シュラアート・オンライン   作:メガネザル

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今回は独自設定と残酷な描写が多くなっています。
あらかじめ御了承のほど宜しくお願いします。



光景

 

 見晴らしの良い丘から見えた景色は__凄惨なモノだった。

 

 ダークエルフの城から煙が上がっており、城門から森エルフとダークエルフの死体が転がっていた。

 

「こうなれば種族がどうのなんて関係なくなるな」

 

 生の気配がしない光景を見てフワが呟いた。

 

「そんな・・・・一体何が起きたんだ?」

 

 キリトは目の前に広がる光景を受け入れられなかった。

 

「何がって森エルフが襲撃したんだろ。中はもっと酷い事になってるし、吐かれても困るから此処で待ってろ。女王かどうかは姫さんに確認させるから」

 

 膝を付いているキリトとアスナを見て、フワはエルミアを担いだまま奥へと歩を進めた。

 

「何で、仲間達はダークエルフに襲撃を掛けたんだ・・・・?」

 

 エルミアは周囲の光景を見て、吐き気を押さえる様に口に手をやりながら呟いた。

 

「簡単な話だ。ダークエルフの軍がフォールンエルフが籠城している森エルフの城攻めをしている時だけが、姫と城を失い弱った森エルフがダークエルフの城を落とす唯一の好機だからさ」

 

 フワは何の感慨もなく呟いた。

 

「おそらく此処だけじゃない。森エルフの城もダークエルフが城内に雪崩れ込んだ時を見計らって襲撃を掛けている筈だ。何せダークエルフ達は勝った後だ、油断しているだろうし乱戦に持ち込むのは難しい事じゃない」

 

 フワは死体が転がっている階段を上り、半分開いている仰々しい大きな扉を蹴り開けた。

 

「あらら、この部屋だけ死体の数が桁違いに多いな」

 

 そこは机と椅子と死体の山があるだけだった。

 

 壁に彫られた彫刻は剣戟によって別の絵になっていた。

 

「こいつだけ付けている装備がドレスかよ」

 

 フワは山の一番上に乗り、胸と腹から騎士剣を生やしている死体の長い髪を掴んで引き上げた。

 

「っ__!」

 

 フワが持ち上げたソレを見て、エルミアは息を引きつらせた。

 

「どうやら当たりを引いたみたいだな。漏れなく全滅か、森エルフ達も存外優秀なんだな」

 

「うっ・・うぐっ・・・・」

 

 エルミアの泣きそうな声を聞きながら、フワは髪から手を放すと"ビチャッ"と生々しい音を立てて落ちた。

 

 「それじゃキリト達に報告に行ってから森エルフの城の方に向かうけど、本当にいいんだな?」

 

 担ぎ上げられたままのエルミアは泣くのを堪えながら頷いた。

 

 部屋から出て階段を下りようとした所でキリトとアスナがいた。

 

「漏れなく全滅。もう此処に用は無い筈だ・・・・このまま回れ右で出て行った方がいい」

 

 フワは顔を横に振りながら答えて、部屋の中が見えない様に2人の視界の前に立った。

 

「そ、そんな・・・・!」

 

 アスナはよろよろと手すりへと縋り付きながら膝を付いた。

 

「だから待ってろって言ったのに」

 

 フワはため息を吐きながらエルミアと同じようにアスナを担ぎ上げた。

 

「行くぞキリト。ったく・・死体があるくせに血が無いせいで刺激が変に薄くて気持ち悪い」

 

 周囲を見回して違和感を拭えないフワは舌打ちをしながら出口へと歩を進めた。

 

「おーい、キリトにアスナ何時まで固まってる気だよ?」

 

 城が視界に入らない場所でエルミアとアスナを降ろすと、エルミアは青い顔をしながら木陰へと消えた。

 

「「_______」」

 

 降ろされたアスナと黙って付いてきたキリトは2人揃って俯いていた。

 

「お前等いい加減にしてくれ・・・・」

 

 フワはため息を吐いてから何かを考えてから口を開いた。

 

「明日もう一度ここに来い、お前達の仲間のダークエルフを生き返らしてやるから」

 

 まるで電気が走ったかのように2人の身体が跳ねた。

 

「なっなにを__?」

 

 2人の返事を聞く前にフワは青い顔をしながらも戻ってきたエルミアの前でしゃがんだ。

 

「今すぐ行くぞ。背負って行くから森エルフの城まで案内してくれ」

 

 エルミアが首に手を回すと同時にフワは走り出した。

 

 ____________________

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

「届きはせぬ!突き殺してやれ!」

 

 城の通路で金髪の森エルフの騎士がソードスキルを発動させながら間合いを詰めるが、通路を塞ぐように三人横に並んだダークエルフの槍のソードスキルに貫かれた。

 

「フォールンエルフ如きに城を奪われたバカ共が!我らダークエルフに敵う訳がなかろう!!」

 

 動かなくなった森エルフを見て、三人の後ろにいたダークエルフの将軍が吐き捨てた。

 

「まさか城内に全軍が突撃したのを見計らって森エルフの奴等が襲撃を掛けてくるとは、地の利も向こうにあって混乱に叩き込まれた。しかしながら汚い手を使う奴等よ。フォールンエルフと森エルフどちらも大差ないではないか」

 

 周囲の部屋を見回っていた三人の騎士が悔しそうにしながら戻ってきた。 

 

「ゼブール閣下、生存者の姿はありません。今のところ生存者は我々だけかと」

 

 報告を受けたゼブールも悔しそうに歯噛みした。

 

「くっ、我が隊も混乱時に何名も失っている。生き残りは期待出来ないか」

 

 その時、中央の広場で金属同士がぶつかる音が鳴り響いた。

 

「城内にいる森エルフに伝える!エルミア姫は御無事だ!今すぐ戦闘を止め、広場に集まれ!」

 

 まだ幼い感じが混ざる男の声にダークエルフ達は顔を見合わせて走り出した。

 

 _____________________

 

 

 オレンジ色に染まる空とソレを映す水面が揺れる中、半壊している城を2人は眺めていた。

 

「呼びかけてみたが、反応なし。ここも手遅れってことでいいか?」

 

 広場の中央にある噴水に腰かけているエルミアに、フワは確認するように聞いた。

 

「ああ、ダークエルフの城の惨状を見た時に覚悟は出来ていた」

 

 エルミアは辛そうに顔を俯かせているが、先程のダークエルフの城の事で耐性が付いていた。

 

「そっか、次は教会でいいんだな?」

 

「ああ、あそこは種族の違いなど関係無い所だ。そこに行って修道女になればフワのカルマも浄化できるだろう」

 

 エルミアは淋しげな縋りつくような眼でフワを見た。

 

「了解。その前に片付けくらいしていかないとな」

 

 城の入り口から槍を持ったダークエルフが三人、その後ろにマントを羽織り、左手に盾を持ち、右手に直剣を持ったゼーブルが出てきた。

 

「やはり我々が最後の生き残りだったか」

 

 フワとエルミア以外いない事を確認したゼーブルがため息を吐きながら呟いた。

 

「そうだ、本当に最後の生き残りだ。ダークエルフの城はお前等が城攻めに興じている間に落とされ女王も死んだよ。ゼーブル将軍・さ・ま♪」

 

 フワの視界には《Z,able:Dark Elven General》と出ており、カーソルの色は薄い赤色になっていた。

 

「そ、そんなバカな事があるか!!」

 

 その言葉に反応したのは槍を持っているダークエルフ達であり、ゼーブルは無反応だった。

 

「そんな言葉に惑わされるな。森エルフの姫も一緒に一刻も早く始末しろ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 3人のダークエルフ達は慌てながらも3人横に並んで槍を構えて走り出した。

 

「なんかファランクスっぽい」

 

 フワは呟きながら右手逆手に短剣を持って駆け出した。

 

「奴の武器は短剣だ!届きはしない一方的に蹂躙せよ!!」

 

 後ろから聞こえるゼーブルの声を聞きながら、3人は槍を突き出した。

 

 フワの身体の中心めがけて突き出された槍は全て空を切った。

 

「なっ__!?」

 

 3人のダークエルフの目に映ったのは宙を舞ったフワの姿だった。

そして右側のダークエルフの顔に右回し蹴りを、次に真ん中のダークエルフの顔に左足の蹴りを、左足を蹴った反動で身体を廻して右足の蹴りを左側にいたダークエルフの顔に叩き込んだ。

 

 顔に蹴りを叩き込まれた3人は顔を押さえて後ずさった。

 

 そして真ん中のダークエルフの首が斬り飛ばされた。

 

「隙だらけ過ぎないか?」

 

 着地と同時に《エッジ》を発動させたフワは首を斬り飛ばしながら苦笑いした。

 

「お、おのれェェェッ!!」

 

 左側のダークエルフは吠えながら長槍ソードスキル《ラビット・チャージ》を発動させた。

 

 発動が早いのが特徴の《ラビット・チャージ》はフワの胴体目掛けて突き出された。

 

 フワは半身になって躱しながら、槍を左手で掴んで後ろに引きながら跳ねあげた。

 

「っこッ!?ッひゅゥゥ・・・・!?」

 

 空気の入った何かを突き破ったような声の後に、空気が漏れ出している声が聞こえていた。

 

「あ・・あああああヴァッ・・・・!?」 

 

 自分の放った槍が右側にいた味方の喉を貫いた光景を見たダークエルフは驚きで止まってしまい、何かが喉を切り裂くまで無防備な姿を晒してしまった。

 

「あーららら、自分の仲間を殺しちゃったよ。味方殺しの罰は斬殺って事でいいですかね?」

 

 2人が崩れ落ちてポリゴンになったのを笑いながら見ていたフワは、振り向くと同時にゼーブルの右手で振られた片手直剣ソードスキルを受け止めて笑みを深めた。

 

「この薄汚い種族の分際で!そんな玩具で受け続けられると思うなよ!すぐに叩き斬ってくれるわ!!」

 

 ゼーブルはソードスキルを使う為に鍔迫り合いを止めようと力を入れた。

 

「なに・・・・!力が入っていないのか・・・・!」

 

 幾らゼーブルが力を込めても何故かフワとの鍔迫り合いから動かない。フワからの力を感じていないからゼーブルは自分自身が力を込められていないと錯覚していた。

 

「自分の剣の柄を見てみなよ」

 

 ゼーブルはフワの言葉を聞いて反射的に直剣の柄を見ると、柄の先をフワの左手が掴んでいた。

 

「何だコレは?まさかコレだけで抑え込んでいるとでもいうのか!?」

 

 ゼーブルは左手の盾を手放して直剣を両手で持ち力を込めるが、動かなかった。

 

「面白い事してやるよ」

 

 フワは右手の短剣を手放した。

 

 傍目から見れば鍔迫り合いをしていた筈だが、一方だけが一時停止していて一人だけが動いているように見えた。

 

 フワは何も握っていない右手でゼーブルの肘を押さえると、ゆっくりと折り畳んでいき自分の直剣が自分の喉元へと狙いを定めた。

 

「ま、ままま待ってくれ!」

 

 そんな信じられない光景を喉元を針で刺したような痛みが現実だと教えてくれたゼーブルは叫んだ。

 

「今回の城攻め、どう転ぶにしても女王は死ぬって分かってて始めただろ?」

 

 不意にフワは動きを止めてゼーブルへと問い掛けた。

 

「そ、そんな訳がっあ・・・・ああ」

 

 少しだけ喉元に直剣を押し込んだ。

 

「今回の城攻めに参加していた将軍の殆ど全員が、城攻めをしている間にダークエルフの城に襲撃があるだろうって予想してただろ?」

 

 フワは確認するようにゼーブルへと問い掛けた。

 

「あ、ああ!情報は得ていた!今回の作戦が成れば森エルフと同じように王の居ない騎士達で国を治める事が出来ると皆で!!」

 

 ゼーブルの答えを聞いたフワは菩薩の様な笑みを浮かべた。

 

「そっか、次の質問だ。裏切りモノには・・・・の後に続く言葉って何か知ってるか?」

 

 ゼーブルの顔が絶望に染まりきった瞬間、喉元に直剣が突き刺さって引き裂かれた。

 

「__正解__」

 

 フワは笑いながらポリゴンになったソレを眺めていた。

 

「初めから図られていたのだな。あの者達もエレンミアさんも・・・・」

 

「だと思ったよ。あまりにダークエルフの城にあった死体の数が少なかったからな」

 

 エルミアは悲しいモノを見る目でボロボロになった自分達の城を見た。

 

「ただ、森エルフ達は優秀だったんだろうな。おそらく兵数の差はあっただろうに、結果的に此処まで相手を道連れにしたんだ大したモノだよ」

 

 再びエルミアの前でしゃがみながらフワは聞こえるように呟いた。

 

「ああそうだ。森エルフは強いんだ」

 

 エルミアは涙を流すことなく、再びフワの背に乗っかった。

 

 _____________________

 

 

 夜も更け、周囲が闇に包まれる森の中でもフワは目が見えるのか、歩みを止める事はなかった。

 

「もう夜も深いけど眠らなくてもいいのか?」

 

 背負われたままのエルミアがフワの体調を気遣うように尋ねた。

 

「2、3日寝なくても大丈夫だ」

 

 あまりに簡素に答えたフワは歩みを止める事はない。

 

「あれ程の事があったのに疲れていないのか?」

 

 エルミアは今日あった出来事を思い出していた。

 

「そう・・だな。一番疲れる事は、ずうっと姫さんを背負って歩いている事か」

 

 エルミアは顔を赤くして手足をバタバタと動かした。

 

「そ、それなら降ろせ!もう歩ける!」

 

 フワは鬱陶しそうに目を閉じながらも歩みは止めない。

 

「姫さんにとって王族らしい扱いなんてコレが最後になるかもしれん。大人しく運ばれてくれ」

 

 その言葉を聞いてエルミアは大人しくフワの身体に身を委ねた。

 

「たしかにフワの言う通り、私はこれから修道女になる。これまでと同じようにはいかないだろうな」

 

 その声は諦観と孤独が混じっていた。

 

「さあな、周囲が姫さんに気を使って前と同じように扱われるかもしれん」

 

 フワには見えないが、エルミアは不満げに目を細めた。

 

「ソレは私が高飛車だと言っているのか?」

 

 エルミアと目は合ってないが、フワは惚けるように目を逸らした。

 

「さて、どうだか?それよりも森を抜けるぞ」

 

 フワの言葉通り森を抜けて広がった光景にエルミアは息を呑んだ。

 

 視界の下半分は転移門がある第九層の街の明かりがあり、上半分には満天の星空が広がっていた。

 

「普通は人工の光によって星の光は小さくなるモノなんだが・・・・」

 

 自然の光と人工の光、この二つが共にある光景はフワも見惚れていた。

 

「これもゲームの醍醐味か」

 

 たとえ理由が光の干渉の計算による処理落ち回避の為の結果だとしても、この目の前の光景は現実では見る事の出来ないモノだった。

 

「世界って、こんなにも綺麗なモノだったんだ」

 

 その呟きを聞きながらフワは止まっていた足を進ませた。

 


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