シュラアート・オンライン   作:メガネザル

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攻略組

 

「このアタックで終わりにするぞ!」

 

「「「応ッ!!」」」

 

 大きな体格の黒人が日本語で気合いを入れるように声を出すと、周りにいた彼のチームメンバーが気を引き締めた。

 

 黒人の男が両手斧を脇に引絞る様に構えながら走り出すと、彼の周囲を守るように盾を持ったチームメンバーが固めた。

 

「しまった!遅れるな!」

 

「こっちもや!早よせい!」

 

 曲刀を持った青い髪の男と茶色のトゲトゲを生やした頭の男が慌てて指示を出し始めるが、一塊りになった男達は凄まじい勢いで大きな木へと向かって行った。

 

 その木はいくつもの枝を切り取られていてボロボロでポリゴンが零れていた。

 

「ッコオオオオオオオ!!」

 

 しかし枝全体を身動ぎするかのように揺らすと、先の尖った枝を走っている男達へと向かって放った。

 

「っぐ!まだまだ!!」

 

 突き出された枝を盾で逸らしながら男達はスピードを落とさず駆け抜けた。

 

「散開!!」

 

 木との間合いが近づいた瞬間、黒人の男が吠ると同時に彼の周囲にいた男達は素早く身を引いた。

 

「うおおお!」

 

 野太い男の声と共に振られた両手斧がソードスキルの輝きと共に木に叩きつけられた。 

 

 斬撃の鈍い音と共に木が割れたような乾いた音が鳴り響き、木がポリゴンへと変わった。

 

「よっしゃあ!!」

 

 両手斧を振り切った黒人が喜びの咆哮を上げると、彼の仲間も釣られるように喜びを口にした。

 

「それでラストアタックボーナスは何が出たんだよ!?」

 

 冷めない興奮のまま男達は黒人の男へと詰め寄った。

 

「まあ待て、それよりも先の事を話し合わねえと。そうだろ?リンドさんにキバオウさん」

 

 黒人の男が興奮を宥めるように言いながら、此方に近づいてくる者に視線を向けた。

 

「とりあえずエギルさん、おめでとう。結果はどうであれ、これで第九層迷宮区に入れるようになったよ」

 

 曲刀を鞘へと戻した青い髪のリンドは笑顔を作りながら言った。

 

「ラストアタックボーナスを乱獲するブラッキーが居らん時がチャンスやと思ったけど、しゃないな」

 

 茶色のトゲトゲした頭のキバオウは片手で掻きながら天井に突き刺さっている塔を見上げた。

 

「フィールドボスがトレント系って事は、この迷宮区のモンスター達は植物系と考えるべきだと思うか?」

 

 エギルは倒したフィールドボスを思い出しながら2人へと聞いた。

 

「どうだろうか、基本的に第九層のモンスターはオオカミなどの獣系だった訳だし迷宮区に入ると全く別の系統に変わるだろうか?」

 

 リンドはこれまでの階層の事を思い出しながら首を傾げた。

 

「そうなると対処が困んな。オオカミとか獣系は動きが早いせいで重装備は不利になってまうし、逆にフィールドボスみたいなトレント系やったら軽装備が不利になんで」

 

 3人はしばらく考えた後、リンドが口を開いた。

 

「仕方ない、今日だけは精鋭を集めて一緒に迷宮区に入らないか?いざという時になってもフォローし合えるし、この迷宮区のモンスターが何の系統か分かるまでなら序盤で済むと思うし」

 

 そのリンドの提案にエギルはアッサリと首を縦に振り、キバオウは渋々ながらも首を縦に振った。

 

「それが良さそうだな、人数はどうする?あまり多過ぎると逆に動きづらくなるぞ」

 

「4人構成パーティを三つ、それぞれ4人ずつ選出するのでいいかな?」

 

 リンドは言いながらエギルとキバオウに意見を求めるように目を向けた。

 

「そうやな、それが一番揉めんで済みそうやしな」

 

 キバオウは肯定の言葉を口にしながら自分の仲間の元へと歩を進め始めた。

 

「それじゃ俺も選出してくるよ。メンバーは状況がどっちでも大丈夫なようにオールラウンダーを連れてくるよ」

 

 リンドも選出するプレイヤーを決める為に自分の仲間達の元へと向かった。

 

「と言う訳だ。さっきのボスで疲れているのなら行かなくてもいいぞ。DKBとALSには話をつけるが?」

 

 エギルは振り向きながら仲間達に問い掛けた。

 

 3人のメンバーは互いに顔を見合わせてから、ボサボサの茶色いロングヘアを後ろに流し、同色の顎鬚を長く伸ばしている男が手を上げた。

 

「皆行くだろう。さっきのボス程度、なんてことはなかったしのう」

 

 そう言って仲間達に同意を促す様に笑みを浮かべた。

 

「ウルフギャング・・・・」

 

 そんなウルフギャングにエギルは少し沈黙を挟んで口を開いた。

 

「年なんだから無理しなくていいんだぞ」

 

「ワシは話し方だけじゃ!見た目まで中年のお前に言われとうない!」

 

 るせえっ!舐めんな!等と言い合って取っ組み合いするマッチョな男が2人、暑苦しい事この上ない絵ずらだった。

 

「はいはい、喧嘩はそこまでにしてくれ。何が嬉しくてマッチョな男2人の絡みを見せられなきゃならん」

 

 冷めた声を浴びせられた2人は互いの顔を見合って虚しさを顔に出して離れ合った。

 

「それで話は変わるけど、ラストアタックボーナスは何が出たんだ?」

 

 その事を忘れていたエギルはストレージを出してアイテムを表示した。

 

「何じゃこれは?」

 

 思わず出たウルフギャングの言葉はチーム全員の言葉だった。

 

「アイテムの説明欄には聖樹(PT)としか書かれていないし、一体コレは何なんだ?」

 

 エギル達が首を傾げながらアイテム名を口にした。

 

「《ブランチ》」

 

 トレイン系のモンスターからドロップした事から直訳で"枝"なのだろうが、ラストアタックボーナスで只の枝がドロップするのか。聖樹を知らないエギル達には意味が分からなかった。

 

「エギルさんの所は準備出来たかな?」

 

 首を傾げているエギル達にリンドが声を掛けた。

 

「あ、ああ。そっちは誰が行くか決まったのか?」

 

 思考の海から戻ってきたエギルは此方に近づいたリンドと視線だけを此方に向けているキバオウを交互に確認した。

 

「どうやら臨時精鋭パーティが決まったみたいだね。それじゃ行こうか」

 

 攻略組の中での精鋭組、今ソードアート・オンラインの中でもトッププレイヤー達と言っても過言ではないチームだった。

 

「モンスターの系統を把握するまでっちゅう事でエエな」

 

 通路を歩きながらキバオウはリンドに確認するように尋ねた。

 

「ああ、今回は宝箱を探さないし見つけたとしても手を出さない。あくまでも系統を調べる為の戦闘を目的にしよう」

 

 その確認にリンドは念を押すように答えた。

 

「そうやな、今回に限っては探さな見つかりそうににからな。何やこの木の根は?邪魔臭くて堪らんわ」

 

 キバオウはそう言いながら通路を遮る様に伸びていた木の根を斬り払った。

 

「足元にも根があるぞ。暗くて見えづらいし足を取られない様に気を付けた方がいいぞ」

 

 エギルが話しながら足で木の根を突いた。

 

「まるで迷宮自体が浸食されているみたいだ。他のメンバーも2人の言うとおり注意してくれ」

 

 壁一面に広がっている木の根を見ながら、リンドは周囲に注意を促して歩を進めた。

 

「それにしても一体モンスターは何時出てくるんや。何で戦闘だけを目的にした時に限って出てこうへんねん」

 

 迷宮区に入り1時間ほど経過し、キバオウが耐えきれずに不満を口にし出した。

 

「いや、この状況いくらなんでも異常じゃないか?」

 

 エギルの言葉に、リンドとキバオウは視線をエギルへと向けた。

 

「どういう事や、ただ運が悪いって事やないんか?」

 

 真っ先に不満を口に出していたキバオウが眉を顰めた。

 

「今この場には12人のプレイヤーが居るんだぞ」

 

 エギルの言葉にリンドはハッとして何かに気が付いた。

 

「そうだ、同行しているプレイヤーの数が多ければ多いほどモンスターとのエンカウントは上がる筈だ」

 

「だから運っちゅうか、間が悪いんちゃうんかって話をやな」

 

 リンドの言葉にキバオウは何度も言った事を呆れるように同じ言葉を繰り返した。

 

「今、俺達は迷宮区に居るんだぞ。只でさえモンスターとのエンカウント率が高い迷宮区で、プレイヤー人数が倍で、エンカウント率も倍の状況で、何も無いこの状況は運や間が悪いってだけで流せると思っているのか?」

 

 エギルの言葉にキバオウは完全に理解したのか顔を青くさせた。

 

「まさか、何もかんも分からん間に何かのイベントが発生しとるんか?」

 

 キバオウの言葉にエギルとリンドも顔を青くさせて周囲を見回した。

 

「その言葉、ボケた後にしては冴えてると思うぜキバオウさん」

 

 エギルは額に汗を垂らしながら周囲の警戒を続けた。

 

「全員いつも以上に気を引き締めろ!もう何時、何が起こっても可笑しくないぞ!!」

 

 リンドは理解した者と理解が追い付いていない者、全てを一つにする為に指示を飛ばし始めた。

 

「今回ばっかりは全員従うんや!」

 

 キバオウは顔を青くさせながらも自分の仲間達に向かって纏まって行動できるように促した。

 

「お二人さん、一つ提案をしてもいいかな?」

 

 周囲の警戒をしていたリンドがキバオウとエギルに向かって口を開いた。

 

「珍しくワイも提案しようと思ってたとこや」

 

 キバオウが冷や汗を垂らしながらリンドを見た。

 

「オレも同感だ。これなら同じ意見が出そうだな」

 

 エギルは無理に笑みを作りながら答えた。

 

「なら言おうか、今日の所は何も言わずに撤退しないか?」

 

「「賛成」」

 

 即答した2人の言葉を聞いてリンドは更なる指示を飛ばした。

 

「すでに何人かは今の状況が異常だってことは理解してくれていると思う!だから今すぐ撤退を開始する!周囲を警戒しながら入り口に戻ろう!」

 

 危機感を感じているメンバーは既に周囲の警戒をしている中、両目と口が空いたレザーマスクを被った男が騒ぎ始めた。

 

「何言ってるんだ!?キバさん!此処まで来て戦闘もしないで逃げるんスか!?ならALSのメンバーだけでも別行動しましょうよ!宝箱の目安なら幾つか付けてます!モンスターの居ない今なら取り放題ですって!」

 

 キバオウに向かって騒ぎ立てる男に危機感を感じているメンバーから非難めいた目を向けられるが、男は尚も騒ぎ立てた。

 

「黙れジョー!「__そうか、汝等は宝が欲しいのか?__」だ、誰や!?」

 

 キバオウがジョーに向かって出した怒鳴り声に被せるように迷宮区全体を震わせるような声が響いた。

 

「__そうか、宝が欲しいのならくれてやろう__」

 

 全員が声のする方へと目を向けると、そこには化け物が居た。

 

「なっ・・・・!?なんっ!?」

 

 誰の声か、引きつって声にならない声を上げる中で化け物は赤く光る宝石をジョーへと向かって投げた。

 

「__ソレは秘鍵《紅蓮の秘鍵》__汝の最も望むモノを与える我の一部__」

 

 投げられたソレを慌てながらも受け取ったジョーは化け物へと視線を向けた。

 

「___さあ、汝の望みは何だ___」

 

 そう言いながら化け物は口が裂けるような笑みを浮かべた。

 

「ジョー今すぐソレを捨てっうおっ!!?」

 

 嫌な予感がしたキバオウはジョーへと向き直った瞬間、宝石から目が眩むほどの真っ赤な光が放たれた。

 

「な、何だったんだ今のは・・・・?」

 

 光が収まると化け物の姿はなく、誰かが呆けたように呟いた。

 

「ジョー何か身体が変な所とかないか?」

 

 キバオウは茫然としていたジョーへと問い掛けた。

 

「だ、大丈夫っスけど何も起きないっスよ?」

 

 ジョーの言葉の最後に大きな何かが動いた様な気配がして全員が身構えた。

 

「木の根が動いている・・・・」

 

 誰かの呟きで全員の視線が向けると、壁に張り付いていた木の根が宝石を持ったジョーを包み込むように動いていた。

 

「もしかして俺専用の超激レアアイテムが!」

 

 ジョーが楽しげに声を荒げると、違うメンバーが恐怖に引きつりながら悲鳴を上げた。

 

「ぜ、全部だ!!そ、そこだけじゃない!壁に張り付いた木の根が全て動いてる!!」

 

 全員が周囲に目を向けて、視線が外れたソコから何かが出てきた。

 

「・・・・ぅぁぁ・・・・ぁぁ!」

 

 目の前で呻き声から叫び声に変わったソレを見た驚きで全員が固まった。

 

「ぞ、ゾン「ぎゃあっ!」

 

 誰かの呟きを遮る様にゾンビは一番近くに居たジョーに襲いかかって噛みついた。

 

「こいつぅ!離さんかい!!」

 

 キバオウがすぐさま引き離そうとしたが、力が強くて引き離せなかった。

 

「危ないから離れて!」

 

 ALSのメンバーの1人であるフルプレートのリーテンがキバオウの反対側から告げるとロングメイスを構えた。

 

「ゾンビなら頭を潰しさえすれば!!」

 

 片手棍ソードスキル《パワー・ストライク》上段に構えた片手棍を振り下ろすだけの初期に覚えるソードスキル。

 

「ジョー!動くんやないで!!」

 

 意図に気付いたキバオウはジョーに声を掛けながら離れた。

 

「やあっ!」

 

 真っすぐ振り下ろされた《パワー・ストライク》は噛みついていたゾンビの頭に直撃した。

激しいクリティカルヒットのエフェクションと共にゾンビが力尽きてポリゴンへと変わった。

 

「大丈夫か!?毒になっとる今すぐ解毒ポーションを!」

 

 キバオウは倒れているジョーを通路の中心へと引っ張り出し、毒状態になっているのを見て解毒ポーションを探した。

 

「おいおいおい!そんな事よりも早く脱出するぞ!奥と通って来た道、どちらからも沢山の呻き声が聞こえる!早く脱出しねえと挟まれてやられちまうぞ!!」

 

 そんな誰かの恐怖に犯された悲鳴を聞いて、全員が恐慌状態に陥りかけた。

 

「おい!見捨てる気かいな!」

 

 キバオウの怒鳴り声にジョーは手を振って遮った。

 

「大丈夫っス。毒状態は自然回復するっスから早く脱出を!役に立てそうにないので最後尾から付いていくっス!」

 

 その言葉を皮切りに全員が一丸となって入り口に向かって全力で戻り始めた。

 

 






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