東方生還録   作:エゾ末

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17話 してやられたりってな感じが……

 

 

 おれは今、訓練場にいる。

 士官学校のとは別の、正隊員専用の訓練場だ。この正隊員専用の訓練場は時間制で使える時間がきまっており、今はおれの隊がつかえることになっている。

 なので絶賛、部下達の訓練の指導をしている最中だ。

 

 

「ほれほれぇ、あと5周だ。がんばれー」

 

「ちょっ、熊さん、きついっす! 乗らないでください!!」

 

 

 訓練の内容はというと、訓練場の周り50周マラソンをしている。

 おれは空を飛びながら部下たちが走っているのをついていくだけ。(今は部下に背負わせてるが)

 この上なく簡単だ。高みの見物決めてればいいんだからな。

 いやぁ、教官ってこんなに楽なんだなぁ。

 ……というのは冗談で。指導側も色々と面倒なんだ。資料やらなんやらをまとめたりして。

 指導側になってからは身体的というより精神的に疲れることの方が多くなった。

 だからこういう体を動かす機会にこそ、ストレス解消を行わないとな!

 

 

「これも訓練の一つだ、無駄口叩かず走れ。

 一番には褒美としておれが1日、ご主人様! ってご奉仕してやる」

 

「「「えぇぇーー」」」

 

「おいこら、冗談だから。

 だから露骨に皆ペース落とすんじゃない! あと御崎、お前はおれを抱えて全力ダッシュだ」

 

「ええ! なんで俺が?」

 

「お? おれのドキドキワクワク剣術指導を受けたいのか?」

 

「全力で走らせてもらいます!」

 

 

 まあ、見た感じの通りの部隊だ。減らず口をよく言うし生意気だけどなぜか恨めないような奴らだ。

 ついでに今おれを抱えて全力ダッシュしているのは御崎茂。おれの部隊のエースだ。取り敢えずこいつはこの中でも一番真面目なやつなんだけど、おれに対してかなり生意気だからいつも皆よりきついメニューにしている。

 これに懲りたらもう生意気な態度は取るなって言ってるのに翌日にはケロってしてまたおれにちょっかいを出してくる。

 最近、御崎がドMなんじゃないかと疑い始めている。

 

 まあ、今はそんなことどうでもいいか。

 今は訓練指導に集中しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、皆無事走り終わったな。後は各自ストレッチをして終わるように」

 

「はあ、はあ……熊さん、俺らこれから飲みに行くんですけど、一緒にどうですか?」

 

 

 皆が水分補給をしたりストレッチをしている中、御崎がおれに話しかけてきた。

 お、こいつ元気だな。

 

 

「馬鹿言え、おれが行ったらお前らの分まで支払わなきゃいけないだろうが」

 

「ちぇっ、けちだなぁ」

 

 

 ほう、御崎よ、その見上げた根性は認めてやる。ご褒美としてアイアンクローを食らわしてやろう。

 

 

「あいだだだだだだ!?冗談です!冗談だから手を放してくださいぃぃ!!」

 

「これに懲りたらおれの前で悪態はつくな。」

 

 

 そう釘を刺して額をつかんでいた手を離す。

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「話を戻すが……飲みに誘うって言うのは普通、上司であるおれがやる事なんだぞ」

 

「じゃ、じゃあ誘ってくださいよ!それなら文句はないよな!なあ、みんな!」

 

 

 おおお! と部下達が活気つく。お、こいつら元気だな。もう50周走らせてやろうか。

 

 

「それになあ、お前。一人ならともかく、この人数だぞ?おれの懐を考えろよ」

 

「なにいってんすか熊さん。あんた溜め込んでんでしょ?知ってるんですよ!なんてったって熊さんがよく行く八意様から聞いたんですからね!」 

 

「な、なに!?」

 

 

 いつ話したんだ?! 永琳さんってこの国でも中枢にあたる人物だからそう簡単には会えない筈なのに! (おれはちょくちょく会ってるが)

 

 

「おい御崎、お前まさかそれを聞いておれを飲みに誘っているんじゃ無いだろうな?」

 

「え!?……んな、んなわけないでしょ馬鹿だな~。俺はただ純粋に熊さんと酒を飲み交わしたいだけですって~」

 

 

 そう御崎が言うと部下達もうんうんと頷く。

 今の御崎の慌てぶりようは黒だな。

 そしてそれに便乗した他全員も黒。こいつら全員でおれの懐をスタイリッシュにしたいようだな。

 だが生憎、おれは基本カードだ。元々スタイリッシュだからそんなことされる必要はない。

 

 

「まあ、別に行ってやらん事もない」

 

「まじっすか!」

 

 

「お前らが奢ってくれるのならな」

 

「え″っ!?」

 

 

 くく、そっちがその気ならこっちにだって手段はあるんだ。

 ほら、純粋におれと酒を飲み交わしたいと言った手前、やっぱりいいです。とは言えないだろ。

 

 

「いや、ちょっ、それ、熊さん、気前無さすぎなんじゃじゃないっすか?」

 

「だってなぁ、別におれ、飲みに行く気なんてさらさら無かったのに御崎君がどうしてもって言うからなぁ」

 

 

 ふははは!どうだ!これでお前らは退路は決められた!

 おれを誘うのを止めるか、おれを奢るか、だ。

 勿論、こいつらのことだ。前者だろう。

 まあ、それでもおれは即家に帰れることだし、嫌なことなんて無いしな!

 なに、付き合いが悪いって?

 おれは元々そういうやつさ!

 

 

「……うぬぅ……わかりました!俺らで熊さんの分奢ります!」

 

「なにっ!?」

 

「なんで熊さんが驚いてんすか……」

 

 

 いやはや、まさかおれの予想が外れるとは……

 

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「いやいや、だから言ったでしょ。純粋に熊さんと飲みたいって」

 

「ふーん」

 

 

 

 怪しい、実に怪しいぞ。なにか企んでるんじゃ無いだろうか?

 例えば飲むだけ飲んで、最後に『熊さんおなしゃす!』とかいって奢らせるとか……

 

 

「熊さん、疑ってますね、今。」

 

「この状況で疑わない方がおかしい」

 

 

 あんなあからさまに動揺されて疑わないやつは完全な阿呆だ。

 

 

「はあ、熊さん。俺らとの付き合いはその程度だったんすか?何年間一緒にいると思ってんすか!」

 

「2年だが」

 

「2年も一緒でしょ!それなのに最初の歓迎会以外、1度も皆と飲みにいってないじゃないですか!」

 

「ん、まあ、確かにな」

 

 

 そういえばそうだっけ。いつも訓練終わったら適当に雑談して帰ってたか。

 ……ん?よくよく思うとおれ、付き合いかなり悪いぞ?

 

 

「だから今日こそ!熊さんと飲みたいんです!!」

 

 

 御崎の発言に同意するかのように頷く部下達。

 

 

「お、お前ら……」

 

 

 こいつら、そんなことを思っていたのか……

 

 

 

 

 これは、上司としてやらなければならない事だな!

 

 

「はあ、仕方ないな。行ってやるか。勿論、おれの奢りでな」

 

「まじっすか!」

 

「ああ、お前の演説に免じてな」

 

「よっしゃああ!熊さんありしゃす!」

 

「「「「ありしゃす!」」」」

 

 

 ふふ、可愛い奴らめ。

 

 どうせ今の演説も上っ面だけのものだってことは分かっている。

 が、おれも思うところもあるしな。特に付き合いの悪さについて。

 だから今日は特別に騙されてやるか。

 言っておくが普段の熊さんはこんなにチョロくはないからな?

 

 

 

 

 

 このあと、部下達が調子に乗って、これでもかと言うほど食べたため、おれがこれまで貯めていた貯金の殆どが無くなりました。食べ放題にしときゃ良かった……

 

 取り敢えず明日の訓練は国の周りを100周程度走らせることにします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 今日は綿月家に招待された。ふむふむ、最近依姫が忙しかったから会ってなかったんだよな。

 ま、副総隊長なんて職についてるわけだからしかたないんだけどな。

 おれですら週1でしか休みがないし。

 

 

「よ、依姫。1ヶ月ぶり。」

 

「久しぶりです、熊口君」

 

 

 前までさん付けされていたが、今では君付けだ。

 なんで呼び捨てで呼ばないんだろうな。まあ、そこら辺は人によるから別に指摘はしないが。

 

 

「あら、生斗さんじゃない」

 

 

 あら、豊姫さんじゃない。こんな広い屋敷の玄関で会うなんて偶然にしてはすごい確率だわ。

 ……恐らくインターホンの音につられて来たな。

 豊姫さんとは、士官学校から出たときに知り合った。

 まあ、依姫の紹介でな。

 豊姫さんはよくおれの隊の壁の上で警備しているときとかに差し入れをくれるからありがたい。

 たぶん、おれの部下はおれよりも豊姫さんに慕っているぐらいだ。たまに部下達と飲みに行くみたいだし。

 完全におれより付き合い良いよな、この人。

 

 

「よ、豊姫さん。1()()ぶり」

 

「え? 1日、ぶり?」

 

「あ、生斗さん!?」

 

「お姉様、これはどういうことですか? まさか、また仕事をサボって熊口君の隊の邪魔をしようとしているのでは……」

 

「もう! 生斗さんが余計なこと言うから!」

 

 

 と、ピューという効果音がついてきそうな走りで屋敷の中へ逃げていく豊姫さん。

 あ、しまった。昨日豊姫さん、サボっておれんとこの部隊に来たんだったな……

 

 

「あ、待ちなさい! 今日という今日は許しませんよ!!

 あと熊口君、教えてくださりありがとうございます。それとお姉様がご迷惑お掛けしました!」

 

「いやいや、豊姫さんにはいつもお世話になってるから迷惑じゃない」

 

 

 いまの声が聞こえたかどうかは知らないが依姫も猛スピードで豊姫さんを追いかけていった。

 

 

 ……さて、綿月家の玄関前で置いてけぼりにされた訳だが……

 

 これは中に入るべきなのだろうか?

 いや、こんな広い屋敷に一人で入ったら迷子になりそうだ。

 それにまだ依姫にどんな用件で呼ばれたのか聞いてないしな。

 ここは待っとくしかないな。

 取り敢えず門番の人となんか議論でも展開でもしておくか_______

 

 

 

 

 

 

 ~30分後~

 

 

「いや、おれ的にピンクだな。それにリボンは欠かせない」

 

「あー、確かにリボンはいいですね。しかし、それはあまりにも王道すぎやしませんかね? 黒にピンクリボンなんてどうでしょう」

 

「いや、それも王道じゃないか?

 いや、まあ王道だこらこそ良いところもあるけどな。おれのだとピュアっぽくて_____」

 

「すいません! 熊口君。すっかり遅れてしまいました!」

 

 

 門番と議論を交わしていること30分。

 漸く依姫と首根っこ捕まれてしくしく泣いている豊姫さんが現れた。中々時間がかかったな。まあ、この無駄に広い屋敷の中じゃ見つけるのも一苦労だろうけど。

 

 

「ところで熊口君、今、門番さんとなんの話をしていたのですか?」

 

「ん? プレゼントボックスの色についてだけど」

 

 

 まあ、この話以外にもどんなグラサンが好みなのかとか話し合ったけどな。

 

 

「あ、そうですか」

 

 

 ん、なんだ? 依姫が急にほっと一息ついたけど……

 

 

「まあ、熊口さんがそんなこと口にするはずないですよね」

 

「ん? どういうことだ?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 そう言われると気になるんだよなぁ……

 でもおれは紳士だからな。相手が嫌がることを無理に追求はしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 それからおれ達は客間へいき、優雅にティータイムと洒落こむことになった。

 

 

「そういえばなんでおれってここに呼ばれたんだ?」

 

「あ、そうでしたそうでした。お姉様の一件で忘れかけるかけるところでした……」

 

「あら、ただ遊びに来たってわけでは無いのね」

 

 

 おれも最初はそう思ったけど、依姫がそんな理由で呼び出すのはかなり珍しいからな。なにかあると思った方が普通だ。

 

 

「実はツクヨミ様と八意様にクレームが私にきましてね。あまり用もないときに家に来んな、だそうですよ」

 

「それはできない。だってどっちもおれにとって第一の家だからな」

 

 

 第二が今おれが住んでる家。

 

 

「っと、言うと思うからって、ツクヨミ様と八意様が言ってたのでちゃんと対策はとっています」

 

「あん?……あ」ガシッ

 

 

 なに?! いつの間に後ろにメイドが!

 そして腕と足を縄で椅子に縛られ、四肢が動かせない状態になってしまった。

 

 

「ということで今からこしょぐりを私が1時間します。

 その間に熊口君が参ったをしたら私の勝ち、1時間耐えきったら熊口君の勝ちで、金輪際私はツクヨミ様と永琳様の家に行くことに関して口出しはしません。しかし負ければ用事がないとき以外出入りをしないことを誓ってください」

 

「あ、私もやるー」

 

 

 くそ! 罠だったか! あのとき門番と話さずに帰ればよかった!

 ……しかし、もうその選択は出来ない。

 もし、この縄をほどいて逃げようなら問答無用でしばかれる。豊姫さんの実力がどれほどまでなのかわからないが、あのゴリラの娘であり、依姫の姉さんだ。強いに決まってる。

 そんな二人から逃げられる自信なんてない。

 どうする……これまでこしょぐりなんてされたことないから、どれほど辛いのかが、いまいちわからない。

 だが、もう腹を括るしかないようだ。

 だって二人の目が、獲物を狩る目をしている。指もうねうねと捻って、こしょぐりをする準備運動をしている。

 逃げることは不可能。ならば耐えるしかないということだ。

 

 

「仕方ない! いいだろう、その勝負乗ってやる。その代わり、おれが勝ったら絶対に邪魔するなよ」

 

「わかってます」

 

 

 よし、言質はとった。後は耐えるだけだ。

 なぁに、あのとき、鬼から受けた痛みに比べたら微々たるものだ。

 そんなおれに耐えられないわけがない!

 

 

「さあこい!」

 

「いきます!」

 

「それじゃあ私は脇からせめるわ~」

 

 

 そんなところをせめたって効くわけがないだろ!はっはっはっは!

 ……あれ? え、かゆっ、え?

 

 

 

 

 

 

 _____30秒で参ったしました。この二人、なかなかテクニシャンだよ…………

 

 

 


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