東方生還録   作:エゾ末

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20話 ツクヨミ様しつこいっす

 

 

「僕に何か用ですか? 生斗君。まさかこの期に及んで僕の家でまたぐーたらしようと?」

 

「いやいや、そんなわけないじゃないですか」

 

 

 会議が終わり、部下たちのところへ行く前にツクヨミ様のところへと寄った。

 勿論、頼み事があるからだ。

 

 

「ちょっと頼みたいことがあるんです」

 

「…………なんですか?

 僕にあの妖怪の群れと戦えと?それをしたいのは山々なんですが、今殆どの力は月へ移動させているのでただの足手まといにしかなりませんよ?」

 

「いや、だから違いますよ!神様に戦わせるなんてそんな無礼許されるわけないじゃないですか」

 

「……これまでの僕への行いを改めてからその事をいいなさい」

 

 

 確かにそうだけど!

 

 

「まあ取り敢えず頼みたいことがあるんです!」

 

「はいはい、なんですか?今僕に出来ることならなんでもしますよ」

 

「はい、それは________です。」

 

「!?……それは、生斗君。正気ですか?」

 

「正気もなにもこの方が最も有効的な手段じゃないんですか?」

 

「しかし、それを出来るのは君次第です。それを実現できるだけの力を持っていない今ではそれを了承出来るわけありません」

 

「『今』はね。おれの能力を使えば大丈夫ですよ」

 

「確か『生を増やす程度』の能力でしたね。確かに便利な能力ではありますが戦闘には丸っきしなんじゃ…………まさか!」

 

「そう、そのまさかです。おれの命を皆に捧げます。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとかツクヨミ様に了承を得ることができた。後は御崎達だな。

 

 

「それでは、作戦の概要を説明する」

 

 

 御崎達の所へと行き、作戦の説明をする。

 

 まず第一陣として綿月隊長を含めた精鋭部隊が国から少し離れたところで迎撃、依姫を含めた第二陣はそれの取り零した妖怪らの排除。

 後の何陣かはその補助として部隊長の指示で出撃する。

 おれらはその最後の陣で出撃のため少しばかり時間が余る。

 と言っても30分程度だけどな。

 一般市民の転送の完了まで、旧式を入れても三時間はかかるらしい。

 つまりおれらは最低でもその間、数えきれない数の妖怪さんらの相手をしなければならない。

 それに市民の転送が終え、おれら兵が転送装置まで行くのに足止めとしてどこの隊かがしなければならなくなる。

 つまり、この戦いで大勢の仲間が死ぬ。

 普通に考えたらな。

 

 

「説明は以上だ。なにか質問があるものはいるか?」

 

「あの……熊さん?」

 

「なんだ御崎?」

 

「なんで俺らにビールを渡してるんです?」

 

 

 そう、今、おれは説明しながら皆にビールの入ったジョッキを皆に配っていた。

 

 

「なーに、前祝いだ。この戦い、一人も死なずに月へ行ったっていうな」

 

「そ、そうなんですか……」

 

 

 そう御崎は言うと、そのまま黙って俯く。

 いつもの御崎ならここで変なボケをかまして場を和ませるんだけどなぁ……

 まあ、こんな状況だし、仕方ないか。

 

 

「はいはい!辛気くさいのは止めろ。皆いつもの元気はどうした?このビールはいつもケチケチ言ってる熊さんの奢りだぞ?」

 

「熊さん……そうっすよね。いつも通りにやればなんとかなるよな!これまであんなにきつい訓練を耐えてきたんだから!そうだよな!皆!」

 

「「「お、おう!」」」

 

 

 おう、こいつらチョロいな。ちょっと言っただけでいつものテンションに戻りおった。

 

 

「それじゃあ乾杯しましょう!」

 

「おお、そうだな」

 

 

 よし、それじゃあ……

 

 

「乾杯!」

 

「「「「「かんぱーい!」」」」」

 

 

 そう言って皆ごくごくとビールを飲み干していく。

 

 

「そうだそうだ、皆飲め飲め!」

 

「あれ?熊さんは飲まないんすか?」

 

「あん?いや、おれは良いわ。おれの分も飲むか?」

 

「ええ?まさか熊さん。俺らに焚き付けるだけ焚き付けて自分はまだビビってるんじゃないんすか?」

 

「ん、まあな」

 

 

 もうそろそろか。あれは()()()らしいからもう効き始めるだろうな。

 

 

「おーい!皆~!熊さん妖怪にビビってるってよ!」

 

「おいおい、恐れてるのは妖怪にではないぞ?」

 

「ん?なら何にビビってるんすか?」

 

 

「お前らが死ぬことが、今おれが恐れていることだ」

 

「え、熊さん、なん、て…………」ドサァ

 

「……」

 

 

 やっと効いたか。即効性の()()()。ビールの中に仕込ませてもらった。

 

 

「な、んで…………?」

 

「すまん、おれはお前らには死んでほしくはないんだ。

 それにな。

 お前らの十字架を背負って生きるなんて御免なんだわ」

 

「そん、な…………」ガクッ

 

 

 一応、辺りを確認してみる。おれらがいつも使っているロッカーには屈強な男共がぐーすかと眠っている光景が瞳に映った。これが全員美少女だったら眼の保養になるんだけどなぁ……

 

 

 

「……やれやれ、本当に生斗君。神になんてことさせてるんですか。永琳の研究所から薬をくすねさせるなんて」

 

「ほんとすいません、ツクヨミ様。

 それと、こいつらのこと頼みます」

 

「わかりました…………生斗君。最後に君に聞きたいことがあります。」

 

「なんですか?」

 

「生斗君。君は……なぜそこまで僕達、いや、この国の民のためにそこまで()を懸けることができるのですか?」

 

「難しい質問ですね……」

 

 

 命を懸ける……はっきりいってしまえば、これが最善と思うからやるだけで、本当に命が懸かったときはそこまで…………いや、それじゃああの鬼のときのことに関して辻褄が合わないな。

 んー、どうしてだろう……やはり性分としか言いようがないな。

 仲間を助けたい。その為なら己を犠牲にしても構わない。

 うん、自分で言ってて恥ずかしいな。

 でもそれだと辻褄が合うんだよなぁ……何故かそういうときだと、勝手に体が動くし。

 おれ、前世でそんな特性あったっけ?

 まあいいや。ツクヨミ様には考えていることをそのまま言えばいい。

 

 

「おれは、恩返しがしたいんですよ」

 

「恩返し……?」

 

「はい、恩返しです。

 おれが森でさ迷っている時、永琳さんが助けてくれました。

 もしあのとき、永琳さんが現れなかったら、おれは為す術なく妖怪に食べられていたでしょう。

 おれが身寄りがないと知り、ツクヨミ様がこの国の在住を認めてくれました。得たいの知れないおれなんかをね。

 こんなおれにこの国の皆は優しく接してくれました。

 ゴリ……綿月隊長、依姫、小野塚、トオル、豊姫さん、部下達。

 この国の人達に優しくしてもらった分、次はおれが返す番です」

 

 

 こんなところだろう。一応、これもおれの本心。

 なんか語っちゃったな。恥ずかし!

 

 

「……僕達は、充分に返してもらってますよ」

 

「そう言って貰えるだけでありがたいです。でもそう思っているのなら出入り禁止なんかにしないでください」

 

「自立を促すためですよ」

 

「わー、豊姫さんの言っていた通りだー」

 

 

 取り敢えず軽口を叩いてちょっとしんみりした雰囲気を和ませてみる。

 

 

「ははは……それで、話を戻しますが」

 

「あ、はい」

 

 

 流石ツクヨミ様。一瞬にして場の空気を戻した!

 

 

「公的には、貴方のやろうとしていることには賛成です。命を代償にした力は絶大な物です。身体の負担を考えなければ凌ぐことも可能でしょう」

 

「でしょ?」

 

「しかし、私的には絶対に止めてほしいことです」

 

「……」

 

 

 そうか……だけどもう後戻りは出来ないんだよなぁ。

 部下達眠らせちゃったし。永琳さんの薬だから叩いても起きないだろう。

 

 

「もう後戻りは出来ないですよ」

 

「力の大半を月に移した今の僕でも、この者達を起こすのは容易いですよ」

 

「あ、ちょ、それはやめてください」

 

 

 ていうかツクヨミ様。何おれの考えていること読んでるんですか!?

 

 

「はあ……」

 

「まあツクヨミ様、今生の別れじゃないんだし」

 

「生斗君……君、しんがりも受け持つつもりですよね?」

 

「そうですけど」

 

「転送装置はしんがり以外の隊が転送されるとき、その最後の隊が5分後に時限爆弾の作動するように設定されます。もし時間を見誤れば君は月にいけないのですよ?」

 

「それも知ってます」

 

「それまでに君は戻れるという自信はあるんですか?」

 

 

 しかも戻るときに妖怪を転送装置の近づけないようにしなければならないと言う、面倒極まりない配役だ。

 いつものおれなら絶対に受け持たない。

 

 

「んー、そこは分かりませんが。何とかなるでしょう」

 

 

 実際、おれがやろうとしていることは不確定要素が多数に含まれている。

 ツクヨミ様いわく凌ぐことは可能だと言っていたが……

 

 

「まあ、今は一刻も争うことだし、おれはそろそろ行きます。もう第四陣ぐらいは出ていることでしょうし」

 

「っ…………そうですか。本当にやるつもりですか?」

 

「覚悟はもうできてます」

 

「……」

 

「んじゃ、ちょっくら行ってきます」

 

 

 時間が惜しい。早く行かなければ。

 そう思い、おれは走り出す。

 

 

「待ってください!」

 

「ん?なんですか?」

 

 

 ツクヨミ様……まだ止めるんですか?

 

 

「生斗君……君は、この国へ恩返しの為に命を代償にして戦うのですよね?」

 

「そうですけど……」

 

「その括りの中に、僕は入っていますか?」

 

 

 なんだ、ただの愚問か。 

 

 

「勿論、入ってますよ」

 

「そうですか……わかりました。すいません、引き止めてしまって」

 

「いいえ……それでは!」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

 そう言っておれは妖怪達のいるところまで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

「生斗君、僕も覚悟を決めました」

 

「君が僕に恩返しをする義理なんてありません。だって僕は君に沢山のものをもらっているのですから」

 

「だからその恩を、返さなければですね」

 

 

「さて、生斗君に恩を返すため、この国の民を無事月に移住させるため__そして己の罪を償うため、僕も命を懸けるとしましょうか」

 


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