東方生還録   作:エゾ末

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22話 永琳さんの薬は本当に万能

  

 

「父上! 熊口君!?」

 

「より、ひめ?」

 

 

 痛む身体には鞭打って大妖怪に立ち向かおうとすると、依姫が空から降りてきた。

 

 

「なんで熊口君がここに……しかもこんなに怪我を!」

 

「そ、んなことよりあっちだ……おれのは、自業自得、だからな」

 

 

 戸惑った表情でおれのところまでくる依姫。だが、今はおれを構ってる場合ではない。

 目の前に大妖怪が4体もいるからな。

 

 

「何故、父上が……」

 

「おそらく、突っ込んだ、ときに、奇襲を、かけられたんだろう……」

 

 

 でなければあんな少しの間に綿月隊長がやられるわけがない。

 ていうかまだ生きてるよな? 

 

 

「依姫……」

 

「な、なんですか、熊口君?」

 

「鎮痛剤が何かを……痛みを、和らげるもの、を持っていないか?」

 

「あ! あります!」

 

 

 そう言って、太股の方にあるポケットから錠剤の薬を取り出した。

 

 

「八意様が私の能力が暴走したとき用とくださったものです」

 

 

 依姫の能力……そういえばいまだに制御できずに暴走するとか言っていたな。

 

 その時にもらった薬か……ん? そういえば依姫がこの薬を永琳さんから貰ったとき、おれいたぞ。

 

 その時、この薬の効果を聞いた覚えがある。

 

 依姫の能力は『神霊の依代となる程度の能力』と言い、神をその身に宿らせ、使役するという恐ろしい能力だ。

 それにより神の力が大きすぎて、自らの身を滅ぼしてしまうのを防ぐための薬だと。

 己の依代を底上げし、神の力を受け止めるようにすると。

 

 

 それって……おれにも使えるんじゃないだろうか?

 依代を器に変え、神の力を増えすぎた霊力と解釈すれば……

 これは使えるかもしれない! そうすればこの痛みを引くことができる上、この異常な霊力を操作することができる!

 

 

「あり、がとう……!」

 

 

 大妖怪らがおれの異常な霊力量に警戒しているうちに、依姫から薬を受け取る。

 これだと依姫の能力が使えなくなるが、それはいい。

 これが成功すればあとはおれが何とかするからな。

 ていうか永琳さんスゲーな。どうやったらそんな薬を作れるんだ?

 

 

「……!!」ゴクッ!

 

 

 永琳さんの万能さに感心をしつつ、おれは依姫から渡された薬を飲み込んだ。

 

 

「おい、今あいつ、何か食べやがったぞ?」

 

「俺達を前にして呑気なものだな」

 

「やるか?」

 

「いや、もう少し様子をみよう」

 

 

 はぁ……はぁ……

 

 おお、少しずつだけど痛みが引いてきたぞ。どうやら、おれの解釈は当てはまっていたようだ。

 吐き気もないし、手足の痙攣も止まった。

 ガンガンと内側から叩いてくるような頭痛を無くなり、少しは正常に行動が出来るようになった。

 まだ肩に違和感がありはするが、剣を振るうにはあまり問題ない程度には大丈夫だ。

 

 

「はぁ、はぁ……永琳さんって、ほんと凄いよな」

 

「熊口君、大丈夫ですか!」

 

「ああ依姫の薬のお陰でな。だいぶ楽になった」

 

「気を付けて下さい。この薬、効果は二時間程度ですので」

 

「そ、そうなのか?」

 

 

 いや、まあ大丈夫だろう。有り余る力(霊力)を今は薬の効果で拡張された器で抑えることが出来ている。

 なら、中身の力を二時間以内に消費し、薬の効果が切れても溢れないようにすればいい。

 

 つまり、これから霊力の無駄使いをしまくればいいって訳だ。

 いや、無駄使いは駄目だな。ちゃんと考えて使わなければ。

 

 

「よし、霊力剣を出せるまでは治ったか……」

 

 

 実際、体にかかった負担による傷は癒えていない。

 普通に身体中が痛いし、内蔵も痛めていると思う。

 だが、さっきの痛みと比べれば耐えられないほどではない。

 これぐらい我慢しないと守れるものも守れなくなる。

 

 

「(さっきまで力士を5人ほど背中に乗っているんじゃないかというほど重かったが……今は自分に体重があるのか疑問に思うほど軽い)

 依姫、本当にありがとな」

 

「礼は後です。大妖怪らが構えてきました」

 

 

 と、さっきから静かだった妖怪達を見てみる。

 確かに、今から襲うぞってな感じに構えをとってる。

 あの4匹の特徴を見てみると……

 四足歩行の牛みたいな奴が一匹。人型で頭に角が生えている奴が二匹。最後に後ろにいるフードで顔を隠した人型の妖怪。フード妖怪がおそらく気絶しているであろう綿月隊長を拘束している。

 

 

「大妖怪4体か……」

 

 

 なんだか……前に見た鬼で見慣れているからか、それとも絶大な力を手に入れたからかーーたぶん両方ともだろう。

 そんなに絶望的な状況でもないように見える。

 

 果たして、5生分の霊力で太刀打できるかな?

 

 

「行くぜ!」

 

「……!」

 

 

 そう言ってついに、大妖怪らが行動に移した。牛妖怪が突進しつつ、後ろから角妖怪Aがついていく。

 角妖怪Bはフード妖怪と一緒に動かず、その場に留まっている。

 

 

「は、速い!?」

 

「依姫、人型の奴頼む」

 

「え、あ、はい!」

 

 

 なんか依姫が相手の動きに驚いているが、おれは他の意味で驚いていた。

 何故なら、スローで動いてるかのように遅いからだ。前に戦った鬼の動きは全く見えなかったと言うのに、あの二匹の動きがとてつもなくゆっくり見えるのだ。

 依姫は速いと言っていたが、おれにしてみればふざけてるのか?と言いたくなるぐらい遅い。

 

 これってもしかしてブーストのお陰なのか?

 取り敢えず、ゆっくり向かってきている牛妖怪の前まで歩いて近づき、横顔を蹴ってみる。

 このときおれが動いているとき、奴らはおれが見えていないのか。見向きもしない。

 そしておれが牛妖怪を蹴り抜くと、そいつの顔面だけが吹き飛び、空の彼方へと飛んでいった。

 

 

「…………は?」

 

 

 え、あれ? なんで?

 なんで顔が吹き飛んだんだ?

 確かに吹き飛ばすために蹴った。だけど相手は大妖怪。おれの攻撃ぐらいじゃ精々動きを止める程度だろうと思っていたのだ。

 だけど、その予想は外れ、天高く牛妖怪の頭部は飛んでいった。

 

 

「え、あれ? 熊口さん!? いつの間に?」

 

「なに!牛乱がやられた!」

 

 

 え、あれ、理解が追い付かない。

 

 あの依姫が速いと言っていた相手がゆっくりに見えた。そしておれの蹴りが超強くなった。

 

 ……もしかして、おれが凄まじく速くなったのか?

 それなら凄いぞ。大妖怪相手がスローに見えるほど強化された目に、一撃で仕留められるほどの威力を持った足。

 

 なんかもう、敵なんかいないんじゃね? ってぐらい凄い。

 あんなに恐怖の対象であった大妖怪共がそこら辺の雑魚妖怪と何ら変わらないように見える。

 

 

「これなら、いけるかもな」

 

 

 そう思い、おれは後ろに下がろうとしている角妖怪Aまで飛んで接近する。

 

 

「な、速っ_____」

 

 

 そして霊力剣を生成し、角妖怪Aに向かって斬りつける。

 すると、いつもなら斬ると気色の悪い感触がしていたのに、全然その感触がなく、プリンのように、首と胴体を別れさせてしまった。

 霊力剣も切れ味が凄くなってる……

 

 

 やべーな、おれ。たった数秒の間に2体も大妖怪を仕留めてしまった。

 

 

「このぉぉ! 勝ったと思ったかマヌケがぁぁぁ!!!」

 

 

 と思ったら首の切り口から斬った筈の角妖怪Aの頭が出てくる。

 ん、どうなってんだ、こいつ? てかきもっ!?

 

 

「……!」

 

「んがぁぁ!?」

 

 

 次の試しとして霊弾を5発ほど角妖怪Aに向けて打ってみる。

 すると霊弾は全発命中し、当たった箇所は全て抉りとられたかのように消え去る。

 

 

「お、おぉ?! 再生が……に、肉がねぇとぅぁ」

 

 

 肉がねぇと?再生が?

 まさか肉を使って部位を作っていたのか? そんなことありえるのかよ……いや、相手は大妖怪だ。おおいにありえる。

 それならあのとき斬った時、胴体とかの肉を使って頭部を作り出したことにも合点があうしな。

 斬り飛ばされた頭部、そこに転がってるし。

 なら一応、こいつの頭部は霊弾で消しておこう。

 

 

「それにしても霊弾もパワーアップしてたか」

 

 

 ……てことはつまり爆散霊弾も……あれは素の状態のおれでもかなりの威力を出せる技だ。

 もしこの状態で使ったら、本部に設置している核爆弾と同じくらいの威力が出るかもしれない。

 封印しておこう。仲間まで巻き込んでしまったら本末転倒だ。

 

 

「さて、どうする? おれとしちゃ、綿月隊長を返して、このままこの国から去って貰えればありがたいんだが」

 

「ほう、なめられたものだな……」

 

 

 と、フード妖怪が若干低い声で返事をする。

 怒ってんのか?

 いや、まあそうだろうな。妖怪は人間を下に見ている。特に大妖怪は人間を餌さとしか見ていない者も少なくないだろう。

 あの鬼もそうだったし。

 その餌に情けをかけられてるんだ。そりゃあ、怒りもするだろう。

 

 

「が、その情け、ありがたく受け取るとしよう」

 

「そうだな」

 

「ん?」

 

 

 あれ? 怒こってるんじゃないのか?

 

 

「なに、狙い外れたと言わんばかりの顔だな。」

 

「そりゃそうだろう。お前らで言う餌に情けをかけられてんだぞ?」

 

「くく、自らを餌と名乗るか。変な奴だ」

 

 

 フード妖怪は笑い、角妖怪Bは微妙な顔をしている。

 

 

「まあ、私らがお前の提案に乗るのは元々、今回の件で賛成ではないからだ」

 

「この国攻めをか?」

 

「ああ、主犯は今お前が殺した二人、牛乱と生蜴。私とそこにいる慧樹は反対派だった。だが、彼奴らより弱かったため、従わなければならなくてな」

 

「それをおれに信じろと?」

 

「無理に信じてもらわなくていい。」

 

 

 そうフード妖怪が言うと、自分より2倍は大きいであろう綿月隊長を軽々しく持ち上げ、此方に投げつけてきた。

 

 

「父上!」

 

 

 それを先程までずっと黙っていた依り姫が受け取る。

 

 

「いいのか? 人質を解放して。今すぐお前らを殺すこともできるんだぞ?」

 

「くく、そうなったら私の目が衰えたと諦めるまでだ。」

 

「ふーん」 

 

 

 まあ、殺る気はないけど。相手が攻撃してこない限りな。

 

 

「それでは、枷が外れた私らはおいとまさせてもらうことにしよう」

 

「ああ、おれらも急がなきゃならないんでな。さっさとどっかに行ってくれ」

 

 

 今、おれが話している間にも妖怪の進行はとまってはいない。早く行かなければ。

 

 

「あ、最後に良いことを教えてやろう」

 

「……なんだよ」

 

 

 内心嫌気がさしつつ、フード妖怪にといてみる。

 

 

「あの二人が今回の国攻めを妖怪共に焚き付けたわけだが、その二人に吹き込んだのは△▽という者だ」

 

「なに! △▽だと!?」

 

 

 一瞬だれだそいつ? と思ったが、それに反応したのは依姫だった。

 

 

「依姫、何か知っているのか?」

 

「△▽は、副総監の秘書です。ここ最近失踪しているときいていましたが……まさか裏切り者だったとは」

 

「失踪? おい、フード妖怪、その△▽はどうなったんだ?」

 

「(フード妖怪? 私のことなのか?)あ、ああ、あの二人に吹き込むと共に食われていたよ」

 

 

 なるほど、証拠は残さないと。

 ……それにしても小野塚が犯人と睨んでいた副総監の秘書。

 これは小野塚が睨んでいた通りかもしれないな。

 

 

「おい、フード妖…………」

 

「悪いがそれ以上のことは知らない。さらばだ」

 

 

 そう言うとフード妖怪と角妖怪Bは霧となって消えていった。

 

 

「まさか、国の者に裏切り者が……」

 

「そんなことより戻った方がいい。今、後ろでは大変な事になってるぞ」

 

「そ、そうですね。一刻も早くこの事を伝えなければなりませんし。それに……」

 

「綿月隊長の治療もな」

 

「……はい」

 

 

 かなりハプニングが起きたが、おれの考えていた事が実行できる。

 後は戻って()を作るだけだ。

 

 

 そう思いつつ、おれと依姫は国の方へと戻っていった。

 


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