東方生還録   作:エゾ末

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無駄に長いです。
やはり生斗君以外だとボケにくいですね……

今回は 生斗→陰陽師→不比等 の順で視点が変わります。


⑩話 式神鬼神、腐敗してるね

 

 

「はあ!」

 

 

 そんな雄叫びとともに糸目はおれに向かって大量の御札を投げつけてきた。

 その御札は、紙で出来ている筈だというのに鋭く、直線的に、そして的確に進行方向であるおれに向かってくる。

 なんだあの紙……あいつが持っていたときはしなっていたのに投げた瞬間、硬化したかのようにピンと真っ直ぐになってるぞ。

 紙だからって安易に受けるわけにはいかないな。御札は色々な効果が付属されている場合が多い。特に封印系がメジャーだ。戦闘中に動きを封じられたら勝率は絶望的になる。

 

 

「なに!?」

 

「と、飛んだぞ!」

 

 

 受けることはまず論外。そしてスレスレで避けるのもだ。おれのようにスレスレで避ける相手に爆散霊弾を途中で爆破させたりと、危険が伴う可能性があるからだ。

 あくまでおれはローリスクな選択をする。

 

 つまり、空に飛んで御札の軌道上から抜ける。飛ぶ直前にどんな付属効果があり、どれくらいの威力があるか確かめるため、おれのいた場所には薄い霊力障壁を展開しておく。

 

 

「ほう、宙を舞うか似非超人」

 

「まさかそれ、おれのことを言ってるのか?」

 

「貴様以外に誰がいる」

 

 

 糸目は素直に驚いたような顔をして、おれのことを似非超人と宣う。

 まあ、そんなことを言われても別に気にしないけどな。おれはグラサン以外ならどう罵られても怒らない自信がある。

 ん? ちゃんと過去を振り返ってから言えって? おれは過去を振り返らない主義なんでな。

 

 

「だが、その舞いはまるで蛾だな。蝶には程遠い」

 

「うるせぇ、おれは蝶より蛾の方が好きなんだよ」

 

「貴様の趣向など興味はない」

 

 

 さて、こんな下らない話は無視するとして、霊力障壁はどうなってるかを確認する。

 

 

「(あれ?)」

 

 

 予想が外れた。おれの予想ではあの鋭い御札により霊力障壁は貫通しボロボロになるか、それとも爆発して消滅するかと考えていたが……

 そのどちらでもなく、霊力障壁に御札が5枚程度貼り付いていた程度だった。

 

 ……これはどういうことだ? 封印系? それともまた別の物か?

 さっきまであんなにも固まり、鋭くなっていた御札が障壁にぶつかった瞬間、刺さりもせずに貼り付く。

 ただ威力がなかっただけと言えばそれで済む話だが、相手は妖怪退治のスペシャリストだ。ただで済むはずはない。

 

 

「疑問に思っているようだな。この御札がどんなものなのかを」

 

「なにかあるのか?」

 

「それは身をもって知った方が早いぞ」

 

 

 誰が身をもつかよ、っと突っ込んでやろうとしたが、その直後の異変に察知したおれは、その言葉を寸でのところで飲みこんだ。

 

 

 その異変の正体がどんなものなのかはお察しの通り、御札だ。

 おれの下(地上)に貼り付いていた御札が一斉に光だし、その光はおれを囲むように円形に広がっていく。

 

 この配置は…………くそ、やられたなこりゃあ。もう逃げようとしても遅そうだ。

 

 

「ーーー閃光弾幕符」

 

 

 そう糸目が呟くと、光出していた御札から空中に向かって大量の光線が放出された。その無数の光線は次々とおれのいる空中へと放たれていく。

 

 この弾幕の密度、避けるのは骨が折れそうだ。

 

 くそ、これならあのとき札を全部爆破していればよかった!

 

 取り敢えず、目を霊力で強化しつつ避けに徹する姿勢をとる。

 

 

「ただでは避けさせぬぞ________

 

 ーーー千針札符」

 

 

 

 そう言って糸目はおれに向かって1枚の御札を投げつけてくる。

 

 

「うおっ!?」

 

 

 それをなんとか身体をひねって避ける。

 

 が、その判断が間違っていた事を避けた瞬間に気付く。

 

 

 

     パサアアアァ!!

 

 

「なっ!!?」

 

 

 避けた先でまた御札は光りだし、そして散った。

 大量の鋭く尖った針を生成して。

 

 

 やばいやばい! 下からは無数の光線、上からも無数の針。

 

 こんなのおれに避けられるか? いや、無理です。おれにそんな避けテク無いです。

 くそ、やっぱりあいつ、戦い慣れしてるな。相手がどこでどうすれば嫌がるかを分かっていて、そこを的確に突いてくる。

 

 

「これで終わりだ。貴様が嘘を吐くからこうなるのだ。」

 

 

 そして糸目、あいつ何か誤解していないか? おれ、あいつに嘘なんて吐いたことないぞ?

 

 

「ちっ……これは、一筋縄ではいかないな」

 

 

 

 両方向からの高密度弾幕。避けるのはまず不可能。

 さて、この状況をどう打破しようか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

 

「熊口殿!!」

 

 

 そう、似非者の雇い主が叫ぶ。

 それもその筈。己の用心棒が為す術べなく我の術中に嵌まり、無数の針と目を覆いたくなるほどの閃光の同時攻撃を諸に受けているのだから。

 

 我は、熊口生斗を似非者と推察している。

 あのとき、不比等様が熊口らに教えた討伐隊の件は、まだ言っていないことがある。

 実は討伐隊はこれまでに幾度となく賊共の元へ赴いては返り討ちに遭っていた。

 そしてついに賊の頭領は妖と同じ括りにいれられるようになる。

 そうなると我らの領分。討伐隊には陰陽師が含まれるようになった。

 

 そして一月ほど前、我の同僚であり、親友であった陰陽師が討伐隊の筆頭として賊のいる草原へと向かった。

 彼は接近戦は不得手であったが、それ以外は我に並ぶほどの実力をを有していた。

 負ける筈はない。そう考えた我は特に心配することもなく彼を見送った。

 

 そして数日後、討伐に行った者達が帰ってきた。その全てが遺体と化して。

 

 そう、全滅したのだ。

 身ぐるみは全て剥がされており、遺体の損傷が激しい者も少なくなかった。その殆どが打撲痕であり、武具による傷は1つとして無かった。

 特に打撲痣が多かったのは我の親友であった。

 最後まで抵抗した結果なのだろう。

 

 我は変わり果てた親友の姿を見て、復讐を誓った。

 一刻も早く親友を壊した賊を殺したくて仕様がなかった。

 彼は我の幼少時代からの友人であり、我が陰陽道に歩んだのも彼がきっかけだったのだ。我の特殊な能力を身に付けることが出来たのも彼のお陰でもある。

 

 殺すためには準備がいる。そして満を持して人員も確保しようと、次の討伐隊に志願した。

 そしてあと一日で討伐に出るという所で、ある凶報(朗報)が来た。

 

 

 _______賊共が捕まった。

 

 

 その凶報は我ら討伐隊が討伐に向け、支度をしているときであった。我の周りにいた者は歓喜し、賊を単独で倒したという人間を称賛した。

 

 その単独で倒したという人物が熊口生斗という輩だ。

 

 

 皆が歓喜し褒め称える中、我だけは奴を恨んだ。

 漸く復讐が果たせるというのに、奴が邪魔をしたせいでそれが果たせなかった、と。

 

 我の怒りの対象は熊口生斗という輩に向いていた。

 

 だが、一応奴は我の親友の仇を討ってくれた者でもある。

 なので殺してやるとまでは考えはしなかった。

 

 ただ、少しぐらい何かしなければ我の気が済まない。

 そんなときに藤原不比等という貴公子が熊口生斗に感謝をしているという情報を得た。

 

 これだ! これを利用しよう! 

 

 あることを考えた我はそれをすぐに決行した。

 

 藤原不比等を使って熊口生斗を呼び出し、そこに奴が来たところで余興と表して我と決闘させる。そこで我が熊口生斗を倒し、奴に醜態を晒させるのだ。

 

 

 結果、作戦は成功した。

 だが、人が違った。

 あんな奴が賊を倒したなどあり得ない。

 我の親友を殺った賊よりも強いはずの輩が、あんなにもひょろっちく、飄々とした奴なんて絶対にあり得ない(しかも頭に変な黒い物体を掛けている)。

 もっと凛々しく、勇ましい者でないと親友が報われない。

 こいつは似非者だ。

 本当は別の者が賊を倒したというのに、その功績をなんらかの方法で横取りした屑なのだ。

 

 そんな奴、我が粛清してやる。

 

 それも丁度今、我の攻撃により完了した。

 針と閃光の激突により、何故か煙が出てはいるが、奴はおそらく木っ端微塵になるだろう。妖ですら深傷を負わせられるほどの技だからな。

 

 

「不比等様、お分かりでしょう。彼は似非者です。あの超人を倒したものならばこの攻撃、なんなく避けられるでしょう」

 

「うむ、そうだな」

 

 

 我は煙の跡を見ずに踵を返す。

 次こそは本物を見つけださねば。

 

 回りにいた者らもこの程度かと落胆した顔をしている。

 ふん、功績を横取るからこういうことになるのだ。

 

 

「あ!」

 

 

 と、我が不比等様の所へと戻っていると、7歳ほど女子が空中を指差し、驚愕の声を上げる。

 む? あの女子の眼、紅いぞ?

 

 いや、それよりも女子が指差した方向だ。あれは確か似非者がいた場所…………

 

 

「なっ!?」

 

「よ、倒したと思ったか?」

 

 

 少し疑問に思い、振り返ってみると、そこには平然と空中に留まる似非者の姿があった。

 

 奴の頭上には何か切れ目のようなものができており、中は真黒に染まっている。そして足元は淡く光った壁のような物が円錐状に出来ていた。

 まさか、あの摩訶不思議な物で我の技を見切ったというのか?

 

 

「疑問に思うだろ? まあ、結構単純なことなんだけどな」

 

「……どうやった」

 

「簡単だ。まず頭上の空間を斬っておれの上から降ってくる針をその中にいれ、足元の方は霊力障壁を円錐状にし、光を屈折させておれの方向から起動を変えさせてたのさ」

 

 

 何が簡単なのだ。空間を斬るなど、人間の為せる業ではない。そして閃光もだ。屈折させるといっても衝撃によって耐久力は落ちる筈だ。ということはつまり、奴は力を供給し続け、あの壁を保っていたか、元からあの壁が強固なものであるかのどちらかだ。

 我の閃光は、一筋で岩をも砕く威力がある。もし後者の場合なら、我は奴の評価を見直さなければならない。

 ……いや、これだけでも十分に見直す程はあるな。

 

 

「やるな似非者。流石は横取っただけはある」

 

「横取った? なにいってんだ。あとおれ、似非者って奴じゃないと思うぞ」

 

 

 横取ったというのは我の仮説に過ぎない。

 最初はその仮説が正しいと確信していたが、今のを見せられると少し怪しくなってきた。

 ……いや、まだわからない。あんな優男が我の親友より強いわけがない!

 

 

「(その証明をして見せる! 奴を地に伏させることによって!)」

 

 

 我の他の者には使えない能力がある。

 それは御札に何かしらの付属効果を付けることだ。

 封印や呪術程度ならば陰陽道を歩む者なら誰でも出来るが、我のように閃光や針等を出すことは出来ない。普通は御札で物質を作り出す事は出来ないからだーー辛うじて爆発や水は出来るが……

 そう、我は御札に描いた絵を具現化させることができる。絵といってもほぼ暗号みたいなもので文字とさほど変わらないが。

 火を起こそうと思えば起こせるし、樹も生やそうと思えば数秒で大樹を生やす事ができる。

 

 何故使えるかは我にもわからないが、この力が有る限り、負けることはないだろう。

 実際、これまで我は幾度となく妖共を戦い、そのどれも無傷で勝利してきたのだ。

 

 あんな似非者、ここから一歩も動かずして倒してくれるわ!

 

 

「ほら、油断するなよ」

 

「くっ!?」

 

 

 そう言いながら奴は不意打ちと言わんばかりに光る玉を放ってくる。

 なんなのかはわからないが、受けるわけにはいかなかったのですかさず横に跳んで避ける。

 

 

「あ……」

 

「……ん? なんだ?」

 

「いや、なんでもない」

 

 

 一歩、動いてしまった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

「ほう」

 

 

 あの猛攻を無傷で避けきるか。

 流石は人智を越えた賊を倒しただけはある。

 

 さてさて、これからどんなものを見せてくれるのだろうか。

 

 

「ほら、早く来いよ。まさか今ので怖じ気づいたのか?」

 

 

 明徳を挑発する熊口。

 この者はつくづく奇怪だ。空を飛び、光る玉を放ち、そして今、光る刀を右手に提げている。……明徳も充分に奇怪だったが。

 この二人、まだ始まって間もないが見ていて飽きはない。

 

 

「まさか。それよりも貴様、良いのか?」

 

「なにが?」

 

「ここで我に先手を譲れば、これから貴様が我に攻撃をできる好機は二度と訪れぬぞ?」

 

「あー、別にいいよ。チャンスは待つものじゃない。作るものなんだから」

 

 

 はて、チャンスとは? いや、まあいい。あやつ自身の特別な言い方なのだろう。

 

 

「ちっ…………ふん!」

 

 

 明徳はあの言葉を理解できたのか?! まるで理解して、苛つきを感じたかのような舌打ちだったぞ……

 ……明徳は、舌打ちをした後、御札を両手に一枚ずつ持ち、その二枚の御札を地面に貼り付けた。

 すると貼り付けられた御札に書かれていた印が地面にはみ出し、円状に御札を囲んでいく。

 

 

「ーーー式神鬼神」

 

 

 そして明徳がそう呟くと、御札とその周りを囲んでいた印が蒼く光だし、中から勢いよく人間とほぼ同じ大きさの鬼が二体、姿を現した。

 

 

「お、おい、まじかよそれ……」

 

「死者の霊魂を呼び起こし、我の式神とした。我ですら手に余り、完全に力を発揮させられないほどのな。

 まあ、貴様を倒す程度ならこのぐらいで充分だろう」

 

「いや、充分過ぎるだろ。なんだよ、鬼神て……お前、加減というものを覚えろよ。しかも2体て……」

 

 

 いやはや、私も驚いたぞ。まさか鬼神を呼び起こすとは……これまでそんなことが出来る者など聞いたことがなかった。

 これは流石にやりすぎではないか?

 

 

「はあ……はあ……」

 

 

 おや? 明徳の奴、疲れておるな。……いや、それもそうか。鬼神を二柱も召喚したのだ。これで疲れないほうがおかしい。

 

 

「あ……あぁ」

 

「うあぁ……」

 

「……なんかゾンビみたいだな。よく見れば所々腐敗してるし」

 

「ふ、ふん、それでも貴様を倒す事ぐらいわけない! 行け!」

 

「「……!!」」

 

 

 明徳が命令すると、二柱の鬼神は見た目に反して目にも止まらぬ速さで熊口に向かって襲いかかる。

 もはや私には目視できんな。やはり鬼神というだけはある。

 

 

「うお、速いな。っと……」

 

 

 しかし、熊口は二柱の鬼神の動きを見えているのか、二柱の殴打を手に持っていた光る刀で難なく受け流す。

 

 

「おりゃ!」

 

「!?!」

 

 

 そして殴り付けたことによって脇腹に隙のできた一柱に熊口は受け流す時に動かした重心を利用して蹴りつける。

 蹴られた鬼神の一柱の脇腹は脆かったのか、ぼろぼろと蹴られた部位が崩れていく。

 

 

「なんだこりゃ、脆いな」

 

「なっ、こいつ……我の式神の動きが見えるのか?!」

 

「鬼神っていってもあれだな。術者がこれだと報われないな。これなら普通の鬼の方がよっぽど速い」

 

「うぐっ……」

 

 

 熊口、その言い草だと実際に鬼と戦ったことがあることになるぞ……

 

 

「くっ! 狼狽えるな! 攻めて奴の隙を作るのだ!」

 

「「う、うがあぁあ」」

 

 

 明徳よ、それは二柱に特攻を命じているようなものだぞ。ここは普通、近接戦闘を避けさせるべきだ。

 

 

「ありがとう、接近戦はおれの大好物……っておわ?!」

 

「ただ突っ込ませると思ったか馬鹿者め!」

 

 

 愚策、と思いきや鬼神によって出来た死角から御札を放り、熊口に攻撃を仕掛ける。

 それを熊口は避けたが、その避けた先には先程蹴られた鬼神の足が振りかぶられる軌道上であった。

 

 

「んがぁぁ!」

 

「っう! おぉ!」

 

 

 捉えたと言わんばかりの雄叫びとともに鬼神が足で熊口を思いっきり蹴ろうとした。

 しかしまたもや熊口は己の身体を回転させながらそれを避ける。

 あやつ、凄いな。よくあれをかわすことができるものだ。

 

 

「ってまたかよ!?」

 

 

 だが、体勢を立て直そうとしたとき、鬼神らが間髪入れずに殴りかかってくる。

 それに悪態をつきながら熊口は細かく避けることを止め、空に飛ぶことによって鬼神らの猛攻を回避、難を逃れる……

 

 

「それを待っていた!」

 

「……!?」 

 

 

 と思いきや、空には無数の御札が宙を舞っていた。

 ほう、明徳の奴、熊口の動きを読んでおったか。

 

 

「ーーー爆符解放!」 

 

 

 そして宙を舞っていた御札は明徳の宣言とともに光だし、明徳の宣言した爆発が巻き起こった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やるなぁ、特に相手を誘導するのが」

 

 

 が、2、3発は熊口付近に爆発したがそれ以外の爆発は熊口の場所とは程遠い場所で起こっていた。

 

 

「何!!?」

 

「爆発を起こせるのがお前だけとは限らないってことだよ」

 

 

 ……何が起こったのだ? 何故爆発が熊口と離れてた場所で起こったのだ。確かにあのとき、熊口の側に御札はあった筈……

 

 

「なーに、簡単なことだ。おれが御札が何か起こる前に爆発を起こして、周りにあった御札を爆風で遠くに飛ばした、ってだけだ。見えなかったか? あのとき、最初の方に爆発の煙幕、おかしかっただろ」

 

「むっ……」

 

 

 そういえば最初の2、3発はおかしな爆発の仕方だった気がする。確かに御札は爆発するまではただの紙同然だ。少しの風があれば充分に吹き飛ばすことが出来るだろう。

 しかし、熊口の奴も爆撃を操ることができるというのは驚きだ……

 

 

「あと、なんでおれがこうぺらぺらと喋っているのか分かるか?」

 

「…………なんだ?」

 

「後ろを見てみろ。あ、後ずさるなよ。()()()()()

 

 

 刺さるから? 何をいっているのか、私すら分からなかった。なのでその疑問を解消するべく、明徳の後ろの方を見るため、視線を移す。

 

 …………ほう、そういうことか。確かに少しでも動けば危ないな。

 

 

「ふん! 貴様の言う通りになどするものか! 後ろを向いた瞬間、攻撃を仕掛けてくるつもりだろう!」

 

 

 そう言って頑なにみようとしない明徳。

 

 

「明徳よ、後ろを見なさい。お主の敗けだ」

 

「なっ、不比等様!? 何を言っておられるのですか! まだ勝負はついてませぬぞ!」

 

「それは後ろを見ればわかる」

 

 

 私の言葉を聞いて渋々といった表情で漸く後ろを向いた明徳。

 そして明徳は絶句した。

 

 何故なら、背後には六本の光る刀が明徳に向けて刃を突き付けていたのだから。

 

 

「え、あ……?」

 

「動くなよ、勿論式神もだ。もしお前か式神が動いたら、そこにある霊力剣で切り刻むからな。」

 

「こ、これは、貴様がやったのか……?」

 

「おれ以外にやるやつがいるか?」

 

 

 ほうほう、あれは霊力剣というのか。手に持っているのも合わせて七本も同時に出すことができておる。そしてなによりも六本の霊力剣を手に持たずして操ることができておるとは……

 

 

「……決まりだな」

 

「お待ちください不比等様! ま、まだ終わってはおりませぬ!」

 

「それ以上動いたらお主の首が飛ぶと言われている状況で何ができる? 自爆でもする気か? 私の屋敷で?」

 

「うぐっ……」

 

 

 何も言い返すことも出来ず、ぐっと唇を噛む明徳。言い返せないということは敗けを認めたと言うこと。

 勝敗は決した。

 私は、軽めに痺れ始めていた足を動かし、立つ。

 そしてこう宣言した。

 

 

「この勝負、熊口生斗の勝ちとする!」

 

「「「「おおお!!」」」」

 

 

 そう私が宣言した瞬間、私の周りにいた部下や親族らが歓声の声をあげた。

 

 

「造よ。お主、良い部下をもったな」

 

「……」

 

「造? ……気を失っておる」

 

 

 余りにも過激な戦闘だったからか、私の隣で造は白目を向いて気絶していた。

 まあ、老体にはちと刺激が強かっただろうな。

 

 それにしても熊口とやら。この都の中でも一、二を争う明徳を倒すとは。やはりあの賊を倒したというのは本当のようだな。

 

 

 

 是非とも、欲しいものだな。あの戦力。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ______________________

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 なんとか糸目に勝つことが出来たな。

 正直危なかった。まあ、おれの機転の利く頭が働いてくれたから全部華麗に避けられたけどな! 流石おれ!

 

 と、自分を褒め称えるのはこのくらいにして、本当に糸目は面倒な相手だった。まずおれの得意な接近戦があまり出来なかったし、おれの動きを読まれているかと考えてしまうほどの予測攻撃をされてたし。

 空を飛んだのを予測されて爆発する御札を配置されてたとき、一瞬あっ、死んだ、って死を覚悟したからな。

 ま、それも爆散霊弾のおかげで逃れられたが。

 

 

「くそ、この我が……」

 

「これでわかったか? おれは似非者じゃないって」

 

 

 糸目がおれのことをさっきからずっと似非者といってきていたが、それは単にゴリラ2号を倒したのがおれじゃないって言いたかったのだろう。

 確かに、普通に考えりゃ、おれのような細身があんなゴリゴリに勝てるわけないからな。

 

 

「くっ、認めるしかないのか。こんな奴の方に我の親友が劣ってるということを……」

 

「親友が劣ってるって。まずお前がおれより劣ってんじゃねーか」

 

「なっ! 今のは少し油断しただけだ!」

 

「その油断が命取りになるんだぞ」

 

「くっ……」

 

 そうそう、さっきとかこいつ、爆発にみとれておれが生成した霊力剣の接近に気づいてなかったからな。

 実際あのとき、そのまま串刺しするつもりで放ったのに、態々背後に回してやったんだぞ。

 やっぱおれって……

 

 

「さて、熊口よ」

 

「あ、はい」

 

 

 自分の慈悲さにまた自分を褒め称えようとしていたら不比等がおれの名前を呼んだ。

 

 

「とても楽しませてくれたな。感謝する。私の身内も大層喜んでおるぞ」

 

「それはどうも」

 

 

 そんなの周りを見ればわかる。もう宴ムードになりつつあるからな。不比等が近くにいるにも関わらず酒盛りを始めているし。

 

 

「して熊口、褒美の件だが」

 

「お、なんですか?」

 

 

 そうだ! おれは元からそれが目的で来たんだ。こんな無駄に疲れる戦闘をしに来た訳じゃない。

 

 

「私の用心棒として働く、というのはどうかな」

 

「え?」

 

 

 貴公子の元で働く? 

 それって名誉な事、なんだろうか。

 いや、でもなぁ。輝夜の事もあるし、まだおじさんに雇ってもらって間もないし……

 それにこの人に着いていったらめんどくさいことになりそうだしな。

 

 

「あ、えっと、お金だけください」

 

 

 用心棒の件は無かったことにしてもらおう。

 

 

 

 

 




はい、糸目陰陽師の無駄設定のお陰で予定がずれました。本当はもう少し進むはずだったのですが……
あと明徳というのは糸目陰陽師の名前です。まあ、設定があるということは今後も登場するということです。
次回はついにあのキャラが登場です!(オリキャラじゃないよ)

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