っておく。するとパアァァン!となにかが破裂したような音が鳴ったようなが気がしたが気にしないでおこう。

 

 

 これ以上、ここにいる兵士を死なせるわけにはいかない。

 こいつらにだって待っている家族がいるんだ。

 おれにはこの世界に血の繋がった家族はいない。家族みたいな存在の人はいるが……

 それにおれは複数の命を持っている。今は2つしかないが、この場で死んでも後一回は生き返ることができる。

 そしておれは今、ここにいる万を越える妖怪共を食い止める力がある、と思う。--こんな大群に試したことがないからわからないが……

 

 だが、おれの考えている作戦にここにいる兵士ははっきりいって邪魔でしかない。

 一刻も早く壁内に入ってもらわないと困るんだ。

 皆を守るために戦っていることに兵士を誇りには思うが、おれの指示に従ってほしい。

 

 

 だから一刻も早く壁内に入ってもらうよう説得する必要がある。

 この場合、口で説得するのは難しい。無駄に長引くだけで、耳を貸してもらえないことは目に見えている。

 相当な口が達者な奴なら説得出来るかもしれないが、おれはそんなこと出来ない。クソみたいなボケなら無限に出てくるんだが……

 

 そんなおれが、今戦っている奴らを説得する方法。

 

 ____それは、『実力をみせつけること』。

 

 

 力のない者についていく奴はいない。力とは腕っぷしの強さだけでなく知能の高さなど、沢山の種類がある。

 良い例だと綿月隊長と永琳さんだ。

 綿月隊長は圧倒的な力をもって相手を蹂躙する力を持っている。

 それに比べて永琳さんは部下らの個々の能力を最大限にまで発揮させ、確実に敵を倒す知能を持っている。

 

 

 この二人の共通点はなんなのか。

 それは単純だ。

 

 この人なら任せられる、という安心がある事だ。

 

 今、この状況でおれはその安心をこの場にいる兵士らに与えられていない。

 それもそうだ。おれはあまり頭は良くないし、力だって、素の状態だとこの国の平均の実力に毛が生えた程度しかない。

 

 そんなの奴の命令に誰が耳を傾けるのか。

 普通は傾けない。いや、嫌でも上司命令で傾けざるを得ない時はあるだろうが……

 だが、今は命を懸けた戦いの真っ最中だ。

 戦争中に無能な上官が部下に殺されるって話をマンガで見たことがある。

 もしかしたらおれも後ろから刺されるかもしれないな。

 

 まあ、要するにおれが言いたいのは力を見せつけて、おれに従えって事だ。

 

 あ、この人なら大丈夫かもしれない! と、思わせられるような事をすればいい。

 

 五生も費やして手に入れた力だ。

 

 

 皆を納得させられるようなことが出来るかもしれない。

 やるならやろう。力を見せつけるということは敵への威嚇行為にもなる。

 一石二鳥ということだ。

 

 

「…………!!!」

 

 

 そしておれは、部下達をしたがわせるため、抑えていた霊力を全解放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ほぼ全ての音が止んだ。剣を振るう音も、足音も、息を吐く音さえもしなくなり、皆息をすることを忘れ、壁の上にいるおれを見上げている。

 

 何故、皆がおれを見ているのかというと、それはこの、戦場を覆い尽くすほどの霊力の発生源がおれだからだろう。

 

 正直、当の本人であるおれですら驚いている。

 大妖怪を瞬殺出来るほどの力を手に入れ、調子に乗っていたのは確かだ。

 だが、ここまでとは思わなかった。この戦場は少なくても五キロぐらいの広さにまでは続いている。その範囲を余すことなくおれの霊力で満ちているんだ。

 流石五生を犠牲にした力というべきか……

 そりゃあの大妖怪共も秒殺出来る筈だ。あのときの鬼の妖力でさえ、ここまで多くは無かった。

 でもこれを見ると改めてあのときは無謀なことをしたなと実感する。

 この霊力の量、素のおれじゃ絶対に抑えきれない。もしあのとき依姫に薬を貰っていなかったら、おれの身体は耐えきれずにぐちゃぐちゃに破壊されていただろう。

 

 

「熊口、部隊長……?」

 

 

 おれの近くにいた兵士がおれの名を呼ぶ。

 その呼ぶ声は驚愕と怯えの混じった声で、恐る恐るといった感じだ。

 驚くのは分かるが、怯えられるのは予想外だな……

 

 

「熊口部隊長……アナタは、本物ですか?」

 

「はえ?」

 

 

 少し予想外の質問をされたため、変な声をあげてしまった。

 まじかよ……そこから怪しまれてんのか、おれ。

 

 

「そ、そう思う根拠は?」

 

「ここまで圧倒的な力。これまで、見たことが無いからです」

 

「ふむ、そうか……」

 

 

 今もなお、この戦場では沈黙が続いている。人間だけでなく妖怪までもだ。

 そのような状況を作ったのはおれ。正確にはおれの霊力だ。

 確かに戦場を一瞬にして沈黙させるほどの霊力の持ち主なんておれも会ったことがない。

 この兵士が怪訝に思うのも無理はない。

 だが、おれは本物だと言える。何故なら、おれにしかない“特別な物″があるのだから!

 

 

「……ふ、一般兵Aよ。お前はおれが熊口生斗という仮面を被った偽物だと言いたいのか?」

 

「い、いえ!?そ、そういうわけでは……」

 

「だが、安心しろ。おれは本物だ。そう言いきれる理由がある」

 

「……?」

 

「ほら見ろ!このグラサンを!この黒光りした艶のあるこのグラサンを!!ほら、もっと近くで見るんだ!分かるか、このグラサンはサーモントという種類でグラサンの中では定番中の定番だが、それだからこそ良いんだ!基本的に人気で、掛けやすい。シンプルだからだ。だがシンプルだからこそいいんだ。シンプルイズベスト。みんないちいち凝ったティアドロップやらフォックス(グラサンの種類)やらが良いとか言うが、おれは絶対にサーモント派だ。お前もそう思うだろ?」

 

「え、え!?あ、はい?」

 

「だろ!」

 

 

 あ、ミスった。何話してんだ、おれ。グラサンが神力で外れないということを説明しようとしたら思いっきり趣旨からかけ離れて趣味の話になってしまっていた。

 くそ、グラサンの話題になるといつもアツくなってしまう!

 こんな戦況の中なにやってんだおれ!

 

 取り敢えずまた自分の顔面を思いっきり殴る。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 またパアァァン!と破裂したような音が出たが痛みはそんなに感じないので気にしない。

 近くにいた兵士が驚き、地上にいる兵士らと妖怪は少し引き気味な顔をしているがそのことも気にしない……いかん、そんな目で見られるとやっぱり落ち込む。

 

 

「ま、まあつまりおれが何を言いたいのかというと、このグラサンは_____」

 

「死ぃねえぇ!」

 

「えるせぇ、黙ってろ!」

 

「うぎゃっ!?」

 

 

 沈黙を貫いていた妖怪の一部が危機を察知したのか地上から飛んでおれに襲いかかってきた。

 勿論殺られるわけにはいかないので、飛んでくる妖怪共に霊弾をお見舞いして、二度と口を開けないようにする。

 

 

「うっ、くぅ……!」

 

 

 地上にいる妖怪らが悔しそうな声をあげ此方を睨めつけてくるが今のおれにそんな脅しは通用しない。

 こいつら妖怪だってやらなければならないことであることは知っている。妖怪は人の畏れを具現化した存在であり、人を糧に生きている。

 その人間が大量に他の場所へと移動されたら妖怪側からしたらたまったもんじゃない。だから今回のようにどっかのお偉いさんに月へ移住するという情報を聞き、それを阻止するために戦っているのだろう。

 

 妖怪は人間を下に見ている。しかし、妖怪は人間がいなければ生きていられない。

 

 妖怪だからといって全てが悪という訳ではない。心優しく、人を食べない妖怪だって沢山いる。

 実際5年か6年か前に森で遭難したとき、助けてくれた妖怪がいた。

 おれがさっき、あの大妖怪2匹を見逃したのもこれが起因している。

 妖怪にも一応恩がある。だが、おれの計画が動き出したら、もう容赦はしない。

 恩があるとはいえ、こちらにも守りたいものがある。

 

 だからこいつらの睨んでくる目も、負い目は感じるが受け流すことが出来る。

 

 

 

「さて、演出はこれまでだ」

 

 

 いい加減この空気も薄れて、妖怪達との交戦の続きが始まるだろう。

 それならそれが始まる前に此方が行動に移した方がいい。

 そう考えたおれは円盤型の通信機を指示を仰ぐべく、口の目の前にまでもっていった。

 

 

『先程のおれの指示を無視した諸君、聞いてくれ』

 

 

 

 ざわ、ざわ、と地上がざわめく様子が壁の上から見てもよくわかる。

 

 

『総員撤退、確かにそれだけだとただの敵前逃亡だ。だが、それだからこそ最善だとおれは確信している。この発言とおれの今溢れている霊力から答えを導きだしている奴は今すぐ撤退しろ』

 

 

 この言葉に皆がなにいってんだこいつ、と言った表情に変わる。

 だが、それは言葉を理解していない疑問ではなく、理解をしているからこその疑問であった。

 

 

「熊口部隊長!? ま、まさかこの数の妖怪を一人で相手にとろうとしているのですか!?!」

 

「んあ? そのつもりだが」

 

「ふざけんなてめぇ!」

 

 

 今罵声を浴びせてきたのは兵士ではなく、壁の上にいた人狼だった。

 その罵声は静かになっていた戦場に瞬く間に響き渡り、妖怪共が額に青筋を立てながら罵声の嵐を浴びせてくる。

 

 

「お前ごときが俺達を一人で相手取る? 自惚れも大概にしとけよ! ただ少し霊力が多いだけで調子に乗りやがって……お前なんか俺達がかかれば5分もかからずに跡形も残さずに抹殺できるぞ!」

 

「調子に乗るな!」

 

「カス!ゴミ!駄グラ!」

 

 

 そんな感じに罵声を浴びせられるおれ。

 おお、想定外の反応だな。

 それほど今の発言が妖怪らにとってプライドを傷つけられたんだろう。

 妖怪って変にプライドが高いからなぁ。ちょっと馬鹿にしただけで我を忘れて殺しにかかってくる_____

 

 ……いやまて、もしかしたらこれ、使えるかもしれないぞ!

 これを利用すれば、上手くいけば被害が出ずに撤退させられるかもしれない。

 

 あることを考えたおれは円盤型の通信機の表面を触り、拡声モードにする。

 実はこの通信機、表面はタブレット型になっており、操作して色々な種類に変えることが出来る万能通信機だ。

 最初見たときスマー○フォンの円形バージョンの超最新版かと思ったな。 

 動画もとれるし、そのとった映像を浮かび上がらせて立体的に見ることも出来るし。

 

 

 まあ、そんなどうでもいい話はそこら辺のゴミ捨て場に置いといて。

 

 早速今思い付いたことをやってみるか。

 

 

 

『ならかかってこいや』

 

 

「「「「「「!!?」」」」」」

 

 

 

 おれが今やらかそうとしているのは、蜂の巣をつつくような行為だ。

 相手をキレさせて矛先をおれに向けさせる。

 あいつらはプライドが高い。挑発すれば、おれなんか簡単に倒せる! と言ってくる筈だ。そこへおれが条件をだしておれを狙わせる。おれを倒すと言った手前、踵を返すわけにもいかなくなるだろう。というかプライドが敵前逃亡を許さない筈だ。

 

 

『おれなんか簡単に捻り潰せるんだろ?』

 

「ああん?塵がしゃしゃんなよ」

 

『その塵にすくんで今まで動けなかっただろ?』

 

「っく……!」

 

『そういえばさっき、どっかの妖怪が()()()()()()()5分もかからずに倒すことが出来るとか言ってたな』

 

「その通りだ!」

 

「5分どころか一瞬だぜ!!」

 

 

 そう2匹の妖怪が言うと他の妖怪らも同意するように頷く。

 ほう、言ったな。言っちゃったな? 言質はとったぞ。

 

 

『ふーん、ならこうしよう。お前ら全員でかかってこいよ。()()()()()相手してやる』

 

「熊口部隊長!?」

 

『あ、でもそれじゃあ一人なら他の奴らは邪魔になるよな』

 

「はあ? 何言ってやがんだ」

 

 

『おれが相手になってやるから他の人間は壁内に逃がしてくれないかといってんだよ』

 

 

 そう言うと、妖怪らが一瞬驚いたような顔をした後、馬鹿を見下すような笑いをあげ始めた。

 

 

「ぐははは! つまりそういうことか。お前が俺達を挑発していたのは最初からそれが目的だったと?」

 

「とんだ茶番だ! 乗るこたあねぇ!」

 

「お前ごときにそんな時間を割いてやる暇はねぇんだよ!」

 

 

 うーむ、やはりおれは口下手だな。誘導がバレバレだったようだ。

 

 

「熊口部隊長……これについては私も妖怪共と同じ考えです。いくらなんでも無謀過ぎます」

 

 

 兵士もそれ言うか……いや、でももう後戻りは出来ないんだ。

 

 

『ん、なんだ? さっきお前らは皆でかかれば楽勝とか言っていたのにそれをしないのか? お前ら妖怪はそれでいいのかよ。絶賛今おれになめられてるぞ。

 口だけの腰抜け妖怪共ってな 』

 

 

「んなっ!?」

 

「こいつ!」

 

 

 これはもう挑発するだけして矛先をムリヤリおれに向けされるしかないな。口下手のおれでも挑発ぐらいならいくらでも言える。

 しかも今の挑発は中々効果的だったようだ。あいつらのプライドの奥深くを抉ったような気がする。

 よし、後一歩だ。後一歩でこいつらはおれに向かって来るはず。

 その間に兵士達を壁内に戻せば作戦を決行できる。

 

 そしておれは止めの一撃と言わんばかりの一言を発した。

 

 

 

『ていうかいい加減かかってこいよ。地上でわーきゃー言ってるだけじゃ女子供となんら変わらないぞ』

 

 

 

 その瞬間、地上、空中、全ての妖怪が奇声を発しながら、おれに襲いかかってきた。

 おお、恐。

 

 

 

 

 

 


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