シュラアート・オンライン   作:メガネザル

19 / 28

すみません。

リアルの多忙と執筆難産の所為で投稿が大幅に遅れました。

出来るだけ戦闘描写は頑張ってみましたが、至らない所が多いと思われます。




出来損ない

 

激突した二人の顔に既に笑みは無かった。

 

絶え間ない風を切る音、ソレに合わせる様に金属同士がぶつかる特有の甲高い音

 

メリュジートが右手の騎士剣を振るい、フワが避けながら右手の短剣で斬り付ける。

 

フワの攻撃は鎧の様な鱗に阻まれてダメージを与えらていない。

 

メリュジートは当然とばかりの顔をしたまま再び剣を振るった。

 

が、フワも同じように表情を全く変えずに振るわれた剣を躱した。

 

そんなフワの様子を見たメリュジートは再び笑いながら口を開いた。

 

「それにしても良い見せモノだったよ」

 

言いながらも上段から剣を振り降ろした。

 

話しながらでも膨れ上がった膂力は剣に凄まじい勢いを与えていた。

 

「なにが?」

 

しかし、フワは軽く応えながら半身になって当たり前のように剣を躱して右腕を斬り付けた。

 

「面白いように俺の手の上で踊ってくれた憐れな人族の事だよ!」

 

メリュジートは振り降ろした剣を逆袈裟に上げてフワへと斬りかかった。

 

「ああ、あの三流の脚本による茶番劇の事か」

 

フワは剣が逆袈裟に振るわれる前に後ろへと下がり、剣を空振りさせると同時に踏み込んで腹を斬り付けた。

 

「負け惜しみか!?あの役立たず共に教えられたんだろう?」

 

メリュジートは空振りさせた勢いのまま身体を回転させて横薙ぎに剣を振るった。

 

「いや、脚本だけじゃなくてお前の三文芝居の所為で早々に気が付いたよ」

 

フワは地面すれすれまで身体を倒して横薙ぎを避けながら脇を通り抜けると同時に膝裏を斬り付けた。

 

「っ具体的に言えもしないくせによおっ!?」

 

体勢を崩しかけたメリュジートはたたらを踏んで何とか体勢を整えると、間合いを詰めフワの左肩へと袈裟掛けに斬りかかった。

 

「薬の材料取りと言って仲間との打ち合わせ、ブランチが必要と言って仲間が聖堂へ集まる為の時間稼ぎ・・気が付かない方が難しい」

 

話してる途中で袈裟掛けに斬りかかって来た剣を上半身を逸らすだけで躱したフワは振られた右腕を斬り付けた。

 

「分かっていながらっ!言う通りに行動していたとでも!?」

 

メリュジートは声に怒りを含ませながら返す刃で横薙ぎに剣を振るおうとした。

 

「まあな」

 

短く応えたフワは踏み込みながら横薙ぎに振るわれる前の剣の鍔元へと短剣を差し込んで横薙ぎを上へと逸らした。

 

「っ!舐めるなあああっ!弱小種族の分際でえええ!!」

 

振るった勢いそのまま逸らされたメリュジートは体勢を崩したが、腕の力だけで無理やりフワの頭目掛けて剣を振るった。

 

「・・・・」

 

フワは更に一歩踏み込んで左手をメリュジートの右手首へと差し込んで受け止めた。

 

「なっ!?」

 

二人の体格差は圧倒的だった。

 

元からフワよりも高い身長に封印を解いた事により得た膨れ上がった筋肉。

 

子供と大人位の差がある筈なのにメリュジートの攻撃はフワに受け止められた。

 

「ば、バカな・・・・!?」

 

驚愕の表情をして呟いたメリュジートを見てフワは溜め息を吐いた。

 

「バカはお前だ。崩された体勢で振っただけの、力の入ってない攻撃を受け止められた事がそんなに可笑しいか?」

 

フワは左手で受け止めた右腕を掴んで引き込みながら右脇を斬り付けた。

 

「ぐおっ!?」

 

メリュジートの苦悶の声を溢した。

 

「・・・・」

 

フワは何かを思案するように目を細めた。

 

「離れろおおおっ!!」

 

掴んだフワごと振り回すつもりでメリュジートは身体を廻しながら右腕を横へと振り払った。

 

「・・・・」

 

アッサリと手を離したフワは下がりながら廻った事により前に出たメリュジートの左腕を手首へと削ぐように斬り付けた。

 

その時、響いた甲高い音の中に小さな雑音が混じった。

 

「くっ!?」

 

小さくメリュジートが呻くと左腕の鱗が剥がれ掛けてポリゴンが零れていた。

 

「・・・・なるほど、大体解ってきた」

 

痛みで動きが止まったメリュジートをフワは何かを探る様に目を向けていた。

 

「何を言ってやがる」

 

メリュジートの凄味を利かせた声にフワは薄い笑みを浮かべた。

 

「だから解ってきたんだよ。どう斬ればその身体にダメージを与えれるか・・とかな」

 

青筋を立てながらメリュジートは吠えた。

 

「ふざけるなあっ!伝説の力を!ようやく手に入れた俺の力を!弱小種族がこの身体に傷を付けるだと!?」

 

その咆哮を聞いてもフワは薄い笑みを浮かべていた。

 

「ホントは解ってるんだろ?削れたHP、感じている痛み、少しずつ、でも確実に、自分が死に近づいてる事を・・・・」

 

薄い笑みを浮かべたままのフワを見たメリュジートは歯ぎしりを起こすほど歯を食いしばった。

 

「やってみろ・・・・そのハッタリをやってみろおおおおお!!」

 

吠えたメリュジートは型も無く、間合いを詰めながら癇癪を起した子供の様に右手の剣を振り上げた。

 

「何で使わないんだ?」

 

咆哮を上げながら迫って来るメリュジートに対してフワは首を傾げた。

 

「死ねえっ!!」

 

腕力に任せて振るわれた剣を少し後ろに下がって避け

 

すぐさま跳ね上がった剣も足を踏みかえて左側面に回り込んで外す

 

「かあっ!!」

 

空振ったメリュジートは気合いと共に左腕を振り回し裏拳をフワの顔面へと放った。

 

「う~ん?」

 

フワは前へと屈んで裏拳を躱し、踏み込んで左脇を斬り付けた。

 

「ぐぁっ!?」

 

痛みで動きが止まったメリュジートの左腕を、皮を剥ぐように腕から手首へと短剣を奔らせた。

 

今度はハッキリと甲高い音の中に何かが千切れる様な音が部屋に響いた。

 

「っ!ああああああああっ!!?」

 

ソレに続く様にメリュジートの絶叫が部屋に響いた。

 

メリュジートは右手の剣を落としてポリゴンが溢れる左腕を押さえていた。

 

「その身体、基本的に鱗の一枚一枚が加えられる力によって合わさり受け流す事に長けているが、逆に一枚一枚は剥がされる力に弱い。ようするに魚の鱗を剥ぐのと一緒なんだよ」

 

メリュジートに説明するように話しているフワは少し離れて地面に落ちていた鱗を拾い上げた。

 

「あと、身体の構造が蛇や魚じゃないから脇、肘、膝などの部分は鱗が薄い。仕方ないよな、厚過ぎると動きに制限が掛かるからな」

 

鱗がポリゴンとなって弾けるとフワは再び口を開いた。

 

「あとさ、何でソードスキル使わないんだ?使わない理由が解らないんだが・・・・」

 

ソードスキルという言葉にメリュジートが身体を震わせて反応した。

 

「・・・・なるほど、使わないのじゃなくて使えないのか」

 

「黙れ!」

 

メリュジートの反応を見たフワは本当につまらなさそうに溜め息を吐いた。

 

「中途半端な戦いだったから、本気になるまで次の階層の練習を兼ねて相手してたけどアレが本気だったとは」

 

「れ、練習?だ・・と?」

 

左手を右手で押さえたままのメリュジートは目を見開いた。

 

「だって、次の階層はオロチ・エリートなんとかが出るらしいからな。似ていそうなお前で練習させて貰ったが___」

 

失望したと言わんばかりに冷めた目で左腕を抑えているメリュジートを見ていた。

 

「痛みで自分の得物を落とす、ソードスキルも使えない、コレじゃ一層のコボルトの方がまだ上等な種族だったよ。この出来損ないが」

 

第一層で戦っていたコボルト達を思い出していた。

 

弱点を攻撃されても武器を手放さず、攻撃を受けても恐れる事無く突撃していた獣人達を。

 

「ホントにつまらない。封印されていた力とやらに期待していた自分が情けなくなる位に」

 

メリュジートは黙ったまま静かに立ち上がった。

 

既に左腕から零れていたポリゴンが止まった。

 

「だまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れだまれ黙れええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」

 

血走った眼をフワへと向けて狂ったように吠えたメリュジートは落した剣を拾う事もせずに獣の様にフワへと襲い掛かった。

 

「俺は・・俺はあああああああ!!」

 

咆哮に呼応するようにメリュジートの右指から長い爪が飛び出した。

 

そのまま真っすぐにフワの胸へと突き出された。

 

「くはっ・・!」

 

フワの口の端が歪んだ瞬間、何かが裂ける音と何かが割れる様な音が同時に鳴り響いた。

 

メリュジートの突き出した右手はフワの防具である衣服を胸から引き裂いたが、薄皮一枚切っただけで空を斬った。

 

フワは半身になりながら突き出された右腕を躱すと同時にメリュジートの首へと右腕の短剣で突きを放ったが、首の鱗に当たり刀身が砕けた。

 

「っははは!!やっぱり俺は最強になったんだ!!」

 

首を突かれた事により息が詰まり、動きが止まったメリュジートはフワの砕けた短剣を見て笑った。

 

「おい、戻るなよ」

 

 

腰を廻し

 

 

足が地を離れ

 

 

剣閃のような鋭さで

 

 

顔面へと叩き込んだ

 

 

「!?っ!?」

 

短剣が砕けた時の突きなんか比べ物にならない程、凄まじい衝撃を顔面に受けたメリュジートはフラフラとよろけて倒れ込んだ。

 

「っあぐぁっ・・!?」

 

訳が分からず痛みに呻くメリュジートはすぐ近くに立っているフワを見上げた。

 

「戻るなよ。今さっきまで獣だったのに、俺の得物が壊れた位で戻るなよ」

 

そう言ったフワは倒れ込んだメリュジートを見下していた。

 

「出来損ないは出来損ないらしく、戦うなら何も考えずに殺意に身を委ねればいい。ソレ以外何が出来るんだぁっ!?」

 

メリュジートを見下ろしているフワの眼の中に微かな怒りが混じっていた。

 

「無手が俺の本来の得物だ。解ったか?この出来損ないがぁ」

 

フワは右足を振りかぶって倒れたままのメリュジートを蹴り飛ばした。

 

「ごはぁ!!」

 

蹴られた衝撃で地面を転がったメリュジートは怒りで身体を震わせながら顔を上げてフワを睨みつけた。

 

「条件は五分と五分だ。自分が最強なんだって思うなら掛かって来いよ・・デ・キ・ソ・コ・ナ・イ」

 

化物の笑みを張り付けたフワは左手で挑発した。

 

「殺すころす殺すころす殺すころす殺すころす殺す殺してやる弱小種族がああああああああ!!」

 

本当の獣の様に四足で飛び出したメリュジートは身体を低くしたままフワへと掴みかかった。

 

 

 

          ▽

 

 

 

___気持ち悪い___

 

 

ずっと思っていた

 

 

常に夢を見ているような感覚

 

 

自分の事なのに思う様に出来ず

 

 

まるで下手な芝居を見ているようで

 

 

自分でない自分が姫役の劇のようで

 

 

その劇に巻き込まれた憐れな人族が

 

 

姫役である私を守る為に助ける為に

 

 

何度も何度も手を汚していく事が

 

 

そして

 

 

助けるなら

 

 

本当の私も助けて欲しいと

 

 

願ってしまう自分が

 

 

本当に__気持ち悪い__

 

 

「殺すころす殺すころす殺すころす殺すころす殺す殺してやる弱小種族がああああああああっ!!」

 

その時私を操り人形にしていた悪魔の絶叫が頭に響いた。

 

___生きてる___

 

まず思った事がソレだった。

 

聖大樹の封じられた力の封印を解くには王族の清い血が必要、封印が解かれたのなら自分は生贄になっている筈なのに

 

「なんで・・・・?」

 

呟きながら絶叫が聞こえてきた方へと顔を向けた。

 

視界には自分の知っている筈の者達が戦っていた。

 

一人は私を操っていた悪魔。

 

悪魔という言葉が似合う様な膨れ上がった体格に体中を覆う鎧の様な鱗。

 

巨大でありながら肉を簡単に斬り裂けそうなほど鋭い爪。

 

アレこそが封印を解いた事により得た力なのだろう。

 

遠目で見ただけで分かる強大な力。

 

ソレを手にした筈の悪魔は

 

口からは雄叫びを上げ

 

手足を全力で振るう

 

しかし

 

その顔は悪魔などではなく

 

必死に抗う獣の様に見えた。

 

「アアアアアアアア!!」

 

獣は低い姿勢のまま掴み掛かり身体に爪を突き立てようとした瞬間

 

跳ね上がった膝が顎を打ち抜き、顔面も跳ね上がり力が抜ける。

 

跳ね上がった顔面を追う様に膝蹴りした足からそのまま蹴りが放たれ、顔面を蹴り抜く。

 

そのまま蹴り抜いた勢いで前に出た足が地に着くと同時に再び跳ね上がり、獣の腹に蹴りを叩き込む。

 

「アグゥッ・・!」

 

その雄叫びは一瞬にして苦痛に悶える呻きに変わった。

 

しかし、相手の動きは止まらず

 

右足を踏み込むと同時に左足で獣の右足に蹴りを放った。

 

「グァッ・・!」

 

骨が折れそうな音が鳴り、力が抜けたように膝が曲がり獣が落ちる。

 

獣の右足へ蹴りを放った左足を地に踏みしめて、左足を支点に密着するほど間合いを詰めた。

 

間合いを詰める勢いも乗せて右拳が狙い澄ましたように落ちた獣の顔面に叩き込まれた。

 

横に弾ける顔につられる様に身体も横へと流れると左拳が腹に突き刺さった。

 

強制的に空気を吐き出された獣は空気を求める為に顎を上げた。

 

上げた瞬間、再び振られた右拳が叩き込まれて首が捻れて吹き飛んだ。

 

「っぁ・・・・ぁぐぅぁっ・・・・」

 

地面に投げ出された獣は呻き声にもならない様な声を出す。

 

一方的だった。伝承の力を得た悪魔とも呼べる相手を無手で一方的に叩きのめす人族。

 

エルミアは知っているフワの姿とはかけ離れ過ぎて信じられなかった。

 

倒れたメリュジートを見下ろしているフワの姿は化物以外の何モノでもなかったから。

 

「・・・・ホントにどうしようもない奴だな」

 

倒れたメリュジートを見下ろしていたフワが失望したように呟いた。

 

「自分が出来損ないだと理解していない。だから自分を捨て切れず、獣になる事も出来ず、痛みに怯え苦しみ、自分を守ろうとする」

 

痛みに呻いていたメリュジートは固まった。

 

「お前は出来損ないですらない。自己を認識する事すら出来ないガキだ。与えられた力で強くなったと精一杯虚勢を張るどうしようもないガキだ」

 

まるで幽鬼のように口を開かずに立ち上がったメリュジートの目は焦点が合っていなかった。

 

しかしソレでもメリュジートはフワを睨み付けていた。

 

「__ちがうちがうちがう__ぼくはおれはわたしは__つよくつよくつよく__よわくないよわくないよわくない__ひけんをやっつももってるんだ__しじょうさいきょうのふぉーるんえるふなんだ__なんだなんだ__最強なんだあああああああああああ!!!」

 

絶叫と上げながらメリュジートはフワへと飛び掛かった。

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

飛びながらフワの首へと左腕を突き出した。

 

「__不破圓明流__」

 

フワは突き出された左手を右拳で打ち下ろして自身の左脇へと逸らしながら右腕を曲げ、逸らされて間合いが詰まったメリュジートの左鎖骨へと上から肘を打ち込んだ。

 

骨が砕ける鈍いながらも高い音が鳴り響いた。

 

「《蛇破山》」

 

「うあああああああああああああ!!」

 

メリュジートは絶叫を上げながらも左鎖骨が叩き折られた痛みで固まること無く、返す刃で下から掬うように右手をフワの首へと突き出した。

 

先程とは真逆に突き出された右手を左拳で打ち上げて顔の右横へと逸らすと同時に左腕を曲げ、メリュジートの鳩尾へと下から肘を打ち込んだ。

 

鈍い音がすると同時にメリュジートは吹き飛んだ。

 

「《裏蛇破山__朔光__》」

 

 





感想欄でキリト達も陸奥九十九の事を知っていますか。

と、ありがたい感想がございましたので此処で記載させて頂きます。

キリトは既にネットゲームにどっぷり嵌まっていたので陸奥の試合をテレビで見ることなくネットゲームをしていたので知りません。

アスナは親に決められたエリートコースを歩む為に管理されていたので悪影響を及ぼす様な格闘技のテレビなどは一切見せて貰っていないので知りません。

シノンは人を殺したトラウマで例え格闘技でも暴力行為を見る事が出来なかったので一切見ておらず知りませんが、ゲンさんに聞くのか、片山右京の言葉を思い出して自分で調べるかもしれません。

ちなみにクラインは大ファンです。

いつかクラインとも絡ませたいなぁ、と密かに作者は妄想しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。