あまりに長くなりそうなので話を分けました。
___2022年12月3日16時5分___
トールバーナの噴水広場に40人弱のプレイヤー達が集まっていた。
その中でフワは辺りを見渡しながら満足そうに笑みを浮かべた。
「・・・・さすがアルゴさん。ほぼ全員が攻略本を手にしてるよ」
今日の朝に無料配布された《アルゴの攻略本》の最新版に全てのプレイヤーが驚愕した。
《遂に第1層のボス部屋を発見!!今日の午後4時からトールバーナ噴水広場で攻略会議が!!》
デスゲームが始まった時とは違い、何処か希望が見えるモノだった。
「はーい!5分遅れたけど始めさせて貰いまーす!皆もう少し前に来てくれないか!」
明るい雰囲気の声を出した男はウェーブが掛かった青い髪で普段ゲームをしなさそうな感じのイケメンだった。
「今日の攻略会議に参加してくれてありがとう!俺は《ディアベル》職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
場に笑いが出て一部のノリの良い奴等が騒ぎ始める。ディアベルは言うだけあり、身体の各所をブロンズ系の防具で固めており、左腰には大振りの直剣、背に剣の絵が描かれた盾を背負っていた。
容姿の良さも相まってナイトと言っても違和感をあまり感じない。
「・・・・今日、俺達のパーティが第一層のボス部屋を発見した」
真剣な声で話し始めたディアベルに誰もが真剣に話を聞いていた。
『ふーん、たしかに人を惹き付ける言葉の選択に雰囲気を持っている奴だけど・・・・』
始まりの街で待っている人達に希望を見せようと言っているディアベルの言葉を聞き流しながらフワはディアベルを見極めていた。
『大して強くないか・・・・どうでもいいな』
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そう結論づけるとフワは興味なさそうに目を閉じると耳障りな濁声が耳についた。
「わいは《キバオウ》ってもんや、こいつだけは言わして貰わんと仲間ごっこは出来ヘんな」
「キバオウさん、言いたい事とは何かな?」
ディアベルに促されて、沢山の茶色いトゲトゲを頭から生やしているキバオウは言葉を続けた。
「こん中に詫びいれなアカン奴等がおるはずや。分かっとる筈やろ?βテスター共や!死んでいった1000人ものプレイヤーに詫びを入れてもらおか!!」
誰かが声を出せば責められる空気になり、誰も彼もが口を閉ざし静寂が辺りを包んだ。
「っぷ!?あはははははははははっ!?」
その静寂に不釣り合いなバカ笑いが全員の意識を奪い、視線を向けるとフワがキバオウの頭を見ながら大笑いしていた。
「なんや!何が可笑しいねんワレェッ!!?」
キバオウが青筋立てながら凄まじい剣幕で怒鳴るとフワは息を切らしながら答えた。
「お、可笑しいにき、決まってる・・・・」
いまだに笑い続けるフワはゆっくりと何度も深呼吸を繰り返した。
「はあはあ、笑い死にさせる気かよオッサン。バカな事言ってるのはどんな奴かと思ったけど、っぷ・・・・その頭、見た瞬間に納得したよ。ああ、その頭は髪型と同じで中身も可笑しいんだ__って」
そう言って言葉が続くたびに怒りで顔を赤くさせていたキバオウを見下す様にフワは嗤っていた。
「っの糞ガキィ!何が可笑しいねん!いっぺん言ってみい!!」
「じゃあ言ってやるよ。アンタは死んでいった1000人に対して何かしたのか?」
フワの言葉は噴水広場を完全に凍り付かせた。例外なく、キバオウさえも__
「ほら、何も言えない。そんな事だと思ったよ、アンタ口だけで何も出来ない小物臭がしてるんだよな」
フワの言葉に凍り付いたキバオウはハッとして声を荒げた。
「お前も何もしてへん癖に勝手な事よう言うな!!」
「アンタと一緒にするな吐き気がするだろ。コレ、此処にいる全員が持ってるよな《アルゴの攻略本》を」
フワは手にした攻略本を全員に見えるように掲げた。
「デスゲーム開始から一週間で様々な場所で無料配布されていただろ?この攻略本が無ければ死者は倍になっていた筈だ。」
全員が頷く中、何人かが驚いていた。
「デスゲーム開始から一週間で5万コル、この攻略本を作る資金として情報屋のアルゴに渡した」
誰かが小さく5万と呟いた。
「そ、そんな話っ誰が信じるかぁっ!出鱈目ばっかり言うとんちゃうぞ!!」
「出鱈目ねえ、アンタこの本を作るのにお金が掛かってないと本気で思ってるの?」
「そっちやない!!一週間で5万も信じられへんし!何よりお前が金を出した事が信じられへんって言っとるんじゃ!!」
キバオウは汗を掻きながら否定の言葉を口に出した。
「初版本と今回の最新本には載せているって言ってたっけ、裏表紙に著者が書いてあるだろ」
広場にいる全員が慌てて取り出した本の裏表紙を見ると著者の欄にアルゴの名前と、その横にフワの文字が書かれていた。
「察しの通り、俺のプレイヤー名はフワだ。これで納得して貰えましたか?小物さん」
フワはそう言って優しげな笑みを浮かべながらキバオウに近づいた。
「ちなみに俺はビギナーだ。だからこそアンタと一緒にするな、吐き気がするだろ」
静まりかえった広場では大きくなかったフワの声でも全員に聞こえた。
「アンタ以外の人達は違う筈だ!既に死んだ人達に出来る事は無い!だけど俺達はまだ生きてる!生きてる人達に希望を見せる為に此処に居る!なら、後ろを見るな過去に囚われるな!ビギナーもβテスターも同じだ!誰もが誰かの屍を越えて生きていることを忘れなければ誰もが同じだ!!」
フワの言葉が終わると誰かが小さな拍手をして、それを下火にして一気に雄叫びが広場を包んだ。
『少し耳触りの良い言葉を言うだけでコレか・・・・どうやら俺にもゲンさんと同じ役者の才能があるのかもな』
「俺に出来るのは此処までです。ナイトさん、後は任せます」
フワはやるべき事はやったと言わんばかりに後の事をディアベルに任して再び隅に行った。
「たしかにフワさんの言うとおり、今はボスを倒す事だけを考えよう!とりあえず近くに居る仲間や知り合いと6人1組のパーティを組んでくれ!」
皆が思い思いにパーティを組んでいると灰色のコートを着た少年がフワに近づいた。
「久しぶりだなキリト、此処に居ると思ってたよ」
「やっぱりアレは俺の為に・・・・」
キリトの憂いた顔を見てフワは引いた。
「俺はホモじゃねえから勘弁してくれ」
「っあ!?俺だってノーマルだよ!!誰もそんなこと言ってねえよ!!」
焦るキリトの姿を見てフワは笑った。
「俺も一緒だ。別にキリトの為にやった訳じゃない。この方が士気が上がると思ったからやっただけだ」
辺りは異様な熱気を感じるほど全員の士気が高まっていた。
「ところで・・・・ずっと俺達を見ている奴がいるんだけど、何か恨まれるような事でもしたのか?」
フワはキリトを後ろから見ているフードを被った奴を見ながら何処か呆れた声を出しながらキリトに訊ねた。
「人聞きの悪い事を言う__確かに知ってるプレイヤーだけど・・・・」
反論しようとしたキリトは後ろを向くとフードを被ったプレイヤーはサッと顔を逸らし、それを見たキリトも顔を逸らした。
「もしかして女性プレイヤーか、女性プレイヤー自体珍しいのに最前線に居るとは恐れ入るよ」
「ああ、凄まじい《リニアー》を使う凄腕だ。それより何で女性プレイヤーって気付いたんだ?」
キリトが感嘆すると共にフードを被り、顔も見えない状態で性別を言い当てたフワに質問をした。
「雰囲気もあるけど、身体つきを見て何となくだ。それよりパーティに誘ったら?俺は構わないし、一応顔見知りなんだろ?」
「わ、分かった・・・・」
キリトは返事をしながらも動こうとしなかった。
「おい、ラグってんのか?早く行けよ」
動かないキリトにフワは怪訝な顔をしながら促すと、キリトはフワに向き直って手をモジモジさせながら目を忙しなく動かしていた。
「た、頼む。一緒に来てくれ・・・・1人じゃ怖くて・・・・」
「恐怖から逃げていいけど、こんな逃げ方は勘弁して欲しいんだけど・・・・って、向こうから来たぞ」
フードを被った女性プレイヤーが意を決したようにフワとキリトの方に近づくとキリトは平静を装いながら背筋を伸ばすが何処か怯えているように見えてしまった。
「どうかしましたか?お嬢さん」
フワの言葉に近づいた女性プレイヤーは驚いたのか一瞬だけ固まったが、すぐにキリトの方をフード越しに睨みつけた。
「え!?いや、俺が言ったんじゃなくて・・・・!」
平静を装っていたキリトはすぐに取り乱しながら弁解を始めた。
「イチャイチャするなら俺は邪魔だよなあ!それじゃキリトまた明日な!!」
フワは既に走り出し、揉めてる2人に言いながら離れた。
「あっ!?見捨てる気か!?待ってくれフワ!!」
「えっ!?ちょっと待って!貴方に言いたい事が!?」
置いていかれた2人は何か言っていたが既にフワの姿が見えなくなった。