「たしかに教会は街中にあるモノなんだろうけど、どうやって入ればいいんだ?」
街の入り口が見える中でフワは自分を示すカーソルの色を確かめながら呟いた。
「心配いらない。教会は街の裏手にある森の中だ」
背負われたエルミアが街の外れにある森を指さした。
「了解、あと少しだな」
エルミアを軽く背負い直したフワは指さす方向へと歩を進め、森の闇へと紛れていった。
「そう・・・・だな、あと少しで終わりだ」
周囲が闇に包まれると、エルミアは何処か未練がまく声を絞り出した。
「これからフワはどうするんだ?」
目の前にある首筋に額を当てながらエルミアは答えが分かっている問いを口にした。
「まずは逃がしたアレとの再戦。そして上に行くかな」
迷う事無くフワは即答した。
「あの2人とか?それとも1人で全てやるつもりか?」
エルミアも流れるように次の問いを口にした。
「さあ?どうなるか、あの2人次第だからなあ」
フワは置いてきた2人の姿を思い出しながら答えた。
「戦う事に関しては足手まといになるくらいなら1人の方がいい?」
ただ会話が続けばいい。
エルミアはそんな事を思いながら答えが分かっている質問をした。
「足手まといに気を使うほど俺は優しくない」
自嘲するようにフワは笑みを浮かべた。
「ならフワは、再び自分の手が汚れようとも自分の道を進むのか?」
「当たり前だ。俺は俺の為に生きるモノだから」
即答した。一瞬も迷うことなく、フワは即答した。
「・・・・そうか・・・・」
その答えにエルミアは納得したように目を閉じて、深く息を吸った。
そして街の裏手の森の中に小さな教会の前に立った。
「ここで間違いないな?」
その問い掛けにエルミアは無言で頷いてフワの背から下りた。
「さて、此処が最後の分岐になりそうだ」
フワが呟くと同時に教会の横にある草がゴソゴソと音を立てて動き出した。
「エルミアだね!無事でよかった!!」
そう言って出てきたのは森エルフの若い騎士だった。
「アラン・・・・無事だったのか・・・・」
森エルフの生き残りを見つけた筈なのにエルミアの声は晴れなかった。
「姫さんを呼び捨てとは、幼馴染か何かだろ?」
フワの問い掛けにエルミアはコクリと頷いた。
「貴方がエルミアを守って此処まで連れて来てくれたんですね」
アランと呼ばれた青年は気さく声を掛けながらエルミアへと近づいていった。
「僕と君が無事なら森エルフは何とでもなる!これから大変な事が沢山あるだろうけど僕と君で作り上げていけばいい!そう!まるでアダムとイブのように2人で生きていくんだ!!」
アランの進行方向を潰すようにフワはエルミアの前に立った。
「なんですか?もうエルミアを襲う者はいないんですよ。もう貴方は必要ないでしょう早く何処かへ行って下さいよ」
アランが苛立ちを込めながらフワへと言葉を吐いた。
「っくく・・・・その隠しもしない野心に下心。もう意味無いと思うんだけどな」
笑いを漏らしながらフワはエルミアを見た。
「アラン。何故お前1人だけ生き残っている?他の生存者はいないのか?」
静かだが、王族らしい威厳溢れる声でエルミアは問うた。
「僕達の仲間は少数でダークエルフの城へと襲撃を掛けたんだ。成功したけど僕以外の仲間は・・・・!」
まるで自分の力の無さに怒りを覚えるようにアランは拳を握りしめた。
「・・・・なぜ、まだ仲間が戦っているであろう森エルフの城に向かわなかった?」
あの森エルフの城の惨状を思い出したのか、声に悲しみが混じっていた。
「そ、それは僕達の任務がダークエルフの女王を討った後、エルミアを探し出すことだったから」
アランはどもりかけたが全て答えた。
「_________」
その場に重い沈黙が圧し掛かった。
「確かに悲しい事だったけど、今は喜ぼうよ。どんな形であれ幼かった頃の夢が叶うんだからさ!」
アランの言葉にエルミアが僅かに反応した。
「あったな。幼い頃に結婚して森エルフの未来を創っていこうなんて夢が」
その言葉を聞いたアランは小躍りするように跳び跳ねた。
「そうだよ!あの時から2人は愛を誓い合って「あの時だけのな」ッ!!?」
喜びに満ちた言葉を引き裂く様にエルミアは宣告した。
「全て思い出したよアラン。再び貴様が愛を告げ、私がソレを拒絶した事をな」
エルミアの眼は怒りと憎しみに溢れていた。
「あの時に貴様は私の飲み物にアレを・・・・《幻墜の秘薬》を入れたな・・・・!」
殺気混じりのエルミアの気配にアランは圧倒された。
「そ、そそそそそそんな馬鹿な!《幻墜の秘薬》はぜっぜぜぜ絶対に解けない筈だ!!」
エルミアはアランの言葉を否定した。
「私も話に聞いたことがある。使用した貴様だ《幻墜の秘薬》にまつわる有名な話、貴様も知っているだろう?」
アランはパニックに陥りながらも冷静に頭を動かした。
「あ、ああああああり得ない!ぼ、僕以外に君に《真実の愛》を与える事なんて出来る筈がない!!」
《幻墜の秘薬》を解くには《真実の愛》が必要。アランは自分以外がエルミアに与えられる訳がないと本気で思っていた。
「ああ、フワが私に《真実の愛》を与える事はない。フワからでは・・・・無いんだ・・・・」
その悲しみに塗れた声にアランは全てを理解した。
「あ、ああ、あああ、ああああああああ!?」
理解した瞬間、その理解を捨てる為にアランは叫んだ。
「五月蠅い」
「アボオッ!?」
膝を付いて泣き叫ぶアランにフワは拳を放って吹き飛ばした。
「さて、今回ばっかりは最後は俺じゃないな」
フワはそう呟くとアランは地面に手を付きながらもフワを睨みつけた。
「コイツさえコイツさえ!そうだ!コイツさえ居なくなればエルミアは僕のモノにィィィィィィィィ!!」
腰から騎士剣を右手で引き抜いた。
そして左手の盾も構えずにフワへと駆け出して右手を振りかぶった。
「かえせカエセっくぁえっせえええええ!!」
涙、鼻水、涎、小奇麗だった顔を見られるモノではなくなっていた。
「ああ、返してやるよ。ただしテメエの都合のいい姫さんじゃなく、本当の姫さんを」
化け物の笑みを張り付けたフワは振られた剣を躱すと同時に右足でアランの右足に蹴りを放った。
凄まじい音と共にアランの足が股関節の部分から不自然に伸びて、あり得ない方向へと曲がった。
「っぁぐあああああああああああ!!?」
右足が唐突に無くなった様なモノでアランは立てる訳もなく地面を転がった。
「あひっあひがああああああああ!!?」
うつ伏せで自分の右足に手をやるアランの左足の大腿部をフワは踏み抜いた。
「ああああああああああああああ!!?」
痛みで泣き叫ぶアランを無視して、フワはアランの後ろに回り両腕を取って持ち上げた。
「少しうるさいが、最後はエルミアの手で終わらせろ」
持ち上げられたアランの前にはエルミアが立っていた。
「ありがとう、本当にフワには世話になってばかりだ」
エルミアは腰のエストックを引き抜いて構えると柄を廻した。
「これが王族のみに許された《裁定の杭》、裏切りモノにのみ使う事を許された断罪の剣」
エストックの刃がバラバラになって弾けると中から、意匠を凝らした純白のレイピアが現れた。
「あああいやだ!ぼくがわからないのか!ぼくのすべてできみのすべてであるあらん___!!」
《裁定の杭》を構えるエルミアを見てアランが言葉にならない言葉を吐いたが
「これで弱い私の救いを待つだけの物語は終わりだ。さらばだ私の悪魔よ」
一欠片の躊躇いも無く、エルミアはアランの脳天へと突き出し、堅い頭蓋骨をまるで豆腐のように貫いて串刺しにした。
「あ・・・・あああ・・・・」
断末魔にもならない声を出していたアランの身体から光が漏れ出し、輝きに包まれると爆散した。
「おお、イベント上の殺しでも死体が残らないんだ」
薄れていく光に見向きもせずにエルミアはレイピアを鞘へと仕舞ってフワへと差し出した。
「いや、いらん。短剣使っている俺には必要ないモノなんだが」
差し出されたレイピアを見てフワは面倒くさそうに断った。
「気持ち悪いモノを殺した剣だぞ。私だって願い下げだ」
エルミアは汚いモノを持つかの様にレイピアをフワへと渡した。
「それに修道女になれば二度と使わないだろう。フワも必要無ければ売るなり何なりするがいいさ」
手渡されたフワは何かを考えてから口を開いた。
「・・・・ダークエルフと共にいた2人の内、女の方がレイピアを使っているのを覚えているか?」
その問いにエルミアは星を散りばめた様に輝く髪をした女を思い出した。
「八層で会った時と武器が変わっていた。どうせ今回の戦いで使っていた武器が壊されたんだろう。ソレの補填がわりにコイツをくれてやってもいいか?」
その言葉を聞いたエルミアは笑みを浮かべた。
「異性からのプレゼントを他の異性へのプレゼントにするとは、フワも大したモノだな」
今度はフワが笑みを浮かべて口を開いた。
「しかもそのプレゼントは屑を殺して呪われているかもしれないモノときた。ホント大した野郎だな」
2人して笑い合った。
「それじゃ、私が呼ぶまで此処で待っててくれ」
一しきり笑った後でエルミアは躊躇なく教会の中へと入っていった。
エルミアが入っていくのを見届けたフワは近くのベンチへと腰を下ろした。
「待たせた。入ってきてくれ」
それから一時間ほど経過し、空が白み始めた頃に教会から声が掛った。
ゆっくりと扉を押し開けると、古臭い音を立てながら開いていき教会の中を一望できた。
ごくごく在り溢れた教会の姿、木製の長椅子が並んでおり中央に通路、その奥に祈りを捧げる何か、その何かだけが普通の教会にはないモノだった。
ソレは壁一面に広がる一枚の絵
その絵にはこの世界の全てが描かれていた。
《アインクラッド》蒼穹に浮かぶ島、その島以外には何もなく、孤独すらも感じる絵が飾られていた。
『まさかこの絵に祈りを捧げろなんて、どこまでこの世界が好きなんだよアンタは』
製作者である茅場晶彦の事を考えながらフワは小さく笑った。
「驚いた、思った以上に似合っているな」
そう言ったフワの前に修道女の服を着たエルミアが立っていた。
「そうか?そう言ってくれると嬉しくなるな」
エルミアは照れながらも笑みを浮かべた。
「それで、どうすればカルマが浄化されるんだ?この絵に祈りでも捧げればいいのか?」
フワは飾られた絵へと視線を向けながら問い掛けた。
「その前に__誓って欲しい事がある」
真剣な声色でエルミアが告げた。
「俺が誓えるモノならな」
雰囲気が変わったエルミアへとフワは向き直った。
「罪の無い者を殺さないで。それ以外の罪は全て私が浄化するから、何度でも浄化するから、だから
__その手で、罪の無い者を殺さないで__」
エルミアの頬に一筋の涙が流れた。
その瞬間、絵が飾られている壁から真っ赤な光が差し込んだ。
「朝焼けの光?全部ステンドガラスで出来てるのか___」
蒼穹は鮮紅へと変わり、まるで日が終わるように、世界そのものが終わっていくように___
見惚れていたフワは絵に引き込まれまいと視線をエルミアへと戻した。
「_____」
エルミアが血の涙を流していた。
フワは息を呑んだ。
流した涙が朝焼けの光を映して赤く染まり、そう見えてしまっただけ。
理屈は簡単。それでも、本当に血の涙を流しているように見えた。
「__分かった__」
無意識の内にフワはそう答えてしまった。
「ありがとう。この世界が終るまで、私は貴方を思い続けるよ」
血の涙を流しながらエルミアは聖女のように微笑んだ。
___クエストをクリアしました___
突然フワの視界の中央にその文字が現れた。
「情けねえな。こんな事に見入るなんて」
フワを示すカーソルの色が緑色に変わっていた。
ソレを確認したフワは頭を掻きながら出口へと向かっていった。
「いつでも来てくれ」
そんな型に嵌った台詞が聞こえた。
____________________
昨日、キリトとアスナを置いていった場所に向かうと既に2人が居た。
「「______」」
しかし、2人はフワの存在に気付く事無く、少し離れた場所で何かを食い入るように見ていた。
「おはよう。その様子じゃ気が付いたみたいだな」
2人に声を掛けるとアスナだけが、フワの方に向き直った。
「一体どういう事なの?貴方は一体何をしたのよ!?」
アスナは金切り声を出しながらフワへと詰め寄った。
「何とは?」
フワは笑みを浮かべながらアスナへと逆に問うた。
「何もかもが戻っている事よ!戦いの跡すら無い!死んだ筈のダークエルフ達も全て生きている!一体何をしたのよ!?」
「クエストをクリアしただけ」
フワの答えにアスナは理解できなかったのか口を閉ざし、周囲が沈黙に包まれた。
「もう、キリトは理解しているだろ。俺が言っていた全てを」
キリトは無言のまま、元に戻っているダークエルフの城を見ていた。
「・・・・どういう事よ、どういう事か説明しなさいよ!!」
アスナの叫びにフワが反応した。
「あのさ、何で俺達プレイヤーはアインクラッドの最上階を目指しているんだっけ?」
その問いにアスナは心臓を掴まれた。
「このデスゲームをクリアして現実に戻るため」
その問いにキリトが答えた。
「ああそうだ、俺達はこのゲームを《ソード・アート・オンライン》をクリアして、現実に戻る為に最上階を目指しているんだ。なら、今いる世界は何だ?」
その問いにアスナは地面に膝を付いてしまった。
「・・・・ゲームよ」
その答えにフワはごく当たり前の事を口にした。
「そうゲームだ。クエストってのは誰でも受けれるモノだろ?」
その問いにキリトは無言で頷いた。
「ならさ、次にクエストを受けた人が進行できないような状況が修正されない訳がないだろ。そんなバグを茅場晶彦が許すと思うのか?この世界を作った天才が、そんな矛盾を許す訳ないんだよ」
その答えに2人は口を閉ざすしかなかった。
「言ったろ、この世界はゲームなんだ。間違っても現実と一緒にしちゃダメな部分だってあるんだよ」
その言葉は2人の中へと入り込んでいった。
アスナが目に溜まった涙を力強く擦りながら立ちあがって踵を返した。
「突然どうした?」
フワの問いにアスナは足を止めた。
「最上階を目指すのよ。礼を言うわ、お陰で目が醒めたから」
アスナの言葉を聞いてフワは笑みを浮かべた。
「そうか、目が醒めた祝いにコイツをくれてやるよ」
フワはストレージから純白のレイピアを取り出すとアスナに向かって放り投げた。
「っ!?これ・・・・?」
受け取って一切の躊躇なく開いたレイピアのステータスを見て、アスナは目を疑った。
今まで自分が使っていたフルに強化した《シルバリック・レイピア》よりも素のステータスだけで圧倒的に上のレイピアだった。
「固有名称《ルーイング・パイル》、コレ本当に受け取ってもいいの?」
とんでもないモノを渡されたアスナは頭の中を塗り替えられ、フワへと向き直った。
「俺が受けたクエストの報酬の一つだ。今回のクエストで獲物を失くしたんだろ?代わりにソイツをくれてやるよ」
ノルツァーの攻撃を受けた時の事がアスナの脳裏をよぎった。
「対価はコレに相応しいほど強くなって攻略を進めるって事でいいかしら?」
アスナは手にした《ルーイング・パイル》を強く握り直してフワに告げた。
「もちろん、最上階まで行ってもらわなきゃ困る。自棄になって迷宮区に籠らない様に、体調は常に最善の状態で攻略してくれ。その方が効率的だから」
告げられた事にフワは笑みを浮かべながらアドバイスを送った。
「言われるまでもないわ。それじゃボス部屋前で会いましょう」
今度こそアスナは振り向かずに歩きだした。
「さて、あのダークエルフの女騎士に会ってみるか?」
何気なく告げられたフワの提案にキリトは驚いてフワを見た。
「お前が言ったんだろ、あのダークエルフの女騎士だけは違うんじゃなかったっけ?」
確認するようにフワはキリトへ問い掛けた。
「ああ、確かめよう」
キリトは覚悟を決めた様に頷いた。
__________________
「汚らわしい!醜い黒い肌をした種族め!!」
森エルフの男の怒号と共にダークエルフの女の悲鳴が森に響いた。
「・・・・助けておねえちゃん・・・・!」
息も絶え絶えなダークエルフの女は身を丸めながら助けを口にした。
「よく此処まで生にしがみ付けるな、我ら森エルフには考えられないな」
下品な笑みを浮かべた森エルフは左手の剣で遊ぶように斬り付けた。
「ああっ!うう・・・・おねえちゃん・・・・」
ダークエルフの女は目を強く閉じ、自身の姉の姿を思い浮かべた。
「私もまだ用があるのでな。ひと思いに殺してやる!!」
その声を聞いたダークエルフの女は死を覚悟した。
「そうか、ひと思いに殺されたいんだな」
そんな死の覚悟すら凍り付かせる様な、冷めた声が耳に入った。
「ぅへっ?」
その声に釣られて目を開けると自分を庇うように黒い服を着た男が立っていた。
「大丈夫か?」
冷めた声の主ではないその男は優しく自分へと手を差し出した。
「は、はい・・・・」
ダークエルフの女は手を取りながら立ち上がると、黒い服を着た男の向こう側でポリゴンの欠片を纏っていた男が居た。
「あ、あのどうして助けてくれたんですか?」
その問いに黒い服を着た男が笑顔で答えた。
___助けるのに理由が要りますか?___
「そ、そうですか・・・・」
ダークエルフの女は内心で首を傾げた。なぜなら、そう言った男の顔が何かに怯えていたから。
「貴女のお仲間の所まで護衛しましょうか?」
そう言った男の問いにダークエルフの女は焦って首を振った。
「い、いえ!大丈夫ですので「ティルネル!!」お姉ちゃん!!」
断わりの言葉を遮るように女の声がした。
「帰りが遅いから心配して来てみれば、人族の男と仲よさげに話しているとはな。呆れてモノも言えんぞ」
ティルネルと呼ばれたダークエルフは更に慌てながら手を大きく振った。
「ち、違うよ!危ない所を助けて貰っていた所で!」
ティルネルの言葉を聞いたダークエルフの女騎士は目を丸くしながら男達に向き直った。
「やはり危険な目に会っていたのか。人族のお2人よ、私の妹を救ってくれた事、感謝してもしきれない。妹は私に残された唯一の家族、女王陛下と同じくらい大切な者なんだ」
その言葉を聞いて黒い服を着た男の目から光が消えたような気がしたティルネルは気の所為だと思い直した。
「そう・・でしたか、助けられて嬉しい限りです」
そう言って男は悲しく微笑んだ。
「__何処かで会った事はないか?__」
その顔を見たダークエルフの女騎士が唐突に呟いた。
「「___え?___」」
隣に居たティルネルと目の前の男は同時に疑問を口にした。
「す、すまん!何故か貴公の顔を見ると胸が騒ぎだすと言うのか何というのか・・・・」
ティルネルは天啓を得た様に叫んだ。
「一目惚れ!?騎士一筋のおねえちゃんに春が来たああああああああ!?」
その言葉にダークエルフの女騎士は慌てながらティルネルの口を塞ごうとした。
「何を言ってるんだお前は!?」
塞ぐのを何とか抑えながらティルネルは続きを口にした。
「だってソレ以外考えられないよ!まるで前世から赤い糸で繋がっている様な!」
その言葉を聞いたダークエルフの女騎士は突然頭を抱え出した。
「前世・・・・何かが・・・・!?」
ティルネルの目には恥ずかしさの余り、頭を抱え出したようにしか見えなかったが、目の前の男の眼光が鋭くなった。
「はは・・・・まさか、そんな事ないですよ。どうやら僕達は退散した方がいいみたいですね・・・・」
男は笑みを浮かべながら踵を返した。
「そんなお礼もちゃんとしてないのに!」
男を引きとめる様にティルネルは声を掛けたが、男達はそのまま走り去った。
「あの人達も照れたのかな?」
そう言っているティルネルの横で頭を抱えていたダークエルフの女騎士は走り去る2人の内1人だけを見て呟いた。
「__無事でよかった__」
その言葉は自身にすら届かなかった。
__________________
「アレは記憶かデータか、神のみぞ知るって所だな」
フワは森の中で走りながら、隣で並走しているキリトに話しかけた。
「どっちでもいい。それでも残るモノがあることを知れただけで__」
キリトは自身の胸に手を当てながらキズメルの温もりを思い出していた。
「それでキリトはこれからどうするんだ?」
そんな問いをキリトへとした。
「そんなの決まってる、現実に戻る為にこの世界で戦うさ」
晴々とした顔でキリトはフワに告げた。
2人の笑い合う声が森の木漏れ日の中、歌う様に響き渡った。
まだ続くんですが、何とか一区切りつきました。
長かった(笑)