東方生還録   作:エゾ末

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15話 出るタイミングわかんねぇ

 

 おれはこの世界にきてから1年に1回は必ず見る夢がある。その内容はというと、はっきり言ってなにもない。

 その夢を最初に見たのはこの世界に来て最初に寝た日だ。

 ただ真っ黒な空間に自分がいて、その真っ黒な空間の唯一の明かりとして蝋燭が3本ある、ただそれだけ。

 それ以上のことは何もなく、いつの間にか目が覚める。それが2年目にも同じように見た。

 変化があったのは3年目、蝋燭が1本増えて合計4本になっていた。

 そして4年目、この夢をつい先週にみた。でも蝋燭は増えることもなく4本のまま。

 なんでそんな意味のわからない夢の話をしているのかと言うと、今、絶賛その夢をみているからだ。

 

 なんで死んだのに夢なんか見てるんだろうね、不思議だ。

 そしてなぜか蝋燭の数が1本減って3本になってるし。……なんでだろうか。

 もしかしておれが死んだからか?

 ぼこぼこにやられて、最後は爆散霊弾で自爆だもん。

 逆に死んでいない方がおかしい。

 もしそれが理由で減ったのなら、後の3本はどう説明する?

 死んだら蝋燭が1本減るってことはもう3本消すには後3回しななければいけなくなる。

 いや、人生そんなにあってたまるか。馬鹿か。

 もしそれならおれの命はと3個あることになるぞ。

 

 ……いや、でも確かにあの神が言ってたゴキブリみたいにしぶとく生きられる能力を与えたって言ってたのにも、なぜか死んだのに夢を見ているってのにも辻褄があう。

 いや、まじか?おれ、命複数持ってたっていうのか?

 もし今のおれの推理があっているのならまだおれは死んでいないことになる。

 

 

『ご名答~、その通りじゃよー』

 

 

 む、この声はここの世界におれを送り込んだ張本人ではないですか。

 なんでおれの夢にでてきてんだよ……

 

 

『本当はいつでも会話とかは出来るんじゃがの。直接脳内に語りかけておる。

 でもこれ、中々脳に負担がかかるから多用は出来ないんじゃよ』

 

 

 聞いてもないことまで教えてくれるなんてご苦労様です。

 おれからは絶対に語りかけないけどね。

 

 

『まあ、わしも滅多には語りかけんから安心せい。

 あ、あとさっきの君の考察、大体はあっておるぞ。』

 

 

 ま、まじかよ。本当におれの命、複数あんのかよ……

 ……って事はあのとき、刺し違える覚悟はあんまり意味なかってことかなのか!?

 

 

『ぶっちゃけ、その通りじゃ。わしも見ておったが、君が一泡ふかせてやる!って死ぬ覚悟をしていたのを見て腹を抱えておったわ』

 

 

 おいこら神、人の覚悟を笑うもんじゃないですよ。

 

 

『まあ、君の考察に着色するなら、蝋燭の増える条件じゃな』

 

 あ、そういえばなんですか?増える条件って。

 

 

『それは5年に1度じゃな。あと上限は10』

 

 

 え?でも前に増えた時は3年目だったんですけど。

 

 

『それは前世の続きから始めたからの、3年目で君は何歳になった?』

 

 

 あ、20歳ですね、立派な成人男性だ。今は21歳だけど。

 

 

『そうじゃ。この世界にきて、サービスとして17年分の歳を取らせて転生させたからの』

 

 

 え、なんでそんなことを?

 

 

『なんじゃ?前の身体のまま転生したかったのか?首が逝ってるあの状態で』

 

 

 いや、まあありがたいんですけど……

 

 

『ま、歳を取らせたからと言って君の肉体が衰えるってことはないがの』

 

 

 そうなんですか?

 

 

『ああ、能力の恩恵での。それに寿命がないときた』

 

 

 そ、そんなオマケもついてたのか!!めっちゃ良いじゃないですか!……でもそれって戦闘向きじゃないですよね。

 

 

『まあ、確かにこの能力は普段の戦闘には使えんが、ある裏技があってな。それをするとかなり強くなることもできるんじゃ。君がいつも化物ゴリラと思っている綿月隊長とやらや、君を殺したあの鬼が束になっても倒せないような強さになることもできるんじゃ』

 

 

 え、あの妖怪って鬼だったんですか……

 ……ってそれよりもそんなに強くなれるんですか!!おれの能力!

 

 

『使い方次第じゃがの』

 

 

 ほうほう、これはめちゃくちゃ良いことを聞いた。

 あ、そういえばおれってまだ生きてるんですよね?

 

 

『ん?ああ、もちろん』

 

 

 それじゃあこの夢に覚めたら生き返ってるってことですか?

 

 

『まあ、そういうことになるな。生き返る時、死ぬ前に負った傷とかは全部リセットされているから安心せい。あ、服もサービスで直しておくから』

 

 ありがとうございます。

 それじゃあ戻りますか。皆に心配させるわけにはいかないし!

 

 

『おおそうか……あ、ちょっと待ちなさい。生き返る前に今の状況を見ておいてやる』

 

 

 いや、もう戻るから良いですよ。ねえ、神?

 

 

『…………うわぁ……』

 

 

 え、なに神?なんで今小声で引くような声をあげたの?おれに不安を与えようとしてきているんですか?

 

 

『……早く戻ってあげなさい、それじゃあ』

 

 

 え、ちょっ、教えて……

 

 

 と、急に頭が朦朧としてきた。夢から覚めるのだろうか。

 ていうかなんで神、教えてくれないんだろうか……

 

 

『あ、そうそう君の能力の名前は『生を増やす程度の能力』だから』

 

 

 え、そのままじゃね? ていうか今言うことかよ……

 

 そう思いながらおれは意識を覚醒させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

 意識が覚醒すると、薄暗い森の中にいた。

 んーと、確か死ぬ前、一本道にいた気がするんだけど……

 もしかしてあのときの爆風でおれ、吹き飛ばされたのか?

 

 

「ぐすっ……うぅ……」

 

 

 と、考えていると、あまり遠くない所で啜り泣く声が聞こえてきた。

 え、なに? いきなり幽霊とか出てくるのか? 来るなら来い、相手になってやる。

 取り敢えず出てきた瞬間爆散霊弾を顔面にぶっ放すか。

 

 そう思いつつ、ゆっくりと啜り泣く声のする方へと近づいてみる。

 すると______

 

 

「熊口さん……なんで……」

 

 

 依姫さんがどでかいクレーター(と言っても半径5メートルぐらい)の真ん中で泣いていました。

 あ、あまり一本道からは離れていなかったのか。

 

 それよりも依姫、なんで泣いているのだろうか……

 

 あ、よく見たらクレーターの端の方にゴリラと小野塚がいる。何故か二人とも暗そうな顔をしているな。

 ていうかゴリラの下になんか肉塊が転がってんだけど……まさかあの鬼ってことはないよな?

 

 

「依姫、悲しむのは分かるがもう戻ろう。」

 

「父上!何故そう冷静でいられるのですか! 大切な仲間を失ったのですよ!」

 

「ああ、○○隊員、△△訓練生、そして熊口君は大切な仲間だ。特に熊口君は己を犠牲にしてまで、お前らを守り、戦い抜き、大妖怪に致命傷を与えた」

 

「それなら!____」

 

 

「だからこそ、ここでくよくよしておく訳にはいかんのだ。もうすぐ夜が来る。夜は妖怪の時間。我々がここにいるとどんどん妖怪が群がってくる。そうなったらいくら私でもお前らを守りきれる自信がない。

 折角熊口君に救ってもらった命だ。それを無下にして、ここに残っておく方が、彼には報われないんじゃないのか?」

 

「それでも、父上がそんなに冷静でいられるのか理解できません……熊口さんは大事な仲間でもあり、親友でした。それなら、せめてここに残り、彼の亡骸を集めた方が、私は報われると思います」

 

 

 え、なに、なにが起こってんの? 急に親子喧嘩みたいのが勃発しだしたんだが……あと依姫、亡骸もなにもおれ、ここにいますよ? 亡骸ではなく生骸がここにありますよ?

 

 

「それは翌朝、捜索をする」

 

「その間に妖怪に持ち拐われたらどうするんですか!」

 

「依姫! 綿月隊長の言う通りだ! 一旦戻ろう、皆待ってる!」

 

「皆だって全員の帰還を望んでいる筈です!それが亡骸であろうとも!」

 

 

 ん、ちょっと待てよ。

 これってまさか、おれのことでもめているのか?

 おれの亡骸を捜索するかしないかで。

 それで賛成派が依姫で、反対派がゴリラと小野塚。

 

 依姫……そういえばおれのこと、親友って言ってくれてたな。

 依姫! おれもお前が一番の親友だ!

 

 

「もういいです!父上も小野塚君も、そんなに薄情だとは思いませんでした! 私一人で探します!」

 

「依姫!!」

 

 

      パチン!

 

 

 うわぁ……ゴリラが依姫にビンタしたよ。

 

 

「父、上?」

 

「私だって、悲しいさ」

 

 

 そう言って叩かれた事に驚いて呆然としていた依姫にゴリラが抱き寄せた。

 

 

「だがな、依姫に、彼の死に姿を見せたくないんだ」

 

「え?」

 

「あのとき爆発、中間地点からでも轟音が鳴り響いてくるほどの大爆発だ。あれほどの爆発を間近で受けた熊口君の姿は、おそらく無惨なものだろう。もしかしたら、亡骸すらないかもしれない」

 

 

 ありますよー、亡骸ではないけど。

 

 

「その姿を見て、依姫が……私の娘が荒れる姿を見たくないのだ。

 私はこれまで、親友を失った者を腐るほど見てきた。中には立ち直る者もいたが、立ち直れず、除隊した者もいた。」

 

「……」

 

「熊口君は死んだ。だが、我々の中で熊口君を忘れない限り、彼は永遠に生き続けるのだ! 我々の心の中で!」

 

 

 うわ、何処かで聞いたことのあるような事言ってらっしゃる。

 ベタすぎるよ……

 

 

「しかし、死体を見てしまうと心の中の熊口君が死体となって見えてきてしまう。

 だからこそ、依姫には亡骸を見てほしくないのだ」

 

「……うぅ……はい、分かりました」

 

 

 そう言って依姫はゴリラの胸の中でしくしくと泣き始めた。

 よ、依姫、おれのために泣いてくれるのか……!

 おれ、生きてるんだけど……!!

 

 

「さあ、帰ろう」

 

「はい、父上……小野塚君、すいません、お見苦しい所を見せてしまって」

 

「いや、いいさ。依姫の言ってることも分かるしな」

 

 

 そして3人はゆっくりと帰路へと歩いていく。

 

 え、ちょ……この状況、物凄く出ずらいんだけど。

 折角喧嘩も終わってさあ帰ろう! って時に喧嘩の原因となったおれが登場してみろ。

 折角の立ち直って前を向いていこうぜ! って空気がぶち壊れるぞ。

 

 

「ちょっと待て、そういえばさっきから、あの茂みから気配がするんだが」

 

 

 と、歩く足を止めて、ゴリラがこちらの方に指差す。

 お、おい! お前から空気を壊しに行くつもりか!

 

 

「折角の空気をぶち壊しにするつもりかよ」

 

 

 小野塚がそう呟きながら、警戒をし始める。

 いや、おれも壊したくはないよ!

 

 

「さっさと倒して帰りましょう。今は一刻も早く、部屋に籠りたい気分ですし」

 

 

 依姫も腰にぶら下げていた真剣を抜き、此方に向けてくる。

 

 

 …………どうしよ。このまま潔く出てしまおうか?

 

 

 

「俺が今から、あの茂みにいるやつと交換しますんで、ここに奴が現れたら、一気に叩いてください」

 

「おう、任せておけ」

 

「はい」

 

 

 おいおい、なにやら物騒なことをいい始めてるぞあいつら。

 ……いや、待てよ。小野塚とおれが交換されるってことは、彼処におれが現れるってことだよな?

 それならそこで「やあ、こんにちは!」なんて気軽に話しかければあの二人も気づいてくれるんじゃ無いだろうか?

 あの化け物親子だ。攻撃を寸前で止める事ぐらい朝飯前だろう。

 

 

「それでは行きます!」

 

 

 そう言って小野塚は能力を発動させた。

 

 おれの視界が一瞬ぼやけ、新たに見え始めた瞬間、目の前には握りしめられた拳があった。

 

 

 あ、やべっ。

 

「あ!」

 

「うがああ!?」

 

 

 咄嗟に霊力を腕に集中して顔を守ったが、流石は綿月隊長。

 軽く茂みの方まで吹き飛ばされた。

 

 

「っいで!」

 

 

 そして木にぶつかって漸く止まることができた。

 ……いってぇ……おれの腕、今どうなってる?

 

 

「熊口君!」

 

 

 と、奥の方からゴリラの声が。

 流石に今ので気づいてくれたか。おそらく、綿月隊長も殴る瞬間におれだと気づいて、咄嗟に威力を弱めてくれたんだろう。

 でなければおれなんかが防御しきれる訳がない。

 

 

「熊口さん!」

 

 

 そして茂みから出てきたのはゴリラではなく依姫。

 木にもたれ掛かっているおれに抱きついてきた。

 お、おっふ依姫さん……胸当たってます。

 

 

「よかった、無事で……」

 

 

 依姫、耳元で囁かないで。勘違いしてしまう。

 

 

「せ、生斗。お前……!」

 

 

 次に茂みから出てきたのは小野塚。こいつは泣き目になりながらおれを見て驚いている。

 おお小野塚、お前もおれのために泣いてくれるか。

 おれの亡骸を捜索するのに反対だったから薄情な奴かと思っていたが、違っていたようだ。

 

 

「よ、よお、さっきぶりだな」

 

「……!」

 

 

 取り敢えず話しかけてみると、小野塚が無言で抱きついてきた。

 お、おい小野塚さん……むさ苦しいから離れてくれ。

 抱きついてくるのは可憐な美少女だけで十分です。

 

 

「く、熊口君。何故生きているんだ?」

 

「おれが生きてちゃまずいんですか?」

 

「そんなわけないだろ!」

 

 

 そして最後に茂みから出てきた綿月なる隊長が、豪快に抱きついてきた。

 おいゴリラ! お前は本当に抱きついてくるな! やめてくれ!

 

 

「どうやって君が生きているかなんて今はどうでもいい!

 君がここに存在している、それだけで充分だ!」

 

 

 耳元で大声を出さないでくれ、綿月隊長。

 鼓膜が破けてしまう。

 

 

「いや、ほんとごめん。出るタイミングが分からなかった……」

 

 

 まあ、おれのことを思ってくれているのは確かだから嬉しい。

 おれって中々幸福者だなぁ。

 

 そう、美少女一人、むさ苦しい男二人の計三人に抱擁されながら思うのであった。

 

 


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